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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
8章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でのんびりする。

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魔王ちゃんとのんびり商談

「……なるほどね」



 僕は戻ってきた(・・・・・)拳サイズのクマのぬいぐるみを撫でる。



「ありがとうエレノーラ」



「ふぇ? リョカさん何か言いましたかぁ?」



「いいえ。さて、冒険者ギルドはヘリオス先生と作ったこの非常食を市場に出してほしいとのことだけれど、どうお父様、出来る?」



「ふむ、ヘリオス殿とお前に見せてもらったこのレシピだが……準備期間をくれるのであればうちから出すことは可能だな」



「そう、それなら――」



「その前に、ヘリオス殿とお前の分け前だ。レシピだけもらってはい出しました。というわけにはいかないだろ」



「ああ、僕は別にいいよ。これはほとんど先生作だし」



「君の助言がなければ作れなかったがね。正直、私は作るばかりで、尚且つ教育者しか経験がない。商いのことになるとてんで頭が回らない。君が降りてしまうと、私はどうにも動けなくなるのだが?」



「ああはい、わかりました。じゃあこうしましょう。お父様、先生を専属で雇ってよ」



「その心は?」



「先生のギフトは商品開発にとても有用だし、僕もしょっちゅう頼っている。僕は先生に商品の提案と支援、先生は僕の提案したレシピをお父様に売る。お父様は商品の量産してそれを売る」



「お前はどこで儲ける」



「そうそれ。正直僕は商人にはならないからね。だからこうしよう、出来上がった商品の広告を全部やらせて」



「広告?」



「そ、冒険者だって馬鹿じゃない。効果のない商品なんて買わないでしょ? だから僕が最初に使用してその使用感や効果、それらを記したカタログ、雑誌……とにかく、それらを載せた本を書く。ギルドは商品と一緒にそれも買ってくれると難なく冒険者に商品が回ると思うよ」



「う~んと、つまりリョカさんが商品について説明した書物をギルドに置きたいってことですよねぇ?」



「そうそう、ここのギルドなら僕の名前があるだけで信用はそれなりにあると思うんだけれど、どうかな?」



「……うん、それなら良いかもしれません。このギルドでリョカさんを疑う人はいませんからぁ」



「つまり、お前は商品開発とは別にその広告で稼ぐってことか」



「そっ、そもそもさっき言ったように、先生に頼んでいる物は僕が必要だから頼んでいるのであって、僕自身それを商売にするつもりはない。だけれど広告塔になれるのならそっちの方がアイドルっぽいから優先したい」



「お前は本当にそればかりだな。だがわかった、俺はヘリオス殿から商品のレシピを買い、その商品の説明でお前は書物を売る。俺は商品を量産化して市場に出す。こんなところか?」



「うん、先生はこれでどうかな?」



「先ほど言った通り、私は商いには詳しくはないです。その辺りのことは、あなた方を信用していますよ」



「一番言われたくないことを言われちゃったねお父様」



「……まあ、ああそうだな。だがジブリッドの名に懸け、その信用を落とすわけにはいかないなリョカ」



「そうだね。あくどいことは可愛くないし」



「格好良くないからな。何より」



「楽しくない」



 少年のように笑うお父様と拳をぶつけて合わせ、ヘリオス先生に渡す僕がジブリッド商会で考案した契約書の作成を急ぐ。

 すると、呆けたように見ていたガイルが喉を鳴らして笑っていることに気が付き、僕は彼に目を向ける。



「いや、流石親子だな」



「まあね、これでもパッパのことは尊敬しているんですよ~」



「それなら俺が敷いた道を歩んでくれないかねぇ」



「お断りだい。こういうのは、あっちこっちに道を伸ばしていつか交わった時、相変らず僕の前で大きな背中を見せてやるくらい言っといてよねお父様」



「お前に追われるのは大変なんだけれどな」



「やりがいはあるでしょ?」



 そう言ってウインクすると、お父様が頭を撫でてくれ、僕は顔を綻ばせて喜ぶ。

 何だかんだ、こうやって大人に撫でられるのは嬉しい。

 私であった時分、どれだけ撫でられてなかったのかと悲しくなるが、そんなことは忘れ、今はこの気持ちよさを受け入れよう。



「お前撫でられるの好きだよなぁ」



「まあねぇ」



「ミーシャが言っていたぞ。リョカは惚れっぽいからあんまり甘やかすと後で面倒と」



「……あのゴリラ聖女め」



 契約書が出来上がり、それをヘリオス先生に渡すと、お父様が苦笑いを浮かべていた。



「父親としてはその辺りは少し心配なのですがね。何と言っても1人娘ですし」



「そりゃあそうだな。おりゃあ子がいたどころか、嫁すら現れねぇけど、これだけ目を離せないのが娘だったら、正直外に出したくはねぇな」



「確かにな。家で大人しくしていてくれと思うな」



「学園では人気ですからね。彼女を慕う者は結構いますよ」



「ウっ、やはりそうですか? ということはギルドでも……」



「人気だな。誰にでも平等に接するし家事も出来る。実力もあるし気も利く。それにその見た目だ、若い冒険者どもは夢中になってんな」



 お父様が頭を抱えているけれど、僕はそんなに惚れっぽいだろうか? いやそもそもの話、慕っていると言われているけれど、そんなアプローチなんて受けたこともないのだけれど。




「ああだが、心配する必要はないぞジークランス殿」



「だな、リョカに色目なんて使ったら翌日には街のどこかで地面と同化することになるからな」



「学園でもそうですね。校門に首が並んでいると思ったら生徒が埋まっていましたよ」



 僕はフッと息を吐き、その元凶がいる方向に目を向ける。



「あんのメスゴリラ! 僕の婚期をどれだけ遠ざけるつもりだ!」



「まあいいじゃないかリョカ、これからもミーシャと仲良くな」



「何嬉しそうな顔してるのお父様? ジブリッドの血が潰えるよ」



 男連中が笑っている中、僕は頬を膨らませる。するとアルマリアとマナさんが生暖かい目をして手をこまねいているのが見え、すぐに目を逸らした。



「まあでも、リョカさんは素敵ですからねぇ。学園でもそういう意中の男性とかはいらっしゃらないんですかぁ?」



「……というか散々言ってくれているけれど、僕魔王だからね? 誰が貰ってくれるのさ?」



 瞬間、シンと静まり返り、全員が目を逸らした。

 魔王は結婚すらできないのだろうか。と、少しだけ残念に思っていると背後から凛と鳴る音がし、何かが背中に飛び乗ってきた。



「こんなに素敵なのに、見る目のない方が多いのでしょうか?」



「本当ですよね、もうルナちゃんとずっと一緒にいようかなぁ」



「大歓迎ですよ」



 背中から降りて腕を伸ばしてきたルナちゃんを抱っこし、僕は彼女の頬に頬を擦りつけた。



「きゃぁ」



「おじさんたちがイジメるからルナちゃんで癒されますよ」



 するとこの場の面々が頭を抱え始めた。



「というか女神付きの魔王なんてマジで畏れ多すぎて手なんて出せねぇよ」



「……改めて、月の女神さまはリョカさんと仲良しなんですねぇ」



「我が娘ながら、とんでもない絵面を見せてくれる」



「学園にどう報告したらいいのか正直困っていますよ」



「みなさんももっと気軽にルナちゃんと呼んでくれてもいのですよ。抱っこされると嬉しいです」



「ルナちゃんをギュッとすると良い匂いするんだよ」



「……リョカ、頼むから俺たちをそこに巻き込まないでくれ。それと神獣様に服を着せても俺には見せないでくれ」



 全員が目を逸らしている中、僕とルナちゃんは小さく笑い声を上げる。



 そして僕はそのままルナちゃんの傍で口を開く。



「あっちは良いんですか?」



「ええ、わたくしはリョカさんの足止め係に任命されましたから」



「女神を顎で使うとは、あの聖女は本当にやりたい放題ですね」



「楽しいですよ。でも流石ですね、亜空間から半身を出したクマさんが見えた時は笑ってしまいそうでした」



「心配だったからね」



「手を貸さないのですか?」



「それは望まれていないからね。それにセルネくんたちなら大丈夫だよ、何だかんだミーシャも一緒だし、特に心配はしてないかな」



「そうですか」



 僕はルナちゃんを抱っこしたまま、椅子に腰を深く落とし、勇者とその仲間たちの活躍に想いを馳せながら、のんびりと流れる時を体で感じるのだった。

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