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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
47章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、灰燼の地に刃を突き立てる。

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夜を被る魔王ちゃんと世界の知らない人体のこと

「ヨリさんっ」



「んもぅ、危ないでしょツキコ」



 片方から血が流れる眼球で睨みつけると、ギザンは呆気なく後退し、奥歯を噛みしめながらカレンと並びこちらの様子を窺っている。

 僕はふわりとツキコを抱きとめるとその小さな頭を撫で、ポケットから薬巻きを取り出して火をともした。



「『光あれ月よあれ(ユニックルナーリア)』」



 ツキコのスキルで内臓と目を修復し、煙を吐き出すと同時に一息つく。

 相変わらず馬鹿げた回復術だ、だけれどさっきのはちょっといただけない。

 僕はツキコの頬を軽く摘まむと微笑みを浮かべる。



「ヒーラーは何があっても前に出ちゃだめよ。今度しっかりとロールのお勉強をしようね」



「でも、それでは傷が治せません」



「そんなのは後でいいんだよ。死ぬ前に片をつけるし、本当にヤバかったら僕から近づくから」



「むぅ」



 納得できていないツキコだけれど、むうとした顔があまりにも可愛らしく、ついつい甘やかしてしまう。



「ツキコはまだ戦闘初心者なんだから、今はそれでいいんだよ。立ち回りがわかってきたらある程度動いていいから、今回はとにかく僕に守られてよ」



「……はい。ごめんなさい」



「謝らなくていいよ、嬉しかったからね」



 シラヌイ2人に背を向けながらも僕はツキコを抱きしめることをやめない。しかしそうしながらも僕は沸々と湧き上がる殺意を背中から発し、バキバキと指を鳴らしながら、意識だけはギザンとカレンに向けていた。



 そしてツキコから体を離し、2人からある程度距離をとらせるように彼女を押し出すと、首を回して背後の床に目を落としながら先ほど斬られた目の瞼を撫でる。



「14回」



「なに――?」



「お前今14回うちのツキコを斬ろうとしたな」



「ここは戦場だ」



「そうだね、僕が個人的にキレてるだけだよ。しかもなんだその飛ぶ斬撃? 世界観変わるだろうが。スキルが使えないから極限まで肉体を鍛えていたら剣から衝撃波が出るようになったって? お前はどこの海賊狩りだ」



 僕は吸いかけの薬巻きをそれなりに高く宙へと放ると、振り返って戦闘圧を爆発させる。



「この世界にジャンプ作品を持ち出すっていうのなら僕にも考えがある。一瞬だ、築き上げたそのすべての才能努力友情勝利――全部粉々にぶち抜いてやる」



「――」



「――」



 ギザンとカレンが額に青筋を浮かべて飛び掛かってきた。2人から放たれる片方は銃弾のような金属の射出、もう片方からは剣を振るう度に周囲を切り裂く斬撃の風。



 僕はツキコに意識を向けながらも手を正面に出し『あ~した天気にな~れラックラックリトルメア』の最終スキルを使用する。



「『刹那に一生を得るレッドフードロマンシア』」



 先ほども使ったスキルだけれど、このスキルはあらゆる攻撃を事象にまで分解(・・・・・・・)して、その事象を体へランダムに刻む(・・・・・・・・・)。つまり運が良ければウイークポイントをすべて避けられるというスキルだ。



 まあもっとも、さっきの目みたいに受けたらまずい箇所に攻撃が当たることもあるけれど、そんなこと関係あるか。



 正面に向けた手を通して、僕に届く攻撃とツキコに向けられた攻撃を全て僕が受け、指、腕、太ももに次々と切り傷と金属による打撃によって出来た痣。



「馬鹿な、我らにスキルは――」



「馬鹿はお前だ、これは君たちに向けられたスキルじゃない。僕が僕のためだけに行う運試しだ」



 僕は宙に放り投げた薬巻きに目をやった。

 落ちてくるまでには終わるだろう。



 カレンが手を伸ばし、またしても僕につかみかかってきた。

 しかし僕は伸びてきた手を受けるでもなく『夜に見初める真の目ヴェルシングラードリー』で人差し指の先に夜を纏わせて短い刃に変え、さらにスキルを使用する。



「『未確定不可逆性未来(ジャックザドリーマー)』」



 カレンの指から血しぶきが上がり、彼女の指の屈筋腱を切り裂き、握ることもままならない状態にしてそのまま顔面を殴りつけた。



「うがっ!」



「その唾だらけのナットが一々鬱陶しい――」



 顔面を殴ったことで怯んだカレンの口元を手で覆うように掴み、空いた手でさっきの不確定の未来を確定させるために空に刃を奔らせる。

 けれどカレンは僕が彼女の口を手で覆ったことに、勝機を見出したのか、喉を膨らませて僕の手ごと撃ち抜こうとしたのだけれど、一手遅い。



 すでに彼女の喉に流し込んでいた夜の性質を変化させ、喉に張る粘着性の(あみ)

 それは彼女の喉よりも()から吐き出されるナットを包んで打ち返した。



「がふっ」



「カレン!」



「やっぱりそのナット、胃に隠してたか。リスじゃないんだから頬袋なんてあるわけないと思ってたけれど、胃酸まみれのナットとかばっちいじゃない」



 喉の膜で反射されたいくつものナットはカレンの背中から飛び出し、彼女は両指を握ることも出来ず、背中からは激痛が走りその場に蹲ってしまった。



「貴様――」



「夜って言うのはいつの間にかそこにある。けれどそれは曖昧で、闇とは違ってあるのにない(・・・・・・)。だから魔王の現闇とは違って()()()()()()()()()()()けれど、読み取ることは出来る(・・・・・・・・・・)



 カレンの頭を掴み、もう片方の手をギザンの頭に伸ばす。



「読み取ったんなら後はコピペするだけさね――『月に惑いし夜を愛して(ルーインズアリーシャ)』」



 夜が来る。

 潜み陰り逃げることで夜は恐怖を大きくしていき、月からその身を逸らす一心で夜は世界を覆った。

 恐怖(こころ)は大きくなることをやめず、ついには月が見渡せないほど広く大きく(よる)は姿を現しながらくらました。



 夜はどこにでも潜み、何もかもを記録している。

 夜から夜にかけてそれを伝えて、月の目から逃げ惑う。



「夜は電気に似ているかもしれない。体に影響を与えることはなかったけれど、この世界の夜には触れられる(・・・・・)



 夜を通してカレンの痛みを読み取って(・・・・・・・・)、僕はそれをギザンに流し込む。



「なにもなかった。そうだよなぁ?」



「――」



 ギザンが歯を食いしばり、噛みしめた口からは血が流れ、まるで痛みにこらえるように体を震わせた。



 電気信号を模した夜は体から脳や神経を刺激して読み取った痛みを再現し、その敵に激痛をもたらし、脳の錯覚によって発生した痛みはまるで損傷を探すように体中に傷を奔らせた。



 僕は落ちてきた薬巻きをその場でキャッチすると煙を深く吸い込み、それを吐き出しながらギザンとカレンに背を向けた。



「こっちも知識の総動員だ馬鹿野郎」



「この、力……お前、まさか――」



 腰のリョカちゃんクマを撫で、僕は指先だけを魔王に戻し、素晴らしき魔王オーラをかのシラヌイの脳天に放った。



 そのまま意識を放り出しただろうギザンに目を向けることもなく、僕は薬巻きを握っている手の人差し指を伸ばして唇に添えた。



「野暮ったいことは夜に流しちゃいな」

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