夜を被る魔王ちゃんと到着、不知火の拠点
「ああ、だいぶ快適になってるね」
「ジンギに感謝だな。あいつ、マジでどんどん強くなっていくな」
シラヌイへの拠点へと『運命を穿つ聖船』で進んでいる私たちだけれど、その道すがら敵の気配はほとんどなく、先行したジンギくんが倒してくれたのだろうと私とガイルで感心していた。
しかし我らの先生であるテッカは眉をひそめており、その表情から彼を心配しているのがうかがえた。
「あいつ、また無茶をしているんじゃないか? 強くなったとはいえ、まだまだ守られるべき学生だぞ」
「……お前はここ数日で随分と過保護になったな。俺の心配なんて一度だってしてくれたことなかったのに」
「お前の心配をしてどうする。どうせ解決するだろう」
ガイルがテッカを指差しながら悲しげな瞳を向けてくるものだから、その彼の肩をポンポン叩き、代わりに心配してあげるからと声をかけた。
そうやって雑談をしていると、やっとシラヌイの拠点にたどり着き、私たちは船から降りるのだけれどそこにジンギくんたちの姿はなく、それどころか拠点内から戦闘の気配がしており、先行していた彼らがすでに行動を起こしていることに私は頭を抱えた。
「……なんで先に行っちゃうかなぁ」
「そこはジンギを汲んでやりなさいよ。あいつ……というよりヴィヴィラだな、いつの間にかジンギは女神が泣いてるとわかるらしいぜ」
「ジンギさんの探知がどんどん女神の信仰や神核に寄り添ったものになってきているのですよね。まさか人の前で嘘が付けなくなる日が来るとは――僕は大丈夫ですが、アヤメ、気を付けてくださいよ」
「俺だって嘘つかないわよ」
なるほど、ヴィヴィラ様が泣いていたから早く合流するために先に動いたということか。
うんうん、可愛い子の涙は放っておけないよね、許す。
私が肩を竦めると、ふと覚える視線――。
「……」
私とミーシャ、ガイルとテッカでツキコとアヤメちゃんを庇うように女神さまたちの正面に立ち、全員が同じ方角を向いた。
意識を交えただけで、存在を認識されただけで、魂から火が盛るようにふつふつと体から炎を感じる。
私たちはそれを表に出さないように内々に抑え込み、魂からその炎を追い出す。
ああなるほど、これが灰燼の魔王か。
「……ジンギくんはよくもまぁ、これを戦いの席に引きずり出せたもんだ」
「並の相手じゃ出会っただけで焼却されんな」
「まったく馬鹿げている。ロイを連れてこなかったのは英断だな、魂関与の炎などあいつにとって脅威以外の何物でもないだろう」
「意外とやってくれそうではあるけれどね。でも今回はダメよ、あたしが殴るのよ」
私たちが揃って睨み返して感想を言い合っているところで、私は手を叩いてみんなから視線を集める。
「さて、行動方針を決めよう。全員でぞろぞろ行ってもいいんだけれど……」
「却下」
「ミーシャに同じ」
「だよねぇ――テッカはカグラさんを捜しに行くでしょ?」
「……何も言っていないが?」
「良いから行ってきなって――私はジンギくんたちを追いかけるよ。ちょっと気になることもあるしね」
「あたしは今すぐにエンギのところに行きたいわ」
「なら俺とだな――テッカ、1人で大丈夫か?」
「問題ない――」
「ん」
と、1人で行動すると宣言したテッカに、アヤメちゃんが両腕を上げて抱っこのポーズ。
「テッカ、俺を抱えていきなさい。脚は引っ張らないわ」
「しかし」
「シラヌイに関しては今まで何もしなさ過ぎたからね、お前と一緒に責任は果たすわよ」
アヤメちゃんにうなずくテッカだったが、その神獣様を我らの聖女様がじっと見つめていた。
「――ちゃんと残さず喰らってくるわよ」
「そう」
ミーシャはアヤメちゃんの頭を撫でると小さく息を吐いた。
心配なら心配だと言えばいいのに、この獣っ子たちは。
「それじゃあツキコ、私たちも一緒に行こうか」
「はいっ、ちゃんと役に立って見せますよ」
私はツキコを抱き上げるとそれぞれが行動を開始した。
まだまだエンギ=シラヌイの力は未知数なところがあるし、正直全員で戦いたいのだけれど、その前にやっておかなければならないことが多すぎる。
ミーシャとガイルがすぐにエンギの下に行くと言っているが、色々と邪魔されて、せめて私たちがたどり着くくらいに戦いを始めてほしい所だ。
私は、ここ最近はまったく思う通りに動いてくれない幼馴染の背中に一度振り返り、盛大なため息を吐くのだった。




