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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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聖女ちゃん、敵陣で戦闘を始める

「おい、リョカは大丈夫なのか?」



「ん、先に行けって言ったんだから、大丈夫でしょう。それにあの子(・・・)もあたしよりリョカの方が話しやすいでしょう」



「誰のことだ?」



 あたしはリョカが落ちて行った空白を見ているのだけれど、その空白がなんの前触れもなく床に戻っていった。



「何のスキルだこりゃあ?」



「そう言うんじゃないんでしょ。いいから行くわよ」



 地下にはルナがいる。そしてあの子はリョカを必要としている。そんな気配がした。だからあたしはこれ以上突っ込まないし、リョカが行けと言ったのならそれを実行する。



 そうしてその場を後にしたあたしたちは正面玄関の広間から階段を上がり、2階に上がっていくのだけれど、大きな扉に手をかけたところで、テッカがあたしの手を掴んだ。



「わかっているわよ。大勢いるみたいね」



「わかっているのならむやみやたらと触るんじゃない。こういうのは慣れている者に任せろ」



「今から慣れるわ」



「リョカの見えないところでお前さんに何かあったら俺たちがドヤされちまうよ」



「そう、戦う機会が出来るじゃない」



 そう言って、あたしは扉を力いっぱいに殴った。

 扉と部屋の中にいた幾つもの気配もろともブッ飛ばし、あたしは腕を組んだまま、そこにいた連中と対峙する。



 中にいたのは冒険者風の人間、のように見えるけれど、何かが根本的に違う。

 周囲の有象無象は特に問題はない。けれど1人だけ、異質な気配を纏っている者がいる。



「これは?」



「……多分傀来(かいらい)だ。魔王の第4スキル、詳しいことはリョカに聞け」



 そんなスキルの存在をリョカから聞いたことがあった気がする。屈服させることで魔王の家来にしてしまうスキルで、傀来を受けた命は人とも魔物とも違う、怪物になってしまうと聞いたことがある。

 ならば――。



「あれらも討伐対象?」



「ああ、ああなっちまったらもう戻らねぇ。ありゃあこの辺りの冒険者か?」



「はい~、幾人か知った顔がありますぅ。残念です~」



 ガイルとテッカ、アルマリアが戦闘姿勢になったけれど、正直こんなやつらに時間を割くのも億劫だ。



 あたしは有無を言わさずに飛び掛かってきた男を一度殴り、頭を掴むとフォーチェンギフトを発動し、生命力を吸い取り、その生命力を指に込める。

 そしてそのままイルミナグロウこと、リョカ曰く神だまをぶっ放す。



 その一発で数十人が消滅する中、あたしの視線はある1人に向けたままになっている。



 奥で薄ら笑いを浮かべている老人、あれを倒さないことにはこの先に進めないだろう。

 あたしは瞬時に老人に向かって駆け出す。



「おいバカ! そういうのは俺たちに――」



 テッカの制止の声を無視し、あたしは老人に飛び掛かろうとする。

 しかし彼の足元からとてつもなく嫌な気配を覚え、飛び退こうとするのだけれど、すでに老人のスキルが発動していた。



 彼の足元に大きな紋章、そこから伸びる手に掴まれた――あたしはこれを知っている。



「鍵師」



 ソフィアと同じギフト、しかし出てくるものは彼女が扱うそれとは異なり、巨大な1つ目がある靄みたいな化け物。そしてその目から大量に生えている何百という腕を持った異形だった。



 あたしは舌打ちをして、前のめりに突っ込み過ぎたことを後悔する。



 その1つ目があたしの体を壊そうと腕を体に絡めてきた。

 ここでテッカに使った形態を切ろうとしたけれど、突如体が浮遊感を覚えて首を傾げる。するとあたしはいつの間にかアルマリアの腕の中にいた。



「ミーシャさん、戦闘能力は素晴らしいですけれど~、こういう面はまだまだリョカさんに及びませんね~」



「……余計なお世話よ。ありがとう」



「いいえ~。それじゃあ、あれは私がもらいますね~」



 ガイルとテッカの傍に下ろされたあたしはアルマリアに礼を言い、少し頬を膨らませると、テッカに脳天を小突かれた。



「まったく、向こう見ずも大概にしておけ。正直お前を止められるリョカが今いないのだから、少しは自重してくれ」



「お~ミーシャ、俺と一緒にテッカに迷惑かけ隊になるか? 俺もいつも言われてる」



「それで敵を殴れるのなら入隊してあげるわよ」



「おう! それは折り紙付きだぜ、なんてたって俺は失敗したことねぇからな」



「リョカがいない時はテッカに迷惑をかければいいのね」



「少しは懲りろお前たち!」



 げんなりと肩を落とすテッカに、あたしはつい笑ってしまう。

 そして、こういう時リョカならどうするだろうと考えるけれど、あたしはリョカではないし、あれと同じことなどきっと出来ない。



 だからあたしは――。



「アルマリア、あのジジイとあんたに雑魚を近づけさせなければいいのね?」



「はい~、それと出来れば私たちから離れていてくださいね~」



「わかったわ。ガイル、テッカ、あたしは信仰を回復させたいわ。ちょっと座って祈るから、誰も近づけないで」



「いや、まだ信仰を回復できる時間じゃねぇだろ」



「ううん、リョカが言っていたんだけれど、そもそも時間で祈りが通じるのはおかしいって。もしかしたらたくさんお願いしたらちょっと力をくれるかもって言ってたからやってみるわ」



「いやいや、うんな無茶な――」



「わかった。誰も近づけなければいいんだな?」



「おいテッカ」



「ええ、それと祈っている最中でも神だまをぶっ放すことは出来るから、アルマリアの補助は任せなさい」



「ん、任せた。行くぞガイル」



「あいよ。だがどういう風の吹きまわしだ?」



「ミーシャが出来ると言ったんだ、なら出来るんだろう。それに、そろそろ俺たちも先輩冒険者としていい格好しておきたいだろう?」



 あたしとガイルに微笑みかけたテッカに、あたしたちは顔を見合わせ、噴き出して笑った。



「そうね、今のところあんたたちの情けない姿しか見ていないもの、ここいらで挽回してほしいわ」



「言ってくれるじゃねぇかミーシャ、俺たちの対敵用の姿を見たら間違いなくお前は俺たちを尊敬するぜ」



「ああ、リョカにも負けず劣らずの、大人の冒険者という物を見せてやろう」



 ガイルとテッカが拳を差し出してきたから、あたしもそれに拳を当て、笑みを見せる。

 すると膨れた顔のアルマリアがひょっこりと顔を出し、その拳に自分の頭を当てた。



「こういう時、ギルドマスターを撫でると~良いことありますよぅ」



 あたしはクスりと声を漏らし、アルマリアの頭を撫でてやる。




「さあ、やりましょうか。こんな雑魚に手間取っている場合じゃないもの」



「だな。さっさと終わらせて、リョカを驚かせてやろうぜ」



「同感だ、遅れてきたことをリョカに後悔させてやろう」



「頑張ったらリョカさんに褒めてもらいましょぅ~」



 それぞれが戦闘態勢に移行したことで、この空間が濃い戦闘の気配に包まれた。

 ここにリョカはいないけれど、あたしはあたしらしく、この城での役割を全うしてみせる。



 あたしは強くペンダントを握ると、目を閉じて祈りを開始するのだった。

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