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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
1章 魔王ちゃんと聖女ちゃんの学園生活。

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聖女ちゃん、奇跡に異を唱える。

「じゃあミーシャ、あとはお願い」



「待ちなさい。喧嘩売られているわよ、買いなさいよ」



 あたしは逃げ出そうとするリョカの腕を掴み、喧嘩を吹っかけてきた男子生徒を睨みつける。



「いやいやいや、どうして君はそんなに好戦的なの? 仮にも聖女でしょう」



「それは関係ないでしょう? そこの奴が何の理由もなく喧嘩を売ってきたのよ、あたしたちはそれに文句を言う資格があるわ」



 大口を開けて呆然としているリョカだけど、いきなり現れて魔王だと声を上げる無礼な輩に、一体何を遠慮する必要があるのか。

 リョカは昔からそうだ、自分から迷惑をかけに行くくせに、他人から向けられる敵意やら悪意にはどこか諦めたような態度で挑む。



 子どもの時から彼女はそうだった。

 自分が何をしているのかも、その事柄で誰がどう受け止めるかも理解している。でもリョカにはそれをしないという選択肢はない。その結果、いつだって悪意にも敵意にも無防備だ。

 腹立たしいことにあたしはそれが許せない。



「貴様が魔王だな」



「そうよっ」



「いやミーシャは聖女でしょ」



 あたしは立ち上がり、明らかリョカに敵意を向けているこの男子生徒を睨みつける。



「む、あなたは確か聖女のミーシャ=グリムガントさん、さっどうか俺――勇者のギフトを持つセルネ=ルーデルの背に」



 あたしは自分の額に青筋が浮かぶのを感じた。

 イライラする。一体このひよっこ勇者は何を見てリョカを敵だと断定し、何を想ってあたしを守護する対象だと認識したのか。

 あたしはそこまで弱くはないし、なによりリョカはあいつに倒されるはずもない。



「ちょ、ちょっとミーシャ顔怖いから。ってそうだ先生、2人を止めてくださいよ」



「……いや、今回は見守ることにします」



「なぜぇっ! 勇者と魔王の激突でしょう、他に被害が出るかもですし」



「すでにその2つの関係ではないと思いますよ。それに私は、生徒の自主性を育みたいからね」



 ヘリオス=ベントラー先生が一度あたしに視線を向けた。

 きっといい先生なのだろう。リョカもよく授業がわかりやすいと話していた。



「魔王め! なぜここにいるのかはわからないが、勇者である俺が来たからには好きにはさせないぞ」



「学生だからここにいるし、学校は学ぶための場所で好き放題する場所じゃないよぅ」



「君は本当にまともな生徒ですね。私が知る問題児たちに見習わせたいほどだ」



 確かに昔から学校で暴れたことはなかった。リョカが何かをするのは大体学校から出た場所か家か街の外であった。

 けれど、どうにも普段より覇気がないように感じる。そもそもこういう時だからこそリョカのいつものが発動してもおかしくはないはずとあたしは訝しんで彼女に目をやる。



「あんた、いつもみたいに可愛いをどうこうって言わないの?」



「え? あ~……相手が勇者だしなぁ。正直今そこに労力を割きたくないというか、今はまだ好感度足りないかなぁって感じ」



「わけわかんない」



「聖女様、あなたはこちらに」



 リョカは勇者に嫌われているということを許容している。ギフトの関係上、それは当然なのかもしれない。魔王は世界に災いをもたらす者で、勇者は災いを払う者だ。いがみ合うのは当然かもしれない。でも、少なくともリョカは他人に迷惑を掛けることはあるが、災いをもたらしたことは一度もない。



 というか、あいつはあいつでひどく喧しい。迷惑と言うのであればあたしはリョカよりもあのひよっこ勇者の方が万倍も煩わしい。



「ミーシャ、お願いだから変な気を起こさないでよ」



「あたしはいつだって正しいことをしているわ」



「それが心配なんだけれど」



 そう、そうよ。あたしは正しい。だって聖女のギフトを持っており、主の教えに従っている。やっぱりあたしは正しい。

 うん、そんなことわかりきっている。

 でもあたしは、それを癒しだの救いには使えない。

 目の前にある()を放置して何が聖女か。目の前の無秩序を知らんぷりして何が聖女か。誰かが悪意にもまれる様を良しとして見てみぬふりをして何が聖女(おさななじみ)か。



「『信仰こそが我がきせき(リリードロップ)』」



 あたしは小さく呟くと同時に勇者の傍に近寄った。



「ああ聖女様、やっとこちらに――」



 あたしは奇跡なんて起こさない。そんなものに頼るつもりもなければ、そんなもので世界を救われてたまるか。

 あたしからの主への想いは、あたし自身が抱える力。奇跡などでは到底叶えられない主の願い(あたしのわがまま)



「ふんっ!」



「え――」



 腕をしならせ、あたしの拳はひよっこ勇者の顔面を捉え、足を踏み込み腰を回し、今ある信仰を、今あるありったけを、体すべてで叩き込む。



「永遠に寝てなさいっ」



「うぎわぁッ!」



 腕を振り抜き、ひよっこ勇者を食堂の壁までブッ飛ばす。

 壁に激突した彼は鼻から口から血を噴き出し、舌を出しっぱなしにして意識を手放したようだった。



「よし、平和になったわ」



「え、どこが? これが聖女式和平術なの?」



「静かになったんだから良いでしょう。もう行くわよ」



 リョカが頭を抱えている。何も間違ったことをしたわけではないのだから胸を張ればいいのに。あたしは頬を膨らませると歩んできた彼女に向かって構える。



「なぜぇっ!」



「勇者が魔王を嫌うのが当然。なら聖女は? 当然じゃないの?」



「……怒ってたのならもっとわかりやすくしてくれない。ミーシャが怒ってくれていたのなら、僕は平気なんて言わないよ」



 そう。とあたしは短く返事をする。

 少し機嫌が良くなったあたしは空の弁当箱をリョカに向かって投げて美味しかったと言った。



「はいはい、明日はミーシャの好きなものを中心に入れるよ」



「ん――」



 先生に頭を下げるリョカを横目に、教室に戻ろうと足を進めるのだが、そこに轟音が突然耳に届いた。



「っとぉ、なになに?」



 辺りの生徒たちが騒ぎ出す中、リョカとヘリオス先生だけが落ち着いていた。

 そんな2人の元に男子生徒が駆け寄ってきた。



「リョカさんもいるんなら丁度良い。先生! スキルが、スキルを暴走させた奴が」



「え? 丁度良いって」



 リョカが先生の方を見て首を傾げると、気絶している勇者を指差した。



「私たち教員ももちろん鎮静をするのだけれど、こういうのは勇者が中心にやることだったのだが、たった今しがた今年の勇者が再起不能になってね、出来れば同程度の力を持っていて尚且つスキルを上手く扱える者に手伝ってもらいたいのだがね」



「ミーシャ」



「あたしも行くわよ」



「いや1人で行けよ。誰のせいだよ」



「こんな緊急時に寝ている奴の所為でしょう」



「そういうの、責任転嫁っていうんだよ」



「そう、あの勇者も幸運ね。あたしに責任を押し付けられるんだもの」



 がっくりとうな垂れるリョカに微笑んで見せて、彼女に手を差し出す。



「さっさと行くわよ」



「はいはい」



 あたしたちは、爆発が起きた場所を目指して駆け出すのであった。

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