聖女ちゃんと積み重ねた故の覚醒
「……で、お前は俺に何が言いたいんだよ」
暴風の中でクレインが振るう拳を受け止めて、ジンギが呆れたように声を上げた。
「俺たちにそれを黙ってようとしたこと」
「言ったら怒るだろ」
「怒るよ。でもジンギ、俺たちに言わなかった理由、それだけじゃないでしょ」
「……」
「当ててあげようか? これは俺の問題だ、あいつらには関係ない。でしょ?」
ジンギが顔を歪めた。
クレインの推察が当たっているのだろう。けれどそれは、あの子たちにとって最大限の侮辱であると同時に、ジンギの弱者たる所以の証明でもある。
「俺たちじゃジンギの力にはなれない?」
「ちが――」
「うん、そうだろうね。俺は最初そう受け止めた、でも違う……君はただ、弱者でいることを贖罪だと思っている。自分が弱いから守れなかった、自分が弱いから――諦めのきっかけになる。でも俺たちにそれを伝えたら、揺らいでしまうことを知っている。ジンギは怖がっているんだ。俺たちに弱者であることを否定されるのも、君の価値がどれほど多くあるのを知らされるのを、君は恐れているんだ」
その途端、クレインに熱気が帯びる。
炎ではない、けれどその熱はガイルの聖剣ほどの熱さを伴って拳に纏わせた。
「俺はさ、ジンギの努力を知っているんだ。俺が知る強いジンギを否定することだけは許さない! 『熱烈峻厳』」
健康優良児の覚醒強化を付与した状態での高速の一撃――その拳はジンギまで届き、その頬に赤く染まった高熱の拳が火花を散らして鋼鉄のライダーを襲った。
「あ――っつぁ!」
ジンギが膝をつき倒れ、クレインに殴られた頬を手で押さえながらその場でゴロゴロと転がり回った。
あれは痛いだろう、熱というものは非常に厄介だ。痛みが晴れることがほとんどない。ずっと痛みが続き、それが衰えることがない。
「……旦那さま、すっごく怒ってるです」
「そりゃあね、あの子は歩んできた道のりを絶対に否定しない。だってあの子自身その道のりに絶対的な自信に繋げているのだもの。強くなろうとした意思を持って一歩を踏み出せばそれは必ず糧になる。健康っていうのは積み重ねでしょ? あんたもそういうところに惹かれたんでしょ?」
「はいっ」
だからこそ、その歩んできた道のりを否定して先に進むジンギが許せないのだろう。
「ジンギ、弱者でいるのはいい。でも、お願いだからその過去を否定しないで。だってそんなの、俺たちと一緒だったことも、ジンギには苦痛だったんじゃないかって――そんなの、悲しすぎるだろ。俺たちはずっとお前の友だちだ」
「……」
(過去、未来――君のお友だちはあたしなんかよりずっと試練を与えるのが上手だね。さあジンギ、君が次に向き合わなければならないのは――)
クレインが端に避け、その背後で聖剣の輝きを強く強く奔らせる勇者――セルネ=ルーデルがその真っ直ぐな瞳をジンギ=セブンスターへと向けていたのだった。




