第32話 旅立ちの時
窓からの日射しが私の顔に射し、私は目を覚ました。身体を起こして伸ばし、軽快にベットから立ち上がった。今日は何だか、いつもより身体が軽く感じる。
「キューウ……。」
テオは変わらず、ベットの上で寝息をかきながら寝ている。私はそれを見て微笑み、静かに服を着替え始めた。
「ディアヌス、居る?」
私は寝起きのテオを抱き抱え、部屋から出て隣のディアヌスの部屋をノックした。しかし、中から声も物音もしない。どうやらもう部屋から出ていった様だ。朝食を一緒に取ろうと思っていたが、もう出てしまったのならしょうがない。外で朝食を取らないといけないし、部屋で待っていても暇になってしまう。朝食を取る為にも取り敢えず、予定の時間が来るまで街を歩こうかなと思い、そのまま宿の外へ向かっていった。
「どうしようかなー?」
「キュ~ウ。」
私は独り言を言いながら、王都の街をキョロキョロと見ながら歩いていた。適当な露店で食べ物を買い、ベンチで直ぐに食べ終えてから街を探索していた。クリオレアもかなり賑わっていたが、こっちも負けず劣らずかなり賑やかだ。お店も多く、一日だけでは見て回る事も出来ないだろう。ただ、クリオレアと違う所もある。それはあそこに建っている城だ。遠くから見ても大きく、とても綺麗な白い城だ。以前に一度だけ王都に来た事があるが、その時のあの城と今の城は変わった感じがしない。ずっと綺麗な状態を維持しているのだろう。少しだけ、近くに行って見てみようかな?そう思ったその時、
<ドンッ!ドンッ!……>
太鼓を叩いた様な大きな音が、何度も街に響き渡った。何事かと音のする方を見てみると、観衆がその音の方向へ駆けて行き始めた。そして、大通りの真ん中を開ける様に、少しずつ両脇に寄っていく。不思議に思っていると、私の周りに居る人達も動き始めて、私もその流れに巻き込まれた。
「ちょっ!?」
「キュッ!!」
人混みに揉まれながら、道の端へと追いやられる。ようやく人の流れが止まり、私はもがいて人混みから出れた。
「突然、一体何なの……?」
私はそう言いながら、大通りの方へ顔を向けた。人混みに巻き込まれていたから気付かなかったが、さっきの太鼓の音と合わせて楽器の演奏が聞こえる。そして、大通りの城壁側の先から観衆の声が響き渡る。その方向を背伸びして見ようとするも、目の前の人混みで何も見えない。なんとかして見ようとすると、
「ちょっと!退きなさいよ!!」
そう後ろから女の人に押された。その人も、私と同じ様に背伸びやジャンプをして、その方向の光景を見ようとしていた。私はその人に聞いてみた。
「あの、すみません。少し聞きたいのですが……。」
「ハァ!?何なのよ!!」
「すみません。これって何の騒ぎなのですか?」
そう聞くと、その人は呆れた表情を浮かべた。そして、
「アンタ、知らないの?今日はレクシオンの英雄様達が集う日よ!」
「レクシオンの英雄達……?」
レクシオンと言えば、以前にディアヌスから教えて貰った。確か……英雄階級の中で一番上の階級で、英雄の中でも数少ないと言っていた筈。そう思い出していると、
「もういいかしら!?これ以上、時間を無駄にしたくないんだけど!」
「あ、すみません。ありがとうございました。」
女の人はそう言って再び人だかりの中を掻き分けて歩いていき、やがてその姿は見えなくなった。騒ぎも大きくなり始め、徐々に人だかりも大きくなり始めた。私の後ろから更に人が集い始め、私は巻き込まれない様に後ろへと下がっていく。
「これじゃあろくに歩けないね。」
「キュ~ウ。」
テオは頷きながら鳴いた。時間を潰そうと外に出たが、こんな状況では歩けも観光も出来やしない。
「仕方がない。城を見に行くのは諦めて、ディアヌスが帰ってくるまで宿に戻っていよっか。」
「キュウ!」
テオは元気よく頷き、私達は路地を通って宿へと目指していった。
宿の部屋に戻ってからも、街の盛り上がりが部屋の中まで聞こえる。窓の外を見てみると、多くの人達が道を駆けて大通りへと向かって行く。随分と時間は経っている筈なのだが、それでも賑わいは終わる事を知らない。出かける前は宿にも大勢の人が居たのだが、今宿に居るのは私達ぐらいしか居ない。皆、あの英雄達を見に行ったのだろう。私は窓から離れ、ベットに寝転んでいるテオの隣に座った。
「レクシオンの英雄か……。一体、どんな人達なんだろうね?」
「キューウ?」
私がテオに声を掛けてみると、テオは身体を傾けて分からない素振りをする。それはそうだよね、と思いながら、私はテオの身体を撫でた。テオは気持ちよさそうに、私の手に身体を吸い付かせていく。それを見てから、私は再び窓の外を見た。街から聞こえる歓声を聞きながら、ディアヌスが返ってくるのを待っていた。
時間が過ぎていき、街は少しずつ賑わいが収まっていった。窓から外を見てみると、大通りの方から人だかりが戻って散らばっていく。道を歩いている人達の声に耳を傾けると、どうやらレクシオンの英雄達は城の方へ向かって行った様だった。どうして城に行ったか分からないけど、英雄なら王様に呼ばれる事もあるのだろう。一番上の階級なら尚更。
「……」
しかしながら、ここまで人を集める英雄とは、一体どういう人達なのか興味がある。今までどんな事をしていたのだろうか、何を成し遂げたのだろうか、そういう偉業が気になる。イルズと一緒に居た時は兎に角、ひたすらに依頼をこなしていった。その過程で強い魔物達とも戦った。色んな人達の助けもしていた。今頃はイルズは英雄になっているかもしれないが、私が居た時にはなれなかった。そう言った事もあって、レクシオンの英雄達に興味がある。
「レクシオン……ね。」
外を眺めながら、レクシオンがどんな人達か考えていた。するとその時、
<コンッコンッ>
「ヴィオさん、いらっしゃいますか?」
ディアヌスが部屋の扉をノックし、扉越しに訪ねてきた。私は直ぐに立ち上がり、部屋の扉へと向かった。そして、扉を開けて廊下に顔を出してディアヌスの顔を見た。
「お帰り、ディアヌス。」
私がそう言うと、ディアヌスは微笑んで「はい。」と答えた。その表情はどことなく、晴れやかな表情をしていた。それを見て、私は少し安心した。
「こんな所で話すのもあれだし、中に入ってよ。」
「は、はい。失礼します。」
私は扉を大きく開けて、中にディアヌスを入れた。すると、ベットで寝ていたテオが起き上がり、ディアヌスの元に駆け付けた。ディアヌスは椅子に座り、テオはディアヌスの膝まで飛び跳ねた。私もベットの方へ座って、ディアヌスと話し始めた。
「用事は済ませれた?」
「はい。取り敢えずは無事に終えました。」
「そう、良かった。」
ディアヌスはテオを撫でながら、笑顔で答えた。私も微笑み、より一層に安心した気持ちになった。一体どんな用事なのか気になりはしたが、ディアヌスが無事に終えられたならそれでいい。すると、
「そういえば、帰ってくる途中で大通りが賑やかでしたが、何かあったのでしょうか?」
ディアヌスは私の方を見て聞いてきた。私は直ぐに、
「うん。なんか、レクシオンの英雄達が来ていたみたいだよ?それで、街の人達が一目見ようと集まったみたい。」
「レクシオンが?」
ディアヌスは驚いた表情を浮かべた。そして何かを考えるかの様に、窓の外へと視線を移した。そのディアヌスの横顔を見て、私は少し不思議に思いながら聞いてみた。
「どうかしたの?」
「ああ、いえ。レクシオンが大々的に来る事に不思議に思って。それに複数人も……。」
「そうなの?」
ディアヌスは私の方へ向き直して頷いた。
「恐らく、誰かに呼ばれて来たんだ思いますが、複数人も呼ぶ事なんて滅多にありませんから。それ程重要な依頼か、それとも何か別の事なのか。……何だか、変な感じがしますね。」
「へぇ……。そんなに珍しいんだ。」
「はい。……一体、どうしてなんだろう?」
ディアヌスが気になりながら再び外へ向くと、私達はお互いに静かになってしまった。私は少し気まずそうにしていると、
「あまり気にしてても、僕達には関係ないですよね。」
ディアヌスは振り返り、困り顔で笑っていた。
「アハハ、そうだね。」
私も釣られて笑ってしまう。これ以上、関係のない事に気にかけても仕方がない。そんな事を気にした所で、私達の旅に影響がある訳ではない。私はそう思って、ベットから立ち上がった。そして、ディアヌスの方へ向く。
「それじゃあ、この街でする事がないなら、もう街から出よっか?」
私がそう聞くと、ディアヌスは立ち上がった。そして、
「はい!行きましょう、旅へ!」
「キュウ!!」
ディアヌスが強く言い、テオもそれに合わせて大きく鳴いた。
「うん。じゃあ、出る準備をしよう!」
私がそう言うと、ディアヌスはテオを降ろして自分の部屋へと戻っていった。私は防具を付けて刀を背負い、ポーチ等の荷物をまとめた。そして、テオをポーチに入れて部屋の外へ出る。すると、ディアヌスは既に準備を終えて廊下で私を待っていた。
「お待たせ。行こう。」
「はい!」
私達は二人並んで宿の受付で鍵を返し、街へと繰り出した。街はさっきまでの賑わいはなくなっていが、すれ違う人々から聞こえる話はレクシオン達の事が聞こえてくる。本当に珍しかったのだろう。歩いても歩いても、聞こえてくる人々の話の殆どはそればかりだ。ここまで注目を集めれるレクシオンって、本当に凄い人達なんだと再認識出来る。
そう思って歩いていると、私達はようやく北門に到着した。ここからは馬車を使わずに、歩いて次の街へと行く。まだ日が高く、次の街までそう距離はない。私はディアヌスの方へ向いた。
「それじゃあ行こう。」
「はい!行きましょう、旅へ!」
「キュウ!!」
私達は並び、エルヴィアの街から出た。この先に何が起きるか分からない、当てのない旅へと進む。その道が過酷であろうとも、辛い日々があろうとも、私達ならきっと超えて楽しい日々に変えられる。私はそう思いながら、ディアヌスと足並みを揃えて歩いていく。
一区切り出来たので、これで一旦投稿をお休み致します。
また、当作品の個人出版を検討している為、続きの投稿、致命的ではない箇所の修正、話の挿入等の投稿は未定にしています。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。




