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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
45章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、鉄をも溶かす灰燼に奥歯を噛む。

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勇者のおっさんと獣の国の風と主

「――よし、俺たちは俺たちでやるべきことをやりましょう」



「……アヤメ様」



「さて金色炎の勇者、事情は分からないけれど、紋章のないおよそシラヌイがまだまだ大量にいるわ。リョカが言っていたように、お前たちが英雄になるのが収まりもよくていいでしょうけれど、何か考えはある?」



「アヤメ様」



「ん~……そうさな、アホみたいに目立ちながらあいつらをぶっ飛ばすことに文句はねえが、ちと弱すぎるな、少なくとも紋章のついた奴がいりゃあやる気も出るんだがな」



「アヤメ様」



「こっちに来てから紋章のないやつとは結構戦ったけれど、確かに拍子抜けするほど弱いのよね。いったい何がしたいのやら――まっ、こんなところでお前の炎を使っても巻き込まれちゃうものね」



「そうなんだよなぁ、まだ人が多すぎる。とはいえ放っておくわけにもいかねえからな――」



「アヤメ様!」



 俺とアヤメはさっきから声を上げている相棒、風切りに渋々と目をやった。

 だってこいつ、多分あれを見て見ぬ振りできないだけだろうしなぁ。



「……あによテッカ」



「俺には、俺には――ちょっとあいつに一言言ってきます」



「待ちなさい風切り、あれはもう放っておいていいのよ」



「いいえ言わせていただきます。百歩譲って拘束と1対1に持ち込む術なのはいいとします。でも何故ギフトも加護も使えなくする必要が? なぜ互いに殴り合うことが前提か? そもそもあいつはなぜわざわざ怪我をするような――」



「先生面が大いに出てきちゃってるわね」



「説教の時間だっ!」



「落ち着けテッカ、楽しそうにしているし良いじゃねえか」



「いいわけあるか!」



「しっかしあれ、ルーファの神格をああしちまったか。珍しくルーファが絶句してやがる。セルネたちに使ったのもこれだな」



 テッカが心底痛そうに頭を抱えており、いい加減不憫に思えてきた。こいつのおせっかいはミーシャがいる限り尽きることはなさそうだ。



 俺はそっと周りに目をやる。

 俺たちがこうして立ち止まって騒いでいたからか、囲むように殺気を飛ばしてきている紋章のないシラヌイたちとリックバックの住人たち。

 早く逃げろと思わなくもないが、人々は俺とテッカの顔を見てすぐに表情を明るくさせた。



 金色炎の勇者様だ、隣には風切り様だ。この国での知名度は高いからそんな言葉が聞こえてきた。

 俺はテッカと顔を見合わせ、とりあえずこの街を守らなければと今はおせっかいだが頼りになる相棒と頷きあう。



「うしっ、それじゃあ俺が打ち上げるわね」



「打ち上げ?」



 アヤメがニッとその口から八重歯を覗かせて笑うと、彼女が手を叩いた。



「『条件付き獣の約束サターンオブグリッジバッド』」



 アヤメの周辺から鎖が飛び出し、それが人々目掛けて伸びていくのだが、鎖は一般人をすり抜け、正確にシラヌイだけを巻き付け、そのまま宙に放り投げた。

 約30ほどのシラヌイだけを……条件付きのスキルだろうか。甘えてだらけていても女神、最も戦いに秀でているだろう神獣。これが女神じゃなければ俺も手合わせを申し込みたいところだが、許してくれなさそうなのが2人いる。惜しいな。



「テッカっガイル! あとは派手にやりなさい」



 打ち上げられたシラヌイを獣のように、少年のような無邪気さで笑うアヤメが、スカと指を勝気な顔で鳴らし、天に向かって指を向けた。



 テッカはその言葉にすぐに反応した。

 普段と少し雰囲気が違う。どことなく魔王の福音を感じる。



「『如月流魔王奇譚(・・・・)・壱語――』」



 風は即ち刃となり、髪をそよぎ目を控えめに伏せたその刹那、横目に映った風切りが手から短剣を落とした。



「『夜叉風(やしゃかぜ)』」



 横目と言えども俺はテッカから目を離してはいない。

 しかしテッカは俺がずっと見ていたにもかかわらずいつの間にか俺に背を向け、落とした短剣を再度掴んだ(・・・・・)



 瞬間、打ち上げられたシラヌイたちは鮮血を上げて空中で倒れ掛かる。

 ありえないだろう。あいつは一歩だって動いていない。しかし確かに最速だった。

 以前リョカがカナデは0を歩いているなどと話していたが、テッカは0秒の中で加速している。

 バカバカしいにもほどがある。避けろと言う方が無理な話だ。



「ハッ」



 笑いがこらえられない。

 この間まで随分と沈んでいたくせにここで盛り返すか。

 やはりあの魔王たちと一緒にいると飽きない。勇者の剣ですらこれほどの力を持つことが出来る。



 俺は聖剣から5つほどの弾薬を放り出す。そして頭上に剣を掲げるとそこに俺を中心に巨大な紋章を作り上げた。



「『五重解放』」



 紋章が金色に発光すると同時に、俺は頭上の紋章に向かって拳を振り上げた。

 拳が紋章に触れるとそれは天蓋まで伸びる爆炎を放ち、拳を天まで伸ばし切るとあちこちの光を吸収してさらに炎は大きくなってシラヌイたちを燃やし尽くした。



 住人たちの歓声を聞きながら、俺とテッカ、アヤメの並びでまだまだ街に潜んでいるシラヌイたちに意識を向けるのだった。

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