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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
49章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、もろもろの準備をする。

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聖女ちゃんと友という馬鹿

「……驚いた。ジンギくん、ほんの少し目を離した間に、あんな力を身に着けるのか」



「あたしの相棒だもん。あのくらい出来てもらわなくちゃ」



 胸を張るヴィヴィラにラムダはクスりと笑い、そっと運命神の前髪をかき分けるようにして撫でた。



「うん、今度こそヴィヴィラが笑いあえる人と出会えて、本当に良かった。それとありがとう、あたしの国を、よくしようとしてくれていたんだね」



「……? え?」



 ヴィヴィラが振り返って口をパクパクさせながらあたしに目を向けてきたから、あたしは隣にいる両手でピースサイン? を作っているアヤメを指差す。



「な、な、な――」



「あっヴィーラ、テル姉が詳しい話を聞かせてほしいとずっと探してるですよ」



「この神獣を出し抜けると思わないことね」



 顔を青ざめているヴィヴィラだったけれど、ラムダに頭を抱きしめられて体を震わせていた。



「ラムダ様はあの話を聞いてから、ずっと喜んでいました。ヴィヴィラ様を疑っていたわけではないけれど、心の奥底で悪意があったのではないかと――けれどそうでないことだけがわかった。もうほんの少しでも疑わないでいいんだと。この間ずっと泣いておられました」



「そう、ラムダも難儀な子よね。アヤメみたいにさっぱりと生きていけばいいのに」



「それがラムダ様の素敵なところですから」



 ヴィヴィラについては後ほど女神たちが動くだろう。あたしは改めてジンギに猛攻を仕掛けているセルネとクレインに目をやった。



「なぁにが弱者だ! 変身までして、必殺技みたいなのも持ってさ!」



「……というかそれ聖剣? 知らないところで強くなるにしても、もうちょっと順序を踏んでくれない」



 セルネとクレインが口々に文句を垂れつつ、それでも攻撃の手を緩めない。



「うるせぇ、俺だって知らない間にこうなってたんだよ。俺の実力なんて些細なものだろうよ」



「どの口が――ああもう! 前から言おうと思ってたんだけど、お前どうしてそんなに自分の実力を頑なに認めようとしない!」



「弱いから弱いって言って何が悪い」



「弱くないよ。ジンギはバイツロンドさんと出会ってから、ずっと努力してきたじゃん。セルネもタクトも、俺も付き合ったからよく知ってる。それなのに、どうしてそこまで」



 確かに。ジンギは弱い弱いと自分に言いながら、それでもこれまで数々の戦果を挙げている。それなのにあの子はこと強さに関しては自信が持てないでいる。

 あたしから見てもあの子は強い、強者という部類だ。でもそれを認めない。



 あたしがジッとジンギを見て思案していると、ラムダから体を離したヴィヴィラが顔を伏せていた。それに気が付いたラムダが彼女に声をかける。



「ヴィヴィラ?」



「……そうだよね、君はその日(・・・)守れなかったから」



 ヴィヴィラが呟いたすぐ、ジンギが噛みしめていた口を開いた。



「俺が強かったのなら、あの日あいつを泣かすこともなかったんだよ!」



「――」



「――」



「ああ、歪みはそこか」



 考えてみたら当然の話だ。ジンギ=セブンスターの生涯はそこから始まった(・・・・・・・・)

 その日、どんな盟約がなされたのかは知らないけれど、その日以降からずっとジンギはあの子のそばにいた。



 今はもう、従者と主という関係はない。けれどその魂に、心にこびりついた傷は未だ癒えていない。



「泣いてたんだ、泣いて泣いて、それでもその上から笑顔を張り付けて、何とか食いしばって、それでも前を向こうとして――でも、あいつは誤った。俺は従者だったのに、何もできなかった」



 どこかの星神を通してキンキンと声が聞こえてくるけれど、あたしはその神託を握り潰し(・・・・)、ジンギの話を静かに聞く。



「俺は弱いままだよ。だってよ、同じ状況になっても、俺はまた、あいつを泣かせちまう」



「……」



「……」



 セルネとクレインが握りこぶしを作り、体を震わせていた。

 しかし我慢できなかったのか、大きな戦闘圧を伴って飛び出したのは空から叩きつけられて倒れていたタクトだった。



「『今こそ大地を喰らえ(グラドテンション)』」



「タクト――」



「こんっの! 大馬鹿野郎!」



 魔物化しているタクトの両腕から大きな球状の絶気、あの子もあの子であたしと同じように防御なんて欠片もその頭で考えていない。



 ピカピカと発光している球体を拳に纏わせたまま、タクトはジンギを殴りつけた。



「ぐ、おおおおぉ――」



「次はあっしたちがいる! 泣かせるわけないだろうが!」



 タクトの絶気を正面からモロに受けたジンギ、あれは中々に厄介なスキルだ。高密度の信仰を拳に装備している。



「絶気をグローブ代わりにして、挙句の果てに高エネルギーとなった信仰をむき出しのまま攻撃に使っている。強力だがあいつもアホの部類だな」



「あたしは結構好きよ」



「まあ俺も嫌いじゃない」



「……いや感心しているところ悪いけれど、あの子完全に魔王寄りの力身に着けちゃっているんだよ」



 呆れるラムダの声を聞き流し、タクトに目を向けると彼は拳に纏わせている絶気を消し、指の第二関節で自身の鼻の片方の穴を横から押し込んで塞ぐと、そのまま鼻で空気を吹き出して中にたまっていた血を地面にぶちまけた。



「お前1人で無理だっていうのなら、あっしがいくらでも肩貸してやるですぜい!」



「……」



「お前が弱いと言い続けるのなら、あっしが隣でご近所迷惑上等で強いと叫び続けてやるですぜい!」



「……止めろよな、今さら生き方なんて変えられねえんだ。それに、弱いから見えてくるものだってあんだよ」



「それは勝手に見ろ! あっしはただ、お前がお前以外を特別、強者だと言って自分の価値を下げ続けているお前に腹が立っているですぜい! 自分が弱者だから強者の盾になる? 弱いから先に死んでも影響がない? 次そんな心持で戦いに挑んでみろ、あっしが先に死んでやるからな!」



「――」



 高らかに宣言するタクトにジンギが肩を竦ませた。

 その様子をじっと見ていたヴィヴィラがそっとジンギの隣に並ぶ。



「付き合ってあげる。あたし相棒なんだろ?」



「……ああ。『過去を歩み先を抱く者モード・ギアラケシウス』」



 ヴィヴィラの姿が板に変わり、ジンギがその板を腰のバックルに装着した。

 鋼鉄のライダーはその姿を変えたが、大地の核を一身に背負うその友は構わずに殴りかかった。



 しかし拳が届くその瞬間、タクトの姿が、纏っていた魔王種の姿がぼやけ、まるで違う魔物へと書き換えられた。



「こいつは――」



「すまんなタクト、そんな貧弱な魔物の腕で殴ってもお前の腕がぶっ壊れ――」



「構うもんかぁ!」



「あいったぁ!」



(……ジンギ、友だちはもっとちゃんと選びな? まさかノータイムで拳ぶっ壊す馬鹿がいるとは思わないじゃん)



 殴ることに向いていなさそうなほど貧弱な腕をした魔物へと改変されたタクトが、そのままジンギを殴りつけた。

 案の定腕は折れ曲がり、それでもタクトは勝気に嗤う。



「ヴィヴィラ様! そりゃあそこの馬鹿と友になったあっしですぜい? 馬鹿と付き合えるのは馬鹿だけですぜい」



(……違いない)



 するとタクトがジンギから視線を外し、その2人に意識をやったのがわかる。

 ジンギもそれに気が付いたのか、体をセルネたちに向けるのだが、すでにクレインが動き出していた。



「『天翔・二夜(・・)――」



革命前夜強制覚醒(レヴォルアジタート)』の第2スキル――ヒナリアが胸を張っており、相当自信があることがうかがえる。



風光明媚(ルズティカーナ)』」



 風が吹く。ジンギを中心に風が渦を作り、唄を歌うようにその風があたしたちの頬を撫でる。

 これは生命力の属性変換(・・・・)。なるほどどうして、クレインにはよく似合うスキルだ。



「『疾風怒濤(テンペストーソ)』」



 途端に、その頬を撫でていた風が暴風へと変わり、その中心でクレインが笑みを浮かべた。



「さて、それじゃあ俺の話も聞いてもらおうかな」



「……お前らな」



「ちょっとくらい付き合いなよ」



 まだまだ男衆の喧嘩は続くようであった。

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