魔王ちゃんとのんびりティータイム
「しっかし、王都でのことと言い、本当にお前とミーシャと一緒だと息つく暇もなくなるよ」
「僕のせいじゃないんですけど」
朝食も食べ終わり、リッカさんが追加のお茶とお母さまから届いたお菓子を机に出してくれ、僕たちはのんびりとしていた。
正直ここに来てから激動の繰り返しだったから帰る前にここいらで息をつきたい。
そして僕はふとランファちゃんとスピカに目をやる。
「2人はどうする? このまま僕たちと一緒に帰る?」
「むっ、魅力的な提案ね。このまま一緒に行っちゃおうかしら」
「スピカ、そんなことをしたらマルエッダ様に叱られますわよ」
「うっ――」
涙目でスピカが縋ってくるから僕が撫でていると、そんな彼女をジンギくんが見ており、やっと女の子に興味を持ったかと嬉しくなり、彼と目を合わせる。
「ふふ~ん、ジンギくん、星の聖女様可愛いでしょ」
「へ? ああ、うん、そうだな」
「だから興味を持てって言ってんだろ!」
「……いやもう本当にすみませんですわ。この男、ずっと家に仕えていたせいか、他人への興味の示し方が独特になってしまって」
「いやそれにしたってねぇ」
「両親の教育も独特でしたから――イルミーゼの家以外に興味を持つな、敵だと思え。相手を感情的に見るな、価値と利用できるかで視ろ。とかだった記憶がありますわ」
「さすがにそんな目でもう見てねえよ」
「え? 今の一瞬で私は可愛くない判定をされたの?」
呆然とジンギくんに目をやるスピカだったが、ジンギくんはすぐに首を横に振り、星の聖女様に謝罪を述べた。
「いやそういう意味じゃなくて――スピカって言ったか?」
「……ええ、どこにでもいる顔をした星の聖女ですよ」
「ジンギくん、また女の子泣かしてる。ヴィヴィラ様、カナデ、ランファちゃんにスピカ、そんな子に育てた覚えはないぞぅ」
「お前に育てられた覚えもねえよ。って違くて」
するとジンギくんは畳の上で正座しながら、そのままスピカに向かって頭を下げた。
「うちのお嬢――ランファがよく笑えてる。グエングリッターでスピカや色々な人が支えてくれてるんだな。ありがとう、そのじゃじゃ馬は素直じゃねえし、言葉がきつい時もあるが、そいつはちゃんと優しいし、芯も強い。ランファがそうやってスピカに心許していたみたいだからな、ありがとう」
「……」
「……」
ランファちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、真正面からの真っ直ぐな言葉に、スピカも顔を赤らめていた。
「フィムとテッドにも礼を言っておいてくれ。きっとあいつらもランファを目にかけてくれてたんだろう? またサンディリーデに来たときは俺が色々奢ってやるってな」
「……あなた、いつからそんなに人のことを褒めるようになりましたか?」
「聞いているこっちまで照れてきちゃったわ」
そんなジンギくんに、お茶をすすっていたガイルが手を上げて彼から視界を向けさせた。
「それがどういう意味かにもよるな。次言えなくなるからか?」
「……いいえ。次また言うためです。あの時言わなかった後悔で二の足を踏んでしまうなら、今言って次に会った時もちゃんと伝えるためっす」
「ならよし。生きることにも、喧嘩にも前向きならそれでいい。お前はまだまだ強くなるよ」
ずっと弱者だった彼はヒーローになり、確かな成長を僕も覚えていた。
ガイルの言葉に強くうなずいたジンギくんを横目に、僕は客間から縁側に脚を伸ばし、そこに腰を下ろして薬巻きに火をともす。
背中では確かに雷星の勇者が頬を膨らませており、そんな彼女の気配を感じながら耳を傾ける。
「……そんな風に言われたら、わたくしはもう何も言えませんわ。それに別に怒っているわけではないのですわ、ただ――」
「ランファは心配していただけだもんね――ねえジンギさん、あたしね、あなたのことは星――フィム様とランファから聞いていたのだけれど、とても素敵な方なのね。だからこそ、あまり無茶はしちゃだめよ。あなたがあんなことになった時、ランファが大変なことに――むぐぐ」
「余計なことは言わない」
「そりゃあ……ああ、悪かった。それに、あんときは、引いちゃいけねえ気がした。カナデの運命が、あそこで終わっちまう気がしてな」
実際にファインプレーだった。
あの場でジンギくんがやられ、ヴィヴィラ様がカナデのそばにいなければ多分僕たちはバッドエンドを迎えていた。
この男、運命神様と共に行動する内に随分と運命に敏感になったのだろうか。
「カナデのこと、友人としてわたくしからもお礼を言わせてもらいますわ――いえ、ここは、ジンギ、わたくしの従者、あなたのおかげでわたくしの友がまだ笑っていられそうですわ、その働き、わたくしは誇りに思いますわ」
「――もったいなきお言葉ですお嬢様、わが心、我が体、魂はイルミーゼとともに」
ランファちゃんとジンギくんが同じタイミングで吹き出し笑い声を上げた。
すでに主従ではない2人だけれど、それでも垣間見える確かな絆に僕は息を漏らしたのだった。




