魔王ちゃん、幼馴染の戦いを観戦する1
「まだ名のない聖剣か。名無しでそれだけのものが作れるのなら、勇者としても将来有望だな」
「生憎、勇者の称号は僕には贅沢すぎるかな。だからガイルとうちの学校の勇者くんに譲るよ」
「話には聞いたが、お前さんのお気に入りらしいじゃねぇか。今度会わせろよ」
「もちろん。けれどガイルのことだって気に入っているよ」
互いに聖剣を構えて談笑する。けれどその際、テッカと対峙しているミーシャに闇を忍ばせ、彼女の拳に素晴らしき魔王オーラを当てる。
「手は守ってあげるけれど、他は自分でね」
「ん。今度こそ首と胴体を分けるわ」
テッカが引き攣った顔を浮かべながらも動き出そうとしており、どうしても2人の戦いに意識がいってしまう。
「現闇か。そこまで使えるようになってんなら俺が本気を出しても問題ねぇな」
「どうせ第2ギフトは使わないんでしょ。勇者のギフトだけなら、どれだけ本気でやっても大丈夫なくらいには鍛えてるよ」
「そいつは僥倖。しっかし絶気だけじゃなくて現闇も普通の魔王とは使い方がちげぇな」
ガイルがチラリとミーシャの手に装着されている闇の手甲に目を向けた。
「いやいや、ガイルの聖剣に比べたら随分お粗末でしょ」
ガイルの持つ聖剣、ファイナリティヴォルカント。自身の体ほどの大きさのガントレットで、それを両腕に装着しており、聖剣からは炎が上がっていた。
「謙遜すんな。武器なんて使ってる奴が敵をぶん殴って壊れなければ上等だ。あれは相当に頑丈なんだろ」
「まあね」
以前ダンジョンでミーシャはあの武器もろとも敵を破壊したことがあった。だからこそ壊れない武器を提供するために何度も試行錯誤したのだけれど、その努力を他でもない戦闘狂な勇者に褒められたのは素直に嬉しかった。
僕はチラとミーシャを見てしまう。
すると緩く飛び出してきたガイルが攻撃を仕掛けてきたけれど、僕は軽く避ける。
「気になるか?」
「そりゃあね。みんなミーシャのことを怪物みたいな扱いをするけれど、一応か弱い僕の幼馴染なの。あの子が強くなったのは一緒にいたからわかっている、けれど大事なんだから心配するのは当然でしょ」
まるで組手のように剣とガントレットを鳴らし、僕とガイルは話を続ける。
「なら安心しろよ、テッカは相手をそれほど傷つけずに組み敷ける」
「……うちの幼馴染が負けるとでも?」
「お前さんテッカのこと舐めちゃいないか? どれだけ強力な力を持っていようが、当たらなければ意味なんてねぇぞ。そんでミーシャがテッカに攻撃を当てられる可能性なんてねぇよ」
僕は頬を膨らませて、子どもっぽいかなという表情でミーシャとテッカの2人を顎で指す。
「じゃあミーシャが勝ったら2人とも学園に来てみんなに戦い方を教えてよ」
「良いぜ。じゃあテッカが勝ったらお前ら学園辞めて俺たちの仲間になって一緒に依頼受けろ」
「いいよ、いいよっ、乗ってあげるよ」
こんなことで人生を左右することを決めても良いのか。と、多少の後悔が頭を過ぎったけれど、ミーシャが負けるはずはなく、剣でガイルの攻撃を文字通り片手間で受けながらミーシャに声援を送る。
「ミーシャぁ! やったれぇ! ボッコボコにしちゃえ!」
「テッカぁ! 手加減なんて必要ねぇぞ! 女子どもだろうと容赦なく倒しちまえ!」
僕たちが声援を送っていると、ミーシャとテッカの2人が呆れたような顔を浮かべていた。
「うっさいわね」
「相変わらず仲が良いな」
「あんたもね」
「だがいいのか? 学園を辞める羽目になるぞ」
「あら、そんな心配は無用よ。だって勝つもの」
「自信を持つことは良い結果を生み出すこともあるが、慢心は感心せんぞ」
ミーシャが拳を握り、テッカが両手で短剣を構えた。
2人の戦いの始まりに、僕は息を呑む。
「――っ!」
初手、動き出したのはミーシャだった。
レイガン改め、神だまをテッカに向かって放ち、そのまま神だまを追うように彼女が駆け出した。
「身体能力も以前とは比べ物にならないほどに向上しているな。だが、やはり遅い」
しかしテッカは軽く神だまを避け、追撃してきたミーシャに目もくれずに回転切りを放つ。
ミーシャの綺麗な白い肌の顔に切り傷が奔り、真っ赤な鮮血が頬を流れる。
「やはりお前では俺には勝てんよ」
テッカの余裕の勝利宣言にミーシャが額に青筋を浮かばせ、神だまを何度も発射する。
「くっ、イルミナグロウ!」
「なるほど、それは生命力か。ならば無駄撃ちするものじゃないだろう」
どれだけテッカに向かって神だまを撃っても全て躱されてしまう。
すると、攻撃を止めて呆然とミーシャを見ていたガイルが口を開いた。
「え、あれイルミナグロウだったのか? 俺の知っている自己犠牲と全く違うんだが。こわ」
「ミーシャは怖くないやい! それにまだだよ、まだミーシャにだって手は残ってる」
「テッカはまだスキルすら使用してないぜ? それにあれが生命力だっつうなら、お前さんは止めるべきじゃねぇか? それともフォーチェンギフトで回復でもするか? 俺がさせねぇよ」
「そんな器用なことミーシャに出来るわけないでしょ!」
「はい?」
まさかの返事だったのか、ガイルが素っ頓狂な声を上げた。
幾つもの神だまを放ち、案の定ミーシャの動きが遅くなり、肩で息をするようになっていた。
「言わんこっちゃない。生命力はもっと大事に使うものだ」
「……」
ゆらゆらとした足取りで、手を伸ばすミーシャを一蹴するようにテッカが彼女の手を払おうと短剣を回して柄を聖女の手に当てようとした。のだけれど、何かを感じ取ったのか、テッカが突然飛び跳ねるように後退した。
「フォーチェンギフト」
ミーシャの手は空を切り、その手が傍にあった瓦礫に触れた。その瞬間、瓦礫は砂と化し、まるで命の感じられない出涸らしとなった。
「は?」
テッカが驚きの声を上げた隙をミーシャは見逃さなかった。
今までのどの瞬間よりも近くにいるテッカに、強奪系聖女が神だまを撃つ。
「馬鹿なっ!」
「一発くらいは喰らっておきなさい!」
渾身の神だま、しかしそれはまたしても外れた。かに見えた。
途端、テッカが神だまを掠らせた左腕を庇うように蹲り、痛みに声を上げた。
「……掠った、だけだぞ」
「今度は全身に喰らわせてやるわ」
「勘弁してくれ」
引き攣った顔のテッカに、勝気な顔を向けるミーシャ。これでこそ彼女のペースだ、どんな強敵だろうとも一切退かず、ただ前だけ見て戦う。
僕たちが相変わらず組手のような戦いを繰り広げる中、瓦礫に腰を下ろして見ていたアルマリアさんが立ち上がった。
「せい、じょ?」
「おいリョカ、有象無象の生命力の強奪なんて、聖女がいっちゃんやっちゃ駄目だろうがよ」
「僕に言われても。だって勝手に出来るようになってたんだもん、止めようがないでしょ。それにミーシャ曰く、あたしは聖女なんだからあたし以外は喜んで生命力を差し出すべきでしょう。だってさ」
「……そうか」
流石のガイルも引き気味にミーシャを見ており、そんな彼が思案顔を浮かべた。
「俺、あいつと戦っていたら詰んでたんじゃねぇ?」
「勇者の第2スキルが一番生命力が回復したって言ってたよ」
僕たちは揃ってミーシャとテッカの戦いに視線を戻す。
するとテッカが怪我をした腕を抱きながらため息を吐いた。
来る。僕は直感する。
「使用を待ってあげたいけれど――勝ち目が薄くなりそうだから攻めるわ!」
ミーシャが駆け出し、片手でそこいらの瓦礫に触れながら、もう片方で神だまを次々と放っていく。
神だまの衝撃で巻き上げられた砂塵でテッカの姿が見えなくなったのだけれど、僕はすぐに気が付き、ミーシャに声を届けようとする。
「おっと、口出しは野暮だろう。大人しく観戦に徹しろ」
「……にゃろ~」
しかし、ガイルの鋭い攻撃に声を出せるほどの余裕がなくなった僕は横目で幼馴染を覗いてしまう。
「これで――」
「いや、詰みだ」
「え?」
驚くミーシャの背後にテッカが立っており、短剣を彼女の体に走らせ、次々と切り傷を作っていく。




