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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
47章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、灰燼の地に刃を突き立てる。

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風割く獣くん、その憧れに手を伸ばす

「あーもうなんだなんださっきから!」



「……あたしたち、本当に場違いよね。あっちこっちから流れてくる戦闘圧が普段の戦場とは比べ物にならないくらいに濃い」



「これが強い人たちの戦いなんだね。兄さんもここで戦っているんだ」



「だあもう、どいつもこいつも少しはひよっこに夢持たせてくれよな」



 ジンギと別れた俺たちは彼が指差した方向へ慎重に脚を進めていた。

 けれど今レンゲが言った通り戦闘圧があまりにも濃く、敵の気配がなくとも脚を進める度に恐怖で重くなっていく自身の体に喝を入れながら進むのだけれど、あちこちで弾ける圧に、俺たちは毎回肩を跳ねさせていた。



 そんな恐怖を振り払いたいがために、俺たちは身を寄せ合って軽口を叩いてただ着実と一歩前進していた。



「コークよ~、俺たちA級冒険者になれんのかね」



「今のままじゃ無理だろうなぁ。でもそれは俺の目標だから」



「A級の依頼で、ある聖女を止めてほしい。なんて依頼があったらどうするつもり?」



「……ばっかお前、もう俺は聖女関係の依頼があったら速攻で逃げるって決めてるんよ」



「コークさん後ろ向きだぁ」



「おっ、ならサジさんに受けてもらうしかないっすね。コーク喜べ、聖女関係はサジが出張ってくれるってよ」



「そんじゃあ任せた」



「ぜ、全員で依頼を受けたほうが自分は楽しいと思うなぁ」



「あらサジ、お姉ちゃんに成長を見せる機会じゃない? いい加減姉離れしないとだし、大きな依頼を受けてもいいんじゃない?」



「……弟離れの間違いじゃない?」



「言うようになったじゃない。生意気になったのはヨリのせいかしら? それともあの神官様? 小さな子?」



「いやいやレンゲ、サジはあの修行中、ずっと甘やかされっぱなしだったからな、弟に目覚めたんだろうよ」



「みんな優しかったよぅ」



「……改めてあの人たちにはお礼を言わなきゃ」



「レンゲも最近は余裕出てきたよね、今も凄くいい感じ」



「肩ひじ張るのが馬鹿らしくなっただけよ。それに逃げ回って不貞腐れて、自分で勝手に敵を作っていたら聖女に殴られちゃうもの。そんな生き方はしない。容赦なんてしてくれないから本当に痛いものあれ」



「ああうんほんと……多分あれは加減してるつもりなんだろうけれどね。俺の軽口にコツんって裏拳の指だけを頭に当てられることがあるんだけれど、そのコツんに死が見えるからねっ」



「どれだけの攻撃力を有してんだあの聖女」



「サジとバッシュはいいわね、あたしたちはあの期間で何度も死を見たわ。あんたたちはそんなことなかったでしょ?」



「うん、基本的にスキルの使い方をずっとやってただけだし、出来ることをみんなで考えて失敗したら次のことを考えるってことばかりやってたから」



「ヨリは基本的に教え方が上手いからな。お前たちの方とは違って毎回飯出てくるし、お茶の時間とかもあってよ。こっちは優雅に過ごしてましたよっ!」



「腹立つわね」



「ヨリが持ってきてくれる弁当がどれだけ俺たちの心を癒してくれていたのか、お前にはわかんないだろうなぁ」



「そんな状況じゃなくてもあいつの弁当は癒されんだよ。まず旨いし、彩もいい。というか冷めた弁当なのに香りもいいし、後に出てくる菓子類も旨いわけだ。そもそもあいつは茶を淹れるのが上手で――」



「ヨリのことになると途端に喋り出すな――惚れてんのかお前?」



「……コーク」



「……コークさん」



「――」



「え、本当に……? あっ、だからお前ヨリがジンギを連れてギルドに来た時機嫌悪かったのか――ぐぇっ」



「コーク、そのくらいにしておきなさい」



「コークさんって、結構空気読めないところあるよね。空気を扱うのはうまいのに」



「あたしがコークを完全にリーダーにしない理由よ」



「しっかしヨリかぁ、よりによって……あいつなぁ――」



「……あんだよ」



「絶対競争相手多いぞ。それに障害も多いと見たね」



「それはそう、まず聖女――それにジンギが言ってたけれど、お気に入りの勇者も学園にいるらしいし」



「ヨリが。じゃなくて、そいつが。だろっ!」



「はいはい、そういうことにしておいてあげるわよ」



「ったく」



「はは――俺たち、あいつが現れてからいい意味で変われてるな」



「そうね、最初は何だこの子。なんて思ったものだけれど、いつの間にか随分と頼りにしていたわね。それに多分、あの子の本当(・・)は――」



「レンゲ?」



「……ん~ん、なんでもない」



 俺たちはそんな他愛もない話を繰り返し、まるで導かれるようにしてその一室の襖に手をかける。

 わかっている。ここまで歩んでくるのも正直しんどい。脚が重い、体が切り裂かれるような、巨大な石を体に括り付けられているような、そんな感覚に頭がどうにかなりそうだった。

 でも、俺たちはここに来なければならなかったんだ。

 ジンギの言葉を借りるなら、それは運命だったのだろう。



「……レンゲ、バッシュ、サジ」



「……うん、わかってる」



「……コークさん、俺たちも一緒だから」



「おうよ大将、ここにある憧れ、全部取り戻してやろうぜ」



「――ああっ!」



 俺が勢いよく襖を開けると、その部屋で俺の憧れ――ギンさんが部屋から繋がる中庭を臨み、ただただ中央にある池に目を落としていた。



「コーク、バッシュ、レンゲ、サジ」



「――ギンさん、迎えに来たよ」

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