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暗黒界の超新星  作者: ペリエ
暗黒騎士は一時の平穏を好む
1/37

ダーク卿は夢を見る

ダーク卿の暗黒面に星が誕生した。まだ、スーパーノバの状態でエネルギーが渦巻いている。それは右回りと左回りの渦で、その中心からエネルギーが吹き出している。魂に息衝いたその星は、ダーク卿の暗黒面を照らし出した。

 グラン森林は、資源の宝庫だ。王都の人たちやポートレイの住人にとったら魔の森だけど、前世の記憶があるオレからにしたら宝の山と言える。敵がいないのを確認して岩場を降りた。地上付近の洞穴に、いつもの鉄鉱石を置きに行く。近くの崖の亀裂に、この鉱床を見つけた時は小躍りした。それから2年、ずっと採掘している。


 この世界には、アダマンタイトやミスリルやオリハルコンという魔鉱石があるから、モリブテンを使って鋳造した鋼鉄や、クロムと鉄1対1て作ったステンレスなんてものは、開発されていない。おかげで、グラン森林を歩くだけで、そこらへんに資源が転がっている。鍛冶屋をやりたいわけではないが、これで、実家の建物を補強したり、前世で相棒だったドロイドの制作に取り掛かれる。何より水道管が作れる。実家は、ウオーターファーマーだ。水を売っている。今の水道管は石だ。それを鉄で作りたい。それで、こんなところに2年もいる。


ズズーーン、ズズーーーン

ズズズズッ

キキキキキキッ


 グラン森林には、巨大生物がいる。羽のない竜。恐竜だ。植物相もオレから言わせたらカンブリア紀のような植物相で、何でも巨大だ。確かにやばい魔獣はいるが、隠れるとか、こちらから手を出さないかぎり、襲ってこない。なんせここは、故郷の荒野と違って、食べ物が豊富だ。バイオマスフェスティバルが、故郷の荒野の分も起きている。そんな印象を受ける。食物連鎖があるから肉食獣もいるが、植物相が植物相だけに、草食動物の方がデカい。ここは、魔の森になって、4千年しかたっていない。肉食獣が台頭するのは、まだ先のことだろう。遠く西のフォレスト山脈に、ワイバーンのコロニーがあるが、グラン森林まで来て住みついた竜はいない。他の人がどう思っていようが、森は平和だ。


ガサッ

 白い巨狼が、角兎を狩って、おすそ分けにやってきた。彼は、オレに近づこうとはしない。だけど、見えるところに角兎を置いた。若い狼で、群れから離れて単独で狩りをしている。以前、怪我をしていたところを治療した。狼は、集団で狩りをするものだが、こいつは、いつも1匹だ。白オオカミは、たぶんロック狼の亜種だと思う。だけど、ロック狼の様に毛色が灰色ではないし毛並みも硬くなかった。突然変異なのかわからないが、周りと違うから、一族から追い出されていつも一匹なのだろう。


「いつもありがとうな。今日から王都側に遠出をするんだ。暫く留守をする」


 北を指差しながら話し、右手を上げてお礼を言うと、いつものようにフイっと頭を横に振って居なくなった。


 グラン森林の中央には、ワイバーンが住み着きそうな岩場がある。ここを拠点にして資源を集めている。親友のリュートは、竜騎士。相棒のレッドと修行中だ。二人は、あと半年ほどで修業を終える。そうなったら、この資源をリュートの実家に運んでもらおうと思っている。リュートの実家は、鍛冶屋。


 森林は、広大だ。王都サモルと荒野を分断するように横たわっている。王都側では、魔獣狩りをしている冒険者がいる。しかし、森の中央まで来たのを見たことがない。彼らが魔獣を狩りまくっているとはいえ、一角兎や、ホレストディア。やってもせいぜいムーンベア迄なので、森に影響はない。その量は、ベアの上のアウルベアや、ロックウルフを怒らせるほどではないのだろう森が騒がしくなったことはない。自分は、狩りをしたいわけではないので、王都側にあまり行ったことはない。とはいえ偶に、鉄鉱石以外の資源を求めて王都側に遠出をすることがある。今回は、3日ぐらいこの岩山には帰ってこない気だ。


 探査2日目。森の北にある洞窟に金紅石きんこうせきを見つけた。見た目は薄緑色の結晶のように見えるが、光に当てると紅色に輝く。


「やった。チタンの鉱石鉱物だ。王都側に遠征して正解だ」


 こちら側にも2年来ているが、初めての快挙。チタンは、鋼鉄より硬いのに、重さが2/3。ロケットの外殻に使われる素材だ。オレは、誰も見ていないのをいいことに小躍りした。

 サンプルをリュックサックに入れ、この場所に目印をつけた。


 探査3日目。昨日の探査で目的を達した感があったので、珍しく森の生態調査をすることにした。鳴き鳥達が北から帰ってきたからだ。彼らは、生態系の弱めな王都側に巣を作る。鳴き鳥達は、ここで若鳥たちに狩りの仕方を教える。羽を広げると最大個体で、3メートルにもなる鳥だ。人族の子供位、軽々と捕まえて餌にする。おれの拠点は、こいつらの巣に適しているが、天敵のプテラノドンがいるから、森の中央まで来ない。何かの拍子にプテラノドンが移動したときのことを考えて、こいつらの生態を調べておくことにした。


ゲチャゲチャクークー

ククーククー

ゲチャゲチャクークー

ククーククー

 鳴き鳥は、岩山の上にコロニーを作る。王都の冒険者も鳴き鳥を狙っていると聞くが、コロニーまで来て狩りをする者はいない。鳴き鳥の集団に囲まれたら逃げ切れなくなるからだ。


「酷いな、山裾が糞で白くなってる。でも、これで、コロニーのテリトリー〈範囲〉が分かるか」


 狼たちも鳴き鳥を狙っているが、さすがにこの白い線を超えるものはいない。


「キャーーー」


 コロニーを周っていて、少女の悲鳴を聞いた。


「助けて!」


 巨大な鳴き鳥が、少女を抱えてコロニーに戻っているところだ。その後ろを騎士風の男たち3人が、追っている。しかし、弓を撃つことを躊躇っている。


「バカだな、コロニーに逃げ込まれたら手を出せなくなるぞ」


 少女を抱えた鳴き鳥がどんどんこちらに近づいてくる。時間が無い。オレは、この世界にある魔法とは違う異能を今まで、リュート以外に見せたことがない。初めて人前で使うことになった。


 オレは、気を開放した。念動力で、鳴き鳥の首を絞めて怯ませる。少女をつかんだ足が緩んだすきに、少女を鳴き鳥から引っぺがした。落下する少女。慌てる、騎士3人。これでは少女が地上に激突するぞ。本当は、騎士3人に少女を任せたかったが仕方ない。オレは、彼らと違って、空を飛べない。また、気を開放した。念動力で少女を捕まえてオレの方に引き寄せる。落下速度を落とすだけにしたかったが鳴き鳥があきらめきれずにおってくるから、そうも言っていられない。ベクトル変換がむずい。ある程度の高度になったところでジャンプして少女をキャッチした。少女は気丈にもオレがキャッチするまで、意識を保っていたが、オレを見て気が緩んだのか気絶した。


「あなたは誰?」

「黙ってろ、オレは飛べないんだ。着地の時に舌を噛むぞ」

「そう、なんだ・・・・・」

「気絶したか。オレが頭を抱えないといけないじゃないか」

 気絶して、首がだらんとなっている彼女の頭を抱えながら着地した。鳴き鳥は、騎士たちの報復に遭って数本の矢を当てられ地上に落下している。その騎士たちが、オレたちの着地地点に降り立った。


「姫様」

「マイレディ―」

 おれは、

「大丈夫だ、気絶しているだけだ」

 と、言いながら彼らに、少女を引き取ってもらった。


「助かった」

「すまない。君は命の恩人だ。御礼をしたい。名前を聞かせてくれないか」


「ダーク・サンドストーム。礼はいいよ。姫さんか。助かってよかったな」


「そう言わないでくれ。我らの仲間が、さっきの鳴き鳥の血抜きをしている。肉のいいところを持っていってくれ」


「そういう事なら貰うよ。今日は、旨い飯が食えそうだ」


「ここから遠いが、我らのキャンプがある。そこに来てくれ」

「メルド大尉。私は、カイ少尉の手伝いに行きます。姫を頼みます」

「そうしてくれ。ダーク君、来てくれ」


「浮遊術が使えないんだ。ゆっくり飛んでくれ」

 オレは、食い物につられて、彼らについていくことにした。


「そうなのか?。我らより実力があると見たが違うのか」


「買い被りだ。だから、姫さんが助かってよかったなって言っただろ」


「そうか」

 そうは言ったもののメルド大尉は、森の木々の上を猩猩顔負けに飛び移りながら自分を追いかかてくるダークを見て舌を巻いた。


 途中アベド少尉が地上に降りてきた。多分前方が騒がしい事と関係があるのだろう。


「すまんダーク君。なぜか留守番のオビトが、蟲の化け物に追われていてね。隊長とカイは手が離せない。私だけでは手に余りそうなんだ。手伝ってくれ。あの蟲の化け物をオビトから切り離してくれないか。そうしてくれたら、オビトは、俺が空に逃がす。君はレンジャーなんだろ。頼む」

 レンジャーとは、忌み嫌われている魔の森に棲む者の総称。多分グラン森林に住んでいるのは、オレだけだ。だからオレを指して呼称するには、レンジャーが妥当だとなる。

「そうですね。あれは騒ぎ過ぎだ。このままじゃあ他の魔物が寄ってくる」


 オビトと言うキャンプ地の留守番は、通称カミキリムシという樹木の樹液を吸う虫に追われていた。カミキリムシの体長は、70センチぐらいしかないし、こちらから手を出さなければ襲われることはない。しかし襲ってくると厄介な相手だ。カミキリムシの口は、人の腕ぐらい分けなく噛み切ってしまう。


「ウワー、助けてくれ」


 ギギギギギギ・・・。

 カミキリムシの目が赤い。攻撃衝動を起している。大方ちょっかいを出したのは、オビトの方だろう。相手は飛ぶ。気を抜けば、すぐに追いつかれる。木々を利用してジグザクにヤッと逃げている状態だ。なんでここまで怒らせた。オレがカミキリムシを誘導しないと、空に逃げても追いかけてきそうな勢い。オレは、正面からオビトとすれ違った。


「おい、その腰の剣は、飾りか?」

「なっ!!!」


 オビトは、食いちぎられた木の棒を持っている。カミキリムシは、樹液を飲んでいるときは無防備だ。大方後ろから殴ったのだろう。そこで、こん棒にしていた木を食いちぎられた。生半可な攻撃をしたら、相手を怒らせるだけだ。

 オビトの剣を抜き、カミキリムシの頭を踏みつけて、その後方に飛んだ。


 ギギギギッ!。


 案の定、カミキリムシは、標的をオレに替えた。目から火花が散っているのではないかと言うぐらい真っ赤な攻撃衝動。本当は、誘導して撒くつもりだったが手遅れだ。オビトが、更にカミキリムシを怒らせることをしたのだろう。カミキリムシの頭が黒くなっている。蟲の弱点である火を使ったのだ。


 仕方ない・・・

 ズバッ、ズバッ。ズボッ!。


 カミキリムシの前足を切り落とし、首の付け根から脳に向けて剣を突き刺した。


 ギギギギ・・・・・・。

 すまん。


 虫は脳をやられたぐらいでは、すぐに死なない。腹側のもう一つの脳を刺さないと、すぐには殺せない。しかし、もがいている相手に突っ込む気にはなれなかった。なぜなら、もう、自分たちにとっては無害だったからだ。


「大丈夫か」と、カミキリムシを覗き込むようにアベド少尉がやって来た。

「まだ、もがいていますが、仰向けになっているでしょう。もう攻撃してきません」

 殺す気はなかったけどね。

 カミキリムシが吸っている魔樹は、放っておくとトレントになって森を徘徊しだす。何千年もたっているトレントなら、穏やかだが。若いトレントは、それなりに暴れるので厄介だ。カミキリムシは、トレントを大繁殖させない。若いトレントのセイフティーガードにもなる益虫だ。


「すまん。キャンプ地近くを飛び回っていたものだから、追い払おうとしたんだ」

「こいつは、通称カミキリムシ。この森の益虫だ。変なちょっかいを出さなかったら襲ってこない。今度から、攻撃するなよ」

「わかった・・」


 オレもデカいがオビトはオレより身長がある。そこに、レジーナ姫を連れたメルド大尉が降り立った。


「レジーナ姫!・・。メルドさん、ご無事なんですよね」

「ああ、無事だ。彼はダーク君。彼が姫を助けてくれた。オビトも救われたな。彼はレンジャーだ」

「レンジャーって魔の森に住んでいる隠者のことじゃあ・・・。すまん。助かった」


「気にするな。オレは、鳴き鳥の肉を貰いに来ただけだ」


「幾らでも持って行ってくれ。今日は、ここで食べないか?。鳴き鳥の肉でポトフを作ろう。旨いぞ」


「旨いのか!。食べたい」


 天幕で休んでいるレジーナ姫は、なかなか目を覚まさなかった。オレたちは、先に食事をすることになった。その間にオレは、飯を作ってくれたオビトと仲良くなった。護衛は、メルド大尉、アベド少尉、カイ少尉の3人。オビトは、これから魔法学園に入ってレジーナ姫のお付きになる。話していて、オビトもレジーナ姫も、オレと同じ15歳だとわかった。同い年は、リュート以来初めてだ。


「俺も飛べないんだ。だから留守番。浮遊術は、これから学園に入学して習う予定だ」

「オレも浮遊術を習いたいぞ」

「ダーク君もオビトと同じ15歳なんだろ。魔法学園に入ればいい」

「メルド大尉。学園の入試は終わっています。間に合いませんよ」

「もうすぐ4月だものな」

「皆さんは、なんで、魔の森に?。姫の護衛なのに、少なくないですか」

「我らは、やめようと言ったんだ。だけど、マイレディーがあんな調子だろ」

「バカ!。姫に聞こえたら、また怒られるぞ」

 アベド少尉は、歯に物を挟んだような話し方はしない人のようだ。


「アベド、聞こえているわよ」


「マイレディ!」

「姫、大丈夫ですか」


「意外にね」


 何で死ぬような目に遭ったのに、強気なんだ?。


「あなたはさっきの・・。助けてくださって、ありがとうございます」


「オレは、鳴き鳥の肉を貰いに来ただけで」

 姫と聞いたけど、結構まともな受け答えをするじゃあないか。


「お名前を聞かせてください」


「ダーク・サンドストームです」


 その名前を聞いたレジーナ姫がオレの前で膝をついた。周りは、やっぱりまだ無理はできないのではないかと駆け寄った。


「本当の名前は、ダーク・グラン・サンドストームではないですか?」


「ただの、ダーク・サンドストームです。名前がどうかしましたか?」


「では、この紋章に見覚えはありますか」

 レジーナ姫は、自分の懐刀を取り出して、その柄の紋章を見せた。そこには太陽紋(菊花紋)に輪が一つ付いている。


「厄除けのお守りですか?。オレの玄関にもあります。でもうちのは、輪が2つですけど」


「やっぱり。ダークは、何歳?」

「15歳ですよ。オレたちと同い年です」と、オビト。

「なぜグラン森林に?」


「資源調査です。2年前から、ここで資源を集めています」


「それで納得がいきました。あなたは、2年間もまともに実家に帰っていない」


「そうですね。友達のリュートが竜騎士見習いなんです。あと半年で修行を終えるので、それまでに資源を確保しておきたかったんです。ワイバーンって、重いものも一っ飛びで運んでくれるでしょう。主に鉄鉱石を集めていますが、森の中からこれを持ち出すのは大変ですから」


 周りは、姫がへりくだっているので、どうしたものかと困惑している。


「ご家族は、お元気にされていますか」


「元気です。でも、親戚はみんな、港があるポートレイに住んでいます。うちだけ荒野に住んでいますから、心配されています」


「私も、あなたの遠い親戚なんです」


「姫さま、何をおっしゃっているのですか」

「お戯れが過ぎますぞ」


「みな控えなさい。この方は、我がサモル王国とローマン王国両方を治めていたグラン王家の末裔の方です」


「4千年前に滅んだ国じゃないですか」

「彼は、命の恩人ですが、平民です」

「グラン自治区に貴族はいません」

 メルド大尉たちの話に、オレも頷く。


 姫は、打ち解けた雰囲気になって話し出した。

「王家は、今でも交流があるのです。ダーク、偶に外から嫁いでくるお嫁さんやお婿さんの話を聞いたことがありますか?」


「あるなー。なぜかみんな魔法が使えるので、ポートレイで薬屋になったり、アイテム屋になって本家のうちより繁栄しています。うちは、ウオーターファーマーで、地下の塩水を水に替えてポートレイに供給しているんですが、その塩を機械から取り出すのが重労働で、何とかならないかと色々考えています」


「そんな重労働を・・。魔法が使える彼らは、みんな私たちの一族です。ローマン王国からもそうです。グラン家を滅ぼすわけにはいかないもの」


「レジーナ様、詳しくお聞かせください」


「メルド、これは、王家の秘中の秘ですよ。話しますが他言をしないように。ダーク、あなたもよ」


 みんな神妙な顔になった。


「これは、我がドラグーン王家とローマン王国のローマニア王家にのみ伝わる口伝です」


 4千年前、魔族と戦争があった。その時のグラン王国は、人族の国のみならずエルフの国からもドワーフの国からも慕われていた。グラン王都は、この戦争で荒野になってしまった。残ったのは、海王に守られたポートレイの港のみ。広大な王都は、荒野とその時発生した魔の森に分断された。


「ここまでの話は、みんな知っているでしょう。この時王家は、海の民によって匿われた。生き延びたのです。しかし、その話は、魔族軍が引いた後に分かった話。戦争は、その後10年も続いたのですから。現在グラン王家の末裔が生きていると分ったら、魔族は、何を置いても、このアステア大陸に侵攻してくるでしょう。これは秘匿されなければならない話です」


「我らは、シバ帝国に恭順している国です。敵なら、魔族の前に帝国がいます。帝国は、北の魔の森に接しています。魔族が攻めてきても最初にやられるのは帝国です。いっそ、デマを流したらどうですか。そうすれば、こんな人種差別をしないで済む国になります」


「カイ!。今の発言は、聞かなかったことにしてあげます。我が国も、北の魔の森と接しているのですよ。状況は、帝国と同じです。私も帝国のやり方は気に入らないですが、帝国市民が大逆殺されるのは反対です」


 現在、サモル王国とローマン王国は、シバ帝国に恭順している。亜人や獣人を差別するだけでなく、人間社会において階級制度を強要させられている。


「すいません」

「グラン自治区が、うらやましい」


 グラン自治区は、人口が少なく、人間も亜人も獣人も、みんな猫の額のようなポートレイで身を寄せ合って生きている。階級制などなく、亜人差別もない。海産物しか資源がないが、ローマン王国とサモル王国に助けられて、細々とやっているサモル王国預かりの自治区だ。


「我ら王家とローマニア王家が、偶にグラン家に嫁いでいるのなら。王家の親戚と言って差し支えない。姫の話、しかと受け止めました」


「話はここまでよ。ダークは、できるだけ私と普通に話すようにして」


「何でですか?。オレ、平民ですよ。逆に面倒じゃないですか」

 他の護衛もオレに賛同してくれた。


「さっきの話を聞いてた?。私は、帝国が押し付けている階級制度を認めていません。我が国は、古より。民は、王家の宝です。その宝を蔑む階級制度を許しません。分かりましたか?」


 オレは、肩の力を抜いた。レジーナ姫がうれしそうな顔をする。従者たちは顔を見合わせて仕方ないかというポーズ。

「分かったよ。メルドさんたちもそれでいいか。オビトも」


「TPOは、心得てくれ。こっちは、姫の道楽と言うことにしているからな」

「もう、3年も付き合わされているんだ」

「俺なんか幼年部からだぞ」と、オビトが呆れ顔でいう。


「みんな酷い」


 この場の男たち全員が、笑った。


「その上、冒険者のまねごとなんかするから死にかけたんです。少しは自重してください」


「そうかしら、おかげで、グラン家の人に会えたわ。ねえダーク、あなたも、私の護衛にならない。そうしたら、魔法学園に通えるわよ。浮遊魔法を覚えたいんでしょ」


「それは、そうだけど」


「ダーク、レジーナの話に惑わされるな」オビトが慌てて言う。

「我々も、魔の森なんかに入る羽目になったんだぞ」


「ふふっ、考えといて。グラン家は、魔力の強い一族よ。だから、嫁がせるときの人選が大変なんだから。それも王家直系でしょう。絶対魔法学園に入るべきよ」


 確かに浮遊魔法が気になる。オレが使えるのは、生活魔法だけだ。荒野は、昼間熱いところなので風魔法で涼んでいる。子供の時の遊びは、飛サソリとシールド相撲。水が少ないところなので、水も出せる。でも、全部生活魔法だ。彼らのように飛ぶことなどできない。


「姫、命を落とされそうになったのに、よくそんな話ができますね。この話をマーガレット様にします」


「それだけはやめて。学園に入ったら冒険は、休日だけにするから」


「まだ、やる気なんですか?」

「「はーー」」

「月2日ぐらいにしてもらいたいぞ」

 オビトがぼやく。

 面白い姫さんだ。

「半年契約なら、護衛をしてもいいぞ。浮遊魔法に興味あるし、錬金術にも興味がある。親に相談するよ」

 目的の鉄鉱石がある程度溜まったから王都側に遠征に来た。だけど、どうせリュートの修業は、あと半年かかる。それ迄王都にいるのもいい。リュートも王都にいるし。


「本当!!。嬉しい。メルド。ダークが学園に通えるようにして。費用は、こちらで全額負担するわ。もちろん、護衛の給金も払う」


「ダークがいてくれた方が安全か。君は、魔の森の反対側から来たんだろ。我々には、怖くてできないことだ。それだけで価値がある」

「メルド隊長、国から資金を拠出するのは、まずくないですか。姫が魔の森に入ったことがばれます」と、カイ少尉。

「そういう事なら、ダークに冒険者登録してもらって、ギルドから落とすのはどうです?」

「アベドは、そういうところに気が回る。わかったそうしよう」


 とんとん拍子で話が進んだ。


「君が王族の中の王族なのは分かったが、平民として扱うぞ」

「問題ないです。民のいない王族なんて関係ないです」

「まあ、気やすく話せ」と、メルド大尉にぽんと肩を叩かれた。

「「ダークよろしくな」」

 みんな、握手してくれた。

「あーん、わたしも」

 気やすい姫さんだった。



 彼らと別れて帰路に着く。


― なっ、助けて正解じゃったろ

「じいさん、オレが亡国の王家の出自だって知ってたな」

― そりゃそうじゃろ。だがな、4千年も前の話じゃぞ。今更王様気取りでいられるか?

「そうだけどさ。2国の王家が、未だにオレの家の血筋を絶やさないために協力していたなんてビックリだろ」

― フッファハハハ、それだけ、グラン家が、親戚に慕われていたという事じゃ。もっと喜べ

「じいさん、オレが前世持ちだって知っているだろ。王家なんて、足枷なだけだろ」

― 仕方ないじゃろ、親戚なんじゃ。助けてやらんか

「……、…」

― まあ、なんじゃ。ポセイ(海王ポセイドン王の事)もヨナも会いたがっておったぞ。鉄鋼石は、貯まったんじゃろ。一度実家に帰って、両親と色々話してみたらどうだ。その後こっちに来い


 オレは、シーラカンスの鱗を持たされている。この触媒があると、シーラカンスの爺さんと楽に話ができるものだから、グラン森林に入ってからも、こうしてよく話をする。

 シーラカンスは、名前の通り古代魚だ。このじいさん、たぶん何万年も生きている。これは本当に偶々だと言っていたが、シーラカンスの住処と、オレの実家は近い。近いと言ってもシーラカンスの住まいは深海で、人はほとんど行くことができない。そんなじいさんがテレパシーでオレを見つけて海上付近までやってきた。オレは、異能持ちだ。テレパシーに慣れている。そこで、じいさんにいろいろ教わった。殆どは、海中で活動できるような基礎訓練だったが、爺さんには、目的があった。オレは、光と闇の2属性持ち。シーラカンスの目的は、おれに魔結晶を生成させることだった。それで、12歳の時に、シーラカンスの補助ありだけど、オレの能力を触媒にしてライブクリスタルを生成した。ライブクリスタルは、話す賢者の石だ。ヨナを作ることで、お役御免になった。今では一番気やすい爺さんだ。じいさんにだけは、オレが前世の記憶持ちだと、カミングアウトしている。


― じゃあまたの。早く帰ってこい

「名前がないから不便なんだけど、白い狼がいるだろ。最近は、あいつの世話になっているんだ。挨拶してからかな」

― 不便なら名前を付けてやらんか

「野生動物にか。それに、多分あいつ魔物だぞ」

― 名前を付けて喜ぶかどうかは、相手次第じゃろ。やってから決めろ

「そうする」


 オレは、シーラカンスとの話を終えて、郷里に戻るコースを取った。

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