勇者のおっさんと正体不明の楽団
「邪魔だどけっ!」
「鬱陶しいわね、消し飛びなさい。覇竜――」
炎を纏った竜の形をした生命力が正面から続々と現れるシラヌイたちをほぼ炭に変えていく。
俺たちはさっきまでと同じように一番強い気配に向かって走っており、脚を進める度に湧いてくるシラヌイたちを対処しているのだが、どれだけ湧いてくるのか、倒しても倒してもきりがない。
「本当に多いわね――ガイル、ちょっと数減らすわ」
「減らすってお前どうやって――」
「『神格を縛る聖女の檻・素晴しき殴り合い銀河』」
ミーシャの腕から鎖が伸びる。
以前見た一対一に持ち込むスキルと言うか技だったはずだが、今そんなものを使っても時間がかかるだけじゃないだろうか。と、俺が訝しんでいると、ミーシャから伸びた一本の鎖が突如いくつにも分かれ、数十人のシラヌイの腕に巻き付いた。
「『我こそ狩人を喰う獣也』」
ミーシャを中心に白い靄が現れシラヌイたちを包むと、あの聖女は自身に巻き付いた鎖を思い切り引っ張り、大量のシラヌイたちを宙に引き揚げた。
そして聖女は戦闘圧――否、多分生命力を纏って嗤い顔を浮かべると引き寄せられたシラヌイたち1人1人の顔面に拳を高速で叩き込んでいった。
「いやお前それ一対一の技じゃねえのかよ!」
「うんなちんたらやってられないでしょ。そもそもこれはスキルと加護を使えない代わりに生命力で殴り合う空間を作るスキルよ。あいつらあたしより生命力少ないから鎖に繋がれるだけで一発で倒れるほどになるのよ。それでも数が数だから1人ずつなんてやってたら日が暮れるわ」
「……いやうんなこと聞いてねえんだよ。お前が作ったルールくらいお前が守れよ」
「あたしが作ったルールなんだからあたしが変えたのよ」
相変わらずめちゃくちゃ言いやがるなこの聖女。
俺はため息を吐くと、チラと正面に目をやる。ミーシャの鎖を躱し、ずっとこちらを窺っている奴が3人。
俺は聖女に目をやると、彼女は頷き『神格を縛る聖女の檻』を解いた。
「いい加減信仰を使ってぶっ飛ばしたいわ」
「効かねえんだからしょうがねえだろ。お前は今まで通り生命力でも使っとけ」
俺とミーシャで横並びになって生き残ったその3人に意識をやると、そいつらが姿を現した。
「……」
「……」
「……」
左右にいる中肉中背の男2人は手に、筒に布を張った……リョカがジブリッドで売り出すと話していたたいこと言う楽器に似たそれを持っており、中央の女は口に咥えたいくつもの糸、にしては太く光沢のある紐と言うか、金属の線を口から垂らしており、どうやって戦うのか全く見当がつかない。
「さて、どう出てくるかね」
「顔面殴るだけよ」
「そりゃあそうだが、シラヌイは本当にやりにくいな」
「ここまでの奴らでは一番強いわね」
俺は頷き、徐々に徐々に高めるように戦闘圧を練っていくのだった。




