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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
8章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でのんびりする。

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魔王ちゃんとVS空間越えの最大火力幼女

「あ~、エレノーラ持って行かれた」



 バレているだろうとは予想していたけれど、まさかエレノーラとテッカを持って行かれるとは考えていなかった。

 ミーシャが2人を悪いようにするとは思えないけれど、一体あの子、何をするつもりなんだろう。



 僕たちは今、ギルドの3階にあるアルマリアの仕事部屋、つまりギルマスルームで商談をまとめていた。



「なあリョカ、昨日から思ってたんだが、お前さんまさかあのクマから喝才でスキル引き出してねぇか?」



「え~、リョカちゃん何のことかわからにゃい~」



「……それとよ、お前あれって一度クマになったら出し入れ自由なんじゃないか?」



 ジッと見てくるガイルの視線を躱すと、お父様もヘリオス先生も、アルマリアも僕のことを見ていた。



「次は本気で戦おうね」



「恐ろしい魔王様だよお前は。で、さっきから何やってたんだ?」



「ああうん、やっぱ向こうが気になっていたから、グリッドジャンプを選択して座標と座標を繋げて空間を開けっぱなしにして、エレノーラ……可愛いクマさんを向こうに半分だけ出して、アークボイスを使ってもらって声を視認して『触れ合う視界(アンダーバースイッチ)』を使ってずっと見てただけ」



「お前どんな頭の処理してんだよ。一度にどれだけのスキル使えるんだ?」



「さあね、引き出してみたら?」



 勝気な表情をしていると、ガイルに頭をグリグリとされてしまい、僕はそれを素直に受け止める。



「……」



 しかしふと、アルマリアが浮かない表情で僕を見ており、首を傾げて彼女に視線を返す。

 すると何か決意をしたように頷き、口を開いたのが見えた。



「あ、あの~、ジークランスさん、ヘリオスさん、少しお願いしても良いでしょうかぁ?」



「へ? ええ、大丈夫ですよ何でしょうか?」



「リョカさんを少しお借りしても良いですかぁ?」



「え、僕?」



 頷いたアルマリアが自室から出て僕に手をこまねいた。付いて来いという意味なのだろうけれど、どうにも彼女が神妙な顔をしており、僕は隣にいるルナちゃんと顔を見合わせる。



 すると事情を察しているのかガイルが頭を掻き、ため息を吐いた。



「あ~リョカ、アルマリアはあんな見た目と喋り方をしているけど責任感は多分俺より強い」



「う、うん、ラットフィルムでガイルたちに会いに行く時からそんな感じしてたから、それはわかるけれど、一体何?」



 アルマリアはガイルたちに会いに行く前、村で休ませてもらう準備を整えていた。けれどその村はロイに侵され、村人は誰も残っていなかったのだけれど、それは当然アルマリアの責任ではない。

 しかし彼女は本当に思い詰めていたように見えた。ただ優しくしてもらったという理由でギルドマスターは誰よりも血冠魔王への敵意を濃くした。



「俺たちもそこまで歳食ってるわけじゃねえけどよ、アルマリアもまだ若い。ちっと受け止めてやってくれねぇか?」



「……これでも僕、まだピチピチの新成人なんだけれど?」



「天下の魔王様がケチくせぇこと言うなよな」



 僕は肩を竦めてため息を吐き、アルマリアを追って階段を下っていく。



「あれ? マスターたち、もう終わったんですか?」



「ううん。マナ、ちょっと地下を開けて」



「え? 地下?」



「そぅ、今からリョカさんのAランク昇進試験をしますのでぇ」



「と、突然ですね。それなら何かの依頼を――」



「必要ないよ~。リョカさんはすでにそれに準ずる依頼を達成してるから~」



 マナさんが話をしながらも受付の中にある一際大きな扉を何かのスキルを使って開け始めた。

 扉が開ききるとそこには地下へと続く階段があり、アルマリアがマナさんに一言礼を言ってどんどん進んでいった。



「マスター」



「観に来たい人は来ればいいよ~、リョカさんもそれで良い~?」



「ええ、大丈夫です」



 扉が開いた時、地下特有というのか、いつから使っていないのかはわからないけれど、どうにもかび臭い匂いがした。

 けれどそれよりも僕が引っかかったのは、その臭いに紛れて戦いの残り香を覚えた。



 いやな予感をひしひしと覚えながら、僕たちは階段を下っていく。



「ここは」



 地下に降りるとそこには闘技場らしき空間が広がっており、あちこちには戦いの傷跡が残っていた。



「先々代――つまりこのギルドを創設した人がそれはもう戦闘狂で~、ギルド員の力試しの場として作ったと聞いています~。私も2回ほどしか来たことがありませんけれど~、結構丈夫なはずですよ~」



「……アルマリア、ちょっと拗ねてる?」



「はい。リョカさんったら、私の知らないスキル運用をどんどん見せてくるので~私もガイルさんたちの真似をしたくなりました~」



 この流れは――ガイルとテッカに限ってはそういう気にもなった。

 けれどアルマリアの場合、少し彼女の弱みを見過ぎてしまった。同情や軽蔑ではないけれど、どうにもそう言う雰囲気に移行しにくい。



「リョカさん、私はきっとあなたにはか弱いギルドマスターに見えていますよね」



「え、いやそんなことは」



「いいえ、私もそう思っていますから……では始めましょう。リョカ=ジブリッドさん、あなたがAランク冒険者に相応しいかどうか、私に試させていただけませんかぁ?」



 拒否権は……ないなこれは。

 僕は頭を掻き、闘技場の中央にいるアルマリアの元まで足を進める。



「ああそうだリョカさん、私は第2ギフトも使いますけれど~、大丈夫ですよね」



「僕まで1つしかないか弱い女学生なんだけれど」



「もう油断しません~。リョカさんをか弱いと思っているのは多分ジークランスさんだけですよ~」



「ひっどいことを言うなぁ」



 そんな軽口を叩きながらも、アルマリアがじりじりと距離を詰めてきている。



 闘技場の観覧席に流れ込んできた他の冒険者たちが息を呑んで見守っている中、僕は、来るかな。と、アルマリアの出方を待つ刹那、彼女がトイボックスから取り出した大槌を手に突っ込んできた。



「行きます!」



「ありゃりゃ先手必勝――僕がね」



 指を鳴らしてアルマリアの足元に指を鳴らして魔王オーラを投げる。そこから現闇で生成した巨大な拳を発生させ、彼女を打ち上げる。



「ツッ!」



 アルマリアが大槌で拳を防ぎながら飛び上がって行ったのを横目に、さらに空中で設置していた現闇を起動させる。



「おいおいリョカの奴、あんなのいつ設置した――ってグリッドジャンプか!」



 客席で驚きの声を上げるのだけれど、初見で看破する辺りさすが金色炎の勇者だと彼に笑みを向ける。

 ガイルの言う通り、僕はグリッドジャンプであちこちに現闇を投げ入れ、そこら中に罠を設置した。



 空中でアルマリアが大槌で現闇での攻撃を防いでいる中、僕はさらに追加で次々に現闇を設置していく。



 そろそろ降りてくるかな。と僕はどうにもやる気というか、真剣みが表に出てこなかった。

 さっきも言った通り、アルマリアを侮っているわけではない。けれど僕が最後に戦った相手は血冠魔王・ロイ=ウェンチェスター、戦闘に飢えているわけではないけれど僕の中の基準が大幅に更新されてしまっていた。



 あれほどの緊張感、あれだけの戦闘圧は今ここにはない。



 そんなことをぼんやりと考えていると、空中のアルマリアと目が合った。



 そして僕は大きな勘違いをしていたことを初めて理解する。



 途端、アルマリアの姿が消えた。違う、グリッドジャンプで僕の目の前に移動してきた。

 アルマリアは大槌を振りかぶり、僕に攻撃を繰り出した。



 目が合った一瞬、彼女の放つ戦闘圧に思考が遅れた。

 あの時ほどの脅威的な圧がない? 馬鹿か僕は、今目の前にいるのはゼプテン冒険者ギルドギルドマスター・アルマリア=ノインツ。空間越えの戦闘狂。



「『撃ち抜け(センスガンズ)』……『極星圏の槍(インパクト)』!」



 アルマリアが振るう大槌が視界に入った瞬間、僕の脳にけたたましいほどのサイレンが鳴る。

 避けろ、躱せ、あれを喰らったらただでは済まない。



 避ける、無理。受け止める、無理。受け流す、不可能――。



 脳を最大限に回す。回しすぎて焼ききれても良い。ただこの攻撃はかわさなければならない。



「ああもう! グリッドジャンプ!」



「え――」



 大槌が目の前に迫る直前、魔王オーラを大槌に当てると、その巨大な武器からあり得ないほどの衝撃が発生した。

 僕はすかさず手をかざし、その衝撃を反対の手に設置した現闇の座標にジャンプさせる。



 僕を亜空間を通して通り抜けた衝撃はガイルの神気一魂にも劣らないほどの破壊力で、背後の壁をぶち抜いて行った。



「あぶ、あぶなっ!」



「……凄い威力、あれだけの手数と威力(・・・・・)でしたか~。それに衝撃をグリッドジャンプで躱す。勉強になります~」



 涼しい顔で言うアルマリアとは正反対に、僕の額からは脂汗が流れた。



 彼女の今のスキル、空を超える者ではない。ならば第2ギフトなのだろうけれど、予想は出来るけれどまだ確定はしていない。



 僕は呼吸を整えると、戦いの気配をゆっくりと纏っていく。



 彼女は本気だ。

 それならば、僕もそれに応えなければならない。



 侮ることはないと高をくくっていたけれど、僕も大概、調子に乗っていたようだ。



 チリチリと空気が震える感覚に、僕は口角を上げて嗤うのだった。

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