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第20話 今日の終わり

 私達が街へ戻る頃には日が沈んで暗くなり、街の中は街灯の明かりが灯されていた。それでも道を歩く人々は多く、街は活気に満ち溢れている。私達は人混みをすり抜けて歩いていく。

「ディアヌス、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。」

お互いが人混みではぐれない様に、なるべく肩を並べて歩いて行く。すると、大柄の男性達が話しながら、右前から進んできた。私達はぶつからない様に横に逸れるが、ふと男性達と目線が合った気がした。私は気にせず、そのまま横を通り過ぎようとしたその時、

<ドンっ!>

「あっ……。」

 右側に居たディアヌスが何故か、避けようとした筈の男性達の一人にぶつかった。そして、そのまま後ろに倒れそうになる。

「危ない!」

私は咄嗟にディアヌスの腕を掴み、ディアヌスは倒れずに済んだ。男性達は笑いながらそのまま歩いて行った。

「大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます。」

私はディアヌスの腕を引っ張り、私の傍に近づけた。そして、ディアヌスに怪我がない事を確認し、遠くに行った男性達を見た。

「なんなのあの人達は。今わざとぶつかってきたよね。」

私は男性達に静かな怒りを向ける。しかし、ディアヌスは気にしていない様で、

「ヴィオさん。僕は大丈夫ですから、早くギルドに行きましょう?」

と言い、私の手を引いて足早にギルドへと向かった。私は何故だか、ディアヌスのその様子が不自然に感じた。しかし、ディアヌスは足を止める事無く、人混みを抜けながら歩いて行った。

 広場に近付くと、人混みに多少の余裕が出来た。ディアヌスはそっと私の手を離した。

「さぁ、行きましょう。」

ディアヌスはそう微笑んで、ギルドへと向かって行った。私は不自然さを拭いきれなかったが、気持ちを切り替えてディアヌスの横へと歩いて行った。そして、再び肩を並べてギルドへと歩いていく。

 冒険者ギルドに到着し、私達は中に入っていった。ギルドの中も依頼終わりの冒険者が集い、朝と比べると賑やかになっていた。私達は何処か空いている場所に行き、私は依頼書を取り出して、ディアヌスは薬草を取り出した。

「ヴィオさん、よろしくお願いします。」

そう言って、薬草の束を渡してくれた。私はそれを受け取り、種類別に整理する。

「うん、ありがとう。じゃあ、行ってくるね。テオ、ディアヌスと一緒に居て?」

「キュウ!」

テオにそう言うと、ポーチから跳び出して地面に着地し、ディアヌスの足元に擦り寄る。ディアヌスはしゃがんでテオを抱いた。私はそれを見て、受付へと向かった。

 受付は人が多い割に、そこそこ空いている。私は空いている受付へと向かう。受付に着くと、奥から一人の女性が来た。ウェルゼさんとはまた別の人だ。

「は~い。何ですか~。」

と言いながら、受付へと歩いてきた。私は依頼書と薬草を、受付台に置いた。

「依頼の納品をお願いします。」

「はいは~い。お疲れ様でした。確認しますね~。」

受付嬢はそう言いながら、依頼書を取って確認していく。私はその間、周りを見渡して終わるのを待っていた。するとその時、

「(あぁ、噂の……)」

 受付嬢は小声でそう言った。私はそれを聞き逃さず、直ぐに受付嬢を見た。そして、

「噂……?」

私がそう聞き返すと、受付嬢はハッとした表情をした。

「あっ。――いえ、何でも御座いません。ウェルゼは今居ないので、私が処理いたしますね。」

そうはぐらかせて、依頼書を処理していく。

「あの、噂って何ですか?」

「……」

私がもう一度そう聞いても、受付嬢は無視して作業を進めていく。きっと、何か疚しい噂だから黙っているのだろう。問い詰めたいとも思ったが、こうも無視されるのならこれ以上時間を取るのも嫌だと思い、私はそれ以上聞かずに黙っていた。

「確認終わりました。こちらが今回の報酬です。」

 受付嬢はそう言って、硬貨を受け皿に乗せて受付台に乗せた。私は黙って受け皿の硬貨の取って枚数を数え、硬貨を握り締めた。

「ありがとうございます。」

私は受付嬢にそう言い、足早にディアヌスの元へと向かって行った。

 ディアヌスの元に戻ると、テオを撫でて待っていた。

「お待たせ。」

私はそう言って、ディアヌスに声を掛けた。ディアヌスは私に気付き、テオを撫でるのを止めて私を見た。

「はい、これ。依頼達成の報酬だよ。」

 私はディアヌスに、受け取った報酬の半分を渡した。ディアヌスはテオを下に降ろし、両手を広げて受け取った。私は自分の分の報酬をポーチに入れ、テオを抱き上げた。すると、

「あの、ヴィオさん。」

そうディアヌスが声を掛けてきた。そして、ディアヌスは受け取った硬貨の一部を握り取り、私の方へと出してきた。私はそれを見て困惑した。

「ど、どうしたの?それは、ディアヌスの分だよ?」

「そうなんですけど、その……。本当なら今日は、何事もなく達成出来る筈だったのに、あんな危険な目に合わせてしまって。少ないですけど、お詫びに受け取って下さい。」

ディアヌスはそう言って、その硬貨を渡そうとしてきた。私は当然受け取らず、その手を掴んだ。

「駄目だよ、ディアヌス。これは君が依頼をこなした分の報酬。冒険者って危険と隣り合わせなんだから、危険な目に合わせたとかで報酬を渡そうとしちゃ駄目。」

「でも――。」

「それに、私の身体には傷一つも付いていない。でも、ディアヌスは大切な人形が壊れたでしょ?なら、それを直すのにそのお金が必要になる。……私、早くディアヌスの直った人形達を見たいな。だから、この報酬を使って早く見せて欲しい?」

私はディアヌスの手を掴みながら、ディアヌスの胸へ優しく押し付けた。ディアヌスは少し俯き、そして笑って私の顔を見てきた。

「はい!絶対に綺麗に直しておきます!」

ディアヌスはそう強く言った。私はそれを見て微笑んだ。ディアヌスは硬貨を握り締めて、私はテオをポーチに入れた。そして私達は、一緒にギルドの外へと出た。

 ギルドから出て私は宿に戻る事にし、ディアヌスとここで別れる事になった。

「それじゃあ、また。今日はありがとう。」

「はい。こちらこそありがとうございました。」

ディアヌスはそうお礼を言い、手を振った。私も手を振り、後ろを向いて別れようと歩いた。……少し歩き、私はディアヌスの方を振り返った。そして、

「ディアヌス。また機会があれば、一緒に依頼を受けないかな?」

ディアヌスにそう言った。

「――ッ!はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」

ディアヌスは喜んでそう言ってくれた。私も微笑んで、ディアヌスにもう一度手を振って宿へと向かって行った。


 宿に戻ると、昨日と同じ様に宿の中が賑やかになっていた。レレナちゃんは忙しそうに、テーブルに食事を運んでいく。すると、レレナちゃんが私に気付いた。持っていた食事をテーブルに置き、私の元に駆けてきた。

「お姉さん、お帰りなさい。」

「うん、ただいま。」

「直ぐに食事の準備が出来るけど、ここで食べる?」

「うん、部屋に荷物を置いたら戻ってくるよ。」

「分かった。じゃあ直ぐに準備するね~。」

レレナちゃんはそう言って、宿の奧へと消えていった。私も少し早足で部屋へと戻っていった。

 部屋に戻ってポーチを机に下ろし、刀と防具を外して床に置いた。そして、マンティスに斬られた服の状態を確認する。斬られた左腕と右脚の部分は大きく裂けており、それ以外の場所も少しボロボロになっている。

「これは裁縫道具を買って直さないと。それから、服も幾つか買わないと。」

服を見たついでに、防具と刀もそれぞれ手に取った。

 防具は多少傷が付いたものの、それ以外に目立った破損はない。後は土埃が付いている位の汚れしかない。私の血やマンティスの血は、一滴たりとも付いていない。刀を鞘から、床や壁を傷付けない様にそっと抜いて置いた。刀身はまるで新しく作られたばかりかの様に、刀身の表面に私の顔が映り込む程綺麗だった。刃に顔を近付けて刃こぼれもない事を確認し、私は刀を鞘へゆっくりと戻した。

(特別な刀とはいえ、手入れをしないのは良くない。せめて、布で拭くぐらいはしておかないと。)

私はそう考えながら、刀を壁に立て掛けた。一呼吸置き、机の方を向く。ポーチの中からテオがずっと覗いている。私はテオに近付き、ポーチから抱き上げた。

「食事にしようか?」

「キュウ!」

テオが嬉しそうに鳴き、私達は部屋から出て下へと戻っていった。



 ヴィオさんと別れて、僕は自分の家へ向かって歩いていく。その途中、夕食の食事を買いに食材店へと入っていった。

<カランッカランッ>

店の扉を開けると、その上に付いていた鈴が鳴る。店の中に居る店員達は、その音に気が付いてこちらを向いた。しかし、店員達は何も言わず、何も見なかったかの様に、やっていた事を続けた。僕はそのまま店の中を歩き、食材を探し始めた。店員達の近くを通ると、一瞬だけこっちを向くが、邪魔者を見る様な視線を感じる。

(いつもの事。)

 そう、いつもの事だ。いつもこの視線を感じると、そそくさと早く帰ろうとしていた。けど、今日は何だか違った。今日はそんな視線を感じても、小声で馬鹿にする言葉が聞こえても、それらを一切気にする事がなかった。早めに帰ろうとは思っているものの、いつもよりゆっくりと店を歩き回った。何が聞こえようとも、何を感じようとも、何も気にせずに歩いていく。

 そうして食材を探し、会計も終えて外へと出た。最後の最後まで、離れていた店員達はひそひそとこちらを見ながら笑い合っていた。でも、今日の僕は何も気にする事もなかった。

(本当に、昨日から良い日が続いている。ヴィオさんのおかげなんだろう、きっと……。)

僕はそう思いながら、大通りを歩いて家へと向かっていく。

 大きな屋敷の前へと着いた。正門から入らずに外壁に沿って進み、屋敷の裏へ回る。人一人分の大きさの裏門から、屋敷の敷地へと入った。そして、自分の小さな家へと足を進める。するとその時、

「おや、ディアヌス様。いらっしゃったのですか。」

声の聞こえた方を向くと、外を歩いていた使用人が居た。

「今帰ってきた所。」

「左様ですか。……外でゴミ漁りでもしてきたんですね?良いお宝でも見付かりましたか?」

「……」

使用人はにやついた表情を浮かべ、馬鹿にするように言ってきた。僕はそれ以上会話をする事なく、家へと歩いていった。すると後ろから、

「皆様、偉大な『ヌーバス』様が帰ってきましたよ!ハッハッハッハ!」

そう大声で笑っていた。僕はそれを気にせず、家の中へと入って扉を閉めた。

 狭い部屋の中、小さい棚の上に荷物と装備を置き、買ってきた食材の一部で夕食を作って食べた。洗い物や荷物を雑に片付けて、自分の作業台に座った。

「『ドールハウス』」

開いた空間から、壊れた人形達を取り出す。そして、それぞれの人形別に部品を分け、部品の状態を確認していく。幾つかの部品を見ていると、段々と予想していた事が当たる。大まかに確認を終えて、部品を並べていく。

「やっぱり、今回は被害が酷い。」

 あの風魔法で、大きい部品が切れて使い物にならなくなっていた。他も致命的ではないものの、傷が付いてしまっている。僕は立ち上がり、作業台の下から箱を取り出す。箱を開け、中に入っている人形の予備の部品を見た。交換しなくてはならない部品の予備を、机の上に置いて並べていく。しかし、

「これは……部品が足りない。どちらかしか直せない。」

 僕は立ち上がり、壊れた人形達を見る。プロトスワンとプロトストゥ、二人の傷付いた顔が僕を見る。まだ二人共未完成とはいえ、ここまで壊してしまった事に自分の実力不足を痛感する。僕はどちらを直すか考えて、プロトスワンの頭を取った。そして、プロトスワンの額と自分の額に当てた。

「ごめん、絶対に直すから。」

僕はそう謝り、プロトスワンの部品をまとめ、丁寧に空いている箱へ入れていった。そして、予備の部品を使って、プロトストゥを丁寧に直していった。

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