エムアールワン<MR1>
午後の授業は、1時間2回の2時限あるわけだけど、今日も見学しないで、本校舎の裏にあるシャトーに、オレの半分ぐらいの大きさに育ったMR1を持って向かった。
「お前、まだ軽いな20キロもないんじゃないか」
「マスター、本当にチタンが手に入るのですか!。楽しみです」
「お前らって、錆びるの嫌いだもんな」
「オイル浴をどうしようか悩んでいたところです。大量のオイルがいらなくなったので、良質なオイルを探します」
「これからお世話になる先輩には、オレに前世の記憶があると言っておいたから、好きに話していいぞ」
「ヒパティア様でしたね」
「チタンを錬金できる人だぞ、敬意を表せよ」
「もちろんです。私、執事ドロイドも好きなんです」
「お前は、マザーだからな」
「分かっています」
こいつ絶対、執事ドロイドもするつもりだろ。
昨夜MR1には、前世の記憶によって、この世界に災害が起こらないようなら、ヒパティアには、何を話してもいいと許可した。MR1は、そのため、一晩中シミュレーションをして、ある程度めどがついたと、今朝、晴れやかに言っていた。
グリーンに、絵を持って行くから、MR1についてきてくれと頼んだが、暗いところは嫌だと拒否された。グリーンも屋根裏部屋に置く端末でMR1と話すことになった。この端末の製作は一昨日からやっていた。ピクチャーロイド達にも使えるようにしたためにドロイド1体分の魔石が必要となり、魔石の塊のような端末になった。しかしこれにより、ドロイドを新たに制作した場合、魔力でMR1とリンク出来ることもわかった。
錬金科研究所のシャトーは、本館の北側で、その先は湖になっている。東側に城、西側が小高い丘。いろいろな研究者がいて実験しているので、危ないところだ。ヒパティアは、天体観測をしているが、錬金は金属錬成で土属性のため、地下に研究室がある。ヒパティアの研究室は、半地下で、外の明かりも入っているが、倉庫にしている地下室は、本当に真っ暗になる。
半地下の部屋は多くない。部屋もすぐわかった。
「先輩、MR1を連れてきました」
「ヒパティア様、エムアールワン(MR1)とお呼びください」
実際は、メンテナンスロボットワン。
「早かったわね」
あなたたち、なんでそんなに元気なの?。
ヒパティアは、目の下に熊を作っていた。過去の自分を思い出し、母をおもいだし、嫌な思いをしたことを思い出して落ち込んでいた。
「ゴーレムなのに、本当に話すのね」
「マイレディ、精神誠意努めさせていただきます」
「お前、その因子は、BD2を作ったときにに渡せよ」
BDとは、執事ドロイドのこと。
「えーーー」
「えーじゃない。こいつ、当分言動がおかしいと思うけどごめんな」
「クスッ、地下の倉庫は、とっても広いから好きなところにMR1を設置していいわ。光は、私が出すから切れたらその都度言ってね。私の光魔法だと、だいたい24時間もつかな」
「素晴らしいです。ヒパティア様。」
「わかった。作業場も確保しなきゃだろ」
地下に降りると、もう明かりがついていた。
「広いな。MR1、これ」
「ファイターも制作できます」
「地下を掘って、北の湖に出れるようにしてくれ」
「はい、マスター」
「隠密にな」
「分かっております」
MR1の顔に表情筋があったら、二人で、悪い顔をしていたことだろう。
「電気炉は、行けるよな」
「雷の魔石がありますから、アダマンタイトも」
MR1は、高級なアダマンタイトを銅線代わりに使う気。ドロイドの神経網もこれで作成する。
電気炉は、まだ小型なものしか作れないが、徐々に大きくしていけばいい。
「穴を掘ると、その物資で、資材も何とかなるんだろ」
「はいマスター」
「じゃあ、いろいろ制作に掛かってくれ」
MR1は、マルチでいっぺんにいろいろやれる。資材もある。懸案の製作が進むことになった。
-------------------------------------
ちょっと時間ができるとオレは、浮遊魔法ばかり練習している。今日もそういう日になった。夕食には早い食堂で、鳴き鳥の羽毛を3ついっぺんに浮遊して、魔術の腕を磨いていた。
「楽しー」
「ダークも、そんな顔するんだ」
「意外です」
ゲッ
「コホン。なんだよ二人とも」
「夕食だから、食堂に来ただけです」
「そしたら、ダークが、子供みたいにはしゃいでいるから」
「ねっ」
「いいだろって、もうそんな時間か」
「浮遊魔法は上達した?」
「見てくれよ羽毛を3つも同時に浮かすことができたんだ」
二人に、ニヤニヤされた。
「ちょっと貸してください」
エマが、3つを全部別の方向に動かした。
「へっ、そんなこともできるの!」
「魔法制御ができるとね」
レジーナもエマと同じことをする。絶対、見学に行った先で教えてもらったんだ。
「オレもできるかな」
「私たちに、教えてくださいって言ったら、教えてあげるわよ」
「・・・、ぼそぼそ」
「えっ、なんて」
「教えてください」
「もう一回言って」
「レジーナ、それ以上は可哀そうです」
「しょうがないなー。いい!、羽毛を浮かすときに魔力を注入するでしょう」
「やってる」
「その時、羽毛と自分が繋がっていると思わない?」
「操り人形って、糸で操るじゃないですか。魔力でつながっているなら操れますよ」
「まずは、羽一枚でやって見せるね」
レジーナが羽毛をゆっくりだけど、好きな方向に動かしだした。人差し指を立てている。
「人差し指から、魔力を送ているってこと?」
「意識し易いのはね」
「3枚だと、いろいろですよ。パーっと広がるイメージとか3枚が螺旋を描くとか、一点に集めるとかです」
「分かるような気がする。二人ともすごいな」
「魔法制御の授業の見学で聞いた受け売りだけどね」
「先輩たちはもっと複雑に動かしてましたよ。ダークも一つぐらいは、魔法の授業を選択すします?」
「いや、よしとくよ。2年生の錬金科の授業は、ちんぷんかんぷんだった。オレ、半年しかいないだろ。ちゃんとやらないと分らなくなるんじゃないかな。魔法は、二人に習うよ。その、簡単なのから教えてくれないか。パーっと広がるやつ」
「いいわ」
「任せてください」
他の生徒も食堂に入ってきたが、姫たちに近づかない。
「何やってんだ?」
オビトもやってきた。オビトは、薬学科の授業を見学してきたそうだ。オビトは、魔剣士科。生粋の武人で、戦いの間の魔力は、全部攻撃に使いたい人だ。治療などは、即効性のあるボーションや丸薬を使いたい。
「俺も教えてくれ」
4人で、ワイワイやりだした。
いいな、こういうの。
仲間がいるというのは、前世では考えられなかった。オビトを巻き込んでよかったと思う。
オレとエリーは、ピアノの上に置いたMR1用のアクセス端末を覗いている。屋根裏部屋では、問題なく動いていた。しかし、MR1を設置したのは地下だ。自分たちの技術だと中継器を置くのだが、魔力だからいらないという。未知なエネルギーのために、とても心配だ。エリーは、問題ないと請け負ってくれた。その割には、ジッと端末を見ているんだが。オレ達は、グリーンを待っている。
端末は、ドロイドの回路1台分必要だった。だから、ドロイドの頭の大きさがある。目と口とメモリ出し入れ口と言うずんぐりさだ。目は、まだ簡易のをはめている。ピントの合う距離は、近距離から無限遠。その代わり固定だし、薄暗いとほとんど認識できない。高精度の目を作るには、魔の森の湿地帯にいるスライムの核をゲットしなければならない。
「ごめんごめん、エマの両親が、例のごとく揉めててさ。口論が、あまりにひどくなったから、第一王子が、エマに戻ってもらおうかって言いだしたんだ。あの二人は、エマさえいれば、仲がいいんだ」
「それで、なんで喧嘩をしたの?。いつもの事でしょうけど」
「いつもって?」
「王妃は、菜食主義者なんだ。でも王は、大の肉好きで。食卓にこれでもかって肉料理を並べるんだ」
「お肉ばかり食べてないで、野菜も食べなさい!。って喧嘩でしょう。くだらない」
「そんなことで、なんでエマが、国に帰らないといけないんだよ」
「エマは、肉料理と付け合わせの野菜料理のチョイスが抜群なんだ。エマのチョイスだと、王も王妃も肉も野菜も食べるんだ。だからって、そんなことで、エマが国に帰るなんて一大事だろ。だから、見守ってた」
「それで、どうなったの?」
「珍しく、ボイムラー王子のチョイスが良くってね。王と王妃が仲直りってわけ」
「良かったわね。あーくだらない。私たち、グリーンを待っていたのよ」
「だから、ごめんって」
端末には、まだ、映像パネルがついていない。魔石は、魔力を与えると発光するので、各属性の魔石で作ったマイクロプローブを順序良く敷き詰めれば、高精細の映像パネルが作れるのだが、今まで作ったマイクロプローブは、学園にばらまいて、魔力を数値化するためのデーター取に使ったり、MR1の目の製作に使ったり、ヨハン・アウグスト騎士伯爵に仕込んで、彼の周辺に探りを入れたりと重要任務で忙しい。マイクロプローブは、貴重で、今のところ優先順位の高い順に使うことになる。この端末には、MR1から見える目がつけられた。MR1が、グリーンから情報を貰うのに必要だからだ。だから、MR1だけ、この端末が正常に動ているかどうか知っている。オレとエリーとグリーンは、開通を祝うために、最初は、一緒にMR1と話をしようと約束した。
「じゃあ、端末がちゃんと動いているか、MR1に聞こう」
「待ってました」
「MR1が、ここにいないのに、話しができるてことだよね」
三人で、端末を凝視した。
「MR1聞こえたら返事をしてくれ」
「・・・・」
「「「?」」」
「あー、あー。これ、本当に、ダークに聞こえているの?」
「それはもう、マイレディ。最初は、ヒパティア様が話さないとです」
「ええっMR1?!」
「ちょっと、いきなり秘密の通話に、他人を入れたの!」
「やってくれたよ」
「あっ、ダーク」
「お三人とも、鮮明に声が聞こえます。映像もよく見えますよ」
「三人って、ダークの声しか聞こえないわよ」
「他のお二方は、ピクチャーロイドですので、ヒパティア様が、聞くのは難しいかと思います」
「なに、ばらしてんのよ」
「エリー様、大丈夫です。プランBの成功率が、ここに来て90%に上がりましたから、問題ありません」
「プランBって?」
「プランAは、先輩を巻き込まないで、秘密裏に事を進める計画。で、プランBは、全面的に巻き込んじゃうって計画だったかな」
「そうです、マスター。ヒパティア様は、宇宙ステーションで天体観測をしたいそうです」
「できるのよね、ダーク」
「先輩が、秘密を守れるんならね」
「うんうん、守る守る」
「ねえ彼女、軽くない?」
「大丈夫なの!」
「先輩は、ちょっと世捨て人っぽい人だからな」
19歳というと、一番ハッチャケやすい年ごろでもある。
「ほとんど、宇宙にいることもできるんでしょ」
「重力装置があれば、健康被害はないと思うけど。MR1、ちゃんと説明した?」
「これからです。レプリケーターも制作します」
「レプリケーターって?」と、エリー。
「自動料理機。どんな料理でも出してくれる。〈プログラムを入れればだけどね)他にも、オレの頭の中にある技術をてんこ盛りにできるのが宇宙ステーションだよ」
エリーとグリーンに、前世の記憶があるって話を、しないといけなくなったじゃないか。
「面白そう。宇宙に、僕の絵も連れてってよ」
「上空10万メートルより上になると思うよ。魔素が、ないんじゃないかな」
宇宙ステーションだと高度400万メートル。スターダストと同じ高度。
「そんなの、魔石で代用しようよ」
「グリーンが行くなら、私もいこうかな」
「だってよMR1。そういうふうに制作してくれ。優先順位は、エリーとグリーンの方が上だからな」
「了解しました。マスター」
「やっぱりダークの声しか聞こえない」
「グリーン様、エリー様、少し、ヒパティア様とお話ししていただけませんか」
「いいわよ」
「仕方ないな」
「二人とも、後で話があるから」
「じゃあ、後でね」
「ヒパティアって、帝国の人よね」
「『ヒパティアって、帝国の人よね』ってエリー様が聞いてます」
「えーっと!。いきなり?」
エリーがヒパティアに、核心をついた話をしだした。オレもこの後二人に、前世の記憶があるとカミングアウトする。
ヒパティアは19歳。前世の話だが、王族だと丁度嫁に行く前の年齢で、執事の因子をまだ持っているMR1にしてみたら、一番尽くし甲斐がある年頃だ。必死になって、二人とヒパティアの仲を取り持とうとしている。オレの見立てでは、5分5分か。MR1が、仲を取り持とうとすればするほど、ヒパティアの秘密が暴露されているという感じ。でも、ヒパティアの声が済々した感じになっている。エリーもグリーンも、だてに長生きしていない。
「そうねぇ、今の話だと、ヒパティアを監視しているのは、ルービン家ね。皇室は、ルービン家に下知しただけよ。あなたが、皇帝の血筋を持っているから、何かに使えないかと監視しているんじゃないかしら」
「そうだね。帝国って、そんな感じ。上下関係が絶対だからね」
「私、もう、あの人たちとは、関わりたくありません」
「ダーク、どうにかならないの?」
「今ツインに調べてもらってる。先輩と帝国を断ち切れそうだったらやるよ」
「お願いね」
そんな感じでやっとヒパティアとの話が終わった。次は、オレの番だ。通信が切れて、ヒパティアはクローズドとなる。オレは、二人に前世の記憶があるとカミングアウトした。
「やっぱりね」
「前世の記憶があるんじゃないかと思っていたわ。じゃあないと、不思議なことが多すぎるもの」
「何歳で死んだの?」
「45歳。息子に殺された。オレは、この世界でいう帝国の犬だった。帝国にあだ名すものは全部殺してきた。最後、息子に殺される覚悟をしたときに改心したよ」
「じゃあ、今の精神年齢は、55歳ってことだよね」
「それにしたら、幼くない?」
「今世の両親がいい人でさ、年の近いヒポポ族のパムとワソとも仲が良かったんだ。親友のリュートとも出会えたし。前世は、生まれて間もないころから、修行修行で、遊んだ記憶がない。童心って、どんなものか知らないけど、今世になって初めて子供になれたんじゃないかな」
「どのくらい強かったの?。強かったから帝国に利用されたんだよね」
「まだ年齢による状態異常があるみたいなんだ。それにクリスタルソードもないし。前世ほど強くないけど、今まで会ったやつに負ける気はしないかな」
前世の成人は20歳。
「クリスタルソードって、ダークの妄想じゃあなかったのね」
「ひどいな」
「何でも反射する剣ってちょっとね」
「同じクリスタルソード同士だと、剣技勝負になるかな。光属性の超高温度の魔力を噴出させるクリスタルがあれば、この世界でも再現できると思う。火のような光がクリスタルのようになるんだ」
「火のような光ね。ライブクリスタルの事かな」
「あるの?。グリーン」
「それって、賢者の石の光属性版ってことでしょう。見た人いなわ。伝説なんじゃない」
「煙のないところに火は起きないよね」
「覚えておくよ」
ライブクリスタルは、グリーンとオレの知り合いにいるけど、そんな感じじゃなかったな。今度ヨナに聞こう。
カミングアウトして感じたけど、エリーとグリーンは、オレにとって両親と同じぐらい掛け替えのない人たちだと思った。




