鬼人族 加奈
それなりの部屋になった。オレは、ライトゴーレム(魔法陣を描く小さいゴーレム)に、AIコアを書かせるようにセットして街に出た。ボルケーノに入ったが、夕方前なので客はそれほどいない。それなのに客に絡まれた。
「坊主、ここは酒場だぞ、ガキの来るようなところじゃねぇ」
「ここを通りたかったら、俺たちに挨拶して行きな」
「おっさん等、冒険者か?」
「おうよ、C級冒険者のカザフってんだ。お前、何処の田舎から出てきたんだ。見ねえガキだな」
カザフは、体格はデカいのだが、中年太りと言ったお腹。相棒の目がとがったやつは、小さくネズミみたいな奴。
「ポートレイだよ。アマンダに、酒が飲めなくてもいいから遊びに来てって言われてんだ」
「はっ、アマンダにか。じゃあ、歓迎しなくっちゃあな。1杯行くか?」
「兄貴、アマンダに怒られますぜ。ガキに酒は早い。おめえ、ガキのくせにでかいな。アマンダは、いつもカウンターの奥にいるんだ。カウンターに行けよ」
「飲めるようになったら言え。1杯おごるから」
「ありがと」
手を振って奥に進んだ。昼間っから酒を飲んでいる割には、気さくな連中だった。今世は、前世より悪くない出だしだ。
カウンターには、熊のような男がいた。
「おっさん、アマンダいる?」
「おっさんじゃねえ。俺ゃあ、まだ27だ」
15歳から見たらおっさんなんだけど。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「ニッチだ。それで?」
「それで?」
「俺が名乗ったんだ」
「あぁ、ダークだ」
ニッチが、デカい手を出してきた。ものすごい握力で握手してくる。何とか、それに耐えて見せると、にやっと笑って首を傾げた。
「アマンダ、坊主が来たぞ」
「坊主!」
「さっきの仕返しだ」と、またニヤッと笑う。
「あら、もう!」
アマンダが、奥から出てきた。
「いらっしゃいダーク。聞いたわよ。お姫様たちの護衛になったんだってね」
「驚いた。本当に情報屋なんだ」
「うふふ、良く来たわ。オレンジジュースを飲む?。ニッチ、あれやって」
「おう」
ニッチが、握力で、これでもかとオレンジを絞っていく。あの握手は、手加減してくれたとわかる。
「ほら、生ジュウだ」
ちゃんと荒布で沪した綺麗な生ジュースが出てきた。目を見張っていると、「それで?」と、睨んでくる。
「ありがと」
「なーに、いつでも言え」
「それにしても、早かったわね。そんなに私に会いたかった?」
「朝食の魚スープが旨かったからな。夕食もと思ったんだ」
「いつでも来なさい」
「行く」
「いい子ね」
「夕食は、肉を出してやれ」
「そうね」
「ニッチは、アマンダの旦那か」
「そうよ、かっこいいでしょ。ニッチは、ドラゴンレースでいつも優勝するのよ」
ドラゴンレースは、種族を問わない王都最大のボートレース。バトルシップで速さを競う。でも、ここのところ開催した話を聞いていない。それにしてもアマンダも大きいが、ニッチは、オレを見下ろすほどデカい。確かにドラゴンレースで優勝しそうだ。
なんだろう、やっぱり既視感がある。アマンダは、前世の母に似ているのかな。オレは、くつろいで、自分の郷里の事やヤブ爺と組んで商売することを話した。うちには、大量に余った塩がある。これをフォレスト山脈の山間部で売れば大儲けだ。だからと言ってヤブ爺が言う、「魔法学園に、収納魔法や商売の情報がある」などの、秘密の話しはしていない。
「それで、試験はどうっだった?無理やりやらされたんでしょ」
「試験は簡単だったかな。魔力は520だった」
「すごいわね。そんなにあったら、魔術師団でトップになれるわよ」
「オレは、商売がしたい。故郷のみんなと楽しく暮らせればいいんだ」
「先の話はともかく。ダークは、学園で主席になれるんじゃないか」
「普通に入試していたらそうね。だけど、今年は無理よ。レジーナ様が入学するもの」
「そりゃ残念だったな、ダーク」
「オレは、聴講生だろ。入学式で何かすることはないさ」
後で聞いた話だと転入生に格上げされていた。
「レジーナ様が入学式の答辞をするんじゃない」
「名誉主席ってことだな」ニッチが腕組みしてうなづく。
「そんなところ。商人になりたいダークからしたら、目立たなくて良かったわね」
「そうだね」
「そうなのか。俺は、実力主義が好きだけどな」
「はじめっから国に目をつけられていたら、好きなことができなくなるじゃない」
「そうそう」
「それも、そうか」
「一番が何でもいいとは限らないの」
アマンダは、よく先が見通せているし、ニッチの素朴な反応も好きだ。ここは、いいところだ。彼女たちには、いろいろ事情を話してもいいと思った。
「それより聞きたいんだけど、王都は、なんで、こんなに人種差別がひどいんだ。ポートレイは、種族がごった返しているぞ」
アマンダに指を1本立てられた。
「いい、ダーク。学園で種族の話はタブーだからね。一番ひどいのは、アウグスト伯爵よ。彼は学園にも海軍にも絡んでいるわ。気をつけなさい」
「そうだぞ。学園は、貴族とか階級をつける人種が集まっているところだ。種族差別の事を言うと目をつけられるぞ」
「わかったよ。うまく立ち回る」
「そうしなさい」
「亜人や異種族たちは、フィールドインやスラムで、独自の生活圏を作っているぞ」
「そういう人たちの方が、良い技術を持っていたり、いい情報をくれるのよ。仲良くしていて悪いことはないわ。でも、貴族には、ばれないようにね」
「わかった」
種族差別は、やはり帝国のせいだという。それだけならいいのだが、貴族の中には、選民思想に染まった者もいる。王都では、そういう貴族が幅を利かせている。だけど王族は、そんなことはないそうだ。心ある貴族も多い。「それは、ちゃんと見極めないとね」と、言われた。
アマンダたちの話は面白い。学園の食堂で、3食の飯を食えるが、もっといろいろ聞きたいから朝食は、ここで食べると決めた。
「そうそう、はぐれ竜騎士のシドが呼んでいるわ。スラムの顔役に会えって」
「シドが?」
アマンダに、スラムに行くように言われた。
「そこの女主人は、加奈って言うんだけど気をつけてね」
スラムは、バラックばかりが立ち並んでいて、そこに亜人獣人の、人とはかけ離れた種族が、ぎゅうぎゅになって住んでいる。そんなバラックの中で、ひときわ目を引く加奈邸という屋敷がある。アマンダに、行けばすぐわかると言われて、スラムの中心街に行った。本当にその通りで、この屋敷が異常に感じるほどスラムの風景と合っていない。
屋敷には、小鬼の門番がいてスラムの住人を近づかせないようにしている。スラムの顔役なのに、仲が良さそうには見えない。
「ここは、加奈の屋敷であっているか?。シドに言われてきた」
小鬼たちは、おれを値踏みするように上から下まで見て頷き、門を開けてくれた。門番の一人が慌てて屋敷に入る。おれが玄関に行くころに玄関が開き、鬼族の執事が出てきた。
「どうぞこちらに、加奈様がお会いになります。あなた様は、ダーク様で?」
「そうですけど?」
「こちらで・・、加奈様がお待ちです。どうぞ」
鬼族だが、これまた、アマンダに負けない色気を持った大人っぽい鬼族が、おれを待っていた。
「人族って言うから、もてなしたけど、子供じゃない」
「ですが姫たちの護衛です」
「シドから言われてきた」
「あなた。サウザンド魔法学園で、何をやらかしたの?」
「?。おれ、・・。今日、サウザンド魔法学園で、入試を受けただけだけど」
「あなた、貴族に狙われているわよ。何もやらなかったわけないじゃない」
この感じ、懐かしい。前世の情報屋やバウンティハンターや悪い方の傭兵崩れの、懐かしい感じがする。
執事の大男がグイッと前に出てきた。明らかな敵対行動に思える
オレは、気を開放した。
加奈は、オレの念力に首をつかまれ宙に浮く。
「ガッ、アウウぅ」
「奥様!」
「お前も黙っていろ」
そう言って、執事の方は、床にひれ伏せさせた。首根っこをつかんで声を出させないようにし、仲間を呼べないようにした。
「何を知っている、話せ」
オレは、加奈の喉を少し緩めてやった。小声で話せる加減は、よく知っている。
「騎士伯のヨハン・ア、アァ」
「大声を出せるように、ごまかそうとしても無駄だぞ」
それを聞いた加奈の顔色が変わった。観念したように話し出した。
「ヨハン・アウグストは、魔法剣士の家柄よ。だけど、魔法が、てんでダメなのよ。それなのに、魔法学園で、剣士科を広めているひねくれ貴族よ。彼は帝国の犬よ。姫の護衛になった平民のあなたを潰したいみたい。私は、あなたの素行調査を依頼されただけ。どう分かった?。全部話したわ、もういいでしょ」
「オレの事は、よくわからなかったと伝えとけ。だけど、この闇魔法の事は、話していいぞ。それで、仕事になるか」
「ええ」
「分かった」
加奈を開放してやった。
「ウッ、ゴホゴホ」
「奥様!」
「大丈夫よ。誰も呼ばなくていいわ」
加奈は、床に膝間づいたが、パンとスカートについた膝の汚れを払って立ち上がった。
「ダーク。あなたとは、仲良くしたほうが得そうね」
「いい判断だ」
流石、鬼人族だな。ダメージなく立ち上がるか。
「私はシドをバックアップしてる。シドが野良で竜騎士ができる理由よ。盟約があるのよ。シドは、いざとなったら私たちに力を貸してくれるわ」
「分かった」
「詳しく聞かないの?」
「そのうちシドから聞くよ」
「そんなの、先の話じゃない」
「姉さん」
「わかったわ。気が向いたらここに来て。いつでも歓迎するわ」
加奈はシドの味方だ。なら話は、早いと思った。




