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第8話 力

 ポスに導かれて下へと進む。その道中に魔物達の姿が見えたが、魔物達は私を襲おうとしなかった。逆に引き返したり、通り過ぎたり、分岐した道へ向かっていったりと、明らかに私達を避けている。罠にしてはあからさま過ぎる。もし、突然襲って来ても対処できるように、剣は力強く持っている。

「キュウッ!キュウッ!」

 ポスが大声を上げながら飛び跳ねて進む。時折、後ろを振り向いて、私が付いてきているのを確認している。それを見ていると、村の孤児院に居た時の子供達の姿が思い浮かぶ。子供達と村から近い町へ買い出しに行くと、その道中で子供達がはしゃいで、私達が付いてきているのを確認しながら前を見ずに楽しそうに走る。けど、その道の足場がしっかりとしていなくて、子供達の誰かが石に躓いて転ぶ。

「キュッ?――キュウウウウウウウウウウウウウウ!!!」

そう、こんな感じに……。

「って、ちょっと!」

ポスが転がって奥へと転がっていった。私は慌ててポスの元へと走って向かった。

 ポスを追って薄暗い道を進むと、ポスが丸くなって壁の傍に居た。私は周りを警戒しつつ、ポスの傍に寄った。ポスはピクリとも動かない。私は剣を地面に置いて座り、ポスを抱き上げた。そして、毛に付いた砂埃を払って、大丈夫かどうかを確認していると、

「キュウ……?キュウッ!」

と元気な鳴き声を上げて目を開けた。どうやらモコモコの毛玉のおかげで、傷一つなく無事だったようだ。ポスは私の腕の中で、スリスリと身体を擦り付けてくる。

「全く……。」

私はポスの身体を撫でた。このポスは敵でもある筈なのに、どうして無事だった事に安堵してしまったのだろう?孤児院の子供達と重ねてしまったのだろうか。何がともあれ、無事ならそれでいい。私はポスを置き、剣を持って立ち上がった。

「ほら、今度は前を向いて歩きなさい。ちゃんと着いて行くから。」

あの時、転んだ子供に言った言葉と同じ事を、このポスに伝えた。

「キュウッ!」

ポスはそれを聞いて、前を向いて先へと進んだ。私もそれに付いて行った。


 進み続けていると、目の前に大きな扉が見えた。ポスは一足早くそれに近付いて、扉の前で止まった。どうやら、ここが目的地の様だ。私も気を引き締めて扉へと近付いた、普通の建物の扉より数倍は大きい。同時に異様な気配も感じ取れる。すると、

<ゴゴゴゴゴゴッ――>

鈍い音が鳴り響き渡り、扉がゆっくりと開き始めた。ポスは開き始めた途端、一人先に中へと入っていった。私は完全に開くまで待ち、中の様子を開いた隙間から伺った。

「暗い……。」

かなり広い空間が扉の奥に見えた。ただ、道中の道よりも明るさがなく、どのくらいの広かもわからない。扉が開くのが止まり、私も中へと入っていった。

 入って少し奥へと進むと、広間に光が灯して扉が閉まり始めた。灯りが灯った広間の奥には先程のポスと、その傍に1体の魔物が胡座をかいて鎮座していた。私は直ぐに剣を構えた。

「オーガ?」

 身体はオークと同じぐらいか、それより一回りの大きさで、全身は筋肉質な身体をしている。しかし、肌の色は普通のオーガの緑の肌ではなく、赤色の肌をしている。頭部からは2本の角が生えており、先が二又に分かれている。そして、胴と下半身に防具を着けており、胡座をかいた膝の上には、身の丈程の剣を置いていた。ただ、その装備等は見覚えのない形状の形をしており、特に剣は形以外に異様さを放っていた。今までこんな魔物とは会ったことがない。すると、

「此方の国では、この姿の魔物を『オーガ』と言うのか。」

 目の前の魔物がそう口を開いた。私は驚き、魔物の顔を見ると目があった。

「俺の国では、この姿の魔物を『鬼』と呼んでいる。」

『俺の国』に『鬼』……?そんな種族の魔物の名は聞いた事が無い。それに、オーガにしてはどうも違う感じがする。そんな事よりも、この魔物は喋れるのか。もしかすると、

「貴方がここのマスター?」

「如何にも。俺がここの主だ。」

 マスターはポスの頭を撫でた後に胡坐を崩し、剣を腰に携えて立ち上がった。ポスはそのまま更に奥へと進み、マスターは一歩ずつ私の方へと歩いてくる。マスターとの距離はまだあるが、見えている以上に存在が大きく感じる。無意識に剣を持つ手が、小刻みに震え始めた。私は手に軽く力を入れ、深呼吸をして震えを止めた。そして私は、彼に問いかけた。

「どうして私をここまで連れてきたの?」

わざわざ最奥まで連れてくる理由がない。下手すれば、自分がやられる可能性だってある筈だ。それなのに、魔物を仕向けようともせず、道案内させるなんて。何かある筈――、

「面白そうだったからさ。」

「……えっ?」

 マスターは立ち止まり笑みを浮かべた。私はその答えに拍子抜けした。

「俺は別に、ここの主として管理しているんじゃない。気が付いたら主として生まれ変わっただけだ。しかし、ここから出ることも出来ず、戦いをするにしても作った魔物としか戦えん。ならどうするか考えた結果、俺を楽しませる奴がこの場所に来るのを待ち、俺と戦うのに値する奴を選別する為に管理している。ただ、ここに来た連中は大した腕もなかった様だがな。俺の所にも来れもしない。」

きっと、私達が来る前に来たベテランの冒険者達の事だろう。

「戦う為?」

「そうだ。戦いという物は良い。命を掛け合い、己が生きるために全力を出す。生きた者が勝者、死んだ者が敗者。たったそれだけの戦いを俺は求めている。そう、本気の戦いをな。」

そう笑いながら言った。しかし、そんな戦いを望んでいるならおかしい。私は強くもないし、逆に弱いぐらいだ。このマスターが望んでいる、生き死にを掛けた戦いなんて出来る訳がない。

「なら、私をここまで連れてきたのは、暇潰しか何かかな。」

 私は剣先をマスターの方に突き付けた。心なしか、いつも以上に力が入っている気がする。

「言っただろう。『面白そう』だと。」

「答えになっていない!」

私は怒鳴るように言った。マスターの顔が真顔になり剣を抜いた。それと同時に、威圧のような圧が私の身体に伝わる。私はより一層、気を引き締めた。

「まぁ、そうだな。お前自身が分かっているようで分かっていないからな。だが、心当たりはあるだろう?――こうな!」

 マスターが一瞬で私との距離を詰めた。そして、下から斬り上げてくる。私は慌てて剣で防いだが勢いが強く、剣は上空に弾き飛ばされる。そのまま腕も上に跳ね上げられ、胴ががら空きになる。

(まずい!)

しかし、そう思ったのと同時に、避けれない速度で胴に二撃目が入った。私の身体は上下2つに別れて、上半身が前へと倒れた。

「――ッ!」

 とてつもない痛みが頭に伝わる。下半身に意識を向けるが、もう感覚すら感じない。倒れた視界に自分の血が広がるのが見える。傷が幾らでも治るとしても、流石に今回はもう無理だと悟った。……しかし、意識は消えず、拷問の様に激痛が身体を巡り続ける。

「さて、もうじきか?」

マスターの声が聞こえた。何かを待ったいるようだ。すると突然、更に強い激痛が斬られた場所から起きる。

「ア゛ア゛ア゛ァ――!?」

 私はその痛みで目を強く瞑り、声を上げる。両腕に力が入り、無意識に上半身を浮かした。斬られた傷口の内側から何かが外に向かって動き、逆に外側から傷口に目掛けて何かが入ってくる。それが永遠と繰り返され、動きと共に波の様な痛みが走る。1秒1秒がとてつもなく、長く感じた。

 やがて、痛みが徐々になくなっていく。高まった鼓動を落ち着かせ様と、深呼吸を何度もした。目を開けると地面がそこに見え、上を見上げるとあのマスターが居た。私はまだ生きていた。そして、不思議な事に気が付いた。……斬られて別れた筈の下半身の感覚がある。慌てて身体を仰向けにして下を確認すると、確かに下半身がそこにあった。斬られた場所に触れてみると、そこにあった服は斬れているが、私の身体には傷一つも血の跡すらもなかった。私は慌てて立ち上がった。足はしっかり動くし、痛みも何もない。何事もなかったのように治っていた。

「成る程。実際に見るとそうなっているのか。」

 マスターがそう呟いた。私は正面を向いて、マスターを睨んだ。

「幻覚?」

「そんなつまらん物を使うか。今、お前に起きた事全部現実さ。」

どうにも信用は出来ない。確かに胸を刺されても傷が癒えて生きていた。しかし、身体が半分に斬られて、しかも元通りになって生きているなんて。私の頭は混乱してきた。

「まだ何が起きたのか分かってない様だな。ふむ……。」

マスターが剣を構えた。それを見て慌てて構えようとするが、肝心の剣が何処かへと飛んで行った事を思い出す。周りを見渡して探すが、それよりも速くマスターが動き出した。

「なら、もう一度だ。」

 マスターはそう言って剣を振るう。私は避けようとしたが避けれず、今度は右腕を肩から斬られた。私は肩を抑えながら痛みで叫ぶ。しかし今度は歯を食い縛り、私に何が起こっているのかを見る為に目を見開いていた。顔を横に動かして斬られた右肩と、斬り飛んだ右腕を確認した。両方の傷口から大量の血が流れ出ている。それを見ていると、気持ち悪さが込み上げてきた。それにも耐えていると、『ソレ』が目の前で起きた。

 右肩の傷口と右腕の傷口から流れている血が、まるで意志を持っているかのように動き始めた。そして、お互いが繋がり逢う様に、血が地面に沿って向かっていく。やがて、それぞれの血が混ざり合う。しかし次の瞬間、またあの激痛が起こる。その痛みで目を閉じてしまうが、更に歯を食い縛って目を開ける。目に映ったのは、互いの傷口から1本ずつ血の糸が、互いの傷口に繋がり合い、右腕を引き寄せてくる光景だった。血の糸が右腕を手繰り寄せられる度に、何かが傷口から外に出て外から内側に入ってくるような感覚が起き、それが激痛の波のように襲う。更に見ていると、地面に広がった血が徐々に浮かび上がり、血の糸と混ざり合って太くなっていく。そうして時間が経つと地面に流れた血がなくなり、それぞれの傷口が元通りにくっ付き合い、激痛が徐々に消えていく。激痛がなくなった後、右腕は元のように付いており、傷もなくなっていた。右腕を動かしてみるが、何か違和感がある訳でもなく、自然といつもの様に動く。

「なに……これ……。」

 自分自身が怖くなった。無数に傷付いても、胸を突き刺されても、身体を斬り離されても、何事もなかったかのように治って生きてしまっている。人から離れて化物になった気分だ。いや、最早化物だ。どうしてこんな身体になってしまったのか、記憶を巡らせてみても、その要因になった出来事も思い当たらない。ただ、1つだけあるとするなら、サイクロプスに殺された時位の事しかない。いや、もっと別の事のような気がする。

「ようやく、自分の力が分かったか?」

 マスターは剣を肩に担いで、後ろを向いて私から離れていった。私はマスターに問いかけた。けど、きっと彼が原因ではないと思うが。

「貴方が……私をこんな事にしたの?」

「この俺がそんな事をやると思うか?偽りの力を与えて俺と戦い、俺が満足でもするとでも思うか?それに、そんな事は出来ん。俺には戦う事しか出来ないからな。」

マスターはまた私の方を向いて答えた。やっぱりそうだよね。

「ただ、お前がサイクロプスに殺された後の事なら知っているがな。」

「――!?それって!」

「あぁ、見てたさ。」

マスターはニヤリと笑って言った。

「なら!」

「駄目だな。」

マスターは片手のみで剣を素振りし始めた。つまり、そういう事なのだろう。

「そろそろ戦いへと移ろう。剣を取れ。」

「待って!先に教えて――」

「戦いながらでも問題ない。いや、その方が良い。さっさと剣を取れ。取らないなら此方から行くぞ!」

私は急いで、弾き飛んだ剣を取りに走った。そして、剣を取りマスターと対峙した。

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