鋼鉄のライダーくん、その決意は一歩のために
「ちょっとちょっとジンギ! こんな敵地で何叫んでんのさ」
「……」
ヨリたちから先行してシラヌイのアジトに乗り込んだ俺たちだったが、ふと何となく、ほんの少しだが、泣いているような気がした。
あの半透明の強情娘は何を抱え込んでいるのか知らないが、どうにも自分に厳しい面がある。
しかもそうやって自分で厳しくしているくせに、耐えられなくなって泣き出そうとする。泣くくらいに追い込んでいるのなら最初からもっと自分を甘やかせばいい。
ランファといいヴィといい、出来ないのならするな。それでもどうにもならないのなら吐き出して身を軽くするべきだ。
あの2人は自分のことになると真っ当な歩き方を忘れてしまうらしい。
「敵地だから叫んでんだよ。コソコソと無駄に警戒して、後ろなんてとられたらどうする。相手は俺たちなんかよりずっと上手な隠密能力を持ってんだぜ」
「……俺ら相手知らねぇけど」
「気張っていけよ、腕に紋章のない奴らはそれほどでもないが、紋章付きに出会ったのならミーシャとやっていた特訓の気配でやっていい」
俺は辺りを見渡すのだが、ああやって叫んだ影響か、ぞろぞろと気配がこちらに向かってくる感覚がする。
強い気配はないようだが――。
「……」
ほんの一瞬、エンギ=シラヌイが俺を視た。気に入られたのか、死んでいないことを驚いているのかはわからないが、ただの一瞬、俺の全身から汗が噴き出した。
「……ねえ、今のって」
「レンゲはさすがだな、ここの一番強い奴だ。お前たちは絶対に戦うな、見つかるな、ほんの少しでも気配を読み取ったのなら無様でも何でもいいから逃げろ。俺は一度殺された」
「なんで生きてんのよ」
顔を引きつらせるレンゲに、俺は肩を竦めておよそ俺の相棒がいるだろう方向に目をやった。
リョカもミーシャも何も言わなかったが、多分俺を死の淵から呼び戻したのはヴィだろう。
何をどうやったのかはわからないが、俺はあいつに救われた。
なんとなくだが、これは一度限りの奇跡なのだろう。というかそうであってほしい。何度も何度も死ねるなんて状況は堕落にしかつながらない。
俺は死が、誰かを残してしまうことが恐ろしいから、ここまで来られたようなものだ、その根底がなくなった時、俺はきっと戦うことをやめてしまうだろう。
俺は頬を強めに叩き、コークたちに目をやる。
「とりあえず奥までは俺が連れて行ってやる。そっから先はお前らが考えろ、選べ」
「選べって――」
「俺はお前たち……コークの大事な人のことは知らねえ。でもな、ここにいるってことはそいつはきっと抜け出せないところにいる。どうやって引きずり出すのか、そのままにさせるのか、それはお前が決めろ」
「……」
顔を伏せるコークに、俺は厳しい目を向ける。こればかりは他人にゆだねてはだめだ。
だが――。
「我儘通すんなら、死ぬ気でやれ。死ぬ気で生き残れ」
コークの頭に手のひらを落とし、そのまま荒々しく撫でてやる。
「ちょ、ちょっとジンギ」
「大事なら、そいつの都合なんて跳ねのけちまえよ。死にてえなんて言うのなら殺してやってもいいけれどな、迷っている。残りたい、そんな後悔している奴なら無理やりでも引きずりおろしてやれ。お前はそれが出来るだろ」
俺はコークの頭から手を離すと、スキルを使用し変身する。
赤い戦闘圧を纏いながら、拳を正面に打ち抜き、高速接近してくるシラヌイの連中どもを一気に蹴散らした。
「そいつに会わせるまで、お前たちには指一本でも触れさせねえよ」
くだらない横やりのせいで、コークたちの我儘が通らなくなるなんてあってはならない。だからこそ、俺が前に立つ。俺が拳を振るう。
俺は一歩を踏み出せた。だからこそ、俺は誰かの一歩を踏み出させるための弱者になる。
「聖女や勇者に比べれば頼りないかもだけれどな、格好よくなる気概だけは負けるつもりはねえよ」
「――」
コークが俺の背を見て息をのんだのが見えた。
何を感じ取ったかは知らないが、やる気が出たようで何よりだ。
「……コークも弱くないからね」
「うん、ありがとうレンゲ」
「でもジンギさん格好いいよぅ」
「……」
「バッシュは何拗ねてんのよ」
「……別に」
俺はひよっこの冒険者たちに一度鼻を鳴らすと、拳を構えて眼前を睨みつけるのだった。




