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第26話 認定取り消し

 準備を済ませて朝食を頂き、ベルナさんに見送られてギルドへと向かった。その道中、これからの事を考えていた。ブロンズ階級になれば正式な冒険者として活動できる。この街に居続けるのも良いだろうけど、もしかしたらイルズ達と会うかもしれない。もし、まだカルワトにイルズ達が居るとしても、英雄となれば活動範囲も広がる。いずれこの街にも来るだろう。その可能性があるならこの街に居続けるのは良くない。それに……。

「あ、ヴィオさん。おはようございます。」

 冒険者ギルドへ着くと、ディアヌスがギルドの前に立っていた。

「おはよう、ディアヌス。」

私は挨拶を返して、ディアヌスへ近付いた。

「いよいよ今日が正式登録の日ですね。おめでとうございます。」

「アハハ。気が早いよ。まだ受け取っていないんだから。」

「大丈夫ですよ。ヴィオさんは凄く頑張ってましたから、きっと問題なく終わりますよ。」

ディアヌスがそう微笑んで言ってくれた。

「ありがとう。ところでディアヌス、今日は依頼を受けるの?」

そうディアヌスに聞いた。

「はい。また薬草採取をしようと。それで……。」

ディアヌスはそう言いながら、私から視線を逸らす。不思議に思っていると、

「あの、ヴィオさんが良かったらなんですが。また一緒に依頼を受けてくれませんか?」

私はそれを聞き、嬉しさで微笑んだ。

「うん、良いよ。一緒に行こう。」

私はそう返事をした。ディアヌスは嬉しそうに笑って喜んでいた。そして私達は、一緒に冒険者ギルドへと入っていった。

 ギルドの中に入り、直ぐに受付へと向かった。受付にはウェルゼさんが居らず、他の受付嬢の方にウェルゼさんを呼んで頂く様にお願いをし、ウェルゼさんが来るのを静かに待っていた。登録はこれで二度目になるのだが、不思議と緊張をしていた。登録の規定は達しているし、試験免除の規定も問題なくこなしている。それでも、やはり緊張して心臓の鼓動が高鳴ってしまう。それでも、これで滞りなくブロンズ階級へなれる……その筈だった。

「ヴィオさん!も、申し訳御座いません!」

 ウェルゼさんは慌てた様子で、奥から受付を抜けて私達の前へ来ると、そう強く頭を下げて謝ってきた。私は戸惑い、何事なのかをウェルゼさんに聞いた。

「えっと……、どうしたんですか?」

そう尋ねると、ウェルゼさんはゆっくりと重く、顔を私の方へ向けた。そして、

「じ、実は、ヴィオさんのブロンズ階級の件なのですが……。」

それを聞いて嫌な予感がした。

「何かトラブルでも?」

「……」

そう聞き返すと、ウェルゼさんは困った表情を浮かべ喋り始めた。

「その……、ヴィオさんのブロンズ階級認定が……取り消しになりました。」

 私はそれを聞き、驚きのあまり黙ってしまった。頭の中は、今までやって来た依頼を振り返ろうとしていた。しかし、思い出そうとしても思考が巡らない。頭の中にでも、心臓の鼓動が聞こえてしまっている。

(私は何をやってしまった?)

それでも記憶を思い出そうとしていると、

「ちょっと待ってください!」

 ディアヌスがウェルゼさんに迫った。

「どうして、ヴィオさんの階級が取り消しにされるのですか!?評価基準の最低ラインはとっくに達成されている筈です!」

ディアヌスはそう、ウェルゼさんに言い放った。ウェルゼさんは迫られてたじろぐと、口を開いて話し始めた。

「その、言いづらいのですが……。ヴィオさんが、今までの依頼を不正していたという話がありまして。勿論、私はヴィオさんがそんな事をする筈はないと思っているのですが、その――」

ウェルゼさんが話していると突然、

「ほう!コイツが例の奴か。」

 ギルドの奥から、大声を上げて一人の男がやって来た。服装を見た限り、恐らくギルドの職員だろう。その男は受付台を乗り越え、ウェルゼさんを無理矢理退かして私達の前に立った。私達は気圧されて、一歩後ろに後ろに下がる。すると、男は顔を私に近付けてジロジロと舐めるかの様に見てきた。その視線は、どことなく嫌な感じがする。

「あの、何か?」

「ああ、不正した奴がどんな野郎なのか気になっただけさ。」

そう言い、顔を私から離した。

「不正って、一体誰がそんな事を言ったんですか?」

「そいつは言えないな。言えば、お前がその証言をした人に何かするかもしれないからな。」

男はニタニタと笑いながら話す。それを見ていると、不愉快な気分になってくる。私は表情を変えない様に聞き返した。

「なら、一体どの依頼で不正をしたか、その不正内容位は教えて貰えますか?私には一切心当たりがありませんので。」

「フッ。自覚がないっていう事は、随分と図太い神経をしているようだな。」

男はそう言いながら、一枚の紙を取り出した。そして、それを読み上げ始めた。

「一つ目は、納品物の偽装。二つ目は、他の冒険者から受託した依頼の該当納品物の盗難。三つ目は、他の冒険者が討伐した魔物の部位を盗難、納品した事だ。……該当している依頼は、お前が受けた依頼とそこのヌーバスのガキと受けた依頼。そのほぼ全て、俺に直接証言を貰ったんだよ。」

 それを聞いて私は呆れた。あまりにも言い掛かり過ぎる。この仮登録の期間、依頼の最中に誰かと会ったりなんてしていない。遠くから誰かが見ていたとしても、それで不正をしたかどうかなんて分かるなんて無理だ。更に言えば、その行為事態犯罪だ。そんな事をしてこの日まで、私がのうのうとギルドへと来れる筈がない。

「申し訳ないですが、私もディアヌスも、その様な不正を行った覚えはありません。それに不正行為の内容も、犯罪に当たっています。それをして、堂々とここに来れている時点でおかしいです。……言い掛かりにも程があるのでは?」

 私はそう強く反論した。すると、

「居るだろ?揉み消し出来る奴が側に。」

男はそう言って、ディアヌスの方へ向いた。

「そんな事をしていません!」

ディアヌスは直ぐに強く言い返した。しかし、男はそれを見て鼻で笑う。

「ハッ!そんな嘘に騙されるか。そもそもお前らごときが、マンティスを倒せる訳がないだろう!」

 男のその声に、周りの冒険者達が私達を見始めただろう。なんとなく、私には周りから視線を感じた。そして、それと同時に一つ疑問が出た。どうしてこの男は、私達がマンティスを倒した事を知っているのだろうか?私も、恐らくディアヌスも、誰かにその話をした覚えはない。私はディアヌスの顔を見ると、ディアヌスも少し困惑気味の表情をしていた。それを察するに、ディアヌスも誰かに話した覚えはなさそうだった。私は男の方へ向き直した。

「それは誰から聞いたのですか?」

「言っただろ?それは言えないって。」

男はそう言って、誰から聞いたのかを教えようとしなかった。

(……)

 マンティスを倒した話は、あの時以外話した事はない。確かに、あの時は私達以外にも観衆は多く居た。何の意味があってしたかはわからないが、その中の誰かがそう嘘の証言したかもしれない。ただ、あの時に恨みを買った人達があそこに居た。あのコソ泥連中だ。あの時の兵士からの忠告が今の状況の事ならば、彼らがその嘘の証言をした可能性がある。……もしあの連中からの証言なら、あんなコソ泥連中の話を真に受けている事事態問題だ。それも、この男は直接証言を貰ったと言っていた。あの連中がそこまで信頼がある様には、私には到底思えない。

「どうした?図星だったか?そもそもお前の様な貧弱そうな奴が、ブロンズ階級でも取れると思ったか?それに、そんなお飾りの様な大きな剣を持って、自分は出来ますよアピールでもしてんのか?」

男は私に指を指して言った。流石の私も、ここまで言われる事に対して怒りが沸々と沸いてくる。

「申し訳ないですが、こう見えてそれなりの実力はあります。それから、この刀はある方から譲って貰った物です。私にはまだ扱いきれていませんが、お飾り等と言われる様な物ではありません。」

私は静かに、男を睨み付けながらそう言った。すると、男は笑い出した。そして、

「なら証明して見ろよ。それだけの実力があるなら、今から訓練場に来い。俺が相手になってやる。」

 男は自信あり気にそう言う。元よりそのつもりだったんだろう。私を実戦試験で戦わせ、大怪我を負わせたかったんだと。そして、無惨にやられて笑い者にしたかったのだろう。そう考えていると、ウェルゼさんが男の前に出てきた。

「お待ちください、『ウォーバー』さん!?『副ギルドマスター』の貴方が実戦試験の試験官として出るなんて。そもそも対人での実戦試験なんて、その様な事は認められていません!ギルドマスターに知れたら、大問題になります!!」

 私はそれを聞いて驚いた。

(こんな男が、ここの副ギルドマスター……?流石にあり得ない。)

そう思っていると、

「ウルセェ!」

「キャッ!?」

 男はそう叫び、ウェルゼさんを突き飛ばした。慌てて私達は、ウェルゼさんを受け止めた。

「ここに居ないクソジジイより今は俺の方が偉いんだ!口答えするんじゃねぇ!」

私は男を、再度睨み付けた。余りにもこの男の横暴さに限界が来て、私は直ぐに決心した。

「良いよ。その試験、受けて立つよ。貴方に認められれば、正式にブロンズ階級になれるのでしょ?」

「ああ、良いだろう。認められたらの話だがな。さあ、さっさと訓練場に来い。」

 男はそう言って、ギルドの奥へと歩いていった。私はそれを見送り、ウェルゼさんの方を向いた。ディアヌスも心配そうに、ウェルゼさんに声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「は、はい。……お二人共、ごめんなさい。」

ウェルゼさんが姿勢を戻し、私達の方を向いてそう謝った。ウェルゼさんの目には、涙が溜まっているのが見える。

「(どうして、こんな事になるなんて……。)」

 ウェルゼさんは小声でそう言った。私は微笑み、ウェルゼさんの肩に手を置く。

「私なら大丈夫ですよ。試験なんて直ぐに終わらせますから!」

自信がある訳ではないが、ウェルゼさんを励ます為に声を上げてそう言った。しかし、ウェルゼさんの表情は暗いまま変わらない。どうしようか悩んでいると、

「大丈夫ですよ。ヴィオさんって、とっても強いですから。」

ディアヌスが優しい口調でそう言った。ウェルゼさんはディアヌスの顔を見ると、少しだけ表情が明るくなった。そして、涙を拭って私へと向いて、再び謝ってきた。

「ヴィオさん、本当にごめんなさい。」

「私は大丈夫です。だから、気を落とさないで下さい。」

「すみません。……ウォーバーさんはああ見えて、ゴールド階級を持っている人です。気を付けて下さい。」

「そう……。ありがとう、ウェルゼさん。」

 私はウェルゼさんにお礼を言い、ディアヌスと共に訓練場に向かっていった。

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