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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
46章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、幻炎を振り払い真なる炎を捉える。

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夜を被る魔王ちゃんとヒーローの原点

「――」



 ジンギくんが集中している。

 アクセルを開き、ジッと前だけを見て口を閉ざしていた。



「相当キレてんなありゃあ。あいつも戦う奴の顔つきになってきたな」



「……それで命を落としたら元も子もないだろう。俺的には大人しくしていてほしいんだがな」



「無理でしょ、あの子は一歩を踏み出せなかったことをずっと悔いている。けれど最近になってやっとその一歩を踏み出せるようになったのに、それをこんなところで邪魔されて腹が立たないわけないのよ」



「足踏みも大事だよ。それにあの子自身気が付いていないみたいだけれど、ジンギくんを大事に想っている人が多くいることを自覚するべきなんだよ。スピカからすっごいクレーム来たよ、ランファちゃんがまた闇落ちするって」



「……ラムダからもすっげぇ説教されたわ。うちの信者が一日中泣きはらしていたってよ」



 ランファちゃんとエレノーラにとってどういう立ち位置にいるのかは早く自覚してほしい所ではあるけれど、あの男はいつまでも気が付かないんだろうな。

 と、私がため息をついていると、ツキコがどこか呆れたような顔をして飛空艇の中からジンギくんに目をやっていた。



「ツキコどうかした?」



「……ええ、僕たちがいくまでのジンギさんの戦闘映像を洗っていたのですけれど、ところどころヴィヴィラの影響でノイズがかっているもののなんとか死に間際の映像を見ることが出来たのですが」



 まあ人の死に際の映像なんて見たくないかとツキコを撫でるのだけれど、彼女は首を横に振った。



「何をしたのか、まったく攻撃を受け付けていなかったエンギの顔に、ジンギさんは最後の最後で傷をつけています。大物狩りもいい所ですね」



「ジャイアントキリングか、ジンギくんも素質……というより、私のかかわりによってソフィアほどの潜在能力があるっぽいんだよなぁ」



「いいな、俺とも本気でやりあってくれねぇかね」



「生徒に手を出すな馬鹿たれ」



 そんな話をしているとオープン回線で話していたせいか、レンゲちゃんがこっちを見ながら顔を引きつらせていた。



「……あんなこと言ってるけど」



「知らねぇ」



「え、死んだ?」



「ジンギさん、危ないことしたの?」



「あんたもやべぇ奴だな」



 ジンギくんがため息を吐き、改めて眼前に目をやったのだけれど、すぐに正面から敵の気配。

 今私たちは草原を低空で飛空しており、その隣にジンギくんのバイクが並走している。

 彼の福音は走った場所に道が出来るというもので、所謂水陸空バイクだ。どんな場所でも道が敷ける。それに速度もそれなりに出ている。



 故に目の前に現れたその敵たちを轢くのかなと私が様子を見ていると、コークくんたちもやっと敵に気が付いたのか、戦闘準備を始めた。



「俺たちもやるか――」



「ジンギが先行するって言ったでしょ。それにここからどうやって戦うのよ」



「そりゃあお前、そこ開けてもらってだな」



「出入口は開けませ~ん」



 ガイルに席を立たないように言うと、ジンギくんがコークくんたちにも首を横に振って手を出すなというような視線を向けていた。



「でもジンギ――」



 その瞬間、ジンギくんがハンドルから片手を離し、離れた手に金属の板を掴んでいた。

 ヴィヴィラ様は今いない、ならば今あの子が手に持ったあれは一体――。



「あれは……でもまさか」



「アヤメ、あれって」



 女神さまたちが驚き声を上げた時、ジンギくんの戦闘圧の()が変わった。

 私はそれを知っている。でも彼はそうではない。

 そのギフトを得られる予兆もなかったし、およそ誰も彼をそれにしようだなんて思ってもいない。



 ならばあれは何か――。



「変身――『厳々神装(ヒーローモード)運命に傅く聖剣顕現(フェイズカリバーン)』」



 ジンギくんが金属の板を腰のバックルに装着した瞬間、バックルから光が照射され、彼の眼前に人が通れるほど大きな長方形の紋章。

 彼がバイクでそこを通ると同時に、ジンギくんの体をニチアサライダーの鉄鋼スーツが彼を包み、その姿は赤いオーラを発しながらも正面を睨みつけていた。



「邪魔だ!」



 ジンギくんに目掛けて飛び掛かってくるシラヌイたちに、ジンギくんが怒声を上げてその場で拳を突き上げた。

 突き上げられた拳は粒子分解されたかのように空気に溶けていき、飛び込んできたシラヌイたちの顎目掛けていくつもの拳(・・・・・・)となって打ち抜いた。



 しかし初動のシラヌイたちを伸した後、背後に控えていたシラヌイたちが一斉に投擲武器を放ってきた。

 ジンギくんに命中する直前、彼は体全てを粒子へと変え、投げられた武器をすべて躱し、そのまま姿を見せないままあちこちのシラヌイたちを殴り倒していた。



 そして赤い粒子が集まり彼が戻ってきたところで、私は我慢していた声を上げた。



「トランザムかジャネンバかはっきりしろ!」



「戦闘BGMははっきりとしたわね、赤字湧く方ね」



「僕の頭ではさっきから思春期を殺す感じのBGMが流れてますよ」



「少年に翼があったばかりに。いやライダーの曲流せ」



 私とアヤメちゃんで盛り上がっているのをミーシャやツキコ含めた面々が冷めた目で見てきており、空気を一新するために咳ばらいを1つ。



「あれはぁ……聖剣かな?」



「間違いなく聖剣ね、でもあれは信仰で作られていない。お前が余計なことをしたせいで、あいつは聖剣の核そのもの(・・・・・)を作り出した。だからこの剣が聖剣の元(・・・・・・・・)。をでっちあげられる」



 つまり、この剣が聖剣になりました。みんなも真似してください。という過去そのものを引っ張ってきたということだろうか。

 聖剣の元になった、だから特殊な力を持っている。故にこの剣は聖剣なのだ。

 僕の使った結果の収束と同じ原理だ。

 扉の先に空間がある。というのと同じように、聖剣には力がある。聖剣の元になったそれにも力がある。

 だから聖剣の元があれば信仰関係なく、力のある聖剣が自動で得られるということだろう。



「しかもあいつの中にあるヴィヴィラの力で過去の改ざんが出来るから聖剣の核が無形(・・)のままになってる。聖剣作り放題よ」



「勇者涙目ですね~」



「勇者の存在意義を根元から脅かすようなばっかじゃねえかお前の周り」



「私悪くないですしぃ」



 圧倒的な強化にガイルがげんなりとしているけれど、まあそれはそれ。という話だろう。

 そんなジンギくんが息を吐いてこちらを見ていた。



「ガイルさん、俺は勇者にはなれませんよ」



「勇者も結構いいもんだぞ」



「いいえ――」



 ジンギくんが私を見ながら歯を見せながら笑った。



「こういうの、ヒーローっつうんだろヨリ?」



「――うん、随分と格好いいヒーローが出来上がったことで」



 するとジンギくんが片手を上げた。



「それじゃあ俺たちは先に行く。道中と中の連中はある程度沈めていくが、そっちも気を付けろな」



「うん、それじゃあよろしく」



 そう言って、勇者でもなく、ただの従者でもない鋼鉄を内にも外にも従わせる彼は運命を踏み鳴らすようにして、その鋼鉄で出来た脚を私たちよりも先へ先へと進ませていくのだった。

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