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暗黒界の超新星  作者: ペリエ
暗黒騎士は一時の平穏を好む
19/37

レジーナ姫

 魔剣士科の生徒は、朝の授業2時間で実技をする。残りの2時間は一般教養。その中に魔法の授業があるのだが、今日は、社会だ。講師の先生は、軍から来た地政学の先生。オレ達が住んでいるアムー大陸〈アステア大陸とムール大陸は地続き。合わせてアムー大陸〉の巨大な地図を黒板の前に広げて講義を始めた。


 オレは、いつものように姫2人に捕まって、ひな壇になった教室の最後部に座っている。


「サモル王国は、ア大陸側の西海岸だ。国の東には、フォレスト山脈や北の剣呑なメトセラ山脈がある。その山を越えると、ケレーアなどの山岳民族の国があり、その先に徐国。そして大高原地帯のハイランドがある。ここの北側に陣取っている巨大な国がロア帝国だ」


 地図の中心には、北半球にア大陸。南半球にムー大陸が描かれている。両方の大陸は、狭いが繋がっている。丁度、赤道辺りがそうだ。この二つの大陸を合わせて、アムー大陸という。アムーが、統一されたことはない。ムー側には、ドワーフの王国があるが、現在交流はない。


「そして、西の広大な海を渡ると、このアムー大陸以上の広大な大陸に突き当たる。ウエツ大陸は、エルフが東側。魔人が西側をテリトリーとしている。ここまではい良いか。ウエツ大陸は、今のところ、構造的に不可侵だからな。割愛するぞ」


 構造的に不可侵とは、アムー大陸とウエツ大陸の間に、広大な大洋があるため、大した交易も政治的付き合いもないということだ。


「太古、我が国は、ウエツ大陸のエルフとも、ムー大陸のドワーフとも仲が良かったそうだ。魔法学園では、その授業がないのだったな。考古学を学びたかったら、ドラグーン・・、おっと、サモル学園に聴講に行くように」


「ウシキったら」

 レジーナが、下を向いて笑う。サモル王国のことを少し聞いているオレは、ウキシ講師が何を言いたいのか、とっても気になる。サモル王国は、300年前まで、ドラグーン王国と呼ばれていた。


「他校へ聴講に行けるのか?」

「大丈夫、私が教えてあげる。学園だと、詳しく話せないのよ」

「私も少しわかりますよ」

「お、おう」

 こりゃ、奥が深そうだ。 


「我が国は、フォレスト山脈から流れる多くの川が、豊富な栄養を送ってくれるから、土地が肥沃で、農業の盛んに国だ。エマ姫のローマン王国は、我が国の南側。北半分は、我が国とよく似た地形で、もう半分は平野が続く。エマ姫は、君たちのクラスメイトでもあったな。ローマン王国のことは、必ず試験に出すぞ。恥をかかないように」


 地図とにらめっこして、何が面白いんだという生徒の背筋が伸びた。貴族は、恥という言葉が嫌いなようだ。ウシキ先生は、生徒全員が前を向いたところで、授業の本題を語り始めた。


「ア大陸のことは単体では、アステア大陸という。アステア大陸は、東西のアルプスに囲まれた中央のハイランドと南部平原に、多くの人々が住んでいる。我がサモル王国は、西アルプスの海側にある。我が国は、東にアルプス、西に大洋、北に未開地。そして、南に姉妹国のローマン王国と、天然の要塞のような国なのだ」


 じゃあ、なんで帝国の属国になってんだ。幾ら聖女が人質だって言っても。


 オレが、変な顔をしているので、レジーナが、「それも教えてあげる」と囁いた。


 こいつ、オレの心が読めるのか。


「北の未開地について勉強したい者は、魔剣士科の選択授業を取りなさい」


「北の未開地か(魔剣士科のオレは、どうせ聴講する)」

「魔の森が永遠に続く土地よ。未発見のダンジョンがあるって聞くわ。興味あるでしょ」

「冒険者なら、北を目指せって話しですね」

「後でいいよ。それより、アステア大陸の一般的なことから知りたいかな」

「どんな事?」

「何でもさ。どんな国があって、珍しい交易品とか、流通はどうなっているとか。オレは、何も知らないからね」

「ダークは、商人になりたかったのよね」

「ああ」


 ローマン王国とサモル王国の間には、広大な荒れ地と砂漠がある。故郷のポートレイは、サモル王国の豊かな土地と違って、川がなく、ウオーターファーマーに頼らないといけない厳しい土地柄だ。ポートレイは、ローマン王国と交易しているわけでもなく、砂漠地帯で他種族が寄り集まって、細々やっているという印象だ。また王都に来て、ローマン王国とサモル王国が仲が良いと初めて知った。


 授業が終わり昼食を取るために食堂に向かう。レジーナが、背伸びした。


「う、う~ん、退屈だったー」

「そうですね。知っている話ばかりでしたもの」

「地政学の最初は、こんなものだぞ」

 オビトが、エマの言葉を引き受ける。

「オレは、結構楽しかった。知らないことばかりだし、異国に思いを馳せるって言うの、商売のビジョンが浮かんだよ」

「ダークの顔は、面白かったわね。いつも仏頂面しているのに、難しい顔をしたり笑ったり」

「変な顔をしたり?」

「そう」

「うふふふ」

「そうなのか、俺も見たかった」


「貴様、姫様に対して、同等の振る舞いをするとは、王家を何だと思っている!」


 おっ、やっと、気骨のあるやつが表れたか。そう思って振り返ったが、やせぎすで、神経質な感じの男とその取り巻き達だった。


 なんだこいつ。


 オビトみたいな友達が増えると思って期待したが、文官系かとがっかりした。オビトは、オレたちの前に出て盾役となった。 


「何事でしょう。ザムエル様」


「貴様は誰だ」


「オビト・フォン・プロミネンスでございます。姫の御前で声を荒げるなど、あってはなりませぬぞ」


「プロミネンス家の・・。お勤めご苦労だが、これは何だ。なぜ平民が、姫様たちと普通に会話している」


「姫の要望です」


「姫様、お戯れが過ぎますぞ。下種な輩と話すなど、貴族をないがしろにするとお思いになりませぬか」


 あっ、レジーナが怒った。最近姫達の気持ちがわかるようになった。氷のような表情をしている。優しいエマの表情との落差がすごい。


「あなたは誰です?」


「これはこれは、ザムエル・カール・グスタフでございます」


「オビト、誰なのです」

「グスタフ伯爵の嫡子です。学園の2年生で魔法科だと存じます。帝国に組み込まれたときに帝国の血を受け入れた家です」

 ボソッ「裏切者・・」


「はっ、何と?。どうでしょう、親交を深めるために、昼食をご一緒いただけませんか」


「結構よ」

「マイレディ!!」

 レジーナが、オビトを押しのけて前に出た。オビトは、顔を片手で抑えている。

 オビトは、レジーナのことをよく知っていそうだ。

「あなたは、王家の敵ですか?」


「へっ?」


「あなたは、我が王家にあだ名す者かと聞いているのです。私の家は、民あってのドラグーン家です。王家の宝を知らないの?。王家の宝は民です。王家の宝をあなたは今侮辱しました。下種とは、何を指して言っているのですか。私の民を貶めるものは、ドラグーン家の敵です。その名前、しかと覚えました」


 エマは、レジーナの後ろでニコニコしている。エマの圧もすごい。なんなんだ、この二人。


「私は、王家に弓を弾くことなど・・」


「今、下種と言ったではありませんか。王家の宝を預かっている伯爵家の嫡男の言動とは思えません。もし、家ぐるみで、民を下種と思っているのなら、グスタフ家が王家の宝を下種と思っているということですが、そうなのですか?。そうでしたら、お父様に話さないわけにいきません」


「私は、その、また後程」


 痩せぎすの伯爵嫡男は、真っ青な顔になってその場を逃げ出した。腰ぎんちゃくも「ザムエル様ー」と後を追う。


「ごめんなさいね」

 オレの中でレジーナのポイントが上がった。

「初めてレジーナが、姫に見えたよ」

「ひっどーい」

「本当さ、見直した」

「ダークは、今まで私のことをなんだと思っていたのよ」

「校門の前で、オレを待ち伏せするストーカー?」

「なんです?。その話」

 またワイワイしそうになったところをオビトに止められた。

「姫、目立ちすぎです。食堂にVIPルームを設けますぞ」

「ごめんなさい。でも、ザムエルが悪いのよ。私を怒らせるから」

「仕方ありません。続きは、席についてお願いします」

「わかったわ」

 オビトが、姫たちと普通に話していたから、オレ達側なのかと思っていてけど、とんだ堅物だった。

 オビトの騎士モードは、昼食が終わるまで続いた。



 翌日、剣の授業に、オビトの道場から講師が派遣されたので、オビトと二人で修業することになった。二人で、柔軟運動しながら、昨日の話になる。とりあえず背中合わせになってオビトを持ち上げた。


「おまえ、元々レジーナの護衛だったんだろ」

「よくわかったな」

「昨日の一件でわからんかったらバカだろ。王命か」

「俺の家が王家の守護者なんだ。同級で入学して、姫の近くに居ろと言われたらそうなるだろ」

「いやいやか?」

「そんなことはない。守りがいがある姫様だろ」

「そうだな。15歳で、あれだけ尖がっているんだ。将来苦労するぞ」

「望むところだ」


 オレ達の練習は、もっぱら、スローな動きを連続してやっているだけ。じゃあないと、木剣が何本あっても足りない。はたから見たら、ゆっくり踊っているように見える。しかし、先を取るときだけは、最速でやって、その後、間違えても同じ動きをするので、オビトがオレに叩かれまくっているという図式だ。


「スピードは、スバッ、まで行けるか?」

「無理だ。いまでも機先で、雌雄が決しているだろ。このままでいい」

「そういうな。スンぐらいのスピードに上げよう。それぐらいなら、打ち合いになっても木剣は折れない」

「待てよ。防具ぐらいつけさせろ。長く練習できないだろ」


 オレの時は、そんなものなかったぞ。って、前世の話か。

「分かった。装着していいよ。でも、動きが阻害されているようだったら、外してもらうからな」


「殆ど避けるところまで行くには、時間がかかるんだ」

 オビトが、ぶつぶつ言いながら防具を装着する。


「皮鎧か、考えたな」

「俺の普段着の下は、いつもこうだ」

「じゃ、再開」


 オビトは、いつもと変わらない動きをしている。親が英才教育しているのがわかる。


「それで、いつから姫の護衛をしているんだ」

「お前、この練習で、その話をする」

「敵は一人じゃないんだ。これぐらい避けろよ」


 スン、スンと、二人の剣が動き出した。ゆっくりした踊りだと思われていた練習が、ぐりぐり動く。生徒は、・・講師さえもオレ達の動きから目が離せない。


「10歳の時かな。お茶会で、昨日みたいなことがあった。俺も同席していたんだ。相手は、俺と同じ子爵の息子だった。子供の喧嘩だろ。大人は出てこなかったけど、姫が、人だけじゃあなく、他種族も王家の宝だって宣言しだしたんだ。大人の顔色が変わりだした。だから早く終わらそうと思って、相手をぶん殴って気絶させた」

「へえ、レジーナの奴、そこまで踏み込んだのか」

「その時の姫の話が広がるのは早かったよ。その後俺は、姫の王都視察に、ずっと付き合わされていたわけだ。やっと、ダークに興味が移ったと思ったんだがな」

「そう言うなよ。先輩」


 こんな話をしている最中もオビトは、オレに打たれまくっている。打たれながらも、急所をことごとく外しているのは賞賛に値する。それも打たれても、泣きごとひとつ言わない。しかし、オビトの家の門下生でもある講師が、ストップをかけてきた。

「全員休憩。若たちもだ」


「休憩だってよ」

「助かった・・・」

 オビトがその場に倒れた。しかし誰も手を貸しに来ない。プロミネンス家とは、そういう家柄らしい。

「こっちの方がスローより、数倍練習になるだろ。早くスピードに慣れろ」

「・・・待ってろ、すぐだ」

 根性のあるやつだ。

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