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第21話 再会、そして違和感

 朝日が窓から差し込み、瞼の先が明るくなる。私は目を開けて、昨日の事を思い出していた。昨日は食事を摂った後、レレナちゃんとまたお話をして、宿から離れた場所の共用の井戸から水を持ってきた。その水で薬草の水を入れ替えたり、汚れた身体や服を洗ってから眠った。

 私は起き上がって身体を軽く伸ばし、ベットから立ち上がる。そして、窓の側に干してあった上着を着替え、ベットに座って寝ているテオを見ていた。テオは私が起きた事に気付き、薄っらと目を開けるもまだ寝ぼけて、また眠った。

(フフッ……。さて、今日はどんな依頼を受けようかな?)

私はそう考えながら、テオの身体を優しく撫でた。

 暫くして、テオが目を覚ました。私は準備を済ませてからテオを抱き、部屋から出て下へと降りていった。下に降りると、ベルナさんと中老の男性が親しそうに話していた。ベルナさんが降りてきた私に気付くと、

「ヴィオさん、おはようございます。」

そう言って挨拶してくれた。私も挨拶をした。

「おはようございます。すみません、お話のお邪魔をしてしまって。」

「いえ、大丈夫ですよ。どうせまだ居るつもりの様ですし。」

ベルナさんはそう言って、チラッと男性を見た。男性はそれを見て、不満そうな表情を浮かべた。

「何だい、ベルナよ。早く出て行って貰いたそうだな。ま、今日はさっさと行かんといけん用事があって、今日はこの辺りにしておくよ。……うん?あれ、いつぞやのお嬢さんじゃないか。」

 中老の男性がベルナさんの陰から私の方を覗き込み、私もその顔を見て気が付いた。その男性はこの街に来る時に馬車に乗せて貰った、あのおじさんだった。

「あの時のおじさん?」

「ああ、一昨日ぶりかの?」

おじさんはそう言って立ち上がった。

「あら、知り合いだったの?二人共。」

「はい。この街に来る時に、馬車に乗せて貰ったんです。」

「ハハハ……その前に、儂の馬車が溝にはまって動けなくなってな。森からお嬢さんが出てきて助けてくれたのさ。」

おじさんはそう言いながら、私の方へ歩いてきた。そして、手を差し出してきた。

「またこう巡り合ったんだ。自己紹介をさせてくれ。『ガルロット』だ。本当にあの時は助かったよ。」

「ヴィオです。私も助かりました。ガルロットさん、ありがとうございました。」

私はガルロットさんの手を握り、握手をした。

「本当はお礼をしたいのだが、生憎少々立て込んでてな。また今度お礼でもさせてくれ。」

「いえ、お気になさらず。私も助かりましたから。」

「いや!それでは男として情けない。せめて、そうだな……。よしベルナ、これを。」

 ガルロットさんはポケットから何かを取り出して、ベルナさんへ手渡した。ベルナさんの手には硬貨が置かれていた。

「これで、彼女にサービスをしてやってくれ。」

「はい、分かりました。」

ベルナさんはそう言って硬貨を受け取った。私は流石に断ろうとしたが、

「ヴィオさん、こういうのは受け取った方が良いわよ?」

そうベルナさんに止められた。

「ガルロットさん、色々とありがとうございました。」

私はガルロットさんへお礼を言った。

「良いってことさ。では、また会う時まで元気でな。それと……、あまり無理しない様にな?じゃ、ベルナ、また今度も来させてもらうよ。」

「はい。またのお越しを。」

 ガルロットさんはそう言いながら、宿の外へと出ていった。最後の一言の時、私の全身を見ていた。ボロボロになってしまった服を見て、無理したのを察してくれたんだろう。私は心の中で自分に呆れながら、ガルロットさんを見送った。すると、横からベルナさんが声を掛けてきた。

「それでヴィオさん、お食事に致しますか?」

「はい。お願いします。」

私はそう言って席に着き、ベルナさんが食事を持ってくるのを待った。


 私達は食事を摂った後、街へと繰り出して冒険者ギルドへと向かった。ギルドに着いてから、直ぐに依頼板のへと歩いていく。その途中、ディアヌスが居るかキョロキョロと見ていた。しかし、ディアヌスの姿は何処にも見えない。

(今日はいないみたい。……まあ、約束していた訳でもないから仕方がないか。)

少し残念に思いながら、私は依頼板を見て良さそうな依頼を確認していった。

 ブロンズ階級からの依頼を選び、幾つか依頼を手にした。昨日と引き続いて東側での幾つかの薬草採取と、今回は魔物の討伐もやる事にした。薬草は昨日探した物と同じ物で、直ぐに集められると思い選んだ。魔物討伐は東側の草原に住む魔物で、スライムとホーンラビット、ウルフ等の魔物を、種類問わず六体以上討伐。この階級の依頼の中でも討伐数が少ない依頼で、依頼達成の期日も五日と長い為、ゆっくりとやっても問題ない。それと、仮登録が終わった後の実戦試験を免除して貰う為に、魔物討伐を達成させておきたい。

「昨日は草原に魔物は見掛けなかったけど、今日はきっと居るだろう。」

そう一人言を言い、依頼書をもって受付へと向かっていった。

 受付に着くと、ウェルゼさんが直ぐに応対してくれた。

「おはようございます、ヴィオさん。すみません、昨日の依頼報告の時に居らず……。」

「いえ、大丈夫です。これをお願いします。」

私は依頼書をウェルゼさん渡した。ウェルゼさんは依頼書を受け取り、手続きを進めていく。そして、手続きを終えた依頼書を渡してくれた。私はそれを受け取り、ポーチへと入れていると、

「ところでヴィオさん。昨日は大丈夫でしたか?」

 ウェルゼさんは私の方に顔を近付け、小声でそう言ってきた。昨日は確かにマンティスと遭遇したが、それを誰かに話した覚えはない。それ以外だと私には何の事だか分からず、ウェルゼさんに聞き返した。

「大丈夫って、何がですか?」

「ほら……、あのディアヌスって人と一緒に行ったじゃないですか?それで、大丈夫だったのかなっと思いまして。」

ウェルゼさんのその言葉が、何だか変な感じがした。別にディアヌスは凄く頑張っていたし、どこにも何も問題はない。

「特に何事もなく、大丈夫でしたが……?」

「そうですか、それなら良かったです。……あまり、あの人と関わらない方が良いですよ?ヴィオさんは気付いてないと思いますけど、あの人は『例の人』ですよ?」

「『例の人』?」

ウェルゼさんが言った『例の人』という意味が、私には分からなかった。

「だから、ヴィオさんも気を付けて下さいね。」

「は、はぁ……。」

 私は納得しないまま、受付から離れていった。昨日の時もそうだったが、何か変に嫌な感じがする。ディアヌスに対して、明らかに何か違和感がある。

(ディアヌスに直接聞いても、きっと傷付けてしまうかもしれない。そうすると、どこかで聞いた方がいいのか?)

私はどうしようかと考えながら、ギルドから出ていった。


 草原に行く前に、討伐した魔物の部位を入れる為の袋を買いに、道中に見掛けた道具屋へと入った。昨日の報酬がそこそこあるので、他に直ぐ使いそうな物も買っておきたい。私はポーチの中の硬貨を確認し、店の中を歩いていく。

「取り敢えず採取袋、それから硬貨を入れる財布も必要だ。それから……。」

店の中を歩き回り、必要な物を手にしていく。ふと、物を取っていくとある事を思い出した。

(そうだ、村に送る分をのお金も、少しずつ確保しておかないと。)

 私は手にした物を再度確認し、もう一度必要な物を選び分けた。入れた物を保存が出来る採取袋と財布、採取用のナイフを二種類、刀を拭く様の布を買ってポーチの中へ入れた。硬貨を財布の中へと入れ替えながら、残りの金額を確認して店から出ていった。

 草原に向かいながら、送るお金について考えていた。村にお金を送れば、村人の人達に知れ渡るだろう。イルズが村に戻る事があれば、私が生きている事がバレるかもしれない。しかし、受け取るシスターに手紙で事情を書いておけば、きっとイルズや他の村の人達には黙っていてくれる。

(とはいえ、シスターへの手紙にもあまり詳しくは書けない。書いてしまったら、逆に心配されてしまうだろうから。色々とはぐらかせながら、手紙を書くしかないか。……ただ、今の状況的に難しいかもしれないけど、一度でもいいから村に行きたい。シスターや孤児院の子供達、村の人達の顔を見たいな。)

そう考えながら、私は門の方へ歩いて行った。

 街の門から出てから、東の草原へと来た。草原に入る前に、辺りを見渡して魔物が居るか確認する。草原の草木はそこまで高くはないが、スライムやホーンラビットの大きさだと見えないかもしれない。動く草木に注意を払い、どこか近くに居るか草原全体を見渡して確認した。

「この辺りは魔物が居ないかな。……よし。魔物が見つからない間は、薬草採取に専念しよう。」

そう決めて私は、道を外れて草原の中へと進んでいった。

 薬草を探しながら進み、順調に薬草の束が出来上がっていく。この辺りは魔物が少ない様で、中々見当たらない。人が通る道から近いからかもしれない。昨日入った森が遠くに見えているが、私はそこを目指さずに更に遠く広い草原を歩き続けていく。するとその時、

「キュウ!キュウ!」

 テオが鳴き始めた。私はテオの方を見ると、テオの視線は草木の奥へと向いていた。すると、

「ガウッ!!」

ウルフが草木から飛び出てきた。私は咄嗟に身体を逸らせて、ウルフの攻撃を避けた。体勢を立て直してウルフの方を向き、刀を抜いて構える。

「ウゥゥゥ……。」

ウルフは唸り声を上げながら、私から間合いを取って横に移動する。

(戦技を使いこなす訓練をするには、丁度いい相手かもしれない。)

 私は一気に踏み込み、ウルフに近付く。ウルフも同時に襲い掛かってくる。

「ガウッ!!」

「『戦技:連牙斬(レンガザン)』!」

数回の斬撃が、ウルフの身体を斬り刻む。ウルフは声も上げる事も出来ず、そのまま絶命した。私は周囲を見渡して他の魔物が居ないか見て、自分の身体と調子を確認する。すると、少し身体に疲労感を感じた。

「ふぅ、意外と疲れが出てくるな。今まで切羽詰まった戦闘ばっかだったから、なかなか気付かなかったのかな?――戦技……使いこなすには時間が掛かりそうだ。」

 私は刀を地面に置いて、採取用のナイフで倒したウルフの一部を取った。採取袋に入れて立ち上がると、ウルフの血が地面一面に広がっている。

(……この血も、私の中に入れようかな。あまり気が進まないけど、私の力に必要になるかもしれない。)

私は血の上に手をかざした。しかし、血は私の中に動く事もなく、少しずつ地面に溶け込み始めた。

「何でだろう?」

私はかざした手を戻して、その手と地面に溶け込んだ血を見た。あの血を取り込むには、何か必要な事があるのだろうか。まだまだ私自身、この力を分かり切っていない。取り込めない以上、ここで時間を潰す訳にはいかないと思い、私は刀を鞘に納めて草原を歩いて行った。

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