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第14話 運命

 ギルドから出て、私達は宿探しを始めた。まだ時間はあるが、街を見て回る為にも早めに探す事にした。それにこの子が居るから、宿泊できる場所も限られる。しかし、大通りに面している宿は価格が高いか、部屋が埋まってしまっている。

「仕方がない。大通りから外れよう。」

私は大通りから逸れて、街の中を歩き回った。やはり都会なだけあって、大通りから外れても色んなお店がある。ここなら何か足りない時でも、直ぐに集められる事は出来そうだ。ただ、肝心の従魔同伴出来そうな宿屋はこの辺りも埋まってしまっている。

「もう少し道を外れよう。」

私は道を歩きながら、広めの路地へと入っていく。路地に入ると住宅が多く見られ、日常の会話がよく聞こえる。そこにあるお店も近所の付き合いがあるのか、お客と楽しそうな会話をしている。住宅を抜けながら歩いていると、一軒の宿屋を見つけた。看板を見ると従魔も大丈夫そうなので、私はその宿屋に入った。

 宿屋に入ると、受付台に寝そべっている少女が居た。周りを見ると、ちらほらと他のお客も見えるが、なんだか酔っている様にも見える。私は静かに受付へと向かう。

「いらっしゃいませー。」

少女は身体を起こし、やる気のなさそうに声を出した。

「あの、外の看板に従魔も大丈夫と書いていたんですが……。」

「うーん。大丈夫だよー。一泊300ミリス、従魔分は50ミリス。後食事が欲しいなら80ミリスだよー。」

少女は頬杖をついてそう言った。少女と目が合うが、何というか嫌々とやっている様に見える。ただ、落ち着きがある子なだけかもしれない。孤児院の子供でも、この子と似たような子が居たから。それか、今日はなにか嫌な事でもあったのだろう。

「取り敢えず七泊、食事付きでこの子と泊まりたいだけど。」

「んー、良いよー。料金は……(計算めんどくさ。)」

小声でそう言うのが聞こえた。私は少し呆れ笑いをしながら硬貨を取り出し、少女が計算を終える前に出した。

「はい、どうぞ。」

「んー?」

少女が出した硬貨を数える。数え終えると硬貨をまとめ、立ち上がって後ろの通路へ歩いていった。少し経ってから、少女が通路から戻ってきた。その手には鍵を持っている。すると、

「はい。」

少女は突然、その持っている鍵を私に投げてきて、慌ててその鍵を取る。

「部屋は三階、一番奥の部屋だよー。」

そう言って、また受付台へ寝そべる。私は流石に何か言いたくなったが、それを抑えて上へと向かう。すると、

「『レレナ』!」

<ガンッ!>

 少女の後ろから、一人の女性が少女の頭にげんこつを打った。

「イッターーー!!?」

少女は声を上げて、殴られた頭を押える。女性は私の方を向いて謝ってきた。

「すみません、お客さん。家の娘が無礼を働きまして……。レレナ!アンタも謝りなさい!」

「……」

少女は涙を目に貯めていたが、口を尖らせてそっぽを向いていた。私はそれを見て微笑んだ。

「お店番大変だよね?でも、頑張ったらきっと良い事があるよ。」

そう言うと、少女は少しだけこちらを向いて、直ぐにそっぽを向いた。

「ホントにすみません。」

「いえ、大丈夫です。」

私は彼女達に一礼をして、上へと上がっていく。後ろから母親の怒声が響き渡る。

 少女に言われた通り、三階の一番奥の部屋に入った。部屋はとても綺麗な部屋だった。私は刀を机に置いて、ベットに腰を掛けた。

「ふぅ……このまま寝れそうだ。」

しかし、明日の準備の為に街へ向かわないと。私はポスを抱き上げて、身体を撫でた。

「キュ~ウ……。」

ポスは気持ちよさそうに、目を閉じて大人しくしている。それを見て私は思い出した。

「そうだ。君の名前も考えないといけないね。」

いつまでも経っても、この子とかポスと呼ぶ訳にはいかない。名前を付けるセンスはないが、考えないと。

(なんて名前にしようか……?)

そう考えるが直ぐに思いつかず、時間が徐々に経っていった。そろそろ街へ買い出しに向かわないと、日が暮れてしまう。私は一旦考えるのをやめて、ポスをポーチへと戻し、刀を背負って部屋から出た。下に行くとまだ少女が怒られており、母親が私に気付いた。私は母親に一礼をし、そのまま宿を出た。


 路地から道に出て、人の行き来の邪魔にならない様に端に寄る。

「取り敢えず、必要な物はナイフと探索用のランタン、それから着火用の魔道具も。後は保存食……野営用の道具とかはまだいいとして、念の為にポーションも買っておこう。それから、寝間着も買わないと。」

私はポーチの硬貨を数えながら、必要な物を洗い出した。宿や食事の心配は、七日までは問題ない。全部買い揃えるなら、手持ちの硬貨でギリギリ足りるだろう。

「取り敢えず、安そうな道具屋を探そうか。」

「キュウ!」

私達は街へ繰り出し、良さそうなお店を探し始めた。気になるお店は実際に入ってみて、物と金額を見て良さそうな物を探した。しかし、訪れた店はどれも良いものを扱っており、金額もそれなりに掛かる。幾つかお店を出入りして探していると、とある道具屋に辿り着いた。中に入ってみると、多くの道具や装備、ポーション等も並んでいた。品揃えはよく、価格も手が届きやすい物ばかりだ。私はここで必要な物を揃える事にした。

 お店の中を歩き回り、買う物を見繕っていた。なるべく長く使えそうな物がいい、と考えながら品物を見ていく。それから少し経ち、大方買う物を見繕い終えた。後はお金が足りるか数え始めると、突然、

「ふざけた事を言ってるんじゃねぇ!」

 お店に響き渡る怒声が広がる。私も、私の周りに居る人も、その声の元へ目を向ける。そこには店主であろう人がその対面に居る少年に、カウンター越しに怒鳴っているのが見える。目を凝らして見ると、その少年は冒険者ギルドでぶつかってしまったあの少年だった。カウンターの上には依頼書と一緒に、『カラオル』と呼ばれる真っ白の花を咲かせた薬草が置かれている。私は不思議に思い、彼らの会話に耳を立てた。

「でも、ちゃんと薬草の数はあります!」

「数は確かにある。だが、どれもその質が悪い。葉が数枚しか残ってないし、カラオルの花弁が真っ白になってるじゃねぇか。青い花弁じゃなければ、薬草の効果が出ない。全く、これぐらいも分からんとは、底辺野郎の頭は成長せんな。ハッハッハッ!」

店主はカウンターに置いてあった薬草を手に取り、品定めをする様に見て、カウンターに再び捨てるように置いた。

「そ、そんな筈はないです!カラオルはこの状態が……」

「うるせぇ!!」

 店主は少年の頭に硬貨を投げ付けた。少年はそのまま後ろに倒れて尻餅を着く。店主はそれを見て笑い、依頼書にサインをして少年に向けて捨てた。私の周りに居る人も、それを見てクスクスと笑っているのが聞こえる。その人達が小さく囁く言葉は、どれもあの少年を馬鹿にするような言葉ばかりだ。……何故彼を嘲笑う様な事をしているのだろうか?私は泥だらけになっている少年の姿を見て、手に力が入る。そして、意を決して彼らの元へ歩んだ。

「ほら、さっさとその金を拾って出ていけ。この薬草は仕方がないから、俺が処分してやるよ。全く、こっちは忙しいのになぁ。」

少年は黙って静かに、その硬貨を拾おうとした。私は少年が硬貨を拾う前に、しゃがんでその手を握った。少年はそれに驚き、私の顔を見上げた。

「ねぇその薬草、私が買い取るよ。」

 そう少年に微笑んだ。見上げた少年の頬から涙が伝っている。すると、

「お、おい?アンタ、突然何言ってんだ?」

後ろから店主の戸惑った声が聞こえるが、私は無視してもう片方の手で少年の頭を触る。

「痛かったよね。傷を見させてね。」

硬貨をぶつけられた部分を探る。幸い、赤くなっているだけで、傷は出来ていなかった。

「傷はないみたいだよ。立てる?」

「は、はい。」

少年は頷いて一緒に立ち上がる。そして、手を離して少年の涙を拭き、私はポーチから硬貨を探った。

「全部の薬草、この位の金額でどうかな?」

そう言ってポーチから硬貨を取り出そうとする。すると、後ろから私の肩を強く握られる。

「おいテメェ!勝手に何決めようとしている!」

私はその手を弾き、店主へ向いた。

「何って、不当な報酬の支払い見ていられなかっただけ。」

「ハア?不当だと?俺は『正当』な報酬を支払っているだけだ。」

「正当?ふざけないで!」

 私はカウンターに置かれた薬草を取り、その状態を見た。カラオルの花弁は、一枚一枚完全に真っ白になっている。葉は花に近い部分だけ数枚残っており、下の部分は切り落とされている。私の知る限りの知識では、これがカラオルを薬草として使う時、最もポーションの効果を発揮出来る取り方だ。私はシスターからそう教わったし、幾つかの本にもそう書かれているのも、忠告も書かれているのも覚えている。それに、実際に二つを作り比べた事もある。

「このカラオルの状態は良い。それなのに、依頼書通りの報酬を支払わないのは違法よ。」

「ハァ?素人が横から口を出してくるな。俺の目利きがおかしいとでも言うのか!?」

「素人だから何?素人でも、私にはこの薬草にそれだけの価値があるって事ぐらい、素人なりに分かっている。……それに、これだけのお金を出して『わざわざ自分で処分する』なら、依頼の失敗として扱う方が貴方の得になるでしょ?」

「――ッ!」

 そう言うと、店主は何も言わなくなった。私は落ちている硬貨と依頼書を拾い、カウンターへと置いた。そして、ポーチから少しの硬貨を取り出して一緒に置く。

「これ、依頼失敗の違約金。それから、この依頼書のサインを書き直して。」

店主は躊躇しながらも依頼書を書き直す。私は薬草と依頼書を手に取り、少年の方へ向く。

「さ、行こう?」

「えっ、あ、あの?」

私は少年の手を繋ぎ、店の外へと向かった。

「に、二度と来るんじゃねぇ!!」

そう、後ろから叫び声を聞きながら……。


 店から出て、人通りが少ない所へ向かう。その間、私達は黙っていた。私に限っては気持ちが高揚していて、歩きながら落ち着かせようとしていた。あの店主は分かっていてやっていた。この子が知らないと思ってやっていたのだろう。そういう経験は私にもあった。その時は、シスターに助けてくれた。きっとシスターがここに居たら、同じ事をするだろう。

 暫く歩き続け、人通りが少ない場所に着いた。道の隅へと寄り、少年へ向き直した。

「ごめんね。勝手に話を進めて。」

「い、いえ……。その、ごめんなさい。」

少年は俯いたまま謝ってきた。私は少年の頭を触った。

「さっきのぶつけられた所はもう大丈夫?痛みはない?」

「だ、大丈夫……です。」

「そう。良かった。」

そう少年は頷いて答え、私は微笑んだ。それから、私達の間に静かな時間が流れた。私は慌てて少年から手を離し、ポーチから硬貨を数えて取り出した。

「えっと、これ。約束のお金。これぐらいで良いかな?」

 そう言って少年の両手に入れた。しかし、少年はそれを受け取って見るが、何も言わずに固まっていた。もしかしたら少なかったのかもしれない、そう思って依頼書を見ようとすると、

「こんなに沢山、受け取れません!」

少年は硬貨を握って、私へ突き出して返そうとした。私は足りていた事に安心し、少年の両手を握った。

「言ったでしょ。この薬草にはそれだけの価値があるって。」

「で、でも……。」

「良いから。それに、勝手に依頼を失敗させちゃったし、そのお詫びもこれに入ってるから。」

 そう言って少年へ返した。少年は戸惑っていたが、頷いてお金を受け取ってくれた。

「ありがとうございます。……あの依頼書も下さい。」

「私もギルドに行くよ。事情を話さないといけないし。」

「大丈夫です。これぐらいは僕がやらないといけないので、これ以上お世話になる訳にはいきません。」

少年はそう言い、私は依頼書を渡した。依頼書を受け取ると、少年は笑顔を見せてくれた。

「あの、助けてくれて、ありがとうございました。」

 そう言って一礼をし、立ち去って行った。私は笑顔で返して手を振り、少年が人混みに入り見えなるまで見送った。少年が見えなくなると、私はポーチの中の硬貨を探る。すると、ポーチの中に居るポスと目が合う。私は苦笑いを浮かべた。

「さて、明日から一杯頑張らないとね~。」

「キュ~ウ。」

私達は今日の買い出しをやめ、宿へと戻っていった。

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