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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
6章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、新たな場所で目にする。

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魔王ちゃんとケッカン魔王

少し過激な表現が含まれています。

苦手な人はバックかもです。

ほのぼの路線は一体どこに?

この後のお話しが終わったらちゃんとほのぼのさせます。路線は変わりません。

 ミーシャ、テッカ、アルマリアさんのもとに戻ってきた僕に向けられた視線は、困惑と畏怖であった。

 多分あまり見慣れない戦い方と、最大出力でないとはいえ、戦いに赴く姿勢は本気だったガイル=グレックを倒してしまったことへの驚きだろう。



「お疲れ、また変な戦い方をするようになったわね」



「そんなに変でもないでしょ。罠を設置して相手をそこにおびき寄せる、狩りの基本でしょう」



 なんでもないように僕が言うと、呆れ顔のテッカが傍にやってきた。



「狩りならな。だがこれは一対一の戦いだ、戦場も広くないし、何より罠とは事前に準備してこそ発揮する。それをたった今作り出してすぐに生かす戦いなど、常人に出来るはずもない。お前、幾つの策を練っていた?」



「さぁ? 相手はあのガイルだからね、幾つ策があっても無駄ではないでしょう?」



 僕はチラと背後に意識を向けると、むくれ顔のガイルが歩んできた。



「お前さんはからめ手しか使えねぇのか」



「しっちゃかめっちゃかに絡まってくれて助かったよ。何度も言うように僕はか弱いの、だからここにいる皆さんのように化け物みたいな派手なことなんて出来ないし、ああやって戦うしかないの。それに――」



 僕は紅茶を飲み、まだ納得していない面々に笑顔を向ける。



「多少ズルい方が可愛さも引き立つでしょう?」



「……お前さんはそればっかだな。ああうん、負けたよ。見事だったリョカ」



 ガイルの褒められたことが素直に嬉しく、顔を綻ばせる。

 とはいえ、僕は戦闘を生きがいにしているわけでもないからやたら自慢するようなことはしないだろうけれど、セルネくんに話したら羨ましがられそうだ。

 というより、これ魔王が勇者に勝ったわけだけれど、世間体的にいいのだろうか。



「しっかしテッカ、俺たちもそろそろ鍛え直さねぇとな」



「だな。ここまで後続に追いつかれているとなると、昔の威光など最早無意味だろう。ミーシャ、お前はさっさと第2ギフトを得てくれ。そうすれば俺ももっと本気を出せる」



「今度こそ戦闘中に顔面を貰うわ。顔を洗って待っていなさい」



 戦闘前に洗顔でもさせるつもりなのだろうか。と、僕が苦笑いを浮かべていると、アルマリアさんがばつが悪そうな顔をしていた。



「おうアルマリア、リョカはどうだ? まだ期待はずれか」



「……いえ~、私自身もっと目を養わなきゃなぁって。ところでリョカさん、私と戦う場合はどうします?」



「転移先に先回りしますよ」



 僕がそう笑顔で言うと、ガイルとテッカ、アルマリアさんが呆れ顔で肩を竦ませた。



「それが出来るのなら誰も苦労しないはずなんだがなぁ」



「だがリョカだとやってのける気がするな」



「ギルドマスターとしてもっと精進しなくてはですよぅ。リョカさんは帰ったらランク上げの試験を受けてくださいね~。文句なしにAランク冒険者です」



「はい、謹んでお受けしますね。それで、僕たちは今回の依頼に同行できる実力がありましたか?」



 すると、ガイルたちが一斉に顔を見合わせ、一度首を傾げた。

 まさかこの人たち、本筋を忘れているのでは。と、怪訝な顔を向けてみると、アルマリアさんが思い出したのか、焦ったように手を叩き、何度も頷いた。



「は、はい~、もちろんですよぅ。そもそもこんなことしなくてもお2人の実力なら文句なしだったんですけれど~、ガイルさんがどうしても~って」



「俺の所為にすんなや。テッカだって乗り気だったぞ」



「俺はリョカと戦ってみたいと言っただけだ」



 戦闘しか頭にないのかこの人たちは。と、僕は呆れながらため息を吐く。



「あんたあんなことがあったのに忘れるとか、体だけじゃなくて頭も小さいのね」



「……面目ないのですけれど~、どうしてでしょぅ? リョカさんに言われるならまだしも、ミーシャさんに言われると釈然としないですぅ~」



「あんなこと?」



 テッカが何が起きたかを尋ねてきたために、道中での出来事を話した。

 すると、緩かった空気を纏っていたガイルとテッカが鋭い闘気を纏い始め、感情を押し殺したような顔をした。



「近くにいたんだがな」



「ああ、まったく気が付かなかった。本当に苛立つ魔王だ」



 助けに行けたかもしれない。そんな後悔があるのか、2人は黙り込んでしまった。

 そんな2人を元気付けるつもりはないけれど、彼らが持っている情報が欲しい僕は彼らに尋ねる。



「ねえガイル、その魔王ってどんなのなの?」



「……正直のところ、俺たちも詳しくねぇんだ。ただ結構前――俺たちがまだ名を上げる以前からいた古参の1人らしくて、中々手に余る」



「通称、血冠魔王(けっかんまおう)その他には、血と絶望を糧に生きる魔王等々、良い話は聞いたことがない」



「血冠魔王に関しては当て字で~、言葉通り心に欠陥のある魔王です~。やることなすこと極悪非道で~、まったく行動の読めない魔王です~」



「ふ~ん」



 僕は視線を、さっきからずっと傍の木に逆さ吊りになっている翼の生えた生物――蝙蝠のようにも見えるそれに目をやった。



「僕ってさ、魔王たちの間でも知られているの?」



「そりゃあそうだ。お前さんは最速で魔王になったんだ、魔王どころか世界中で噂になってんぞ」



 人気者になったものだと多少喜んだ空気を出していると、ガイルが呆れているのが見えた。

 まあ当然だろう。この評価が当然前向きでないことくらい僕にもわかっている。けれどこればかりはどうしようもない。

 ならば開き直るしかないのだ。



「それでリョカ、この面々で魔王討伐は出来そうなの?」



「え、それを僕に聞くの? というかこの依頼は魔王討伐なの?」



「当然だろうが。今までは何をやっても逃げられるは、途中で勇者がやられるかしていつも姿をくらましていやがったんだ。だが最近どういうわけか活発になりだして、やっと尻尾を掴めそうなんだ。今まで誰もなしえなかったこと、俺が成し遂げる」



「なるほどね、最近活発になった。か」



 ガイルから並々ならぬ決意を感じることから、相当方々から怨みを買っていることが窺えるのと、やはり勇者として優秀で、尚且つ生き方がまさに勇者然としているのを改めて理解する。



 そして僕はその活発になった理由に心当たりがあり、それを確認するために面々を庇うように前に立ち、蝙蝠に向かって口を開く。



「ん、リョカどうした――」



「それで、あなたに僕はどう映りましたか? まさかこの状況でスカウトしようなんて馬鹿なことをしないとは思うけれど、一応聞いておいてあげますよ」



 僕の発言に、ミーシャ以外が首を傾げていると、蝙蝠が空へと羽ばたいたと同時に、辺りから同じような蝙蝠がいくつも集まってきて、一匹一匹が声を上げて笑い出した。

 そして耳障りなそれは段々と1つにまとまっていき、空中で蝙蝠の集団が人の形を形成し始めた。



「素晴らしい、素晴らしいですよリョカ=ジブリッド! ああ、私はまさにこれを待っていた! 甘美な血も、甘美な悲鳴も、ああ、ああ――すべてはこのために。ああ、私は何て罪深い! 目を閉じると確かに思い出せる絶望の顔、ああ私は、私はこの一瞬のために、罪を犯してしまった!」



 ガイルとテッカ、アルマリアさんが瞬時に臨戦態勢に入ったけれど、僕はそれを手で制す。

 逸る気持ちは当然わかる。けれど今戦ったところで意味はないし、そもそもテッカの怪我の具合から、ここで戦うのは得策ではない。



 それにしても随分とトリップした奴が現れた。最初からクライマックスとはこのことかと僕は肩を竦ませる。



 そして僕はよく彼を観察してみる。

 服装はどこか神父を彷彿とさせる恰好で、首に掛かっているのは豪華な装飾がされた、僕が持っているネックレスと似たような紋章のネックレス。



「……神様に仕えていたんならもっと大人しくしていたら? こんなこと、君たちの主は望んでいないでしょう?」



「いいえ、いいえ! 血を求めたのは我らが主! 血こそが主へと捧げる唯一無二! ああ、ああ! 私はまた、血を流している」



 男が蝙蝠の一匹を手に掴むとそれを手で握り潰した。その瞬間、蝙蝠のような小さな生物では考えられないほどの血液が溢れてきて、男がそれを口の中に流し入れた。



 ゴポゴポと不快な音を鳴らしながら恍惚の表情を浮かべ、真っ赤の液体で喉を鳴らしている様はまさにイカれていた。



 そして血を飲み終えた男が体をビクビクとさせながら僕たちに、だらしなく舌を外に放り出して顔を傾けたまま、目だけを向けてきた。



「……知っていますかリョカ=ジブリッド、この世界には主の存在を認めないものがいる。知っていますか、この世界に住む人々は、主に救われることを喜ばないものがいる。どれだけ祈りを捧げようとも、叶わない夢がある。希望がある。ならばこそ、我々は主に血を捧げなければならない! そして皆は知るのです。主こそが我々を救ってくださる。と」



 会話が成立していない。

 これはもう、どうにもならない人種だ。何もかも間違っているし、何より僕とは相容れない。



「ああ、先ほどはよかった。知っていますか? 幼子にナイフを渡して犯す快楽を。首には命を散らす銀色の刃、冷たく鋭いそれが永遠にあてがわれ、それでも恐怖からナイフを引くことが出来ずに怯える様、あの時の幼子は、きっと神に祈ったでしょう――ああ、何とも代えがたい。ああ、何とも罪深い。ああ、なんとも、ナントモ! なんと……甘美な」



 涎を垂らし、ご高説を垂れ流すクソ野郎に、僕はついに指を鳴らした。

 そしてそれと同時に立ち上がったミーシャから神だまが発射された。



 僕たちは声を合わせて、男に向かって口を開く。



「僕よりも天高い場所で――」



「あたしより主に近い場所で――」



「魔王を騙るな!」



「罪を語るな!」



 真っ二つになった男の半身が神だまで消し飛んでも、彼はケタケタという笑い声を止めない。



「ああ、良い、イイ――何と甘美な。これこそが主への祈り。でもまだ、まだ足りない。あなたたちの祈りはまだ、主へと届いていない」



 今ここでルナちゃんを召喚してやろうかと考えたけれど、こんなクソ野郎に彼女を関わらせたくはない。



「ええ、良いでしょういいでしょう。このあと数日後、私はあなたたちの大事なものをすべて犯します。それでやっと主へと祈るでしょう。ああ、貴方たちの祈り、どれだけのものか、私は見てみたい、私は感じたい、私は知りたい、私は私はワタシは――ああ! これほどまでの罪! 私はきっと許されない! いいえ、いいえ! 許される、許してくださる! ええきっとそうに違いない!」



 意味不明な言葉をずっと喋っていてそろそろ気持ち悪さに吐きそうになっていると、彼が頭を下げた。



「ではでは、また会いましょう。幼き魔王、そして希望の勇者――貴方たちの祈り、ぜひ届かせてください」



「待て――」



 ガイルが飛び出そうとするのを僕は手を握って押え、深いため息を吐く。



「……何故逃がした?」



「逃がしてない。そもそもここで戦ってもしょうがないよ。だってあれ本物じゃないもん」



「なんだと?」



血思体(けっしたい)、確か『血を啜り従える者(ブラッドヴァン)』のスキルにあったよね? ということは、少なくともあの魔王は神官、魔王、ブラッドヴァン、3つのギフト持ちってことになるかな」



「……あれだけでそこまで見抜くか。ガイル、俺たちも少し冷静になろう」



「だな。すまんかったな」



「ううん、正直その気持ちはわかるからね。というか、もし本体だったとしても僕は撤退するよ。ミーシャとテッカがその状態だし」



 ガイルがチラリとテッカを見て肩を落とした。そして「逸っていて大事なことが抜けていた」と、反省をした。



「俺はまだ戦える」



「あたしもよ」



「はいはいわかっていますよ。とりあえず治療しましょうね」



 僕はミーシャにやった服と同じ素材の布を取り出し、それにリリードロップを染み込ませる。そしてそれを傷に巻いていき、さらに歌を唄って回復の効果を高めていると、アルマリアさんが神妙な顔で考え込んでいた。



「とりあえず今すぐにギルドに戻って、対策をしないとです~。リョカさんミーシャさん、ご家族と学園の人たちはギルドが保護しても良いですか~?」



 僕は考え込む。

 きっとさっきの魔王が話していたことに対する対策なのだろうけれど、正直必要はないと考えている。

 けれど万が一という可能性もあるけれど……いや、その前に片を付けてしまおうと結論付ける。



「リョカ」



「うん、傷を治したら乗り込むよ」



「ん、それならご飯ちょうだい。元気つける」



「はいはい」



 と、僕たちが話しているとガイルたちが不思議そうな顔をしており、彼らに目を向ける。



「何の算段だ?」



「何って、あの魔王の本拠地に強襲をかける算段だけれど?」



 あっけらかんと言い放つと、ガイルとテッカ、アルマリアさんがあんぐりと口を開いた。



「い、いや、だが居場所が」



「そうですよ~、もしかして捜しに行く気ですか~? それだと多分間に合わないですよぅ」



「というよりリョカ、お前はさっき撤退すると」



「2人の傷が癒えていないからね。こんなもの、こうして大袈裟な治療をすれば歩きながらでも治せるし、それだけの時間が欲しかっただけ。それと探す? そんなことしないよ」



「じゃあ――」



「あんたたち、リョカとガイルの戦いの何を見ていたのよ。リョカは無駄なことしないって言ったでしょ。それなのにわざわざあいつを攻撃したのよ? 撤退一択だったこの子が」



「流石ミーシャ」



「で、居場所はわかるのね?」



「うん、血思体ならあれは回収するだろうし、現闇で同じような生き物をあれらに紛れ込ませておいたから、場所はわかるよ」



 そう言って僕はアルマリアさんの肩に潜ませていた絶気を流し込んだ現闇を手に持った。



「あ、あ~っ! それで私のスキルを推測したんですね~」



 僕はクスりと笑い声を漏らすと、鞄から幾つかの保存食を取り出して調理を開始する。

 すると、ガイルが引き攣った笑いを溢しており、首を傾げて彼を見る。



「いや本当、お前は敵に回したくねぇわ」



「それじゃあ仲良くしよう。ああそれと、約束忘れないでよ」



「はいはい、学園でもどこでも行ってやるよ」



 急がば回れ。焦るべき場面はあるかもしれないけれど、今はまだそうなる個所ではない。あの魔王の実力がどれほどのものかはまだ計りしれていないけれど、それでもあれを放置しておきたくない。

 僕は今、魔王として動けているかはわからないけれど、僕の魔王像としてあれだけは許容できない。故に今すぐに言って殴り飛ばす。というか多分殺す。

 今さら人の死を天秤にかける段階は過ぎており、すんなりとその決定に納得できた。



 この世界に染まった証拠なのか、それとも人間、あれだけの悪がいるのならそんな判断を下せるようにできているのか。少なくとも私のいた世界にはあんなもの存在していなかった。知らなかっただけかもしれないが、私はあのイカれ具合なら元の世界でも人を殺せると自信を持って言える。


 そうして肩肘に張った力が抜けていく面々に、僕は笑顔を見せて料理を提供するのだった。

ガイル=グレック


 ギフトは勇者。遠くへ依頼に行く際は必ずその場所にある冒険者ギルドの強い者に喧嘩を売ろうとする。もっとも礼節は弁えているが、本当に血湧き肉躍る相手には我慢が出来ないこともある。最近のマイブームは全力でスキルを使用して、どれだけ地形に影響を及ぼせるかという突発的な実験で、周囲からひんしゅくを買うことである。



テッカ=キサラギ


 ギフトは風と影に潜む者。暗殺家業を営んでいたが、今では冒険者が肌にあっており、その類の依頼は受けていない。しかしあまりにも酷い者がいる時はガイルと一緒に依頼を受けるのだが、正直1人の時の方が被害が少なく、ガイルと一緒だと相手の絶望感がさらに増していることに気が付いた。最近のマイブームはリョカが淹れてくれた茶が美味しかったこともあり、自分でも研究してお茶を淹れること。ガイルからは店を出せると絶賛されており、いつかリョカに飲んでもらおうと思っている。



アルマリア=ノインツ


 ゼプテン冒険者ギルド・ギルドマスター。マナからリョカたちの話を聞いて早く会いたいと思っていた。そして聞いた通りならリョカはきっと甘やかしてくれるだろうと期待しており、いつか彼女と依頼を受けて最大限まで甘えさせてもらおうと思っている。最近のマイブームはマナから教えられる甘味を再現してみることなのだが、今まで作ってきたものは炭ばかりで、成果は芳しくない。

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