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第17話 森の異変

 私達は森へと到達し、深い森の中へ足を踏み入れた。木々の隙間から光が入り、灯りを灯す程の暗さではない。しかし、今は日がまだ高いおかげであり、日が落ちていけば直ぐに暗くなるだろう。

(なるべく、早めに森から出るようにしないと、あっという間に森が暗くなってしまう。)

私達は森の奥へ入っていき、草木を掻き分けながら薬草を探し歩いた。歩きながらちらほらと、他の種の薬草が目に入る。目的の薬草ではないが、余裕が出ればここで集めてもいいかもしれない。そう考えながら、奥へ進んでいく。

 森を進み続けて、少しずつ目的の薬草を見つけて採っていった。しかし、十分に育っている薬草があまり見つからず、まだまだ足りない。それに動物が駆けて行ったのか、目的の薬草ではないが、他の植物が踏み荒らされている。私達は薬草を探し、更に更に森の奥へと進んでいく。すると、

「すみません。森ならもっと採れると思ったんですが……。」

ディアヌスはそう謝ってきた。ディアヌスを見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。

「ううん。少しずつでも採れれば問題ないよ。」

私は笑って答えた。しかし、ディアヌスの表情は変わらない。私はディアヌスの顔を覗き込んだ。

「大丈夫だから。しっかり探していこう?」

私はそう微笑むと、ディアヌスは表情を和らげ頷いた。しかしまた、ディアヌスは不安そうな顔を浮かべる。

「どうかしたの?」

「はい。なんだか、いつもの森と違うような気がして。」

ディアヌスはそう言って森を見渡した。私も同じように見渡す。木々が揺れる音や、風の音が聞こえる。鳥の鳴き声も、小さいが聞こえている。ここの森は知らないが、他の森ならあまり変わった事はない。ディアヌスは何か感じ取れたのだろうか?

「すみません。ただの気のせいかもしれません。」

ディアヌスは私の方を向いて、苦笑いを浮かべた。私もディアヌスの方を向いた。

「警戒はしていこう。もしも何かが起きても、直ぐに動ける様に。」

「はい。分かりました。」

私達は気を取り直して、また薬草を探しながら進んでいく。

 そうして進み続けて、ようやく納品数近くまで集まった。木々の隙間から空を見ると、日は頂点を過ぎて落ち始めている。流石にこれ以上、奥へ進んで探すのは得策ではない。そこでディアヌスと相談し、残りの薬草は戻りながら探す事にした。ディアヌスの案内で、来た道から少し外れた方向へと進もうとしたその時、

<ガサガサ……>

 近くの草木が揺れる音がした。私は刀の柄を握り締め、その音が鳴った方向へ身体を向けた。ディアヌスも腰から剣を抜き、その方向に構える。少しずつ、その方向の草木揺れて、何かが近付いて来た。私はゆっくりと鞘から刀を抜き、来るのを待った。そして、草木から私達の前にソレが飛び出た。

「グリーンスライム。」

緑色のスライムが、私達の前に出てきた。私は刀を構え、ディアヌスも構えたまま、スライムが近付くのを待ち構える。しかし、スライムは私達に気が付くと身体を震わせて、また草木の中に戻って逃げていった。スライムが草木が揺らしながら、森の奥へと逃げていくのを見送り、私は構えを解いて周りを警戒した。すると、

「ヴィオさん、まだ何か居ますか?」

 ディアヌスはそう言って、剣を構えたままでいた。私は周りを見渡して、何も居ない事を確認する。

「取り敢えず大丈夫。」

「そう……ですか。良かった。」

ディアヌスは剣を収め、両手を膝に乗せて前のめりの体勢になった。

「大丈夫?」

私も刀を収め、ディアヌスの元へ寄る。すると、ディアヌスは私の方を向いて苦笑いを浮かべた。

「実は僕自身、戦闘があまり得意ではなくて。いつもは魔物と出会うとその……、逃げたりとか、ちょっと別のやり方をしているんです。……ふぅ、すみません。もう大丈夫です。」

 そう言って、ディアヌスは呼吸を整えて体勢を直した。私はそれを聞いて、私が無理に付いて来てしまったから、ディアヌスのやり方が出来ないんだと気付いた。私はディアヌスに謝った。

「ごめんね。私が無理に君に付いて来たから……。」

「い、いえ!そんな、無理だなんて!」

ディアヌスは両手を振ってそう言ってくれた。そして、

「僕も魔物といい加減に戦い慣れないといけないですし。それに、その……。」

ディアヌスは途中で言葉を詰まらせ、顔を俯かせた。それを見て私は反省をした。やはり、無理をさせてしまったのだろうと。それにもしもの事があったら、ディアヌスの事を護りきれる自信は私にはない。新たな一歩だからといって、少し浮かれて身勝手な事をしたのだと。……そう考えていると、森の奥から大きな風が吹き荒れ、森が大きく靡く。私は森奥を見る。

「森から出よう。なんだか奇妙な感じがする。」

「あっ……はい……。」

ディアヌスは頷いて先導し、私達は来た道とは別の道で戻り始めた。

 森から抜けようと進む中、私達はお互いが黙って進んでいた。最初の草原で薬草を探していた時の空気とは違い、何とも言えない空気が流れてしまっている。帰る道中に見つけた薬草は、ディアヌスが採っていく。私はその背中をずっと見ていた。するとその時、

「キュウ!キュウ!」

 突然、テオが鳴き出した。私達は足を止めてテオを見ると、テオは私達の横を見ている。私はその方向を見て警戒をした。すると、動物が駆けているのか、森の中が騒がしい事に気が付いた。ディアヌスは私の傍に近付き、同じ様に気が付いた。

「おかしい。いつもはこんなに騒がしくない。」

ディアヌスは私の方を向いて言った。

「早く森から出た方がいいかもしれない。」

私がそう言うと、ディアヌスは頷いて前へ先に進む。私も前へ向き直すと、ふと、ある木が目に映った。

「これ……は?」

 私はその木に近付いてみた。その木の幹には青い液体が付いており、更に大きく切られた様な跡があった。それも、斧で何度も切ったような跡ではなく、綺麗に切った切り口をしている。更に周りの木を見てみると、同じ様な跡が幾つも残っている。嫌な予感が私の頭を巡る。

「ディアヌス、ちょっといい?」

「はい?」

私はディアヌスを呼んだ。ディアヌスは駆け足で私の元に戻ってくる。その時、ディアヌスの背後に黒い影が見えた。それはディアヌス目掛けて、何かを振ろうとしている。

「ディアヌス!危ない!!」

<キシャアアアアアアアアア!!>

「えっ?」

 ディアヌスは咄嗟に鳴き声が聞こえた背後を向く。私はディアヌスへ駆け付け、刀を抜いて黒い影が振るうモノを防ぐ。

<キーンッ!!>

「クッ――!」

剣撃が森に響き渡る。ディアヌスに攻撃が入る前に、なんとか防ぐ事が出来た。

「ディアヌス、後ろに下がって!」

私は後ろを少し見てそう言うと、ディアヌスは慌てて下がる。私は耐えながら前を向いて黒い影を見る。黒い影が振るった物は、大鎌の様な形の鋭い刃をしていた。すると、黒い影が物凄い力で私の刀を押してくる。そして、

「ヴィオさん!右から来ます!」

ディアヌスがそう叫び、私は右側を見ると、もう一本の大鎌が向かってきた。

(不味い!)

 私は刀を逸らして、受けていた大鎌を私の上へ流す。そして、

「『戦技:弧月一刃(コゲツイチジン)』!」

刀を前から下に振り下ろし、その勢いで身体を後ろへ向かせて斬り上げる。

<キーンッ!!>

右側から来た大鎌を、なんとか防いで弾く事が出来た。

<キシャアアアアアアアアア!!>

黒い影が怯んだその隙に、私も急いで後ろへと下がり構える。そして、黒い影の正体を見た。

「マンティス……?」

 両手に鋭い大鎌の様な刃を持ち、身体全体に硬い甲殻を付け、腹部に大きな羽と六足の足が付いている虫の魔物だ。あの木々に傷を付けたのは、このマンティスで間違いないだろう。口の棘が付いた四つの刃を交互に動かして、目をギョロギョロと動かしながら私達を見ている。その様子は、どことなく興奮している様に見える。

「どうして、マンティスがこんな所に!?」

 ディアヌスはそう言って剣を抜いた。しかし、その手は震えている。それも仕方がない。シルバー階級でも、この魔物を倒すのには骨が折れる程強い。元とは言え、私でもマンティスと戦うのは、それも私達二人掛でも倒すのは無理だ。けれど、私のこの力があれば私は死ぬことはない筈。それに、マンティスはあのマスターよりは弱い。勝てなくても、撃退位なら出来るだろう。私はゆっくりと動きながら、ディアヌスの前に立った。そして、

「いい、ディアヌス?私が囮になる。君は森の外まで走って。テオ、君もディアヌスと一緒に逃げなさい。」

テオにそう言って目を向けると、ポーチから飛び出した。そのまま後ろの木々まで下がっていく。しかし、ディアヌスは逃げようとしない。

「ディアヌス!早く!」

「駄目です!ヴィオさんを置いて逃げるなんて、そんな事出来ません!」

ディアヌスは私の横に並ぼうとする。私はディアヌスの前に刀を突き出して止める。

「私は大丈夫だから。ディアヌスは……。」

「嫌なんです!!」

 ディアヌスは力強く言った。私はその力強さに怯んだ。ディアヌスの方を向くと、彼の目から涙が頬を伝って流れていた。その涙が、目の前から伝わる恐怖なのだろうと思ったが、そうではなかった。

「い、嫌なんです。初めて僕に優しくしてくれた人を、僕のせいで死んじゃうなんて……。」

ディアヌスはそう俯き、涙を拭いて前を見た。今まで彼に何があったのかは分からない。けれど、きっと今まで辛い事しかなかったのだろうと、そう感じ取る事が出来た。私は少し考えそして、刀を前へ構え直した。

<キシャアアアアアアアアア!!>

 マンティスが姿勢を低くし、私達へ飛び掛かってきた。マンティスが手の鎌を振るい、私は前に出てそれを防ぐ様に刀を振るう。

<キンッ!!>

剣撃の音が再び森に響き渡り、私は少し後ろに押される。足を地面に力強く踏み付け、その場になんとか踏み留まった。そして、ディアヌスに言葉を向けた。

「いい、ディアヌス。貴方は絶対に私が守る。……だからもし、自分の身が危なくなったら、私を置いてでも絶対に逃げる事。それが約束できないなら、今すぐに逃げて。」

「それじゃあ――!?」

私はディアヌスを見て笑った。それは自分のこの力のせいだろうか、私にはそれは分からない。ただ、私の中で何故か自信の様な力が湧いてきた。

「大丈夫。私は死なない。……だからディアヌス!剣を構えて!!」

「――っ!はい!」

「『戦技:連牙斬(レンガザン)』!」

 戦技を使ってマンティスを押し返し、更に斬りかかる。攻撃はマンティスには当たらなかったが、マンティスは後ろへと下がっていく。私はディアヌスの前まで下がる。

<キシャアアアアアアアアア!!>

マンティスは叫び声を上げ、私達はマンティスと対峙した。

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