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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
47章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、灰燼の地に刃を突き立てる。

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夜を被る魔王ちゃん、月に運命をかぶせる

「ん!? 間違ったかな」



「がぁぁぁっ!」



 ジンギくんたちを追いかけている最中、ぞろぞろと集まってきたシラヌイたちを相手にしているのだけれど、さすがにここまで来ると量産型は出てこないのか、全員が紋章をつけていた。

 見た感じ、まだまだ他所から連れてきた人たちばかりだけれど、あちこちから向けられる強い気配はギンさんと同じような直系――つまり、エンギの血筋のシラヌイだろうな。



 この血筋って言うのも予想でしかないけれど、多分エンギ=シラヌイ、生まれてきた女の子全員を自分で孕ませてるな。

 私、そう言うの嫌いなんだよなぁ。



「りょ――ヨリお姉ちゃん?」



「……魂の波長が本当に変わらない。ギンさんの魂を見た時、カナデそっくりで驚いたのと同時に、胸糞悪くなったね」



「えっと、それはいいのですけれど、その――」



 ルナちゃん――改めツキコが苦笑いで私の小さなお手々が掴んでいる男の頭を見ていた。



 私は今、男をうつ伏せに転がして、蹲踞(そんきょ)――所謂ヤンキー座りでその男の頭を掴んで夜を流し込んでいた。



「『夜に見初める真の目ヴェルシングラードリー』」



 紋章付きのシラヌイの血液を(よる)に上書きしていき、その夜は魂にまで伸びていく。

 本拠地にいるシラヌイだからもっと情報が集められないかなと、手当たり次第夜を流し込んでみているのだけれど、直系じゃないからかあまり有用な情報がない。



 と、私がビクンビクンしている男を横目に映していると、それ(・・)は空気に溶け込むようにそこにいた。

 その場にいた外部のシラヌイに見向きもせずに、その男女2人が私とツキコを睨むでもなく、ただ圧のある瞳を向けてきた。



「やっとか。あなたたちなら私たちの知りたいことも――」



 私は瞬時にツキコを抱えると、その場から飛退き『銀姫に倣う夜の雫アガートラーム・イクノス』を周囲に張って2人を睨みつける。

 するとその男女の内の男が口を開いた。



「お前の存在が一番理解できない。お前は何だ、どこの誰だ? 我らの情報網をもってしても未だに測れない」



 男がしゃべりだすと同時に、周囲にいた外部のシラヌイたちがまるで達磨落としのように輪切りにされていき、床にゴロンと首やその他もろもろを落としていった。



「いやぁ結構有名なんだけれどねぇ」



 軽口を放つ私だけれど、多少の焦りがあった。

 これでスキル使っていないとかまじかこいつら。



「……ツキコ、この距離覚えて。これ以上足を踏み入れると斬られるよ」



 男の方は両腕にまるで生えているかのように突き刺さっている三日月形に歪曲した刃を携えており、女の方は先ほどから浅い呼吸を繰り返していた。



「お前の目的はなんだ? なぜ我らに敵対する」



「君ら自分が何なのかわかってる? 私は一市民として殺し屋を退治しに来ただけだけれど? 君たちは殺しすぎた、私の友人も君たちに関係のある人でね、その人のために頑張ってんだよ」



「かたき討ちか? ならばやめておけ。お前は不確定要素だ、お頭ですらお前と、それと聖女を測りかねている」



「それは光栄で、そんなこと言われちゃったら私やる気出ちゃうんだけれど」



「……馬鹿なことを。今ならまだ引き返せると忠告してやっているんだ。例え勇者を引き連れていようとも我らに負けはない」



 鋭い眼差しを向けてくる男に私は睨み返し、戦闘体勢に移行しながら圧を纏っていく。



「それはこっちもだよシラヌイ。年季の入った老いぼれにはそろそろ退いてもらわなければ困るんだよ」



「――」



 エンギのことを老いぼれと言ったからか、途端に2人が殺気を纏わせて動き出した。

 男が仕掛けてくるかと身構えたのだが、先に動いたのは女の方だった。



「カレン――」



「――」



 カレンと呼ばれた女性が大きく息を吸った。彼女の口の中から金属のこすれる音が鳴ったが、それよりもあり得ないほどの空気を肺に取り込み、腹部から首、頬にかけてどんどん膨らんでいき、まるでカエルのように丸々となったと同時に飛び出してきた。



 取り込んだ空気を体内で維持したまま、私に向かって拳を――いや、手のひら、掌底だろうか、それを放ってきた。



「近接戦闘はそれなりに慣れてるのよっ!」



「――」



 しかしカレンは一切言葉を口にすることなく、次々と手のひらを私に放ち続ける。

 なんだ? 掌底にしては勢いがない。

 私が警戒していると彼女が口をもごもごと動かしながら、さっきから聞こえている金属の音をさらに大きく鳴らし始めた。



「口の中に何を――っ!」



 私の声を遮るような風切り音――カレンが口の中に潜ませていたナットのような穴の開いた金属を大量に吸い込んだ空気を吐き出しつつ射出してきた。

 どんな肺活量をしているのか、噴き出されたナットは私の頬を掠め、床に弾丸のように撃ち込まれた。



 何発も放たれるそれを躱しつつ、カレンの掌底を払っていくのだが、ついには追いきれなくなり、彼女の腕が私の腹部に伸びる。



「しま――」



 多少の油断があった。ただの物理的攻撃であるのなら治療は容易い。ここにはツキコもいるし、何より最悪私が元の姿に戻ればいい。

 そんな甘えがあった。



「――っ!」



 だからこそ、私はカレンに掴まれた(・・・・)腹部からくる痛みに、私の視界が目の前がチカチカと点滅する羽目となった。



「うっぐぅ」



 このまま掴まれていては全部やられてしまう(・・・・・・・・・)。私は瞬時に『銀姫に倣う夜の雫アガートラーム・イクノス』でカレンの腕を狙うのだが、彼女は手を離して後退した。

 ただの一掴みで臓器が握りつぶされた。

 あれは掌底じゃない、握力が半端ない。ありゃあ頭すら砕く勢いだ。



「ヨリお姉ちゃん!」



 私が苦悶の表情を浮かべたからか、ツキコが駆け出してきた。

 来るなと声を上げようとしたのだけれど、それは男が動き出したことで奥歯を噛みしめる。

 こいつらは私たちを調べていたと言った。ならば当然、この場で最も厄介な回復手段(・・・・)を最初に潰すのは当然だろう。



「ギザン=シラヌイ、参る。表不知火――『飛夜光(とびやっこう)』」



「――」



 スキルを使用したツキコに伸びる凶刃――その瞬間、私……僕の頭の中でプツリと音が鳴った。

 阿呆が。そこに手を出させるわけにはいかない。もし、もしも――。



「『刹那に一生を得るレッドフードロマンシア』」



 月神様に伸びるはずだった刃――斬撃と言う名の事象は何かを斬った(・・・・・・)という結果だけ(・・・・)を私に与え、眼球から流れる血液を拭うこともせずにギザンと名乗った男に手を伸ばしてその首を掴む。



「おい――そこに手を出すつもりなら命をかけろよ」

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