入学式
サウザンド魔法学園の柊宿舎の屋根裏部屋に帰ると、待ち構えていたエリーに怒られた。
「やっと帰って来た。何時だと思っているのよ」
えっー
「門限は、7時だろ。まだなってない」
「私たちは、日が沈むと眠くなるの。お友達を紹介しようと思って連れてきたのに遅かったじゃない」
「昨日ぶり」
グリーンが、エリーの後ろからひょっこり顔を出して手を上げた。
「グリーン」
「あら、知り合い!」
「ちょっと、うちの姫のことでね」
「自信を無くしていたって言う?」
「そう。ダークが解決してくれたんだ」
「へー、あなた、やるじゃない」
「そりゃどうも。遅い帰宅は、お咎め無しか?」
「そうねー。で、あの光の魔石で出来た子は、何しているの?。話しかけても無視するんだけど」
「仲間を増やしているんじゃない」
「そうなんだ。もう少し賢くなると、おれの記憶を読むようになって、話すようになると思うよ。その時はよろしく。光属性ベースだから、エリーたちとも話せると思うんだ」
「本当!。話し相手が増えるのね」
「ぼくもここに遊びに来る。いいよね」
「いいも何も、エリーの方がこの部屋の先輩だからね。グリーンは、そのエリーの友達だろ」
「やった!」
「うふふふ」
グリーンは、ライブクリスタルのヨナの友達だ。彼らに隠し事をする必要はないだろう。気の置ける知り合いができた。二人とも夜は眠いと言っていたので、朝早く起きていろいろ話し込んだ。
入学式の朝もボルケーノで食べた。そのまま、入学式をする講堂の裏に行って二人を待つ。今日は、帯剣した護衛が二人に付いているので、気楽に見送りに行った。しかし実際の約束は、エマを寮まで迎えに行き、学園の馬車止めでレジーナや二人の護衛と合流して講堂の楽屋口まで送る約束だった。この時二人とも口裏を合わせたようにオレに怒ってきた。エマの侍女のメアリもそうだ。
「ダーク遅い!」
「私たちを寮まで迎えに来てくれるのではなかったのですか」
「いけね」
「これは、一つ貸しですよね。ダークさん」
「メアリまで言うか。貸しってなんだよ」
「私たちのお願いを聞いてもらいたいのよ。この間、ピクチャーロイドと話せるゴーレムが作れるって言ってたわよね」
「グリーン様と話せるゴーレムが欲しいです」
通訳を兼ねた執事ドロイドのことか。そんな話をちょっとしたなー。
「ああ、ドロイド(BD2)のことか」
「ドロイドって言うんですか。作れるんですよね」メアリが乗り出す。
BD2(バトラードロイド2)は、通訳をする執事ドロイドだ。外交をする姫たちに必要なドロイドだろう。ポセイドン王にも、海中のポー王国に連れて来いって言われているし。
「う~ん。分かった」
「私と、エマの二人分だからね」
「うんうん」
「分かったよ」
姫って言う人種はこれだから。
「やりましたね」
「メアリもありがとう」
「うんうん」
講堂の裏の通路でメアリと、姫二人を見送り、自分達も入学式に出席する。総代は、王女レジーナ・ノバ・ドラクーン。王女エマ・レイ・ローマニアは、隣国の姫として講壇の上にいる。二人とも美人だし、オーラがすごい。
講壇の上には、学園関係者としてアマンダと加奈から悪評を聞いたヨハン・ホン・アウグスト騎士伯爵がいる。
ヨハン・ホン・アウグスト騎士伯爵について、アマンダから聞いた話だが。奥さんは、帝国男爵家の3女。アウグスト騎士爵自体は、国の功労者というより、貿易で成功した貴族で、元は子爵。特に宝飾類を帝国に売って儲けている。魔力が弱いので、これ以上は望めなかったところを帝国の後ろ盾。と言っても男爵家だが、それと大金で、騎士伯爵の称号を買った。
アマンダが言うには、アウグスト騎士伯爵は、奥さんに頭が上がらないのだとか。そのせいで、構造的に帝国の犬に成り下がってしまっている。魔力が少ないくせに、魔法学園に食いついているのは、サモル王国の力をそぐためだと言っていた。敵認定の男だ。
見た目は、ポテッとした人の好いおっさんに見える。帝国の罠にはまった後、それにどっぷりつかったんだろうなと思う。ハニートラップは、何処の世界にもあるものだ。
貿易で培った船団の腕を見込まれ、海軍の重職にいる。と、言っても海軍騎士団のお飾り団長なわけで、国に信用されているとは思えない。海軍騎士団は、丘での行軍のときに仕事があるだけというお飾り。閑職を利用して、学園にも居座っている。
学園長の話は、長かった。気になる話は、ダンジョンがどうのと言っていたことだろうか。後で調べよう。そして生徒会長のオリビアの歓話。
式が進み、3年生の歓話に対する総代の答辞となった。レジーナの堂々としたこと。
「マクレガー学園長、オリビア様。私たちに励ましのお言葉を、ありがとうございます。私たちは、精神と誠意をもって、就学いたします。オリビア様が仰ったとおり、友を作って、青春を謳歌したいと存じます。ご来賓の皆様、諸先輩方。どうぞ、よろしくお願いいたします」
物凄い拍手。すごいなアドリブだ。レジーナが総代をやってくれてよかったよ。
式が終わってクラス分けになる。さっさとホームルームを済ませて、屋根裏部屋に帰ろうと思って、講堂から出た所で、メルド大尉に捕まった。
「ダーク、レジーナ様のお父様が会いたいそうだ。ちょっと来てくれ」
「はあ」
何も考えないで着いていき、来賓室の前で気がついた。
それって、国王じゃないか!!!
メルド大尉がドアをノックしている。もう、引き返せない。儀礼は前世のでいいかぐらいで、来賓室に入った。オレは、メルド大尉より先に膝をついた。メルド大尉は、そんなこともできるんだと目を丸くしている。
「ダーク君、止めなさい。ここは、公の場ではない。親戚じゃあないか。椅子に座りなさい」
「そうです。メルド、入り口をお願いします」
ここには、王家家族が勢ぞろいしていた。
「はっ」オレは、普通にソファに腰かけた。
メルド大尉が顔を抑えている。普通は、王にそう言われても断るものだ。しかし、小国の王じゃあないか。前世では、星ごと相手をするのが普通だった。
「私は、ヤトカムイ・ノバ・ドラグーンだ。お父上のスクネ殿は元気にしておるか。一度会いたいと思っているのだ。帝国の監視が無かったら会いに行けるのだが申し訳ない」
「元気にしています。荒野やポートレイの人たちのためにウオーターファーマーを休むわけにはいきませんから」
「聞いている。私もそういう仕事を出来るように体を鍛えている」
王様と思えない恰幅。
「ダーク君は、レンジャーで、剣も魔法も強いそうだね。我が国は、魔法剣士大会でいつも敗れていてね。今年は、期待していいかね」
「分からないです。でも、まだアイデアの段階なんですが、ライトニングブレードか、クリスタルソードがあれば負けないと思います」
魔剣士大会は秋。まだ、サウザンド魔法学園に在籍している
「それは、どんな剣だね」
「あなた、私たちを紹介するのが先ではなくって」
「すまん、妃のマーガレットだ。娘は知っているな。息子のウイリアムとハリーだ」
「こんにちわ」と言って握手した。
二人の坊主が、目を丸くして握手を返してくれた。どうやらおれは、王宮にいないタイプのようだ。
「レジーナが、お世話になっています」
「私がお世話しているの!」
「さっきエマさんに会いました。良いお友達を引き合わせてくれてありがとう」
「それは、そうだけど」
「そういやさっきの答辞は、アドリブだろ。すごいな」
「そう思う!」
レジーナが身を乗り出した。
「レジーナ、はしたない」
「ごめんなさい」
レジーナは、マーガレット妃に、頭が上がらないと見た。
「お転婆でごめんなさい」
やっぱり。
「それで、レジーナはどう?」
「どうと申されますと?」
「ダークさん、迷惑していない?」
本当に王族は、格差の垣根がないんだな。
「最初はどうかと思いましたが、ルームメイトのピクチャーロイドのエリーと似ているんです。話しやすいと思ってます」
「学園にピクチャーロイドがいるの!?」
今朝、ちょっと遅れたのを追及されてエリーのことを話してしまったので隠す必要もない。
「柊宿舎の屋根裏部屋に居ました。今は、オレの居室です」
「素晴らしいです。エリーさんとお話ししたいわ」
「私も、エリーとお話ししたいわ」
「おいおい、今度は、私だ。ライトニングブレードと、クリスタルソードというのは、どんな剣だね」
王家に矢継ぎ早に質問される。
「ライトニングブレードというのは、雷属性の振動剣です。振動しているので、なんでも切れます。雷属性が強いと魔法を受けることができるので、魔法職相手にも剣だけで戦えます」
「すごいな。クリスタルソードは?」
「柄のクリスタルから光属性の超高温度の魔力を噴出させている剣です。元は柄しかないのですが、魔力を流すとそうなります。この剣は、剣も魔法も反射する反射剣ですので、ライトニングブレードより高位の剣です。どちらも、この世に存在していません。錬金科の授業を受けようと思っているのですが、出来るのは、ずっと先だと思います」
「そうかー。今年の剣技大会には間に合わんか」
「まだ、何も学んでいません」
「でも、ゴーレムは、もう作成しているのですって。光属性のゴーレムだから、ピクチャーロイドとお話しできるんでしょう」
レジーナが、今朝オレから聞いた話を突っ込んできた。
「それならゴーレムを通してエリーさんと、お話しできますね」
「今の調子だと、3か月後には、完成すると思います。ローマン王国のグローイング妖精が手伝ってくれているので行けると思います」
「グリーンていうのよ」
「ぼくグリーンに会いたい」
「ぼくも」
「そうだな。ピクチャーロイドは、絵の中を移動できるから、部屋の中に絵を飾ると会いに来てくれるかもしれないぞ」
王が父親をしている。
「「お母さま」」
二人が、母親を見上げる。
「ウイリアムとハリーの部屋に絵を飾りましょうね。風景画がいいのでしょう」
「エリーの好みはそうです」
「ダーク君、一度城に、遊びに来てくれ」
「3か月後に、エリーとの橋渡しをしてくれる翻訳ドロイドのBD2をレジーナに渡しに行きます」
入学式前に、面倒な約束をしたなと思う。
「楽しみね」
「私に持ってくるんだから」
「先ほどの魔法剣のアイデアは、素晴らしい。少しこちらでも、調べてみよう」
「ぜひ、お願いします」
「お父様、私たち、ホームルームがあります」
「もう、そんな時間か。行きなさい。ダーク君も」
「失礼します」
やっと解放された。
振り返るとメルド大尉が、どっと疲れた顔をしていた。側使えって大変そうだ。メルド大尉が疲れたのは、ダークが粗相をしないか心配してのことだ。それはそうだったがダークは、メルドが疲れているのが自分のせいだと、これっぽっちも思っていなかった。
魔法科のレジーナと別れて魔剣士科に行くと、注目を集めてしまった。体がデカいからしょうがない。
魔剣士科のクラスに行く途中というか、王家と謁見してから、ずっと見られている気がする。敵意は感じられないが、いやな気配だ。
「よう!、来たか」
「オビトも魔剣士科か」
「うちの家系は伝統的にな。本当は、棒術が得意なんだが、学校に、そんな科は無いからなー」
「そうか」
「まだ正式に名乗っていなかったな。オビト・フォン・プロミネンスだ」
「ダーク・サンドストームだ」
がっちり握手した。オビトは、子爵家の息子だが、武道に位は関係ないタイプなのだろう。平民のおれを見下すことをしない。オレのことを王家の親戚だと知っているからではない。武道家というのはそういうものだ。
オビトの近くの席が空いていなかったので、後ろの方に行く。王家との謁見で出遅れた。ぱっと見渡して、オレの相手をできるのは、オレよりデカいオビトぐらいだった。何とか手加減を覚えないといけない。あまり思い出したくないが、前世で、師の前で震えていたころのことを思い出すしかない。
レンジャーのオレは、オールラウンダーだ。だが、雇い主の姫は、後衛の魔女二人。前衛が欲しいと思っていたところだ。オビトを仕込もうと思う。
「皆さん席に着きましたね。これから3年間学びを共にするクラスメートです。仲良くしてください。私は、担任のアザミ・ノスフェラトウです。授業は、薬学です。今まで魔剣士クラスの担任は、闇魔法使いか剣術のエキスパートが担任になっていたのですが、私が抜擢されました。私も、あなたたちのことをこれから勉強することになります。困ったことがあったら遠慮なく申し出てください。なるべく早い対応をします。では、魔剣士科の仕様や構成、選択肢の幅などを紹介します」
クラスがざわめいたが、アザミ先生の速い展開で、不満を漏らす暇はなく、彼女の話に集中することになる。
わかることは、アザミ先生が、、貴族以外を認めないという選民思想の持ち主。つまり敵に送り込まれた先生ではないということだ。自分に課せられた仕事を真摯にこなしているのがわかる。
授業の半分は、魔剣士科のオリジナル授業と実習。と、いってもその授業の中に当然基礎魔法の授業があるので、大部屋で、他の学科やクラスの生徒と一緒に学ぶ授業もある。もう半分は、選択授業だ。魔法をさらに学びたい人、薬学や錬金術を学びたい人は、ここで授業を取ることができる。もちろん選択科目を減らして、部活に割り当てることもできる。わが校は、フットサルが強い。その伝統で、フットサルをするなら選択科目の減免が、認められているそうだ。フットサル部に入れなくても、学内で、リーグ戦ができるぐらい盛んなのは、そのシステムのがあるからだ。
おれは、もう半分の授業を全て錬金科に充てようと思っている。将来塩商人になるには、収納魔法や移動手段の確保が欠かせない。ちょっと学園で調べたが、効果的な魔法や移動手段は、とてもハードルが高かった。結論は、錬金科で基礎を習い、自分でその能力やアイテムを手に入れるのが一番だという答えに達した。
「今日は、これで授業はありません。皆さん、どのように授業を受けるか、良く考えてください」
「先生、フットサルをしたいのですが、どの授業を優先するか決められません」
「最初は、授業を取れるだけ選択してください。授業の減免は、その後でも構いません。その後、出席しない授業を決めてください。ですが、必ず減免されるとは限りませんよ。我が国の将来のために、この授業は、この人数が必要ですというのがあります。つまり、これはやってくださいという要望を学園側も出すということです。よろしいですか」
「「「はーい」」」
「授業前の挨拶は、出席番号順とします。では出席を取りますね。アンナさん・・・・・・・・・・・・・。」
「今日はここまでです。では、出席番号1番アンナさん、号令をお願いします」
「起立、令、着席」
「選択授業が決まったら、私に提出してください」
ホームルームが終わり、皆、思い思いに帰っていく。オレも屋根裏部屋に帰ろうと思ったが、オビトに捕まった。
「ダーク、おれに剣術を教えてくれ」
「おまえ、得意なのは、剣じゃあないって言ってたよな」
「うちの流派は、岩砕流というんだが、武器が特殊でな、学園じゃあ学べない」
「八角金砕棒(鉄の長い棒)のことだろ」
「分かるのか」
頷きながら代案を出す。
「そうだな、八角金砕棒ほど長くはないが、大剣の扱いなら教えられるぞ」
「願ってもない」
「授業は、先生に教わった方がいいんじゃないか。オレのだと、いつまでたっても強くなった気がしないと思うぞ」
前世のは、そういう修行だったなー、あれはキツイ。
「かまわん。おやじに、学園の剣の話を聞いた。ありゃあ岩砕流の役に立たんと言われたよ。ダークのほうがいい」
「わかった。とりあえず獲物は、地面からこれぐらいの長さの極太の木剣を2本用意してくれ。持ち手は40センチぐらいかな。その辺りは、個人個人違うからおいおいな」
「分かった。替えを入れて4本用意する」
「お前、授業中にやる気だろ
「他の時間もいいのか?」
「いいぞ。授業だけで間に合うわけがないだろ」
「本当か。父さんから、剣術講師のルノーに話しをつけてもらう」
オビトは、大喜びで帰った。




