聖女ちゃんと神座に舞う2つの炎
「カナデ」
「ミーシャ――」
あたしの姿を瞳に映したカナデがパッと笑みを浮かべたのだけれど、すぐに顔を伏せた。
きっとまだ恐れている。本当にこの子は感情の起伏が激しい子だ。
「説教は後よ。今はとにかくこいつをぶっ飛ばすわ」
「――っうん!」
「カナデ、ミーシャちゃんたちと再会できて嬉しいのはわかるけれど、集中して」
ヴィヴィラ、随分とカナデと親交を深めたらしく、ジンギに対してやる気安さが感じられた。
アヤメがいたら喜んだでしょうね。
「カナデ、ヴィヴィラ、この男は――」
「カナデ、よもや先ほどの敗北を忘れたわけではあるまいな? お前がどれだけ足掻こうともその定めは変わらん」
あたしとガイルから意識を外したエンギが相変わらず鼻をつく顔をしてカナデに言い放った。
「あたしを前に定めを説くとは随分と大きく出たなエンギ=シラヌイ、君の掲げる運命がどのような結末かは知らないけれど、あたしが繋ぐ運命を、あたしはカナデに賭けた」
「貴様は……そうか、貴様は確か、カリンが連れていたな」
「――っ」
「運命神、なるほど――あちらはすでに抜け殻か。あの小僧が妙に力をつけるはずだ」
妙な言い回しだ。けれどヴィヴィラには覚えがあるのか、あの子はエンギを睨みつけている。
でも多分今の状況には関係のない話だ。申し訳ないけれどその話は後回しにしてもらいたい。
エンギもその話を続けるつもりがないのか、ヴィヴィラから視線を外し、カナデに向かって腕を伸ばした。
「お前はシラヌイの最高傑作だ。お前はシラヌイでありながらその身に神の加護を宿している。だが、お前は我らの炎を使っていないな」
「何の話? あたしはプリマの炎だけで――」
「それでは至れん。どれ、少し手を貸してやろう」
エンギが差し出した手をその場で握った瞬間、カナデの体から赤い色をした炎が噴き出した。
「あ――がっ、ああ!」
「その炎こそがシラヌイの証――お前が持つべき炎。ああ、本物はよく燃えるな」
「カナデ!」
あたしとガイルはすぐに飛び出し、エンギに殴りかかるのだけれど、奴はあたしたちの攻撃を躱し、そしてどこか別の方角に目をやりだした。
「カナデ! これは、ギフトが燃えてる? ――あつっ」
「ヴィヴィラ! それは女神も燃やす炎よ、下がってなさい!」
「……」
けれどヴィヴィラは大きく息を吸ったと思うと、突然カナデの背中に抱き着いた。
「ヴィ子、離れて――」
「舐めるんじゃあないよ。あたしはジンギに君を守れと言われたんだ。このくらいの炎、どうってことない! そもそもギフトは女神が生み出した物、燃え盛るギフトだって、どうにか、抑えられる、はずだ」
ヴィヴィラがカナデに引っ付き、そのおかげかカナデから溢れていた炎が徐々に勢いをなくしていく。
「精霊の残滓も燃えた。今君を守るのは、忌々しいけれど、この炎だ。カナデ、運命を、その一歩から、絶対に逃げ出すな」
「……」
肩に乗るヴィヴィラの手にカナデが手を重ね、前を向いてエンギに戦闘圧を向けた。
「エンギ!」
「……なるほど、あの小僧が持つ抜け殻とは格が違うのか。だが――」
エンギの見ていた方向、そこから何者かが歩んできた。
けれどその歩んできた人が放つ匂いに、あたしもガイルも顔を見合わせた。
「カグラ」
「来たかカグラ」
「……」
エンギを睨みつけるカグラだったが、すぐにカナデに気が付き、一瞬表情を、顔が綻ぶのだったが首を横に振り、カナデに向かって歩みを進めた。
そして驚くべきことに、カグラはエンギの正面に立ちカナデと対峙するように真っすぐと正面を見据えた。
「……誰?」
「……」
「あたしの邪魔をするのなら誰であろうとも関係ない。どいて、そこの魔王は倒さなければならない」
「……そう」
カナデが武器を構えると、カグラもまた武器を構え、互いに戦闘圧を展開する。
「カナデ、あんたそいつは――」
「おっと、せっかく盛り上がってきたのだ。大人しく見届けたらどうだ?」
あたしとカナデたちの間に炎が奔り言葉を遮られてしまう。
いったいこの男は何を考えている。カナデとカグラに何をさせるつもりだ。
「「――戦闘空間の展開」」
「標的、正体不明のシラヌイ」
「標的、カナデ=シラヌイ」
「身体機能2割低下中――」
「標的残存生命力80%」
「戦闘開始に支障なしとして標的を排除する!」
「……使命の続行に支障はなし。カグラ=シラヌイ、参ります」




