魔王ちゃん、ケダモノへと想いを馳せる
「う~ん?」
「皆さんが心配ですか?」
地下の空間をのんびりと歩いている僕とルナちゃん、そしてエレノーラちゃん。とりとめもない談笑をしている途中で、僕が頭上を気にしていたからか、ルナちゃんにそう尋ねられてしまった。
「いえ、何だかんだでミーシャはやればできる子ですし、ガイルとテッカは頼りがいがあって強いですし、アルマリアさんは何と言ってもギルマスで、戦っているところは見たことありませんけれど、強いことはわかっていますから、特に心配はしてないです」
「そうですね、金色炎の勇者ガイル=グレック、風斬りのテッカ=キサラギ、空間越えの鈍器幼女アルマリア=ノインツ、そしてアヤメ――神獣の加護を受けた信仰を闘争へと変える聖女のミーシャさん」
「ちょっと待って情報量が多い。特に後半2人は意味わかんないんだけれど」
ガイルの通り名は凄くしっくり来て格好良いし、テッカはそんな風に呼ばれているのかと感心した。けれどアルマリアさんの通り名は名付けた奴絶対に面白がってやっているだろう。
そもそもあの人の戦闘スタイルが垣間見え、ガイルとパーティを組んでいるのが納得できた。
いやそうではない。今この女神さま、僕の幼馴染を何と呼んだ? 信仰を闘争? ケダモノ? どこに聖女要素があるのか。
「というかミーシャのあれって、やっぱり別の神が絡んでいたんですね」
「そうなんですよ、わたくしが目を離したすきにアヤメが……まああれくらいなら別にいのですが、ミーシャさんったら、わたくしの信仰よりも上手に扱えているんですもん。ちょっと妬けます」
僕がルナちゃんの頭を撫でていると、首を傾げていたエレノーラちゃんが首を傾げていた。
「ねぇねぇリョカお姉ちゃん、そのミーシャお姉ちゃんって言うのは、さっき言っていた聖女様のこと?」
「そうだよ、聖女なのに一切人々を救う奇跡は起こせないんだよ」
「そうなんだ。それってあれかな、このお城にいるゲンジお爺ちゃんみたいな感じなのかな?」
「ゲンジお爺ちゃん?」
僕が首を傾げていると、ルナちゃんが上を指差した。つまり今ミーシャたちと戦っている相手なのだろう。けれど救わない聖女みたいとはどういう意味なのだろうか。
「えっとね、ゲンジお爺ちゃんは勇者様のお付きの人だったんだけれど、お父様曰く、あのお爺ちゃんは自身の立場を盾に、心の奥底にある闇を正当化する怪物だって」
「えっと?」
「……ゲンジ=アキサメは、聖女とともにあった勇者、ルイス=バングとともに数ある魔王に挑み、そして倒してきました。しかしルイスは」
ルナちゃんがチラリとエレノーラちゃんに目をやり、首を横に振った。
「ある魔王にルイスが倒されて、そのままゲンジは魔に堕ちました。けれど彼は生前にもルイスが見ていない場所で殺人などの悪事を繰り返しており、およそ勇者の従者などという称号とは正反対な心を持っていました」
「なるほど。あまりお近づきになりたくない部類の人か」
「うん、お父様も彼だけには近寄っちゃ駄目って」
「……優しいお父様だね」
「うん!」
僕はエレノーラちゃんを撫でながら上に意識を向けた。
先ほど心配はないと言ったけれど、そんな人とミーシャを戦わせたくはない。
ここから気配を読む感じ、何かを召喚している。ギフトは鍵師だろうか? けれどどうにも勝手が違う。
鍵師はスキルの重ねがけを出来ないギフトであるはずなのに、明らかに種類の違う召喚を連続で行なっている。
ソフィアのように元になったテーマがあり、それで違う種類を出すならばわかるけれど、明らかに再召喚しており、どうにも釈然としない。
「苦戦しているみたいですよ。それにミーシャさんは今お祈り中ですし、ガイルさんとテッカさん、アルマリアさんがゲンジに対応しているみたいです」
「お祈り中? ああもしかして僕が言ったあれかな?」
「それです。もうリョカさんったら本当に無茶をさせるんですから」
「あ、やっぱ駄目でした?」
「駄目ではないですよ。でも」
ルナちゃんが言い淀んでおり、僕は彼女の目を見つめる。
「わたくしだったら、こんな時間でも喜んで信仰を与えられると思います。けれど今はアヤメの管轄です。あの子、極端に甘えを許さない系女神なので、こんな時間に信仰を与えるとは思えないです」
「アヤメさんっていうのは神獣様?」
「はい、我が儘な子で刹那主義で戦闘至上主義で――ああいえ、今はどうでも良いことですよね。だから難しいんじゃないでしょうか?」
僕は思案しながら改めて天井を見上げる。
そしてミーシャがジッとして何かに集中していることを察した僕は首を横に振る。
「まっ、ミーシャなら大丈夫だと思いますよ」
「……そうですね、ミーシャさんは本当にわたくしたちの想像すら超えることをやってのけますし、大丈夫ですよね。さっきもびっくりしたんですよ? なんですかあの赤いエネルギーは」
「神獣拳です。信仰と生命力と魔王オーラを纏った自己強化型と支援特化型の重ねがけスキルです」
「アヤメ、すっごく喜んでいましたよ」
「ミーシャお姉ちゃんって凄いんだね。エレも会ってみたいよ」
「上がっていけば会えると思うから、それまで僕の話で我慢してね」
懐っこく笑うエレノーラちゃんを抱き上げた僕だったけれど、一度間を置いてから、再度ミーシャたちに意識と目を天井へと向ける。
ここから応援することしか出来ないけれど、僕はただみんなの無事を祈るだけだった。




