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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
46章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、幻炎を振り払い真なる炎を捉える。

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夜を被る魔王ちゃんと死線を潜り抜けた鋼鉄のライダーくん

「なるほどな、こっちは今そんな感じか」



「うん、一応街の治安はキサラギが担ってくれているし、敵の実力もある程度見切れた。あとは私たちが本拠地に乗り込むだけ」



「……」



「ジンギくん?」



 朝食を終え、私とツキコはジンギくんへの状況説明をと敵地へと乗り込む準備のために街に出てきたのだけれど、その途中、ジンギくんが思案顔を浮かべていた。



「なあリョ――ヨリ、ギルドに寄っていいか?」



「え? ああうん、別にいいけれど」



 ジンギくんがそう提案するから、私たちは揃ってギルドへと足を向けた。

 ただ昨日の今日で正直顔を合わせずらい。ギルドのみんなは大人しくしているだろうか。



「……なあヨリ、そのギンさんって人はコークたちにとって大事な人たちなのか?」



「え、うん。だからなおさらこの件からは手を引いてほしくてね」



「ば~か」



「突然の罵倒!」



「うんなもんで冒険者の歩みを止められるかよ。お前が自由をうたう魔王なら、俺たち弱者の翼はここにしかねえんだよ」



 呆れたように言うジンギくんに私が首を傾げていると、ツキコがクスクスと笑い、彼の腕をポンポンと撫で始めた。



「ジンギさんは何を以て自分を弱者だと言っているのですか?」



「ハッ、そんなもん決まってんだろ。強者へのあこがれだよ」



「……それなら、コークさんたちは確かに弱者ですね。ジンギさんの言う通り、止まらないかもしれないですね」



「え~っと?」



「憧れっつうのは諦めを悪くさせるって話だよ」



「リョカさんやミーシャさんにはないですね~」



 ツキコとジンギくんがわかりあったかのように笑っている。少し疎外感があるけれど、こればかりは多分いつまで経ってもわからないままなのだろう。



 そしてギルドにたどり着いたのだけれど、どうにも中が騒がしい。

 私はそっとギルドの中を覗き込むと、そこではコークくんが冒険者の面々に何かを訴えかけていた。



「きっと何か事情があるんだよ! ギンさんが、ギンさんがギルドを裏切るわけないだろ!」



 ああ確かに、ジンギくんの言う通りだ。

 どれだけ脅してもコークくんは絶対に止まらないだろう。それだけ、彼の憧れは大きくて厚い。

 私がため息をついていると、ジンギくんがずんずんとギルドに入っていってしまう。



「あたしも、ギンが理由もなくこんなことするとは思えないのよね。現にギルドの連中は怪我こそあっても1人も死んでいないんでしょ? 本当に敵ならもっと徹底的に潰すでしょ」



「うん、俺もそう思うかも。だってギンさんってギルド大好きだったもん」



「そうね、居場所はここにしかないって感じだったもの。それでコーク、あなたはどうしたいのよ。現状手掛かりなしよ」



「それは――」



「よおコーク、ちゃんと帰ってこられたみたいだな」



「ジンギっ――と、ヨリ……」



 ギルドのみんなが気まずそうに私から目を逸らした。

 自分がやったこととはいえ、少し悲しい。



 辺りを見渡していたジンギくんが深いため息を吐くと大きく息を吸い、そしてあふれ出る戦闘圧を爆発させそれはもう高らかに嗤った。



「おいおい冒険者ども! 何しっぽ巻いて無様な面晒してんだっ! 俺たちみたいな弱い奴が冒険者から自由をなくしちまったら弱者にも劣る無能になっちまうぞ!」



「ちょ、ちょっと――ぐぇっ」



「このちびっ子に殺してやるなんて言われた程度で折れちまう奴が冒険者なんて名乗るわけねえだろうが! てめえの死に場所くらいてめえで決めろ! そうやってでしか生きられない奴が冒険者だろ!」



 ジンギくんに頭を引っぱたかれて涙目で頭を押さえていると、彼のその演説に誰も彼もが顔を上げたのがわかった。

 本当にこの子は、いつからそんな先導者みたいなカリスマ性を手に入れたのか。誰だこの子を弱者なんて言っているのは……いや、自分でか。



「悪かったなお前ら。ヨリも別にお前らが憎くてああ言ったわけじゃねえんだ」



「う、うん、ありがとうジンギ」



「でも俺も別に、お前たちが玉砕覚悟で今回のことを解決しろなんて言ってるわけじゃないぞ。このアホの言葉を抜きにして自分で考えろって言ってんだ」



「アホじゃないですぅっ」



「そういう強引なやり方はミーシャの役割だろう。お前はお前の言葉でしっかりこいつらを説得するべきだったんだ」



「むっ……」



 ギルド中の視線が私に集まり、みんながどこか不安げな顔で私の言葉を待っていた。

 私は頭を掻き、諦めて口にする。



「……私はここのギルドに来てまだ日は浅いよ。でも、それでもさ、それなりに愛着だって持つ。ここのおっさん連中はいつも騒がしいけれど、見た目が小さい私にお菓子とかくれたし、大事にしてもらっているのがわかった。受付のみんなは、マクルールさんもだけれど、私がそれなりの力を持っているって知っているのに、それでもいつも心配してくれてた。だから、その――」



 改めて口にすると何とも気恥ずかしい。

 私がそうやって口を閉ざしていると、ジンギくんに肩を軽くたたかれ、つい顔を赤らめてしまう。



「危ないこと、してほしくないだけ……これが普通の依頼で、魔物とか危険人物にやられたとかならまだあきらめがつく。そんなもの個人の責任だからね。でも今回私は相手がどんな集団なのかよく知っている。そこにむざむざみんなを送り込むなんて出来ない」



 これは私の心からの気持ちだ。

 私は言いたいことを言って顔を伏せると、しんと静まり返った沈黙に耐えられずにそっと顔を上げる。



 すると冒険者連中は肩を竦ませており、私が首を傾げていると、ジンギくんに頭を荒々しく撫でられてしまう。



「な、なにすんのよぅ」



「らしくねえことしてんな。お前はお前の言う可愛さをごり押ししてりゃあなんとでもなるだろうが」



「その可愛さにお前は一切靡かないけどな!」



「よくわかんねえもん。だけど正しいのはわかるよ、お前はそういうやつだ。もうちっとらしく胸張ってろ」



「このツキコより実った胸をかぁ――いだぁ!」



「……」



「だから会話してくれっての」



 ツキコに引っぱたかれた胸をさすっていると、ジンギくんがコークくんに手を差し出した。



「俺たちは今日にでも敵地に乗り込むつもりだ、お前たちはどうする」



「ちょいちょい、それはいくら何でも――」



「ヨリ、さっきから言ってんだろ。それを俺たちが決めちゃいけねえよ」



「でも……」



「まっ、さすがに全員ってわけにはいかねえな――敵は多分、また来るぞ。なんと奴らはほとんど尽きない戦力を持ってやがるからな」



 ジンギくんが挑発的な笑みを浮かべ、冒険者たちを見渡した。

 今度は何を言うつもりだこの男。



「ああだが心配するな、なんと街の防衛にはキサラギが全勢力で当たってくれるそうだ。陰でこの国をいつも守ってくれていた人たちが出張るんだ、もう心配は何もないだろう」



 ニヤニヤとした顔を冒険者に向けるジンギくん、一体いつからこんなに性格悪くなったのやら。



「いつもは依頼がありゃあすっ飛んで行った冒険者たちも今日ばかりは休業だ、なんていってもお前たちより強い奴がいてくれるからな」



「……性悪め」



「お前の影響かね」



「あんだとコラ」



 ジンギくんの挑発に、冒険者連中が次々と体に力を込めているのがわかった。

 ここを守ってきたのはキサラギだけじゃない。自分たちだって戦える。そんな意思を彼らから感じ取れる。



「ジンギ、俺たちも行くよ」



「まっ、今さらよね。ここまでかかわってるんだし、放っておけないわよ」



「うんっ、みんなで行こう」



 私は頭を抱える。

 この子たち、敵が何かもわかっていないのに安請け合いをしているけれど大丈夫なのだろうか。



「……」



「ジンギ――?」



「コーク、俺もいくぞ」



「バッシュ」



 今までだんまりだったバッシュくんが肩を竦ませて前に出てきた。

 しかし彼はどうにもジンギくんに目をやっており、何だろうと首を傾げていると、ツキコが「まっ」と両手を頬に添えて顔を赤らめていた。



 ジンギくんが前に出てきたバッシュくんに近づいていき、拳を振り上げた。



「『1,2,3で跪け(グラビアッシュ)』」



「――」



 バッシュくんの重力を付与する球体がジンギくんに触れた。

 あれを喰らうと暫く体が重くなって厄介なんだよな。と、私がジンギくんのフォローに回ろうとしたが、そのジンギくんの手が突然ブレ(・・)、いつの間にか彼の手はバッシュくんの頭に置かれていた。



「……え?」



「――過信しすぎんなよ」



 何が起きた? 確かにジンギくんはバッシュくんのスキルを受けたはず。でも彼はそれを意にも介さずにバッシュくんの間合いを一気に詰めた。

 私が驚いてツキコに目をやると、彼女も理解できていないのか首を横に振った。



「ヨリ、こいつらは俺が面倒みるよ。お前たちはそっちを頼むよ」



「う、うん」



「ほれコークたち、さっさと準備してこい。お前らの目的地には俺が連れて行ってやる」



「おうっ! よろしくジンギ!」

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