魔王ちゃんと血冠魔王城
「しっかし、まさか今までまったく手掛かりすらなかった血冠魔王をあっさり追い詰めるとはな」
「ようはやり様でしょ? というかどうして今までその捕まえられない事実があるのに、誰もマーキング――痕跡に印をつけようとか考えなかったのさ?」
「いや、言い訳になるかもしれないが、そもそもこうして姿を現すことすら稀なんだ。というか、奴は一体何故ここに現れたんだ」
「ああそれね。ごめんそれ多分僕のせいだよ。最近活発になってきたって言ってたでしょ? その理由って僕を引っ張り出すためだったのかなって」
「は? なんでうんなこと」
「わからない。でも新たに誕生した魔王を見ておきたかったんじゃない?」
それだけではないように感じるけれど、今のところそれしか考え付かない。
すると、この話を聞いて考え込んでいたアルマリアさんが何故か納得したようにうなずいた。
「そう言う傾向、あったみたいですよぅ。そういえば、血冠魔王が現れる時、確かにどこかで魔王が誕生していたはずです~」
「お前そう言うのは事前にだな」
「だって~、正直不確定でしたし~、それでリョカさんを餌に使うのもギルドマスターとして認められませんし~」
アルマリアさんが膨れたために、僕は彼女の頭を撫でてやる。
この25歳、歳の割には甘えん坊オーラが出ており、どうにも甘やかしてしまう。その証拠に、撫でるととても嬉しそうに喉を鳴らす。
「さって、そんじゃあそろそろ行くか」
「だな。いくら居場所がわかるとはいえ、のんびりしているわけにもいくまい」
血冠魔王がいなくなった後、僕たちは食事休憩をとっていた。
ありったけの食料をミーシャとガイルが腹に押し込み、すでに食料が空っぽになってしまったけれど、気力も体力も十分、幼馴染とテッカの怪我もある程度治療はした。
「リョカ、ミーシャ、結構飛ばすが、付いて来られるか?」
「私はスキル使っちゃいますね~」
「移動手段が楽で羨ましいよ。まあ、俺はそれよりも速く動けるけどな」
勝気に笑うテッカに、アルマリアさんが膨れ面で返した。
と、みんなは走る気満々だけれど、強敵と戦いに行くのに、全員のリソースを削るなんて馬鹿なことはしない。
僕は現闇で全員を覆えるほどの闇を発生させ、それでみんなを包んだ。
「うぉ、なんだなんだ?」
「リョカ、なにかするの?」
「うん、追いかけるだけで全員の体力を使うのももったいないでしょ。とりあえず打ち上げるよ」
「打ち上げ、る?」
テッカが嫌な予感を感じ取ったのか、顔を引きつらせていた。
まあその感覚は間違いではない。
僕はさらに覆った闇の背後に魔王オーラを飛ばし、現闇でさらにバッターを生成する。
「おいリョカ、打ち上げるっつうのはあれか? 俺と戦った時にやったあれみたいにか?」
「うん、舌噛まないように気を付けてね。それじゃあ空の旅に――スカイハーイ!」
途端、闇の中に衝撃が走り、酷く揺れる。
「うをぉぉっ!」
「で、出来れば飛んでいきたかったですよぅ!」
「うん、それもね」
「へ――」
「喝才――『我が潜るは異空の彼方』」
打ち上げられた速度そのままに、アルマリアさんのギフト『空を超える者』のスキルを喝才で選択して発動させる。
ギフトの概要としては亜空間に入り込み、高速転移や便利なアイテムボックスなど、空間を操ることに特化したギフトで、特質指定型。
そして第1スキルは、目の届く範囲での空間転移……ではなく、遠くに飛ぶのは僕の技術では難しいけれど、所謂座標ジャンプで、このスキルは魔王のスキルと相性がいい。
座標という概念がないこの世界でどのように運用しているのか、アルマリアさんに聞いていないからわからないけれど、座標を設定するために、僕は血冠魔王を追わせている現闇に、所々ポイントで絶気と現闇を残すようにしており、それに向かって僕は空間転移をする。
「わ、わ、リョカさん~、グリッドジャンプ使えたんですかぁ! ってこれ異様に扱いが難しいスキルですよぅ! 下手したら壁の中にいるなんて――」
「現闇に道しるべになってもらっているから、壁の中にいるなんてことはないよ。さっさと行くよ」
首を傾げているアルマリアさんに微笑み返し、僕は目的地に着々と近づいて行く。
「俺と戦っている時もそれ使えただろ?」
「当然だが?」
「……おいミーシャ、今度俺と戦え。今の火力じゃまだまだリョカから全てを引き出せねぇ」
「真っ向からの殴り合いを所望? 良いわよ、付き合ってあげるわ」
少しは大人しく生活するっていうことを覚えてほしいところだけれど、この2人を止めるのは困難だろう。
よって僕は何も言わない。
「リョカ、俺と戦うことも頭に入れておけよ。アルマリアより楽しめそうだ」
「む~、私だってそれなりにやるんですから~」
こんな上位冒険者と戦うことを無理矢理取り付けられるのは、ある意味不幸ではないだろうか。僕は大人しく日常を満喫していたいのだけれど、まあ詮無きことだろう。
「はいはい、それは2人が学園に来た時にでもね。そろそろ到着するよ。着地は各自でね」
僕が現闇を解いた瞬間、空に広がる漆黒と、月のような優しい光が目に入った。
そんな見慣れた夜の中、大きな城が佇んでおり、否応にもイカれた魔王との決戦を意識させる。
僕たちはそれぞれに、その城の傍に着地し、異様に不気味な圧を放っているその建築物を見上げるのだった。




