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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
47章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、灰燼の地に刃を突き立てる。

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鋼鉄のライダーくん、ひよこたちに運命を示す

「コーク、大丈夫か?」



「……気持ち悪い。なんだよここ」



 シラヌイの屋敷を進んでいる最中、コークの脚が重くなり、次第に速度を抑えていくのを見て俺は声をかける。

 レンゲがコークに肩を貸すのだが、サジもバッシュも顔色が優れない。



 原因はこの場所で渦巻く高濃度の戦闘圧のせいだろう。

 あちこちから殺気やらが飛び交っており、何よりもこのひよっこたちを蝕んでいるどデカい圧の大半はどこぞの聖女と勇者の仕業であることは明白だった。

 けれど止めを刺したのは多分――。



「りょ――ヨリだな。ツキコ辺りが狙われたか? 抑えちゃいるがあいつの圧は独特で慣れないと気分悪くなんだよなぁ」



「これ、ヨリなの? 殺気があっちこっち変動してて読みづらいし、緩急ついててわけわかんないんだけど」



「あえてやってんのか、感情が動きやすいのかはわかんないが、あいつ戦闘においてはど素人なのか熟練なのか測りづらい所があるからなぁ」



「まあ戦闘の才能ないって言ってたものね」



「これだけやられて才能ないなんて言われちゃあ俺たちの立つ瀬がなくなるっつうの」



 俺はヘリオス先生からもらっていた薬巻きに火をつけ、それを一吸いした後コークの口に近づける。



「ちょっと吸え、楽になるぞ」



「ん――」



 サジとバッシュにもそれを吸わせ、3人が落ち着くのを待っている間、俺とレンゲは辺りを見渡す。



「ねえ、あんたたちは何と戦ってるの? それとギンはいったい」



「レンゲは確かキサラギだったよな、じゃあ知ってるか――こいつらはシラヌイだよ。そのギンってやつも多分な」



「……は? シラヌイ。ちょっと待ちなさい、それはお兄ちゃ――テッカとガイル=グレッグが何とかしたはずでしょ? 10年前のヤマトが暴れていた時に一緒に倒したって」



「その時のことはよく知らねえけど、シラヌイのボスが魔王だったって話だ」



「魔王って……」



 残った薬巻きを吸い、その先端を今まで倒してきた奴らに向けながら、紋章に意識を向けさせた。



「エンギ=シラヌイ、あの紋章は『傀来(かいらい)』由来らしく、よくわかってねえんだとよ」



「エンギ=シラヌイ……」



「絶対に戦うな。さっきも言ったが俺はそいつに何もできねえで殺された」



「あなたもよくわからないのよ、なに殺されたって? 生きているじゃない」



「俺もよくわかんねえよ。ヴィに助けられたんだと思うんだが、俺はよくわかんねえ」



「あなたたち周りは不思議なことが多すぎよ」



 俺にそれを言われても困る。

 そうしてため息をついていると、やっと調子が落ち着いてきたのかコークたちがこっちに意識をやってきたのがわかる。



「自分たちが出て行った後だよね、ジンギさん、危ないことあまりしないでね」



「おう、サジはいい奴だな、ありがとよ」



 俺がサジの肩を叩いていると、コークが顔を伏せていた。



「……シラヌイってあれだろ? 噂程度っつうか、最早御伽噺の類のあれだよな?」



「悪いことしたらシラヌイが首をとりに来るぞってな。キサラギなんかはヤマトの一件以来表に出てき始めたが、シラヌイは俺たちにとっちゃそれこそ女神さま並の存在感だ。まさか実在してたとは」



「あたしたちはずっとシラヌイを相手にすることを想定させられてたから、あんまりそんな感覚はないけれどね。でもこれでわかったわ、カナデってシラヌイなのね。以前訓練した動きとなんとなく似てたわ」



「でもお姉ちゃん、シラヌイってもっとこう、冷たい人って聞いたよ。カナデさんはとっても明るくて素敵な人だった」



 サジの言うことに俺も頷くが、俺はカナデのもう1つの面を知っている。以前起きたカナデとソフィアとテッカさんの戦い。あの時のカナデは、今だからこそわかるが常人ではありえない圧の展開のさせ方をしていた。

 あれがあいつの本性なのかはわからないが、少なくとも俺の知っているカナデ=シラヌイは誰よりも友人を大事にし、自分の好きのためなら体を張れる奴だ。



「ああ、カナデはいい奴だ。だから来た」



「あなたたち、魔王が裏にいるってわかってて助けに来たの? お兄ちゃんもだけれど、よくそんなことできるわね」



「テッカさんならお前たちが同じ状況になっても助けにいくはずだぜ。もちろん教え子の俺たちも、魔王も聖女も。な」



 レンゲとサジが顔を見合わせて照れたようにはにかんでいた。しかしその2人とは対照的に、コークの顔がどんどん青白くなっていくのがわかる。そんな彼の肩をバッシュが支えていた。



「コーク……」



「じゃ、じゃあさ、やっぱりギンさんも、悪い人じゃ――」



 俺はコークの胸に握りこぶしを近づけ、軽くトンッと当てる。



「それを決めるのは俺じゃねぇ。今お前がそんなんでどうする」



「――」



 コークが瞳に涙をためて見上げてきた。俺はそんな彼の頭に手を置き、荒々しく撫でた。

 するとコークは噛みしめていた歯を解き、体を震わせながら口を開く。



「でもさ、俺、どうしたらいいかわからなくて。なあジンギ、俺、間違えないかな? 俺、ちゃんとギンさんと、向き合えるかな?」



 今にも泣きだしそうなコークへ向ける言葉を探っていると、隣にいたレンゲがコークの腕を勢いよく掴んだ。



「あんたはあたしをしっかりと連れて行ってくれたでしょっ!」



「……」



「テッカ――お兄ちゃんに届かないと思ってた。どうやってもあたしの声なんて聴いてもらえないって……でもコークとバッシュ、それにサジがあたしを引っ張ってくれた」



 ああそうだ、コークにはちゃんといるんだ。

 選ぶのはコークだ、こいつの憧れはそのギンってやつの人生を、生を、運命を――口に出せる価値のある(・・・・・)ものだ。



「あたしが、あたしがちゃんと連れて行くから。だから、そんなみっともないこと、言わないでよ」



「レンゲ……」



 まっすぐと見つめるレンゲの瞳をコークがジッと見つめていると、サジがコークの手をとって頷き、バッシュが肩を叩いた。



「まっ、そういうことだ。不安なのはわかるけどな、大丈夫だ、お前は今までを間違えていない」



「……うん、うんっ」



 コークが大きく息を吸い、瞳を涙を振り払って前を向いた。

 もう心配することはないだろう。



「――」



 そこで俺はコークの頭から手を離すと、正面を睨みつける。

 俺の目的はあっちだ。だが――。



「コーク、レンゲ、サジ、それにバッシュ」



「ん?」



「あっちだ」



 俺は俺の目指す反対を指差した。そっちが多分、コークたちの……。



「あっちが、お前たちの運命の分岐点」



「……」



「運命ってあなた――」



「一度死んだからかね、他人のそういうのがよく見えちまう。ともかく、お前たちはあっちだ」



 俺はさらに顔を上げると、そこからまたしても大量のシラヌイが流れ込んでくることが気配でわかる。すぐにスキルを使用して変身し、コークたちに向かって声を上げた。



「行けお前ら! ここまでは連れてきてやった、だがあとはお前たちの道だ!」



「う、うん! ジンギ、ありがとう!」



「ジンギさん、気を付けてね」



 俺に背を向けるコークとサジを横目に、ふとこちらをじっと見ているバッシュに目をやる。



「……よく我慢してここまでついてきたな、俺のこと信用できないのはわかるが、そうやって見つめられるとな」



「別に――」



「どうせあなた、ジンギがヨリと距離が近すぎてどういう関係かって考えてただけでしょ」



「ばっ――おま」



「あ? あ~……なるほど、セルネと同じか」



「セルネ?」



「俺んところの勇者。ヨリ大好きでな、あいつとの約束だけで聖剣作っちまう大色ボケ野郎だ。最近では聖女への使命でも作ってたな」



「むっ」



「俺そんなに近かったか? だがまあ、うん、心配すんな。俺はあいつとそんな目的で一緒にいねえよ。信頼はしてるけどな」



「あんな可愛い子なのに、あなたは靡かないのね」



「可愛いって……あ~そうか、あっちだけしか知らねえのか。俺はその辺り良く知らねえからな。まっでもバッシュ、俺はそれには興味ないが、あいつを好きだっていう奴は結構知ってるな」



「やっぱモテるのね」



「ああ、そんで最低でも聖女を倒せるようにならなきゃ話にもならないこともな」



「……壁が高すぎなんだよ」



「だな、だから――」



 俺はバッシュの頭に手を置くと、歯を出して笑ってやる。



「しっかり生き残れ。強くなる運命も、その後に繋がる運命も、話はそれからだ。大丈夫だ、俺が保証してやる。お前は強くなるよ」



「……ああ、ありがとよ。あんた、すっげぇ人だな――ここまで、助かった」



「おう」



 バッシュもコークたちの後を追っていき、俺は残ったレンゲに目をやる。



「お前があいつらの中では一番強い。頼んだぞ」



「ん、無事に全員を連れて帰るわ。ジンギもありがと、あなたも死ぬんじゃないわよ」



「……」



 駆け出すレンゲを見送り、俺はコークたちを背に強く強く拳を握るのだった。

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