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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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魔王ちゃんと復活の聖女ちゃん

「おっ、ミーシャ発見」



 階段を上がり、やっとエントランスまで到達した僕たちは、瓦礫の山と化した正面玄関を呆然と見た後、傍で寝息を立てている聖女様に近寄った。



「この方が、聖女・ミーシャ様?」



「霊長類最強の殺人パンチゴリラ聖女だよ。本人は聖女様って呼ばれるの嫌がるから、もっと気安く呼んであげて。っと、それでそちらが」



 ミーシャの傍にいる、ルナちゃんにも負けず劣らずな美少女で、これまたルナちゃんとは甲乙をつけがたい輝くような金髪、しかし彼女の場合、真っ直ぐな髪で、肩より長い程度の髪を左右で結った所謂ツインテールで、私の世界であった金髪ツインテールロリのステレオタイプを地で行く見た目をしていた。



「女児服着せてぇ」



「……なあルナ、こいつら絶対俺たちのこと舐めてるだろ」



「アヤメのことを可愛いと言っているだけでは? わたくしも着たいです」



「今度用意しておくね」



 僕はルナちゃんを撫でると、横になっているミーシャに近づき、腰を下ろして彼女の頭を膝に乗せて歌を唄い、リリードロップを使用する。



「あれのどこが魔王だ」



「素敵ですよね」



「人からすりゃあ恐ろしいの間違いだろ」



 好き勝手言っている女神ちゃんズを無視して、僕はそっとミーシャを撫でる。



「また無茶して。テッカに叱られただろうし、僕は強くは言わないけれど、本当に心配してるんだからね」



 すると、眠っていたミーシャが手を伸ばして来て、僕の頬に手を添えた。



「知ってる。そう言う言葉も聞いていたいけれど、今聞きたいのはそれじゃないわ」



「……よく頑張ったね。これからも頼りにさせてもらうよ」



「ええ、任せなさい」



 そうして暫く傷を癒していると、ミーシャが立ち上がり、大きく伸びをしてもう大丈夫だと言った。



「ありがとうリョカ。ていうか、ガイルたちは?」



「ミーシャを置いて先に行ったみたいだよ」



「待ってろって言ったはずなんだけれど」



「そう言ってやるなよミーシャ。テッカも金色炎も鈍器幼女も、お前に負担をかけたことを気にして、3人で行ったんだぞ。若い奴に無茶をさせてばかりじゃいけないって」



「それ、余計なお世話なんだけれど……あら?」



 ふと、ミーシャの視線が僕の背中にくっ付いているエレノーラに向けられた。



「その子」



「あ、えっと」



 ミーシャにジッと見られてたじろぐエレノーラだったけれど、すぐに目つきの悪い聖女様が視線を外したために、彼女が安堵の息を吐いた。



「まあ、その辺りはリョカに任せているし、あたしからは何も言わないわ。それでリョカ、これから上にあがればいいのよね」



「そうだね。ガイルたちも心配だし、僕たちも合流しよう」



 ミーシャとそう話していると、エレノーラがまた顔を伏せたのが見えた。僕は彼女の手を握ると、その幼い異形は、気丈にも微笑みを返してくれた。



 そうして僕たちが最上階へと向かう準備をしていると、それはまるで雪崩のように、轟音と共に天上から降り注いできた。

 圧倒的な戦意、目には見えずにただ頭上で戦争でもしているのかと錯覚するほどに濃い戦闘圧を感じられた。



「始まったね」



「あいつら、本当に手を抜いていたのね」



「文字通り年季が違うよ。でも……」



 僕は底知れない力を最上階から感じ取っていた。

 ガイルでもない、テッカでもない、アルマリアさんでもない。ならばこの違和感は血冠魔王だろう。



「おいルナ、お前はこの戦いどう見るよ」



「……ロイ=ウェンチェスターですか。あれは、とても強いですよ」



「それが血冠魔王の名前?」



「はい、魔王になってもう……リョカさんにわかりやすく説明するならば、すでに60年魔王としてこの世界にありますね」



 ルナちゃんがチラとエレノーラを見た。



 するとその視線を受けてか、彼女が頷いた。



「今あの地が何と呼ばれているのか私は知りませんけれど、レベリア公国の片田舎で、お父様は牧師様をしていました。金色の小麦があちこちで風に揺れる美しい景色の中で、私たちは暮らしていたんです」



「エレノーラ」



 僕は彼女の言葉を止めようとしたけれど、エレノーラが首を横に振った。



「リョカさん、これは私の独り言です。でも、誰かの耳に入ってくれれば。なんて思いもちょっとだけあります」



 そう言って力なくはにかむ彼女を僕は止めることが出来なかった。



 それに、なんとなく嫌な予感もしている。

 貴族主体の公国で神の教えを説くというのが、どれだけ困難なのか。ある程度は理解しているつもりだ。



「煌びやかな生活ではなかったけれど、私たちは幸せでした。けれど、お母様と……ううん、お母様が亡くなった――殺された日に、お父様は、天に祈ったんです。そして」



 エレノーラの目がルナちゃんに向けられた。



「主に、奇跡を願った」



「――」



 ルナちゃんが奥歯を噛みしめて顔を伏せたのだけれど、あんな悲壮感のある彼女の顔は初めてで、僕は2人の手を握った。



「どうして、何故、主は、奇跡を起こしてくださらなかったのでしょうか」



「それは――」



「お前たちは勝手だよな」



「アヤメ!」



 神獣様ことアヤメちゃんが横から口を挟んだ。

 その言葉に、エレノーラが肩を弾ませた。



「私たちは、そうせざるを得なかった。私たちは、どうするのが正しかったのですか? だって、主は私たちにギフトなんて言う奇跡を与えてくれた。だから――」



「知らないよそんなこと。少なくとも俺は、ルナみたいに一々人間どもに一喜一憂しない。だけど、ロイ=ウェンチェスターに関していうのなら、あいつは長い間ずっと戦っているから、俺は別に嫌いじゃない。それだけだけどな」



 女神2人と、異形の幼子が口を閉ざしてしまった。

 この空気はよろしくない。茶化すわけにもいかずに、何か気の利く言葉をかけるわけにもいかず、僕が頭を悩ませていると、黙って聞いていた幼馴染系聖女が動き出したのが見えた。



 そしてミーシャはルナちゃんとアヤメちゃん、エレノーラの正面に立つと、3人にげんこつを落とした。



「……ねえ、なんで?」



「さっきから聞いていて苛立ったからよ。というかなんであんたたちが出張ってくるのよ」



「イッてねぇなこのアホ聖女! お前はどうしてそう手が先に出るんだ!」



「みゅう、痛いです。あのミーシャさん、わたくし、多分初めて誰かにぶたれましたよ?」



「あ~う~……あ、あのミーシャさん、どうして私まで」



「さっきから聞いてれば神、神って、ここに神は住んでいないわよ」



 ミーシャが1人歩みを進める。



「そこの獣も、ルナも、そっちの……エレノーラだっけ? あんたも、さっきから何言ってるのよ。今戦っているのはあたしよ!」



 呆然としているルナちゃんとアヤメちゃん、そしてエレノーラ。けれど僕はつい苦笑いを浮かべる。



「さっきからごちゃごちゃ横から五月蠅いのよ。あたしはここの魔王を倒すし、そこに神も何者も関係ない。ウダウダと立ち止って泣き喚くのなら、あたしのいないところでやりなさい」



「お前本当にメチャクチャね。まっ、そういえばさっき金色炎にもそうやって叱られたっけな」



「……本当に。ああ、これってリョカさんの知っている言葉だと、唯我独尊って言うんでしたっけ?」



「傍若無人。かな」



 ルナちゃんとアヤメちゃんが呆れたように肩を落とす中、エレノーラだけがミーシャを見つめていた。



「あたしはあんたのことなんて知らないわ。でも、今あんたを救えるのはリョカだけよ。そこのチビッ子神たちじゃない。だから、あんたはリョカにくっ付いていなさい」



「今、ですか?」



「そう。過去なんて戻って来やしないのよ。いくら後ろに手を伸ばそうが誰もその手を掴んじゃくれないわ。だってみんな前を向いて歩いてるんだもの、誰が反対方向に手を引っ張ってくれるって言うのよ」



「――」



「いつまでも後ろ向いたまま立ち止ってるな、通行の邪魔よ」



 言うだけ言って、ミーシャは前を向いて、ない胸を張って階段を昇り始めた。



 僕はそんな眩しい幼馴染の背を追うように、一歩足を進めるのだけれど、一度振り返り、エレノーラに手を伸ばす。



「ごめんね、僕の幼馴染は前しか向いてくれない。こうやって立ち止って手を差し出すこともしてくれないんだよ。ねえエレノーラ、君はここまで手を伸ばせるかい?」



「……2人とも、強くて、本当に強引ですよね」



 笑顔を見せてくれたエレノーラが僕の手に手を伸ばし、そして握ってくれた。



 僕は彼女を引き寄せると、ミーシャの背を追って歩き出すのだった。

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