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第7話 導かれるままに

 岩を這い上がって、元に来た道に向かおうと広間を見渡した。しかし、見渡しても道は一本しかなかった。私が倒れている間にダンジョンが形を変えたのだろう。魔物の死体を避けながら道の前まで辿り着き先を見ると、そこには土の槍で出来た壁はなく、薄暗い道が下へと続いていた。どうやら来た道は消えてしまい、今はもう先に進むしかないようだ。私はもう一度広間を見て、魔物達の死体を見回した。

「イルズ達は先に進んでいるのかな?それとも、別のパーティーがやってきたのかもしれない。……どちらにしても会わない様にしないと。」

私は警戒を高め、ゆっくりと先へと歩いていった。

 一本道がどこまでも続く。ゆっくり歩いている影響で、この道がとてつもなく長く感じた。しかし、魔物や罠に襲われる位なら、ゆっくり確実に歩んだ方が良い。そうして歩き続けていると、道の先に3つに分岐した道が現れた。私は分岐点で立ち止まり、3つの道の先を見た。しかし、どの道も先が見えない。先が分かれば良いのだが、探知スキルを使えない以上、ただ運に任せて進むしかない。

「ウロウロ回るより、真ん中の道に行こう。」

私は真ん中の道を選び進んだ。これが合っていればいいのだが。

 先に進み続けていると、奥から何かが聞こえてきた。奥に進みながら耳を立てていると、何体もの魔物達の声のようだった。音を立てずに静かに道を進む。すると、薄暗い道の先にウルフとゴブリンの姿が見えた。更に近付くと、どうやら少し広い空間の様で、見えた魔物以外に10体以上は居る。ただ、オーク等の厄介な魔物は居なさそうだった。様子を見ていると、1体のゴブリンが慌てている様子が見える。しかし、周りの魔物達の反応は薄い。奇襲を仕掛けるなら今がチャンスだろうが、今の私に奇襲を仕掛ける物がない。

「よし。」

 私は剣を強く握り締めて飛び出した。魔物達は私に気付き武器を構え、慌てていたゴブリンは私に指を指して騒ぎ、奥へと逃げ出した。近くにいたゴブリンはそれに怒っていたが、直ぐに私の方へと向いた。もしかしたら、あのゴブリンはさっきのゴブリンかもしれない。……今はそんな事を気にする場合じゃないか。私は剣を構え、魔物達を待ち構えた。



 頭の奥で少女が戦い続けているのが見える。サイクロプスに跡形もなく潰され、死んだ筈の少女だ。今は何事もなく魔物達と戦っている。あの時、彼女に一体何が起きたのかは分からない。元々そういう存在なのか、それとも能力の一種だろうか?しかし、彼女を見ていると、どうもその能力を扱えれている様には見えない。そもそも、それ自体知らないのではないかとも思える。だが、あの能力は危険な能力だと、俺の本能がそう伝えてくる。

「……成程。」

 彼女の戦いを見るに、剣の腕前は大した物ではない。少なくとも、俺が今まで戦った奴らと比べても、目立った奴らに及ばない。しかし弱いという訳ではなく、良くも悪くもないということだ。だが、あの能力はかなり厄介だ。今は兎も角、巧みに扱えるようになれば、この俺でも不味いかもしれん。本来であればそうなる前に止めを刺すべきだろうが、そんな弱腰の様な事はしない。それに、彼女の腕前は大した物ではないが、成長に見込みがある。俺を楽しませればそれで充分だ。そこで何が起ころうとも、それが俺にとって本望だ。

 俺は彼女から近い場所に居る、毛玉の魔物に頭の中で命令をした。命令を受け取った毛玉の魔物は跳ねながら彼女の元へと向かう。俺は愛刀を抜いて手入れをし、彼女と、彼女のその能力の様子を見ながら、ここに来るのを待った。

「さぁ、来い。俺を楽しませてみろ。」



「ヤァー!」

 飛び掛かってきたウルフを避け、すかさず剣で斬り付ける。剣はウルフの腹部に当たり、そのまま飛んで壁にぶつかった。これでようやく、残りの数が半分位になった。ここまで魔物達の襲い来る勢いは衰えなかったが、今は私の事を警戒して襲ってこない。私も下手に向かわず、剣を構え続けていた。

 戦いの中で身体中に傷が出来ていたが、戦っている中で痛みが消えて傷も治っている。傷付いた場所に残っているのは、血痕しか残っていない。このまま傷付き続けたら何が起きるのか分からない。だけど、今はこれを存分に使わせて貰おうと思う。

 魔物達と睨み合っていると、魔物達の後ろの方に居たゴブリン数体が、突然後ろに逃げていった。何故逃げ出したのかは分からない。もしかしたら、援護を呼びに行ったのかもしれない。数が増えれば流石に危険過ぎる上、厄介な魔物を呼ばれたくはない。それに、これ以上ここで戦い続ける訳にはいかない。

(仕方がない!)

 私は魔物達の方へ走り出した。前列に居るゴブリンから斬られるが、私はそれを剣で受け流してゴブリンを避ける。しかし、躱した瞬間にウルフが飛び掛かり噛み付いてきた。今度は避けることが出来ず、咄嗟に左腕で防御した。牙は腕に突き刺さり、力強く噛み付かれた。

「この……!」

振りほどこうとするも、一向に離れそうにない。噛まれている所から血が流れ出し、少しずつ牙が奥へ奥へ突き刺さり、痛みが腕から身体に伝わる。剣で斬ろうとするが、斬り付けようとすると暴れられ、上手く斬ることが出来ない。そんなことをしていると、ゴブリン達が斬りかかってきた。

「――こうなったら!」

 私は斬りかかってくるゴブリンの攻撃を、腕に噛み付いているウルフを盾にして防いだ。

「ギャウッ!」

ウルフは声を上げて腕から離れた。そして、私は直ぐ様ウルフを斬り倒した。ゴブリン達が攻撃をしてきたが、攻撃が当たりつつも前へと走り、ゴブリン達を避けながら抜けていった。そして、身体がボロボロになりながらも、ようやく魔物達の集団から抜けられた。目の前に逃げているゴブリンが見える。私は走って逃げていった内の1体を後ろから斬った。他の逃げていたゴブリン達も驚き立ち止まった。その隙を逃さず剣を振り払って、そのゴブリン達も斬り倒した。

「よしっ!――ッ!」

無理に魔物達の集団を突破したせいで、身体にかなりの数の傷が付いている。特に左腕の傷がかなり酷い状況だ。時間が経てば治るが、その間にも痛みが身体を襲う。立っているのも辛いが、それでもまだ魔物は残っている。私は剣を握り締め構えた。

「ギギッー!」

 1体のゴブリンの雄叫びで、残りの魔物が一斉に向かってきた。私はそのまま待ち構え、先に近付いて来る魔物に攻撃を仕掛けた。

「ハアァァ!」

「ギギッー!」

この空間の中で剣撃の音と叫び声が響き渡る。


 戦いを続けて、ようやく最後の魔物を倒した。剣をゴブリンの身体から引き抜き、地面に刺してもたれ掛かって座った。下を向いて自分の姿を見ると、服も防具もボロボロになり、血で濡れてしまっている。

「ハァ……ハァ……。痛い……。」

 疲れで息が切れている。全身が傷だらけになって痛みが残っているが、時間が経てば全て治り始める。身体に残るのは血の跡しか残らない。私は傷が治っている間に、息を整えつつ周りを警戒した。すると、奥へと続く道から、1匹の毛玉が飛び出してきた。それはこのダンジョンに来る時に見た、黒目の動物だった。

「ポス……?」

「キュウ!」

私がその名前を呼ぶと、それに反応するかの様に鳴き返した。しかし、ポスがこんな所に居る訳がない。アトーポスの赤い目ではないが、こんな危険なダンジョンに来る訳がない。

 私は立ち上がって、剣を地面から抜いて構えた。すると、ポスは振り返って奥へと飛んで逃げていった。ポスを追おうにも、身体が疲労であまり動かせれない。こうなったら、ここに来るだろう魔物を迎え撃つしかない。そう思っていると、奥からポスがまた飛び出してきた。

「……?」

 魔物を呼んでくるには早過ぎるが、一向に足音も来る気配もない。ただ、ポスがその場で飛び跳ねたり、ゴロゴロと転がったり、ペタッと平たくなって伏せたりしている。あのポスが、一体何をしたいのか分からない。挑発だろうか?

「キュウッ!」

こんな場所に居なければあのポスに癒されるのだが、明らかに怪しさがある。しかし、いくら時間が経っても何かをする訳でもない。警戒をし続けて時間が過ぎていった。ポスの行動に変化は見られない。時間が経った事で、身体も随分と楽になった。

「……よし。」

私は立ち上がり、剣を構えながらポスへ歩いて近付いていった。すると、ポスはまた後ろを向いて、飛び跳ねて奥へと向かった。そして、時々止まって後ろを振り向き、私の事を見てきた。まるで、私がちゃんと付いてきているのかを確認するかのように。私は一度立ち止まって考えた。

「やっぱり罠?」

 まだ後戻りは出来る。戻って別の道に行くのも選択肢としてある。でも、それが先に進む道かどうかは分からない。だけど、この先の道も合っているかも分からない。

「キュウ?」

ポスがこちらを向いて立ち止まった。……どの道、進もうが戻ろうが、どうなるか分からない。ポスに付いて行って罠だとしても、その時はその時だ。私は前へと歩き始めた。ポスはそれを見て、また前へと飛び跳ねる。一定の距離を保ちながら、私達はダンジョンの奥へと進んでいった。

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