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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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魔王ちゃんと古き魔王さん

「随分とボロボロじゃない。だから待っていろって言ったでしょ」



「返す言葉もねぇな。先輩風を吹かした結果がこれだ。存分に笑ってくれ」



 僕はガイルを指差して腹を抱えて笑ってみると、彼が顔を引きつらせ、額には青筋を浮かべ始めた。



「おめぇ少しは加減しろや!」



「やぁだよっ」



 僕たちのいない場所で諦めて勝手に終わらせようとした金色炎の勇者へのちょっとした悪戯だ。

 僕たちはまだ、2人に死んでほしくなかったし、ここで折れる姿なんて見たくもなかった。



 ならばこそ、この場は茶化してしまおう。せめて笑い話になるように、精一杯の可愛さを振り撒いてやろう。



「こっちはこっちで伸びているし。ほらアルマリア、いい加減起きなさい」



 と、ミーシャから少し目を離すと、幼馴染がアルマリアさんの傍に寄り、小さく揺れているかのような幼くも見えるギルドマスターのお腹に拳を落とした。



「むぎゅっ!」



「お、おい無茶すんな。結構頑張ってたんだぜ」



「知らないわよ。こんなところで寝ていたら邪魔でしょうが」



「ミーシャはもうちょっと優しさをわかりやすく伝えるようにしようね」



 僕は大きく息を吸い、歌を唄ってガイルとテッカ、アルマリアさんの傷を癒す。



「ふぇ? あ、あれ? ミーシャさんとリョカさん? 追いついたんですかぁ?」



「追いついたんですか? じゃないわよ。まったくなんて様よ」



「あっ、そ、そうでした、血冠魔王は――」



 アルマリアさんが視線を血冠魔王こと、ロイ=ウェンチェスターに向け、戦闘圧を纏い始めたのだけれど、ミーシャが彼女の脳天に拳を落とし、それを引かせる。



「本当にお前は口より先に手が出る奴だな。一言いえばアルマリアも止まるぞ」



「殴った方が早いじゃないの」



 ミーシャがアルマリアさんの手を引き、ガイルとテッカの傍に腰を下ろした。



「お、おいミーシャ?」



「リョカ、さっき言われた通りにあたしはすればいいのね?」



「うん、ミーシャがそこにいてくれるだけで、僕は安心して戦えるよ」



「そっ、それならあたしはここで黙っているわ」



「おいリョカ、どういうつもりだ?」



 テッカが睨んできたけれど、僕は呆れた目でそれを返す。



「どうもこうもないよ。僕ちゃんとブラッドヴァンだって言ったよね? 何でそれがわかっていて火力だけで押そうとしてるのさ?」



 ガイルとテッカ、アルマリアさんが同時に目を逸らした。



「ブラッドヴァンの厄介なところは、血液さえあれば分身を作れることだって知ってるでしょ。いつまで分体と戦ってるのさ」



 ガイルたちが勢いよくロイに目を向けた。



「分体、だぁ?」



「まさか。いくらブラッドヴァンの分体といえども、ここまで強力な力は出せん」



「うん、普通ならね。ねぇロイさん、あなたが使ったスキルは、ブラッドヴァンの血思体、神官の『守護天使(アークブリューナク)』そして――」



 僕は眼前で佇んでいるロイさんに向かって指を弾いて首を飛ばす。



「傀来だよね? 血思体の分体をアークブリューナクによる強化、そして傀来によって魔王の家来にして能力を底上げ。そんなところかな?」



 本来傀来は他人に使う技だ。けれど血思体というブラッドヴァンのスキルは、血の記憶を読み解くことでその形を成すスキルであるために、同じ力を持ってはいるが、別人あつかいになる。



 それを傀来によって操ることで、今まで隠れてきたのだろう。



「血思体の分体ってさっきテッカが言ったように基本的には弱い。でも神官の最終スキルのアークブリューナクは使用者の信仰の質によって上限が変わるスキルだから、強化スキルとしては上位に位置する。しかもそれを傀来で底上げなんてしたら、血思体の本来の力は本体の2割ほどだけれど、それだけ強化しちゃえば8割くらいまでなら届くんじゃない?」



 僕は指を鳴らし、この部屋で大きく血だまりが広がっている個所に、闇現で生成した拳を落とした。



 すると、笑い声と共にそこからロイ=ウェンチェスターが拍手をしながら現れ、品よく頭を下げた。



「いやはや、やはりやはり貴女は素晴らしいですね」



「そりゃあどうも」



 僕はその言葉を適当にいなし、ガイルたちに目を向ける。



「クソ、またかよ」



「よもや本体とすらまみえていなかったとはな」



「あんたたちバカねぇ」



「ここにミーシャがいても多分同じ状況になってたからね?」



 プイとそっぽ向くミーシャに僕は呆れながら、改めてガイルたちに目を向ける。



「3人とも頭硬すぎ。攻撃が通らないなら何かあると疑うべき。近道しようとアルマリアさんのスキルを使ったんだろうけれど、あれってそこにいる人を暴けるだけで、隠れているものを暴く物じゃないって聞いたよ。もっと周りをよく見て、もっとやれることを探して、最後まで足掻けよ勇者一行」




「……」



「……」



「……いや、ああ、うん、お前の言うことは尤もだ。こればかりは俺たちの完敗だ。で、新米魔王さんよ、まさか俺たちが手も足も出なかった古い魔王に、1人で挑むつもりじゃねぇだろうな?」



「そのまさかだよ」



「俺たちじゃ頼りにならねぇか?」



「うんにゃ、そうじゃない。ただ時間をかけ過ぎたね。そこまで傷だらけだと、絶慈を躱せないところまで来てる」



「どういう意味だ?」



「あの赤い蝙蝠、あれって君たちの血液で出来てると思うんだよね。だから君たちの体に戻ろうとする。どれだけ強力なスキルを使おうとも、君たちの血液が人質にとられている以上、あれはガイルたちを狙い続けるよ」



 僕はロイさんに笑顔を向け、そうですよね。と、目で尋ねる。



「血冠魔王の最終スキル、絶慈は絶気で固め、現闇で形作った血液に、帰巣本能を付与させるスキル、絶対不可避の血の雨」



「ああっ、やはり、やはり貴女こそ、私に奇跡をもたらす――」



「そんなものは起きないよ。僕の力が、あなたの絶望を超えることはない」



「いいえ! いいえ! 私は確信した! あなたこそが、この世界に希望を、救いを、主をもたらしてくれるのだと!」



「1つは合ってるけれどね」



 僕は戦闘の構えを取る。

 最初から全力全開だ。みんなが纏うような戦闘圧を体から流し、血冠魔王ことロイ=ウェンチェスターを睨みつける。



「さぁ、第2ラウンドだ。絶望したまま終われると思うなよ」



 こうして、血冠魔王との最終決戦が始まったのだった。

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