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第13話 出会い

<ガタガタガタガタ……>

 私達は今、藁を載せた荷馬車の後ろに乗せてもらっている。荷馬車はゆっくりゆっくりと、舗装された道を走っていく。私は後ろに振り向き、御者台に座るおじさんを見た。

「本当に助かりました。ありがとうございます。」

 私達があの魔方陣に飛ばされた後、どこかも分からない森の中に居た。周りには何も道標もなく、獣道すらなかった。木々の隙間から見える日を目印に、兎に角森を抜ける事に必死になり、ようやく森から出られた時にこのおじさんに出会った。おじさんは街に向かう途中、この荷馬車が溝にはまって動けなくなっていたらしく、私が丁度いいタイミングで現れて助けた。お礼に何か渡そうとしてきたが断り、その代わりに一緒にその街へ連れていって貰う事にし、今に至る。

「な~に、お嬢さんが森から出てきた時は魔物かと思って驚いたが、こっちも助かったもんさ。」

そう笑って言った。優しい人に出会えて良かった。そう思いながら前へと向き直した。

「まさか、訳も分からない場所に飛ばされるとは。森で魔物に襲われなかったのは良かったけど。」

「キュウ。キュウ。」

チラリとポスを見てみると、ポスはポーチの中で何度も頷いていた。私はそれを見て微笑んで上を向き、これからの事を考えた。

(とりあえず、街へ行ったら冒険者ギルドに登録をしよう。そこである程度お金を稼いで、それから……その後はどうしようかな?)

 空は天気が良く、満遍ない青が広がり、日は頂点よりまだ手前にある。とても気持ちの良い暖かさが私を包む。その影響か、マスターとの戦いや森を歩き回った疲れが一気に襲い、眠気に耐えられず藁の山に背をもたれて眠った。


「キュウ!」

 ポスが強く鳴き、私は目を覚ました。目を擦って上を見上げて見ると、日が少しだけ頂点に近付いている。眠ってからあまり時間が経っていないようだ。周りを見渡すと、チラホラ行き来している人達の姿が見える。

「お嬢さん、もうじき着くよ。」

そう言われて前の方を見ると、城壁に囲まれた街が見えた。それはカルワトとは比べ物にならない位、大きく頑丈そうに見える。

「あれがエルヴィア王国第二の都市、『クリオレア』。」

首都には一度行った事があるが、ここに来るのは初めてだ。膝の上に乗せている刀を握り締める。ここがもう一度再スタートをする場所なんだと、そう私に言い聞かせながら……。

 荷馬車が検問所の列へと並び、ゆっくりと前へ進んでいく。列はそこそこ長いが、足を止めることなく進んでいる。

「今日は混雑していないなぁ。運が良い。」

おじさんがこちらを向いてそう言った。本当はもっと人が来るのだろう。荷馬車が徐々に前へ進み、検問所に近付いてくる。

「ちょっとごめんね。」

 私はポスの頭を撫で、ポーチから抱いて出した。ポーチの隅に貯まっている硬貨を、幾つか取り出す。

(硬貨はそこそこある。少し物を買っても、宿泊には困らない筈。)

そう考えていると、抱いているポスがじゃれついてくる。私は硬貨を握り締め、ポスを撫でてポーチへ戻してあげた。

 それから少し経ち、検問所へと到着した。そこでおじさんと兵士達が少し雑談をし、私は入都料を払っておじさんと共に街へ入った。門を潜り、荷馬車が大通りの隅で止まる。おじさんはそのまま荷馬車を目的の場所に送る為、ここで別れる事に。

「じゃあ、お嬢さん。今日はありがとな。」

「こちらこそありがとうございました。」

「それじゃ。元気でな~。」

おじさんは手を振って荷馬車を走らせて行った。私はお辞儀をして見送った。

「さあ、行こっか。」

「キュウ。」

私達は大通りを歩き、冒険者ギルドを探し始めた。


 大通りを歩いていると広場へと到着した。多くの人が行き来しており、活気に満ち溢れている。辺りを見渡して探してみると、標識を見つけてその方向に歩いてみると、分かりやすく冒険者ギルドの看板が立っていた。近くで見ると、カルワトのギルドよりも遥かに大きい。第二の都市のギルドだから、それだけ冒険者も多いのだろう。ただ、どうやら今日は人の行き来は少ない様だ。私は足早に中へと向かう。するとその時、

<ドンッ>

 冒険者ギルドに入ろうとすると、タイミング悪く出てきた人とぶつかった。私は幸いにも倒れなかったが、ぶつかった相手はそのまま尻餅をついて倒れてしまった。相手の姿を見ると、顔は俯いていてよく見えないが、小柄な少年なのは分かった。服装からして冒険者の様で、依頼終わりなのか服は土で汚れ、バックには薬草の様な植物が見えている。

「ご、ごめんなさい……。」

少年は俯いたまま、そう小さい声で謝ってきた。私は慌てて、手を差し伸べた。

「こちらこそごめんね。立てれる?」

少年は差し伸べた手を直ぐに掴まず、少し見上げて私の顔を見てきた。私はそれに微笑んで、少年が手を掴むのを待った。そして、少年が手を掴み、私は少年を起こした。少年が立ち上がってみると、私より少し身長が低い子だった。

「怪我はない?」

「……」

私がそう問い掛けるが、少年は何も言わずに俯いたままだった。どこか痛めたのだろうか。

「大丈夫?どこか痛めた所がある?」

顔を覗き込む様に屈んだ。しかし、少年の顔が一瞬だけ見えて、私は固まった。

「だ、大丈夫です!ごめんなさい。」

「――あ、待って!?」

少年はそう言って私の横をすり抜け、足早にギルドから去っていった。私は声を掛けたが、そのまま走っていった。

「あの子、泣いていた……?」

 一瞬だけしか見えなかったが、涙を流していた様に見えた。依頼を失敗したのか、それともまた別の事だろうか。私には原因が分からないが、どうしてか気になってしまい、何故だか放っておく訳にはいかない気がした。しかし、少年の姿は人混みに入り、やがて見えなくなってしまった。

(……追うべきだったかな。)

そう悩んでいると、ポスが鳴き声を上げた。私は追う事を諦め、ギルドの中へと入っていった。

 ギルドの中はとても広く、多くの冒険者達が集っている。幾つもあるテーブルは、ぎっしりと冒険者のパーティーが集って賑やかな様子が見える。受付横の壁には依頼板が設置されており、そこにびっしりと依頼書が貼られている。

「カルワトとは比べ物にならないな。」

私達は周りを見歩きながら、空いている受付へ進んだ。受付に到着すると、奥から一人の女性が近付いてきた。

「お疲れ様です。依頼報告ですか?」

「いえ、冒険者登録をお願いしたいのですが。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

受付嬢はそう言って奥へと戻った。私は戻ってくる間、ポスを撫でて待っていると、後ろの方が騒がしくなった。振り返ってみると、ギルドの入口から続々と冒険者達が入ってくる。きっと依頼終わりなんだろう。その冒険者達の中から何人かが、受付の方へ向かってくる。

「お待たせしました。」

受付からそう声が聞こえ、私は前を向いた。受付嬢はトレイを持って、その上に紙とペンとインク、そして分厚い石盤を乗せて持ってきた。受付台にそれを置き、私の前に紙とペンとインクを置いた。

「申し訳ございません。これから他の方の対応をしなくてはならないので、こちらの紙に記入をお願いします。」

私は頷き、受付嬢は一礼してから別の受付へと向かった。私はペンを持って紙を見た。

 ここで一つ問題に気付いた。『名前』をどうするか、という事だ。冒険者登録されている私の名前は使えない。ニーシェの名だけ使って、下の名前を書かないか別の名前にすれば、ただの同名の人物と思われるだけかもだが、私の事を知っている人には気付かれるだろう。イルズ達に気付かれる可能性もある。どうしようか悩んでいる時、私の視界に1枚の花弁が舞い落ちてきた。私はそれを拾い上げ、その花弁の花を見た。それは紫色の花で、私の髪の色と近い色をしている。確かこの花の名前は……『ヴィスオラル』。花言葉は『再起、新たな始まり』だ。今の私に送るなら、この花が適しているだろう。私は何かの運命を感じ、この花から名前を取る事にした。

(ヴィス……オラル……なんか違う気がする。――『ヴィオ』。それが良い、この名にしよう。)

私はそう考え、紙にその名前を書いた。今日から私の名前は『ヴィオ』。そして、ここから再スタートを切るんだ。そう気持ちを持ち、残りの項目を書き込んだ。この子も私の従魔として登録しておかないと。

 全て書き終え、受付嬢が戻ってくるのを待った。そしてしばらく経ち、ようやく戻ってきた。

「お待たせして申し訳ございません。」

そう謝ってきた。

「いえ、大丈夫です。これをお願いします。」

私はそう言って紙を渡した。受付嬢はそれを受け取り、内容を確認していった。

「ヴィオさんですね。従魔の確認をさせて頂きます。」

 そう言われ、私はポーチを受付台に乗せた。ポスはいつの間にか、ポーチの中で寝ていた。

「ポスですか。こうも無防備で寝ているなんて珍しいですね。それに懐いているなんて。」

「あはは……。ここに来る道中に出会って懐かれたので。」

「そうなんですね。確認大丈夫です。」

私はポーチを持ち、ゆっくりと台から降ろし、受付嬢はもう一度紙を見て確認した。そして確認を終えると、その紙を石盤の上に置いた。

「書類に不備はありませんでした。――申し遅れました。今回担当させていただきます、『ウェルゼ』と申します。最初の依頼から一月の間、私がヴィオさんの評価をさせて頂きます。」

「評価?」

 私達が登録した時にはなかった事だ。登録した後に出来た制度なんだろうか?

「評価といっても、難しい事ではありません。一月の間、指定された階級の依頼達成に関して確認させて頂きます。主に納品や街の手伝いといった依頼です。依頼内容とは違う物を納品する、達成予定日数より超過する、依頼を失敗するといった事が多く認められた場合、冒険者登録をする事が出来ません。魔物との戦闘に関してはこの評価には含まれませんが、評価後に魔物との実戦試験を行い、合格後に正式な登録となります。」

つまり、依頼をちゃんとやれるかどうかの評価を付けるという事なのか。

「ヴィオさんは魔物との戦闘経験があるとの事なので、魔物討伐の依頼を受けることが出来ます。依頼中に倒した魔物の部位を持ってきて下さい。そうすれば、実戦試験が免除されます。……何かご質問はありますか?」

「達成する依頼の数は?」

「最低でも三つは達成してください。依頼内容は問いませんが、先程申し上げた通り、実戦試験を免除したい場合は、魔物の討伐はなるべくされた方が良いです。」

それなら、特に問題はないか。この刀も使い慣れないといけないし、なるべく魔物を倒す様にしよう。

「分かりました。ありがとうございます。」

「では、仮登録を致します。こちらに手を置いてください。」

 ウェルゼさんは、石盤の上に紙を乗せたまま私の前に置いた。私は言われた通り、その石盤の上に手を置く。すると、石盤が輝き始め、上に乗っていた紙が石盤へと溶け込む。そして、石盤の上に光の球体が現れ、文字を描くように素早く動き、少しずつ一枚のギルド証が現れる。光が消えると、灰色のギルド証が出来上がっていた。私はそれを取って、近くで見てみた。

「これで仮登録は終わりです。正式な登録がされたら、ブロンズ階級のギルド証を発行します。それで、このまま依頼を受けますか?」

「……今日は疲れているので、明日からでお願いします。」

多少荷馬車で仮眠はしたものの、まだ疲れが残っている。無理して失敗しても駄目だから、万全を期して明日からやっていこう。

「かしこまりました。では明日、あちらの依頼板から、ブロンズ階級の依頼書を受付に持ってきて下さい。ヴィオさん、頑張ってください。」

 ウェルゼさんは微笑んで一礼をした。私はお礼を言い、ギルドから出た。そして、大きく息を吸い込んで吐いた。

「さて、宿探しに道具を買い揃えないと。」

「キュウ!」

ポスが起き上がって鳴いた。私はポスを撫でて、ギルド証を掲げた。

「ここから、もう一度スタートだ。」

ギルド証をポーチの中に入れ、私達は街へと繰り出した。

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