楽しみにしていた浮遊魔術の授業
剣の実習は、1,2時限。3,4時限は、雛段になった大きな教室で合同授業だ。楽しみにしていた浮遊魔術を習える。
「ダーク遅いじゃない」
「そうですよ」
「おい、こらっ、よせ」
姫たちに捕まった。引っ張られ、背中を押されて後ろの席に着く。
助けろと、オビトを見たが、フイッと、目をそらされた。こいつ、友達がいがない。
姫たちに格差意識はない。レジーナが、それを公言しているのは有名な話だ。貴族たちは、下手に、オレを姫から引き離そうとすると、逆に姫からやり込められることを知っている。
「まてまて、オレにも友達ができたんだ。なっ、オビト」
死なば諸共だ。
「そうなの!。オビトさん、こちらにいらして」
「お前!!」
「こいつを、オレ達の冒険者仲間にしようと思っているんだ」
エマは初見だけど、オビトは、元々レジーナのお付き。
オビトは、王家のことを良く知っている。オビトの家は、王家を守る家だ。
「エマ、こいつも、魔獣狩りに来てくれるそうだ」
「そうなのですね」
「オビトも仲間なんだから近くに座るでしょう」
姫に逆らえないオビトが渋々前の席に座る。お前なんかまだましだ。オレなんか逃げられないように姫に囲まれているんだぞと言いたい。
学年で、一番ごつい2人が姫たちの周りに集まった。貴族の子女達は、姫に近づきたくても怖くて、近づけなくなった。
さて、授業に集中だ。アクシデントはあったけど、待望の浮遊魔術の講義が始まる。
学園最古参のエルビン・フレミング博士が、濃い紫のローブをまとって現れた。
「フレミング先生って、千年は生きているんじゃないかって聞いたわ。お友達のニコラ・フラメルに、賢者の石を貰ったんじゃないかって話」
「聞いたことある。フラメルは私の国の人だもの」
姫たちは、オレを挟んでひそひそ話を始めた。止めてくれ。オレは、授業に集中したい。
「まず、授業を始める前に、注意事項を言っておこうかの。飛べるようになっても、魔の森の防壁を超えてはならん。防壁を超えた多くの生徒が、行方不明になったり死んでおる。防壁の上空は、常に竜騎士が巡回しているが、毎年事故が起きているのだ。気をつけるように」
なぜかフレミング先生に睨まれた気がする。まるで、オレが、これからやろうとしていることを知っているかのようだ。姫たちは、先生のうわさ話をしていたのが聞こえたんじゃないかと思って、おとなしくなった。
「では、はじめよう」
フレミング先生が黒板に大きな丸を書いた。
「知っての通り、我々の世界は、丸いことが分かっている。この星は、バースと言われたりガイアと言われたり様々じゃが、ここでは、バースと呼ぶことにする。そして我々が住んでいるのは、この辺りかの」
そう言って北半球の真ん中あたりを示した。
「解っていることは、上空10キロメートルまでしか魔素がない。それ以上は、魔力が続かないので、高く飛べないということだ。今まで話したことの細かいことは、地理や歴史で勉強する。なので、ここでは詳しく話さんが良いな」
一生懸命フレミング先生の話を書き留めていた生徒が書くのをやめて前を見た。全員前を向いたところでまた話し始めた。
「我々は、魔素の底に住んでいる。魔素底を歩き生活している。自分の魔力を意識できれば、魔法が使えるようになる。また、大気の魔素を認識できれば、魔素の中で浮くことができるようになる。それは、水に浮くのと同じことだ。よいか、一度、魔素がわかれば、誰でも浮くことができる。まずは、自分のうちなる魔力を感じるようになってほしい。もう魔法が使えるからと言って、自分の魔力をちゃんと認識しているとは限らない。自分の意識に深く潜るほど、知らない自分を発見するものじゃ。では、集中して、自分の意識に潜って見なさい。切っ掛けは、自分の一番古い記憶を思い出すことじゃ。そこより先が、意識の奥底になる。ものは試しだ。やって見なさい」
まいったな、オレの記憶は、前世までさかのぼれるんだが。でも、一番古い記憶だって言ってたな。それだと、前世もくそもないか。
オレは、自分の意識に深く潜った。見えるのは、月だ。この世界は、スターダストベルトはあるが月はない。前世の一番古い記憶だと思う。その月は満月で、とても明るく輝いている。でも、明るすぎて、月が放っている光がスペクトル分解して滲んで見える。その先は、光の洪水だった。幾重にも尾を引いて飛び交う光の塊。色も様々で、一定に飛んでいる光の塊などない。まるで、スピンしている電子の磁軸が一定でないのと同じように。これが、どこに向かっているのかもわからなかった。その中に自分がいた。
光は、ぐじゃぐじゃになった後、急に一定方向に進みだした。そこで渦を形成して循環し、魔力が中心から噴き出すのを他人事のように見ていた。
「ダーク、ちょっとダーク。授業が進んでいるのよ。いつまでボーっとしているの」
「ハッ。ここは?」
「教室の中ですよ」
「みんな、自分の魔力を感じられなくて、先生に魔力を感じられるように、意識を押してもらっているところ。次は、ダークの番よ」
「ダーク・サンドストーム君はいますか」
「早く先生のところに行きなさい」
「おう」
「さあ、こっちに来なさい。背中を私に向けて」
フレミング先生が、魔力を注入してきた。
「君は・・・、まるで、夜空の星がないところを彷徨っているような暗黒を持っているね」
間違っていない、前世は、ファイターで宇宙を飛び回っていた。
「星々の瞬きが遠い。私の魔力が、そこに放射されて、幾らでも飲み込んでくれる」
「オレの属性のせいでしょうか」
「闇属性かな」
「はい」
「いや、いま足元が見えた。これは・・・星が誕生するところじゃないか。『君は、光属性の方が強いぞ』」
さっきの光のイメージが見える。
「自分も、・・そう思います」
フレミング先生が、にっこり笑った。
「みなさん、ダーク君は、自分の魔力を感じることができておる。それも自分の中の属性を感じることができている。皆さんも、自分の中の属性を感じることができるようになったら、また前に来てください。一緒に見てあげよう。ですが、今日は、浮遊とは何かというところまで話したいので、その先に進むぞ」
オレは、みんなに注目されながら席に帰った。
「ダークは、光属性なんですね」
「似合わない」
「ほっとけ」
「皆さん、自分の魔力を感じることができるようになったかの」
「「「「「はーい」」」」」
「次に、我々の周りにある魔素を感じるようになったら、浮遊できるようになる。ところが、この世界には、引力という力が働いていて、我々を地面に縛り付けておるのじゃ。引力の話は、理科学で習うから省くが、その引力のせいで、最初は、自分の体重を浮かすのが困難だ。なので、最初は、飛翔に近い物を使って練習してもらおうかの。ここに鳴き鳥の羽毛がある。自分の魔力を使ってフライの魔法をかけよう」
『フライ』
フレミング先生の羽毛がフヨフヨ浮き出した。生徒もフライをやりたくて仕方ない。
「羽毛は行き渡ったかの。試してみなさい」
「フライ」
誰もフライをできない中レジーナがフライを成功させた。
「レジーナがフライを成功させました。皆さんも続くように」
拍手が起こる。その中でおれは苦戦していた。念動力と魔法の違いを今日はっきり感じさせられたからだ。当然、魔法でフライを成功させたい。
「フライ」
エマもフライを成功させた。
「あら、ダークは、まだできないの?。私が教えてあげようか」
「私も教えられますよ」
「気が散るから話しかけるなよ『フライ』」
また失敗。なんとなく魔法で浮力をつければいいというのはわかっているんだけど。
他の生徒も、続々成功しだした。フレミング先生が、魔力をみんなに認識させたからだ。
「『フライ』やった、やったぞダーク」
オビトがものすごく嬉しそうにオレに振り返った。さすがお貴族様。
「くそう『フライ』」
ボガン
「きゃ!」
「危ないじゃない」
「ごめん、重力を切ろうとしたんだ」
「ダーク君、それはフライじゃないぞ。羽毛に魔力を注いで浮かせるだけでいいんじゃ」
魔力を注ぐのか。
「私のを貸してあげるから、もう一度やったら」
レジーナに羽毛を借りた。
「フライ」
今度は、簡単に浮いた。
「そうか。そういう事か!」
この時初めて、魔法で物を浮かすことができた。目からうろこが落ちたとはこのことだ。
「今日の授業はここまで。また来週じゃの」
浮遊魔法の授業は、全員が羽毛を浮かすことができて終了した。サウザンド魔法学園に聴講生として入ったかいがあった。〈実際は、レジーナのおかげで入学扱いになっている.なんせ入学試験優秀。それを逆手に取った。父親の王も、魔剣士大会に正規の生徒で出てもらいたいから大賛成〉
午後は、選択授業を受けることになるが、来週からだ。それまでは、いろいろな選択授業を見学したり、クラブ活動を見学したりする。レジーナとエマは、魔法を中心に授業を選択する。おれは、商人になるためにマジックバックが欲しいので錬金だ。姫たちと別れて見学することになった。
錬金の授業を見学する生徒は少ない。見学者は、11人。授業を受けている生徒は、7人しかいない。錬金科は、最低でも一学年7人は、生徒が必要なのかなと邪推してしまう。
見学に行った授業は素材錬金。授業をしている先生は、見学者が気になるようで、話しかけてきた。先生は、30代中ごろの学者風の人。
「はは、君たち、新入生だね。錬金科の生徒が少ないって思っただろ。だけど、錬金科の予算は、魔剣士科と引けを取らないんだ。人数が少ないのに、メイン科目の予算と変わらない。その重要性は、知っていてほしいかな。じゃあ、授業を再開するよ」
素材に魔素が蓄積すると、どういう性質に代わるのか。その素材は、どう使われているかの授業だった。実は、これは1年が習うことで、先生がサービスして話してくれていた。そして、その魔素が蓄積した素材を合成するとどうなるかというのが、この授業のメインだった。
授業を見学して、オレの前世の知識と合わせると、あんなことも、こんなこともできるんじゃないかと考えが止まらない。
次の授業の見学者は、5人に減ってしまった。大丈夫か錬金科!!。多分クラブ見学に流れた。
次は、魔法陣による錬成だった。これは、魔法知識がないと厳しいもので、はっきり言ってよくわからなかった。魔法基礎をしっかりやっていないと、この授業にたどり着けないんだろうなと思う。
いずれにしても夢が膨らむ。それは、オレの前世の知識からの妄想のせいなんだけどね。
魔法錬成の先生が、最後におれたちにサービスしてくれた。
「今日の見学ごくろうさま。何か質問があったら受け付けます」
誰も手を上げないので、おれが質問した。
「永続的な氷を魔法で錬成することはできますか?。できると、2日で食べられなくなっていた生魚が、5日持つようになると思うんですけど」
「難しい質問ですね。魔石を利用して永続的に魔法陣を発動する技術があります」
「結界ですか?」
2年の生徒が質問。
「そうです。ですが知っての通り、効率が悪い。魚を生で5日保存しようと思ったら、その魚10匹分の価格の魔石が必要になります。その1匹の魚はあきらめて、その都度、新鮮な魚を買った方が現実的でしょう」
出来るんだ。その事実の方が大きい。でも、ドロイドほど省エネじゃあないってことだ。もっと詳しく知りたい。
「じゃあ、フリーズの魔法陣だとどうでしょう。魚を凍らせば、大量に魚を長期にわたって保管できます。魚が少ない山岳地帯に魚を運べると思うんですが」
「面白い視点です。検証しないとわかりませんが、やはりそのフローズンされた魚は、とても高価なものとなるでしょう。それでも、山岳地帯の人からしてみれば、フローズンされた魚を解凍して、新鮮な海の魚を食べられるのは嬉しいかもしれません。そういう検証をするのも錬金科の目的です。国が、こんな、もしかしたら無駄かもしれない研究にお金を出すのは、検証中に新たな発見があるかもしれないからです」
「ありがとうございました」
よしよし、研究の自由度は、結構高いぞと。
こんな感じで、錬金科の授業をひたすら見学した。




