夜を被る魔王ちゃんと灰燼へと挑む精鋭
「うっし、じゃあ行くぞ」
翌日、私たちはある程度の準備を終え、キサラギの屋敷から出発しようとしており、私の『運命を穿つ聖船』にはミーシャとツキコ、アヤメちゃんとガイルとテッカ、そしてジンギくんの『我が歩み止める者なし』に僕が作った荷台をつけてコークくんとバッシュくん、レンゲちゃんとサジくんがそこに乗っている。
『運命を穿つ聖船』は飛行船だから顔を合わせて会話は出来ないけれど、外にモニターを映し出し、こちらの様子も外に見られるような仕様にしている。
「ジンギ俺あっちが良い!」
「贅沢言うな」
「……ていうかあれなに?」
レンゲちゃんが顔を引きつらせて『運命を穿つ聖船』見ており、私は苦笑いを浮かべる。
「うちの魔王様はモノづくりが得意でな、あんなもんをポンポン作り出しちまうんだよ」
「改めてすごい魔王ね。もう驚きたくないわ、疲れるもん」
「なら精いっぱい疲れてくれや。ヨリ、そっちは準備できてるな?」
「うん、でもジンギくん、本当に一緒じゃなくていいの? こっちまだ余裕あるよ」
「いい、それに――」
ジンギくんが街の方に目をやるとあちこちから悪意を覚え、私も顔を歪ませる。
この街が戦場になる。シラヌイたちの強襲、テッカが顔を伏せて握りこぶしを作っており、ガイルに肩を叩かれていた。
しかし外にいるリッカさんとガンジュウロウさんがテッカに呆れたような顔を向けており、2人揃って肩を竦ませた。
「誰がこの街を守ると思っている」
「そうですよテッカ、少なくともあの程度の有象無象、私たちの敵ではありません」
暗殺者の服をそのまま形にしたような衣装のリッカさんとガンジュウロウさんが着ており不敵に笑っている。これは心強い。
けれどそんな2人、特にリッカさんを申し訳なさそうにレンゲちゃんが見ていた。
「レンゲも、顔を上げなさい」
「……はい、でも奥様――」
「ん~?」
「えっと、ママ……その、あたしたち、その」
「いいのよ。ね」
「――うんっ。それと、ありがとうママ、あたしたち――冒険者にも報酬をくれて」
「ええ、あなたとサジが頑張っている場所だもの、出来得る限り力になるわ。まあどこかの父親が私がギルドに提示した4倍ほどの報酬を払おうとしていましたけれど」
「ん゛っ」
「……父様」
「あ~その、なんだ、テッカとリッカにだけ責任を負わせるつもりはない。私も、お前たちの父親だからな」
レンゲちゃんとサジくんが互いに顔を見合わせてはにかんだ。
この家はもう大丈夫だろう。あれだけ可愛い顔を浮かべられるのならこの先何があっても乗り越えられる。
「それじゃあそろそろ行こうか。多分妨害されるだろうけれど、突っ切るよ」
「ヨリ、俺が先行する」
「おいおい大丈夫かよジンギ」
「……ちょっと八つ当たりに付き合ってもらうだけっすから」
「無茶はするなよ」
「いやお前、ヴィヴィラいねえじゃん。どうやって戦うんだよ」
「そういえばそうですね、テルネでも呼んで同じ状態にしておきましょうか?」
「止めてやれお前」
月神様――ツキコが微妙に怖いことを言っている。
しかしそんな女神さまたちにジンギくんが首を横に振った。私たちが首を傾げると、ミーシャが口を開く。
「大丈夫よ、そうでしょうジンギ」
「……ああ」
私たちが揃って顔を見合わせると、ジンギくんがアクセルを吹かせた。出発の合図だ。
「それじゃあお袋、親父、くれぐれも気をつけてな」
「ああ、行ってこい」
「テッカ、レンゲ、サジ、それにヨリさんミーシャさん、ツキコさんとアヤメさん、コークくんとバッシュくん、ガイルくんも――どうか、お気をつけて」
私たちは全員で頷き、私は飛空艇を、ジンギくんはバイクを走らせるのだった。




