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第30話 王都『エルヴィア』へ

 旅に出る前日の昼、私は机に向かって最後の用事を済ませようとしていた。あの日から数日の間、他の用事や準備は昨日の時点で全て終えて、今日はお互いに一日休もうとしていた。私もそうしようとしていたのだが、一つだけ用事が終わっていなかった。

「どうしよう……。」

 机の上にはペンと何も書かれていない手紙、そしてお金が入った袋が置いてある。この手紙は、故郷の村のシスターに送る予定の手紙で、貯めたお金と一緒に送ろうとしていた。手紙は直ぐに書けるだろうと思いつつ、なかなか書けずに時間が刻々と過ぎてしまっていた。

「ハァー……。明日には旅に出るから、またお金を送るのに時間が開いてしまう。今日中に出しておかないといけないのに。」

そう独り言を言いつつも、筆が一切進まらない。以前の時なら、なんやかんや書けれたんだが……。

「……」

 私は今まで書いてきた手紙の事を思い出していた。よくよく思い出してみたら、いつもイルズの事やアイリス達の事ばかり書いていた気がした。あまり、自分の事を書いた覚えがない。でも、今はイルズ達と離れてしまっている。あんな事があったとはいえ、いずれ近い内に別れていただろうし……。しかし、本当に自分の事を書こうとしてみても、何を書けばいいか思い付かない。そう悩んでいると。

「キュー……ウ……。」

 テオがイビキをかきながら、机の上に寝そべっている。その姿は無防備にお腹を出しており、野性味を感じない。私はテオのお腹を撫で始めた。すると、ふと書くことが思い付いた。

「……そうだ。そのままの事を書けば良いんだ。これからの事とか。」

私はペンを取って手紙を書き始めた。イルズ達と離れて旅に出る事とか、ディアヌスやテオの事とか……。伏せるべき所は伏せておいて、手紙をなんとか書き終えた。

「よし!後は、これをお金と一緒に出さないと。……テオ、少し外に出てくるから部屋に居てね?」

「キュー……ウ。」

テオは寝ながらそう返事をした。それを見て微笑み、私は必要な物を持って郵便ギルドへと向かった。



 旅に出る当日の朝。私は日差しで目を覚まして起き上がり、出発の準備を始めていた。防具を付けて刀を背負い、自分の荷物を持った。この一月の間に色々と買い揃えて少し物で部屋が詰まっていたが、今は最初に来た時と同じ様に広くなっている。机の上に生けていたカラオルの花は、既に回復ポーションにして保存しておいた。しかし残念な話なのだが、私が回復ポーションを使ってもあまり意味がないという事が、魔物達との戦いで分かった。確かに、使えば怪我は早く治るのだが、私の力でも自然に治ってしまうから意味がないのだ。

(持っていて損はないだろうけど、これ程良いものを持ち続けていても、宝の持ち腐れの様に感じてしまう。)

そう悩みつつポーションをポーチに入れ、テオを抱いて部屋から出ていった。

 下の階に行くとベルナさんと、珍しくレレナちゃんも起きていた。二人は私に気付き、挨拶をしてくれた。

「おはようございます。」

「おはよう、お姉ちゃん!」

「おはようございます。」

レレナちゃんは私に駆け寄ってきた。

「お姉ちゃん、ご飯食べる?」

「うん、お願い。」

レレナちゃんは頷き、奥の方へ駆けていった。私も空いているテーブルに着くと、ベルナさんが私の側に来てくれた。

「ヴィオさん、今日までありがとうございました。あの子の相手もしていただいて、とても助かりました。」

「いえ、こちらこそありがとうございました。」

そう私達はお互いにお礼を言い合った。それから食事も来て、レレナちゃんと喋りながら食事を終えた。そうして、楽しい時間は過ぎて予定の時間が来た。

「お姉ちゃん……本当にもう行っちゃうの……?」

「うん。今日まで私のお話相手になってくれてありがとうね。」

 私がそう言うと、レレナちゃんは悲しそうな表情を浮かべる。私は微笑みながら近付き、ポーチに手を入れた。そして、

「ねぇ、レレナちゃん。これをあげるよ。」

私はそう言って、カラオルで作ったポーションを渡した。レレナちゃんは不思議そうに受け取った。

「これは?」

「私が作ったポーションなんだけど、レレナちゃんの方が必要になるかもしれないからあげるよ。」

「ありがとう、お姉ちゃん。」

私はレレナちゃんの頭を撫で、

「また泊まりに来るよ。」

私はそう笑顔で言った。レレナちゃんは真剣な眼差しで、

「絶対に来てね!絶対だよ!」

私は頷き、レレナちゃんは微笑んだ。

 そうして私達は別れを告げ、私は宿から出ていった。

「「またのお越しをお待ちしております。」」

二人からそう声を掛けられ、私は手を振りながら去っていった。


 宿から出て街の北側、待ち合わせ場所の馬車乗場へと向かった。そこには、多くの馬車や人だかりが出来ている。私はディアヌスを探しに、馬車乗場の近くを歩いていく。すると、

「ヴィオさん、こっちです!」

ディアヌスの声が聞こえ、私は声のする方を見た。そこには、ディアヌスが手を振って私を待っていた。私は駆け足でディアヌスの元へ行く。

「ごめんね、待たせちゃって。」

「いえ、大丈夫です。馬車の手配は済ませてあります。」

「ありがとう。」

 私達はディアヌスが手配した王都行きの馬車に向かい、荷馬車へと向かった。荷馬車には既に何人か乗っており、先に乗り込もうとする私を見ていた。その中には、私達と同じ冒険者や一般の人達が居る。私は軽く会釈をして、先に乗り込んでいく。そして、ディアヌスが乗り込もうとする時、私は後ろを向いてディアヌスに手を伸ばした。

「はい、ディアヌス。」

「ありがとうございます、ヴィオさん。」

ディアヌスは私の手を掴み、幕を払って荷馬車の中へ乗り込んだ。すると、

「(なぁ、あれって……。)」

後ろからそう小声が聞こえた。私は気にしない様に、広く空いている奥側の場所に座った。ディアヌスも私の隣へと座る。そして、私達は静かに馬車が動くまで待っていたが、その間も視線を感じたりヒソヒソと話す声が聞こえた。

 それから暫くして馬車が動き始めた。この街、クリオレアから王都エルヴィアまで、順調に行けば半日ほどの時間で到着する。今の時間なら夕刻に着く予定だ。私達はその間、小さな声で話し始めた。

「そういえばディアヌスって、いつからこの街に来ていたの?」

 そう聞くと、ディアヌスは少し考えてから答えてくれた。

「大体、二ヶ月と少しですね。王都だと色々あってあまり依頼をやれなかったので、こっちに来て活動していたんです。」

「そうなんだ。……ところで、ディアヌスはどうしてそこまで稼ごうとしていたの?」

私は少し疑問に思っていた事を聞いてみた。生活をする為や欲しい物があるなら分かるが、ディアヌスは少し頑張り過ぎている気がした。高そうな物を買おうとする素振りも、私が見ていた限りなかった。私が疑問に思っていると、ディアヌスはキョトンとした表情で答えた。

「言ってませんでしたっけ?学費を稼ぐ為にやっていたんです。学校が休みの間に、なるべく多めにお金を稼ごうとしていたんです。」

「えっ?……学校?」

 私は驚きと同時に困惑してしまった。確かに、ディアヌスくらいの子なら学校に行っていてもおかしくはない。王都の学校なら学費もかなり高くはなるだろう。ディアヌスはその為に頑張っていたのは分かった。しかし、旅を始めてしまえば学校に行けなくなる。学校だからこそ学べる事だってある筈だ。旅をするなら、学業を終えてからでも遅くはない。ディアヌスが卒業するまで待つべきだろうか?そう考えていると、

「学校の事なら別に良いんです。学校でも、この街と変わらない扱いをされてましたから。それに、語学とか知識なら既に学び終えています。だから問題は殆どないんです。……それに、僕はヴィオさんと早く旅をしてみたいんです。」

ディアヌスは私の顔を見て、微笑んでそう言ってくれた。私は困惑が拭えずも、嬉しさと安心が心を包んだ。

「うん。良い旅にしようね。」

そう言うと、ディアヌスは笑って頷いた。それから私達は、雑談をしながら王都に着くのを待っていた。時々、荷馬車の外を静かに眺め、これからの旅を楽しみにしながら……。



 そうして日が暮れ始めた頃に、道の先に目的地である『王都エルヴィア』の城壁が見えた。馬車が進むにつれ、道が広くなって人通りも多くなっていく。人だかりの中を馬車が進み続け、やがて検問へと到達して止まった。検問所から兵士が来て、御者と話した後に私達が居る荷馬車の方へと来た。そして、入口側に乗っている他の人達がギルド証やお金を兵士に渡していく。順番に終えていき、やがて兵士が私の前へと来る。私はポーチからギルド証を出して兵士に渡した。兵士はそれを受け取り、ギルド証を見始めた。

「よし、良いぞ。」

兵士はそう言ってギルド証を返し、私は受け取ってポーチに仕舞った。そして、私の後にディアヌスが続いてギルド証を渡した。すると、ギルド証を受け取った兵士の目付きが少し変わった。そして、私と同じ様に確認した後、無言でディアヌスにギルド証を返そうとした。その時、兵士はディアヌスのギルド証を投げ捨てるかの様に、受け取ろうとしたディアヌスの足元に落とした。事故かと思ったが、兵士はニヤニヤと笑っていた。

「ちょっと!?」

 私は立ち上がって兵士に怒ろうとすると、ディアヌスが手を出して私を止めた。そしてディアヌスは、兵士に頭を軽く下げてギルド証を拾い上げた。兵士はそれを見て満足したのか、笑いながら馬車から離れていった。馬車に乗っている人達数人も、小さな声で笑っているのが聞こえる。しかし、ディアヌスは気にせずに座り直し、

「ヴィオさん、もうじき乗場に着きますよ。」

そう微笑んで言った。ディアヌスが気にしていなければ良いのだが、それでも私は腑に落ちなかった。けど、ここで何かを言っても意味がないと思い、私はディアヌスの隣に座り直した。そして、馬車は再び動いていく。

 馬車が馬車乗場へと着き、私達は馬車から降りた。街並みを見渡すとクリオレアと同じ位人が多く、大きな建物で連なっていた。

「宿を探さないとですね。多分、こっちにある宿なら空いていると思います。」

ディアヌスはそう言って指を指し、先導をしてくれた。私ははぐれない様に、ディアヌスの隣へ付いて歩いていった。そうしてディアヌスの案内で、直ぐに空いている宿を見付けれた。私達はそこでそれぞれの部屋を取り、荷物を置いて夕食の為に再び夜の街へと繰り出した。

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