聖女ちゃんと男の意地のぶつかり合い
「なんで!」
「――ダチが泣いてた!」
「……」
セルネが奥歯を噛みしめ、顔を伏せて体を震わせている。
あの子もわかっているのだろう、ジンギという男がなんのために戦い、なんのために覚悟を消費するのか。
「リョカとミーシャだっていた、それなのに――」
「俺はその時1人だったよ。ヴィも、カナデも守る。俺がそこにいたのはそのためだ」
「お前、その言い方、最初から――」
「ああ」
あたしは眉をひそめた。
確かに突然あたしたちのベルギルマ行きに乗り込んできた。もしかしたらその時からジンギの目には最悪な未来が見えていたのだろうか。
ヴィヴィラもそれは初耳だったのか、ジンギを一度睨みつけ、すぐに肩を竦ませた。
「どうりであたしの言うことを聞かなかったわけだ。そういうことはちゃんと相談してくれる?」
「あまりにもか細かった、リョカとミーシャじゃそもそもカナデには会えなかっただろうしな。それに――」
「そんなことはどうでもいいんだよ! ジンギ、お前はそんな、死ぬことがわかっていて飛び込むような奴じゃないだろ。自分のこと弱いっていつも言って、なのに」
「ああ、だから俺がどうにか出来るのなら、それが一番マシだろ」
その言葉には、その場にいる誰もが空気をピリつかせた。
セルネは飛び出し、ジンギの顔面にその拳を届かせた。避ける気のないジンギ、しかしそれはさらに銀狼の勇者の逆鱗に触れた。
「避けろよ!」
「それでお前が納得するなら――」
「するわけないだろ! なんなんだよ……なんでそんな、自分のことを冷めた目で、お前は俺たちのためなら喜んで死ぬって言うのか!」
「ああ」
「……」
セルネも、タクトもクレインも絶句していた。あたしに引っ付くエレの握る力が強い。
なるほど、これがジンギの家の教えか。
「お前らを守れて死ねるのなら俺にも意味が持てる。お前らが死んじまったのなら、それは俺も死んだ時だ」
あの時は自分はそうじゃないと話していたけれど、言葉と相手の立場の違いしかない。むしろ範囲が広がっている分、両親よりずっとジンギの方が性質が悪い。
「……セバスとクルミめ、馬鹿みてぇな教育息子に残しやがって」
「そうね、でも大丈夫よ」
「ん~?」
「ジンギにはそれを正してくれる友達がいるもの」
あたしは小さく笑い声をあげてベンチに腰を下ろすと、そのままエレを撫で、彼女の髪をかき上げて顎で男衆を指す。
「エレ、ジンギの誰かを守りたいって気持ちは間違っていないわ。それはわかるわね?」
「……うん。でも」
「ええ、あいつが阿呆なのは自分を勘定に入れていないこと、それと――」
その銀色を纏わせる勇者と革命を起こす剣、大地の権威に目をやった。
「『聖剣顕現・銀姫と交わす約束』」
「『『発破天凱・六光絶技』」
「『壊魔全獣体・魔王種パイロバンザー』」
戦闘体勢に移行したセルネたちを横目に、あたしはジンギの背に声をかける。
「ジンギ、あんたの誰かを守るって想いは間違っていないわ。でもね、あんたもしかしてセルネたちのことを弱いって思ってる?」
「は? そんなわけないだろ。セルネとタクト、クレインは強いよ。だから俺は――」
「馬鹿ねあんた、あんたに守られなくてもセルネたちは大丈夫よ」
「……でも」
「そうね、カナデだって強い。だけれどそれでもエンギの方が強かった。あんたが命を対価に守らなくちゃいけない場面もあるかもしれない。でも勝つわ。カナデも、セルネも、タクトも、クレインだってね」
「勝てない時は?」
「そんなこと考えて戦いに挑むバカがどこにいるのよ。あんた戦闘に対する意欲が後ろ向きすぎよ」
あたしはバチバチに戦闘圧を鳴らす3人に笑みを向け、そしてこちらに顔を向けるジンギに挑発的に笑って見せる。
「命を懸けて守るのなら勝手になさい。でもね、命を懸けてあんたを守ろうとする子たちを否定だけはするんじゃないわよ」
「――」
「自分はどうなってもいい? 自分が死ぬのが一番被害がなくていい? あんた本当に馬鹿よ。ヴィヴィラのおかげであんたが戻ってきたとき、リョカは普段通りだったでしょ? でもね、あんたが死んでいる時、一番壊れそうだったのはあの子よ。あたしの幼馴染はどうでもいい奴に涙を流そうとはしない」
「……俺は」
「そもそもあんたね、弱者は守られるべき立場のものよ。人の命に優劣なんてない、個人の優先順位はある。でもあんたが優先しているのは命じゃなくてその価値でしょ? ならあたしがここではっきりと宣言してやるわ、あんたの命も、価値も、ここにいる誰とも寸分変わらないわよ」
「もし、もしそれを選ばなくちゃならない時は?」
「全部よ」
「……」
ジンギがため息をついて肩を竦ませた。
この男も頭が悪いわけではない。本当はもう気が付いている。
エレに抱き着かれて、ピヨ子に涙を見せられて、セルネとタクト、クレインが自分のために怒ってくれて――。
「ジンギ、受け止めてあげなさい」
「……俺弱いんだけど?」
「友だちの八つ当たりくらい受け入れられないの? それは格好悪いわね」
「――ああ、そうだな」
ジンギが鼻を鳴らして笑い、セルネたちを真っ向から見つめた。
そんなジンギにヴィヴィラが口を開く。
「あたしの力、いる?」
「いやいい、男同士の意地だ」
「そっ」
「行くぜセルネ、タクト、クレイン――変身『厳々神装・運命に傅く聖剣顕現』」




