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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
48章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、幻は残響に現は懐郷に。

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魔王ちゃんと繋ぐ照らす灯1

「よ~しっ、みんな帰り支度は終えたなぁ」



「お土産たくさん買えました」



「早く家に帰ってだらだらしようぜぇ、やっぱ自分の家が一番落ち着くわ」



「……ここがあんたの国でしょうが」



 翌日、僕たちはそれぞれの荷物を『運命を穿つ聖船(リア・ファル)』に積み、キサラギの屋敷の庭からベルギルマを発とうとしていた。



「テッカはやはり、戻ってしまうのですね」



「ああ、少しのんびりしすぎた。それにそろそろ生徒たちの顔が見たくなったからな」



「お前が教師か。キサラギの歴史の中で初かもしれんな」



「立派な仕事です。戦ってばかりだったあなたが誰かに教えを説くことに喜びを覚えてくれて母は嬉しいですよ」



「……教えというよりは、あいつらの速度がどこまで伸びるのかを知りたくなっただけさ」



「まっ、あの学園はリョカたちがいるおかげか冒険者業よりも退屈はしない。しかも最近までヨチヨチ歩いていた奴らが今では目を凝らしてなくちゃ追えないほどだしな」



「しかもまた魔王が増えたときた――親父、お袋、こいつが勝手にどっかに行った不良生徒だ。昨日もろくに紹介できなかっただろう」



「不良じゃないもんっ! キサラギの人は本当にいつも一言多い――あっ、キサラギの人だとみんなそうですわ。え~っと……テッカおらぁ!」



「……お前にはまず目上の人との会話のやり方を叩き込まなければならんようだな」



「イタいイタいイタいイタい!」



 リッカさんとガンジュウロウさんに挨拶をしているガイルとテッカだったが、昨夜はキサラギの仕事でいなかった2人にテッカが改めてカナデを紹介しているところだけれど、普段通りの蒼炎の魔王に風切りがアイアンクローをかましていた。

 カナデもテッカも見てわかるほど今回の件を引きずっていなくてよかった。あんなことがあった後だからもっと沈んでいるかと思ったけれど、2人とも良く笑えている。



「……一応言っておくけれど、ただの強がりよ。数日は気を遣ってあげなさい」



「はい……」



 さすが我らの聖女様はすべてを見通している。

 カナデに惚れんなよ。とか言わなくてよかった。



 僕は変なことを言わないように口を手で塞いでいると、テッカからカナデの紹介を受けたリッカさんがカナデをじっと見つめた。



「う~ん? えっと……」



「お袋?」



 するとリッカさんはカナデの頭を抱きしめ、そのまま優しい手つきで何度も撫で始めた。



「わっわっわっ、あの、その」



「本当によく頑張りました。あなたはあなたの使命から真っ直ぐに向き合い、そして守るべき者たちを守ったのです。いつも(・・・)言っていましたね、私たちを守ると――あなたはついに終わらせたのです。誇りなさい、胸を張りなさい。あなたにはいつでも()が、夜叉の我らが共にあることを忘れないでください」



 誰に向けた言葉なのか、僕たちは呆然とそれを見ていると、カナデの頬に一筋の涙が流れ、リッカさんに強く抱き着いた。



「あ、あれ、あたし、なんで――」



「カナデちゃん()よく頑張りましたね。もしかしたらこの国にいい思い出はないかもしれませんが、ここはあなたの故郷です。もし、もし何かに思い悩み、1人で考える時間が欲しい時、なんとなくどこかに行きたい時、ここに帰っていらっしゃい。あなたのお母様、カグラちゃんの代わりにはなれないけれど、私たちが、キサラギが、きっと力になります」



「……」



 きっとリッカさんにはカグラさんに対して思うところがあるのだろう。そこには踏み込んではいけない気がして僕は2人から視界を逸らした。

 すると体を震わせているギンさんが目に映り、どうしたのかと僕は冒険者組の方に近づいた。



「……一応、私は叔父なのだが」



「うん、でも黙ってろ」



「リッカさんって格好いいし、素敵だよな。レンゲとサジが羨ましいよ」



「でしょ。奥様――ママは体が悪いのにいつもあたしたちのことを気にかけてくれていた。だからキサラギの中でも特に尊敬してる」



「だねぇ。隠れて会いに行っていたこともあったけれど、いつも歓迎してくれて本当に嬉しかったんだぁ」



「それであの強さだろ? レンゲももうキサラギの技をずっと使っているし、リッカの姐さんに師事したらどうだ?」



「ママの使う技はキサラギじゃないもの。あたしこの前初めてママが技を使っているところを見たけれど、あれいったいどうなってるのかわからないのよね」



「ギフトから加護だけ取り出して技にしているみたいよ。ちなみにリッカさんにそれを教えたのが僕のママ」



 カナデのことはあちらに任せ、僕は冒険者たちと別れの話を進めるのだった。

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