ボーロファミリー2
ツインの部屋に踏み込んだが誰もいない。争った形跡もない。
「ツインがいない。まだ帰っていないんじゃないか」
「そんなことはない。兄貴は、外出するときドアに鍵をかける」
「クンクン、ちょっと待て、兄貴以外のにおいがする。それも3人だ。においが、はっきりしている。こいつら、さっきまでいた。ボーロファミリーが来たんだ」
赤鼻が、怯えた目をおれに向けた。
「大丈夫だ。ツインに依頼主を吐かせるまで殺しはしない。ボーロファミリーの居場所は知っているか」
「知ってる。だから俺が、姐さんに呼ばれた」
オレの見立てでいくと赤鼻は強い。なのにこの怯えよう。奴らは、殺人組織。拷問より殺しを好むのだろう。赤鼻は、すぐにでもツインが殺されるんじゃないかと恐れている。
「急ごう」
赤鼻がコクコク頷いた。オレ達は、急いで下水道に引き返した。オレは、そこで、黒ずくめの格好をして黒い仮面をかぶった。声も変えてくれと頼んでいた。黒仮面は、簡易の防毒マスクを兼ねているので、少し息が苦しい。くぐもった声になり、息をするたびに、コーフー、コーホーと音がする。
「こっちだ」
「そっちは、貴族街じゃないのか」
「だから、隠れ家になる」
ボーロのアジトは、地下水路メインストリートから貴族街に入った下水から、更に地下に下りた所にあった。
「臭い。おれの鼻、効かない」
「泣き言を言うな。とにかく連れて行け。どうせ殲滅する。赤鼻は、入り口まで案内してくれればいい」
赤鼻は頷いていたが、多分ついてくる気だ。
アジトの入り口には、門番が二人いた。
「何だオメーら。グワッ」
二人は、首を絞められて空中に浮かんだ。最初、グホッと少し音を出していたし、足をじたばたさせていたが、そのうちダランとなった。
「死んだのか?」
「こいつらの武器を取れ。赤鼻は、ここに居ろ」
「いやだ、ついていく」
「好きにしろ」
オレは、ゆっくり歩きだした。
階下に降りていくと幾つも部屋があるとわかる。そこから偶々出てきたやつが声を荒げる。
「なんだオメーは!。グワッ」
そいつは首を絞められ門番と同じようになる。だが、その後ろからも、ボーロの構成員が出てきて大声をあげた。
「敵だ。侵入者だ。グッ」
「うるさい」
ドガン!
大声を出したやつは、壁に打ち付けられて動かなくなった。首を絞められたやつも床に落ちる。赤鼻は、信じられないと、ダークを見る。
その大声とともに、各部屋から、「敵だ」「敵襲だ」と、大声をあげて、通路に構成員が出てきた。連中は、剣や槍を持っている。
「やべぇ」
赤鼻が、絶叫する。二人は、ほとんど丸腰だ。
ダークは、先頭にいる構成員の剣を念動力で奪った。剣は、敵の手から離れ、空中を舞う。
信じられないという顔をしている構成員をダークが袈裟掛けにした。その後、赤鼻は、更に信じられない光景を見る。
通路が構成員の死体と血で埋め尽くされた。小刀を投げるやつもいたが、その小刀をダークに簡単につかまれ、逆にその小刀が、相手の眉間に突き刺さる。敵がほとんど残っていない。
「ダーク、兄貴の居場所を聞いてくれ」
「そうだったな。すまんが、赤鼻が聞いてくれ」
久々だったから、戦闘に集中してしまった。
ダークが一人の屈強そうな男の首をつかんで宙に釣り上げた。そうしながらも、剣の戦闘は続く。空中に釣り上げられた男は、持っていた剣をダークにもぎ取られ、後方の赤鼻の方に宙を漂った。
「この剣は、なかなかの剣だぞ。そいつなら何か知っているだろ」
「わかった」
毒の瓶を投げる者がいたが、ビンは床に落ちず、ダークの元に引き寄せられ、水路に落とされた。投げた男は、信じられないと、その場を逃げようとしたが、ダークが捕まえて離さない。その男が空中でじたばたするのを見て、残りの構成員が逃げ出した。残りと言っても、1人しか残っていなかった。先の屈強そうな男もそうだが、こいつも、幹部だと思う。ダークは、毒の瓶を持ったやつを釣り上げた。
「コーホー、ツインは何処だ」
変な吸気音にくぐもった声。毒瓶の男は恐怖に、顔を引きつらせる。
「奥の部屋だ。首領のボーロさんと話している」
「ここまで拉致して話している?。尋問だろ。コーホー、誰に頼まれた」
「知らない。ボーロに聞け」
「知らないわけがないだろ」
「グッ、オレは、ボーロファミリーの幹部だぞ」
「幹部が知らないだと!」
「グエッ、テ、テ」
毒男は、何か言いそうになったが、急に痙攣してだらんとなった。久々なので、手加減が難しい。人は、簡単に死ぬ。怒りのあまり毒男を壁にたたきつけた。まあいい、もう一人いるからなと、赤鼻が尋問している男に振り返った。そのもう一人の男は、今の光景に恐怖した。それは、赤鼻もそうだった。
「助けてくれ、何でも話す」
「お前も幹部か」
「ち、違う」
「じゃあ、何でも、話せないじゃないか」
「あぅ、苦しい・・」
「ダーク、こいつを助けてやってくれ」
「オレの名前を呼ぶな。仮面付けている意味ないだろ」
「ひっ、すまん」
赤鼻は、前に両手を押し出すようにして謝った。
「こいつは、モウ。鬼人と人のハーフだ。なぜ、こんなところにいるか分からんこともない。俺が面倒を見るから殺さないでくれ」
「もし、こいつがオレの正体を喋ったら、処分するからな」
「話さない」
「何でも話すんだろ」
「何でも話すけど、ダ、あんたのことは、話さない」
「話せ」
「ツインを探しているんだろ。一番奥の部屋にいる」
「それは、さっきの奴に聞いた」
「首領の他に、後二人いる。で、できれば、そいつらも殺さないでくれ」
「なぜだ」
「その二人が、ここの環境を保っている。一人が明かり、一人が換気だ。二人は、弱いが魔法使いなんだ。貴重な存在だし、いい奴らなんだ」
「赤鼻」
「そうだと思う。こんな場所に、アジトを置くのは、大変なことだ」
「分かった」
「じゃあ」
「出来るだけ努力するが、向こうが抵抗してきたらあきらめろ」
「仕方ない」
ボーロファミリーの首領、ボーロは、癇癪持ちだ。暗殺には向いていない。この世界に入った切っ掛けは、人殺しをしたから。そんなボーロだが、癇癪を我慢することがある。その理由が、イーリーとユーリーの双子だ。この二人を手に入れて、殺人の世界で、ファミリーを構えるほど大きくなった。双子は、スラムで野垂れ死ぬ所を偶々助けた。大した理由はない。今は天涯孤独だが、弟と妹がいた。二人は、貧困の中で餓死した。それからボーロは、切れやすくなった。ところが、この二人がいると、幾分まともになる。
ツインを拉致したが、殺しては、元も子もない。蜥蜴のくせにカエルのように太った暗ギルド長のガップに、依頼主を吐かせろと言われている。今、ツインを殺したんじゃあ、1文にもならない。
「ボーロ、これ以上やると、ツインが死んじゃうよ」
「そうだな、少し休むか。おい、ポイズン。外が騒がしい、見てこい」
「俺がか?。イーリー達にやらせろ」
「そんなことをしたら、ツインが死ぬぞ」
「分かったよ」
そう言って出て行ったポイズンは帰ってこない。ダークに毒の瓶を投げたが返り討ちにあって絞殺され、壁に打ち付けられて死んでいる。
「なんだ、やっと静かになったか」
それは、ほとんどの構成員がダークに殲滅されたからだ。
「おう、ツイン喋る気になったか?」
「私は、情報屋ですよ。依頼主の名前を話すわけないじゃないですか」
「そんな戯言はいいんだよ。あー腹が立つ」
「ボーロ」
「分かってる、分かっているって。ユーリーは座ってろ」
ドガッ
ツインは、椅子に縛り付けられていて、蹴られて倒れたから。元に戻れない。
「ツインは、情報屋の鏡だな。俺は、そんなお前が嫌いじゃないぜ。なんせ、尋問が続けられる」
「ゴホッ、ゴホッ」
尋問じゃなく、拷問じゃないかとツインは思う。
ギーー
「ポイズン、外はどうだった?」
「お前が、ボーロか」
「なんだガキ」
ボーロは、わめくと同時に、ツインを殴っていたこん棒代わりの燭台をダークに投げつけた。
ダークがその燭台に向かって手を出すと、その燭台が空中で止まった。
「聞いていることに答えろ」
「てめぇ」と、ボーロはダークを指さした。
ボギッ。ダークは、その右手の人差し指を折った。
「グォ」
「手癖の悪いやつだ。何でも投げればいいってものじゃないぞ」
「ガキー」
ボーロが、ダークに殴り掛かろうと向かったが、足が地についていない。そして首を掴まれて声が出にくくなった。
「ガフッ、降ろせ」
「殴りかかってくる奴を下ろすわけがないだろ」
ボギン
「ギャー」
「もう1本足があるから降りれるか」
ボギン
「ギャ、ヒュー、ヒュー」
「まだ足2本だろ。骨はいくらでもある」
「お兄ちゃん止めて」
「ボーロを助けて」
「なんだお前ら」
「イーリーとユーリーだ。二人が、魔法使いなんだ。殺さないでくれ」
「気絶させていいか」
「気絶ならいい」
ドガッ、ドガッ。二人は壁に飛ばされ、打ち付けられて気を失った。
「この野郎、殺してやる」
「おっ、元気になったじゃないか」
ボギン。今度は左腕。
「グワッ」
「ツインをケガさせたのはお前か」
「へへっ、見りゃわかるだろ」
「頭のけがは?」
「そんなの知るか。こいつが、帝国の女を嗅ぎまわっているから、やられたんだろ」
「闇ギルドか?」
「ガキ、闇ギルドと知って俺たちのところに攻めてきたのか。命知らずだな。おれのところの構成員は30人だぞ」
「今は、お前だけだがな」
「どういうことだ。モウ」
「すいやせん、俺以外みんな死にやした。ポイズンの兄貴もです」
「お前が殺したのか」
「オレが何か聞く前に死ぬんだ。弱すぎだろ」
「キサマー」
ボギン「ギャー」肋骨
「お前は、なかなか見どころがある。ツインの頭をケガさせたのは闇ギルドだろ。誰の指示だ」
「そんなの、ギルド長のガップに決まってる。帝国の仕事だ。下っ端に任せられるか。ツインが、まだ帝国の女を嗅ぎまわっていたから、俺が呼ばれた」
「ウソをつけ、初めから関わっていただろ」
「当たり前だ。俺も闇ギルドの幹部だ。闇ギルドは100人構成員がいる。お前は生きていられないぞ」
ダークは、ボーロを引き寄せて、小声で話しかけた。
「コーホー、コーフー。おまえ、なぜ、こんな子供を養ってる。息子や娘って年じゃないだろ」
「うるせえ、こいつらが使えるから。ここに置いているだけだ」
「コーホー。その割には、ボーロを助けてと、コーフー、オレにしがみついてきたぞ」
「知るか」
ずっとオレを見ていたボーロが目をそらした。
めんどくさいやつだ。だが、オレをガキと言った。勘がいい。根性もある。
オレは、扉側に振り向いた。
「モウ、だったか。こいつは、殺していいか」
「俺に、ボーロのことをとやかく言う気はない。でも、イーリーとユーリーは、悲しむと思う。ボスは冷酷な人だけど、なぜかイーリーとユーリーを大事にしていた」
「モウ、お前」と、赤鼻がモウを見る。
「ボーロ、右腕は、残しておいてやる。イーリーとユーリーが、お前の面倒を見るのを楽にしてやらんとな。暫く寝ていろ」
ドゴンと、みぞおちを殴って、ボーロを眠らせた。そして、イーリーとユーリーがいるところに投げた。
「モウ、こいつも面倒を見ろ」
「俺が、ボーロを?」
「イーリーとユーリーが悲しむんだろ。イーリーとユーリーは、お前が面倒を見ると言った。イーリーとユーリーは、ボーロの面倒を見るだろ。そういう事だ」
モウは、口をパクパクさせていたが、がっくりして頷いた。
オレと赤鼻は、こいつらを置いてツインの元に駆け寄った。
「ツイン、無事か」
「兄貴!」
「ははっ、早かったですね」
「偶々だ。それより、ここを出るぞ。歩けるか?」
「歩けます。闇ギルドは、どうするんです?」
「潰す。案内を頼めるか」
「人使いが荒いですね」
「人だったっけ」
「狐人使いでもいいですよ」
「それだけ元気なら行ける」
「いいえ、闇ギルドなら夜の方が人が多い。潰すんでしょ」
「分かっているじゃあないか。とにかく帰ろう。加奈が心配してる」
「ボーロは、本当に殺さないんですか?」
「イーリーとユーリーが悲しむそうだ。モウに二人を殺さないと約束した。モウは、赤鼻が殺すなって言うんだ。だから殺さないことにした」
「そういう事なら、ボーロも赤鼻の責任ですね」
「そうだ赤鼻の責任だ」
「そんな、兄貴」
赤鼻も、モウのようにがっくりした。
ツインは、顔が広い。ボーロファミリーのアジトを先に出て、運河で船を調達した。ボーロがごみ屑のようになっていたから、船で運ぶしかなかった。
目を覚ましたイーリーとユーリーは、モウの説得で、ここを出ることになった。モウに、ボーロの面倒を見てくれと言われて喜んでいた。赤鼻は、難しい顔をしていたが、この光景を見て肩の力を抜いた。赤鼻は、殺人組織の生き残りの4人の面倒を見る覚悟だ出来たようだった。




