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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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魔王ちゃんと少女たち

「で、乗り込むのか?」



「乗り込むよ。それにしても、どこへ行ってもボスって言うのは高いところが好きなんだね。僕が知る例に漏れず最上階にいるみたい」



 魔王城の周囲を軽く探索した後、僕たちは改めて城を見上げ、城門前で準備を整えている。

 僕はリリードロップを吸収させた布をいくつかに分け、それをみんなに手渡す。



「これは? 俺たちの治療にも使っていたようだが」



「リリードロップ……聖女の信仰を込めているから、僕がいなくてもある程度の傷は治療できるよ」



「また妙なものを――ってお前さん商家の娘だったな」



「まぁね。そう言うツテもあってこういうものは随時開発中だよ。あああとこれ」



「なんだこれ、食いもんか?」



「うん、試作品なんだけれど――ってまだ食べちゃ駄目」



「おぇぇ、まっず」



 制止の声も空気へと溶け、一目散に口に放り込んだガイルが涙目で僕を見ていた。



「せめて説明を聞いてから口に入れてよ。はいこれ口に含んで」



 タブレット菓子のような、錠剤型の固形物をガイルに手渡す。

 このタブレット菓子ははちみつのような濃厚な甘みを主軸として、様々な香料で香り付けした物。先ほど渡したショートブレッドのような形、所謂私の世界にあった栄養補助食品のようなもので、それと一緒に口に含むものである。



「これ、とにかく栄養とカロリーをぶち込んだだけのもので、緊急時や食べ物がなくなった時、何らかの理由でご飯が食べられない時にちょっとずつ食べるものなんだけれど、緊急時しか想定していないから、味を度外視したの。だから食べる時はこっちの錠剤型の物と一緒に口に入れるように」



「わ~、これって遺跡探索や長期にわたって街や村に行けない冒険者たちに役立ちそうです~」



「はい、そういう人のために作りました。ただまだ試作で、本当に美味しくないので改良中なんですけれど、この状況ですし、やむを得ないかなって」



 人間、どんな状況だろうと腹は減る。

 特に緊急時や大きな戦いの前というのは、しようと思っても食事など出来ないこともある。

 そういうことを想定し、ヘリオス先生との思考錯誤の末、これを完成させた。



「今度~、ゼプテンの冒険者ギルドで支援しますから~、量産していただけると嬉しいですぅ」



 僕はアルマリアさんの言葉に、商売の話はこの依頼が終わってからとあとで本格的な話をすることを約束する。



「しかしリョカ、さっきからお前がいないこと前提で準備をしているが何故だ?」



「うん、ここに着いた瞬間、気付かれたみたい。だから念のためにね」



 敵の本拠地に乗り込むのだ、どれだけ準備してもし足りないだろう。

 正直な話、少し前に行ったダンジョンでのこともあり、分断された時の怖さというのは身に染みている。

 今回はそういう状況でも何とかできそうなメンバーのために、この間ほど危機感はないけれど、それでも最善を尽くしたいのは、最早性格の問題だろう。



「それじゃあ行こうか。ところでミーシャ、さっきから静かだけれど、なにか気になることでも?」



「……ううん、あっちはあんたに任せるわ」



「あっち?」



 ミーシャが何かを感じ取ったらしいけれど、特に言及しない。ということは害があるわけではないのだろう。

 僕は一度首を傾げたけれど、それ以上何も言わないミーシャを信じて、城門を潜る。



 慎重に城の中へと足を踏み入れたけれど、特に誰が出迎えてくれるわけでもなく、静寂がそこにはあった。

 現世では城なんて入ったこともなかったけれど、こちらで産まれてからは、ミーシャの付き添いやお父様と城へ行くことは何度かあり、最早見慣れたものとなっていた。



 そしてこの城も、その何度か行った城と作りに差異はなく、極々一般的な城の内装をしていた。



「警戒し過ぎだったかな?」



「野郎、舐めてやがるな」



「上に誰かいるみたいだけれど、ここは静かなものね」



 ミーシャの言う通り、最上階に行くまでの所々に何者かの気配があり、それぞれが戦闘態勢に移行していた。



「油断しないようにね……おや?」



 しかしふと、どこからか見知った気配がする。

 僕は足元に目を向けると、床が突然消えた(・・・・・)



「リョカ――っ!」



 ガイルの声が放たれるより先に、僕は瞬時に現闇をセットし、魔王オーラを投げる。

 そうしてミーシャ、ガイル、テッカ、アルマリアさんを現闇で作った腕で捕まえ、彼ら彼女らを落ちないように投げ、僕はそのまま真っ逆さまに落ちていく。



「ミーシャ! ガイル! すぐに追いつくから先に行っていて! 頼んだよ!」



 僕はそれだけ伝えると、そのまま落下していく。

 そもそも床の消えた時、物理法則も何もかも無視して床が消えた。あれは罠の類でもなければ、何かのスキルでもない。

 多分、この世界に生きる物(・・・・・・・)が消えたのだろう。



 そんなことが出来そうなのはきっと人間ではない。

 僕はきっと呼ばれたのだろう。



 そんなことを考えていると、地下に広がる空間が見えてきた。

 落ちるかなと身構えるけれど、僕のネックレスが光り輝き、ふわりとその場に着地した。



「ミーシャが言っていたのはこれか……こんにちは」



 着地してすぐ、僕は近くにいた気配に挨拶をする。



「こんにちはリョカさん、強引に呼んでしまって申し訳ありません」



「いいえ、こうして頼ってもらえると僕も嬉しいです。それでルナちゃん、今回は一体どういう用件で?」



 そこにいたのはルナちゃんだった。

 普段通り可愛らしい彼女だったけれど、今日はその顔に陰が差しており、どうにも真面目な雰囲気だった。



「……今日は、リョカさんに知っておいてほしくて」



「何が。について教えてくれない辺り、本来なら女神はノータッチなことって認識で良いですか?」



 ルナちゃんは何も言わず、ただ顔を伏せた。

 きっと血冠魔王についての話なのだろう。

 仮にも彼は神官だった。ルナちゃんが彼のことを知らないはずはないとは思っていたけれど、このタイミングで、この空気感で僕に伝えたいことがあるとは……少し重いな。と、僕は彼女の隣に並び、ルナちゃんの頭を撫でる。



「わぅ――あぅ、リョカさん、以前神はあまり人に干渉できないという話をしましたよね」



「ええ、こちらに来ても役には立てないって話ですよね」



「はい、こちらに私たちがいても、私たちは見守ることしか出来ません」



「それは、当然では?」



「……リョカさんのように、神が身近にいなかった人からしたら当然かもしれません。けれど、この世界で神はギフトという接点があるために、生活と切り離せない程度には身近にあります」



 何の話だろうか。僕は彼女の言葉をかみ砕いて簡略化してみるけれど、やはり言いたいことがわからない。



「人々にとって私たちは――」



 顔を伏せるルナちゃんの声を聞こうとしたけれど、ふとこの場所に別の気配があることに気が付き、僕は咄嗟に彼女の口を塞ぎ、その気配に目を向ける。



「誰かいる?」



 すると、ただっ広い空間と地上へと上がる階段だろうか。そこに繋がっている扉からひょっこりと少女が顔を出した。



「お姉ちゃん、だ~れ?」



「……」



 僕はジッと少女に目をやり、次にルナちゃんに目を向けると、彼女は驚いたような顔をしていた。



 何かはわからない。けれど少女がどういう存在かはわかる。

 僕は一度目を閉じた後、肩を竦ませて少女に微笑みかける。

 少女はふわふわの長いくせっ毛に、眠そうな顔、フリルのパジャマに、手に持ったぬいぐるみが床を引きずっている。



「こんにちは、僕はリョカだよ。君は?」



「えっと、エレノーラ……お姉ちゃんたち、何でここに?」



「探検」



「お~――ねっ、ねっ、エレもついて行っていい?」



 僕は少し考え込むと、ルナちゃんがエレノーラの手を取り、承諾した。



 ルナちゃんが良いというのなら、僕に断る理由はないか。と、僕はエレノーラの反対側の手を握り、これから一緒に城を探検しようと少女に言う。



「あのね、あのね、エレここから出られないんだ。お父様が出ちゃ駄目って。だからちょっとワクワク」



「……そっか。じゃあ暫くお姉ちゃんと遊びながらここを上がっていこうか」



「うん! ねぇねぇリョカお姉ちゃん、お姉ちゃんはここ以外にもたくさん冒険しているの?」



「うん、話してあげようか」



 エレノーラが人懐っこい顔で頷き、瞳をシイタケにしていた。

 こんなことをしている場合ではないかもしれない。けれど僕には酷く大切なことのように思えた。



 魔王城で出会った小さな異形(・・)に、僕は何故か惹かれていた。



 血冠魔王との戦いの前に、僕は小さな女の子に囲まれることになったのだった。

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