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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
8章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でのんびりする。

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聖女ちゃんと和解のひと時

「ん~っ! はー……体なまっちゃうわね。帰りに適当な魔物見繕って殴り殺していこうかしら」



 どうにか円満に終わった話し合いだったけれど、あたしとしては物足りない。

 せっかく指とか腕を血塗れにしたのにその甲斐がないというか、何かを殴りたい欲がもりもりとわいてきた。



「み、ミーシャさん、その前に治療をしましょう? その手では支障が――」



「ほっとけば治るわ!」



「治るかバカ! ちょっと見せてみろ」



 甲斐甲斐しくあたしの腕を治療するテッカ、本当に世話焼きというか面倒見がいいというか、ガイルと一緒だったからかその能力が培われたのか、あたしに判断は出来ないけれど、最近はすぐにこうして構ってくる。



「あんたも大変ね」



「……そう思うのならせめて俺の前で無茶をしないでくれないか? まったくガイルといいアルマリアといい、どうして傷ばかり作ることは得意になっていくんだ」



「何だか、テッカさんが苦労しているのが本当にわかります。ミーシャさんもあまり無茶をしては駄目ですよ?」



「無茶じゃないわ。こうして何ともないんだし、それを無茶と呼ばないわ」



「いや呼ぶわよ。なんでいきなり大教会使ったのよお前は」



「手っ取り早いから」



 頭を抱えるテッカとアヤメを横目に映しているとセブンスターとイルミーゼがジッとあたしを見ていた。



「なに?」



「……いや、あれだけ凄まじい圧を出しておいて、随分涼しい顔してるなと」



「それにあれはなんですか? 聖女というのはあれほどまでに強大な力を持っているものなんですの?」



「うんなわきゃあない。このバカが特別だ」



 あたしはアヤメの脳天にげんこつを落として黙らせると、プリマがアヤメに飛びついたのが見えたけれど、それを無視して何か質問したそうなセルネに目を向ける。



「それで、実際あれは何だ? 血冠魔王の配下と戦っていた時も使っていたようだけれど、俺たちはよくわからなかった。それにさっきテッカさんたちが大教会と……どこかで聞いたことがあるんだが、ど忘れしてしまった」



「大教会……それは、もしや大聖女・フェルミナ=イグリース様の奇跡のことですわよね?」



「それよりいくらも性質が悪いらしいがな。フェルミナ様のそれは本当に人々を救うために、月神様由来の癒しと安らぎを与えられるものらしいが、ミーシャの場合は神獣様の闘争と戦いを振り撒く圧倒的暴力の疑似的神域らしい」



「……お前本当に聖女か?」



「見てわかるでしょ」



 ジンギが首を傾げながらあたしを見てくるけれど、その視線は少々失礼では? と、手近にいたセルネを引っ叩く。



「なんで!」



「頑丈だからよ。今この場であたしのげんこつ喰らって意識を保っていられるのって、あんたとテッカとクレインとアヤメだけなのよ」



 クレインがスッとあたしから距離をとったのは見逃さない。あとで殴ることを決めた。



「それでセブンスターとイルミーゼ、あんたたちはこれからもリョカ討伐隊を組むだけ(・・)なの?」



「なあグリムガント、お前が俺たちに怒っていたのは――」



「あんたたちが弱いからよ、組むのならもっと強くなってからになさい。さっきも言ったけれど、あたしもリョカも、戦いを挑まれるのは良いの。だって魔王だもの、あんたたちにはその権利があるわ。でもね、弱い奴がただ徒党を組んでも、それはただの虐殺だわ。リョカをそんな魔王にはしたくない」



「本当に無茶苦茶な聖女だ」



「そんなことないでしょ。リョカはそう言うのも含めて魔王になったのよ? だから別に、あんたたちや魔王を恨んでいる奴らの戦いを止める権利なんて誰にもない。裏でコソコソしていないで、正面からぶつかってきなさいよ」



「ミーシャかっけぇですわ! わたくしも真似したいですわ! だいきょうかい? 使ってみたいですわ!」



「いや、シラヌイには無理だろ」



「諦めろカナデ、シラヌイには無理だ」



「カナデちゃんじゃ無理よぅ。だから真っ当に精霊使いを極めようよぅ」



「もう! 皆さん酷いですわ! プリマも格好良くて強い精霊使いだと嬉しいですわよね?」



「プリマはカナデちゃんが楽しくしてればそれでいいよぅ。ミーシャが歩む道なんて焦土だから、きっと誰も笑ってないよぅ」



 プリマを持ち上げ、あたしは半目で睨む。すると獣はビューんとカナデに飛びつき、彼女を盾に隠れてしまう。



 そうして空気が緩くなったところで、ジンギが大きく深呼吸していた。



「おいグリムガント、俺たちは魔王リョカ=ジブリッドと戦ってもいいんだな?」



「今のままだと瞬殺よ」



 ジンギが舌打ちをして視線をどこかに投げると、セルネでそれを止め、頭を掻き始めた。



「ジンギ?」



「あ~、そのなんだ……セルネ、まあ、あれだ」



 大柄なおっさん顔が照れてる様が癪で、あたしが拳を構えると、何かを察知したテッカに羽交い締めにされる。



「すまなかった」



「――っ! ううん! いや、うん。また、俺と一緒にいてくれるかい?」



 差し出されたセルネの手を控えめに握ったジンギに、あたしはムカつき、信仰を拳に込めるのだけれど、今度は身体強化したクレインまであたしの体を押さえつけたために、動くことが出来ない。



「み、ミーシャ様、今は大人しくしていましょう!」



「……セブンスター、図体だけデカくてなんか苛立ってくるのよ。おっさん顔の照れ顔なんて誰も喜ばないわ」



「どうしてお前はそう気が早いんだ。男には気恥ずかしい時だってあるんだ、察してやれ!」



 テッカとクレインの拘束を無理矢理解き、あたしは舌打ちをした後、セルネとセブンスターを視界に入れないようにソフィアとイルミーゼに目を向ける。



「カルタスさん、別に私に気を遣わなくても良いですわよ」



「そう言うわけにもいきません。昔、あなたのお父様から、あなたのことを任されたこともありますので」



「そんな昔のこと、まだ覚えていたのですわね」



「はい、あの頃は2人で勇者様のお話を聞くのが本当に楽しかったですから」



「――」



 ソフィアの言葉にイルミーゼが照れている。



「こっちはこっちでじれったいわね。とりあえず地面殴るわ」



「この聖女沸点低すぎだろ。お前本当にリョカ以外だと当たりが強いよな」



「いや、ミーシャはリョカに全力パンチしていますから、別に当たりはどっこいだと思いますわ。それよりもたまにしてくれるミーシャのなでなでは気持ちいんですわよ」



「……この娘は娘で随分自分の速度を貫いているな。これがシラヌイか」



 テッカがぼやいているのを聞いていると、ジンギが近くに寄ってきた。



「おいグリムガント、セルネはお前たちと行動を共にして強くなったそうだな。俺たちも混ぜろ」



「……丁度良いわ。ねえテッカ」



「ん? ああそうだな」



「何の話だ?」



「明日、ガイルとテッカ、ついでにアルマリアも引っ張り出しましょうか。この3人がみんなを鍛えるためにボコボコにしてくれるそうよ。あんたたちも参加なさい」



 呆然とするセブンスターとイルミーゼにあたしは牙を見せて嗤う。



「強制参加よ、良かったわね。あんたたちは殻を破る環境が整い始めた。自信も期待も何もかも、一度バラバラにぶち壊してもらいなさい。その上で自分で踏み固めなさい」



 何か言いたげな2人を無視してあたしはプリムティスに向かって歩みだす。

 明日は何か楽しいことがありそうだと、あたしの足取りはどんどんと軽くなっていくのだった。

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