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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
44章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、動き出す蜃の炎を見うる。
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夜を被る魔王ちゃんと黒猫初披露

「リョカ」



「おかえりミーシャ、みんなは無事だった?」



「……」



 ミーシャたちが屋敷に戻ってきたのだが、どうにも様子がおかしい。特にテッカは少し顔を青ざめており、普段の冷静さが鳴りを潜めていた。



「なにかあった?」



「ええ、じつは――」



 ミーシャから帰ってくる途中での話を聞いた。

 カグラさんが何かしらの決意を固め、覚悟を決めたような顔をして私たちにこの国から逃げろと言ったらしい。カナデのことは何とかする。か。



 今日突然にシラヌイの襲撃と言い、こりゃああっちサイドで動きがあったな。今まで動かなかった集団がなぜ動き出したのか。動くための手段か、目的のための力が手に入ったか。はたまたただの気まぐれか。

 あっちの情報がなさ過ぎてなんの推測もたてられない。



「幻ではない本物の炎だとか、今度こそ幻ではないことを証明するとか言ってたわね」



「幻?」



 確かに不知火とは蜃気楼だ。幻の炎と言われればまあそうなんだけれど、これをこっちの人が知っているかはまあまあ怪しい。

 私がアヤメちゃんに目をやると、首を横に振っていた。



「そもそもシラヌイっつうのはこっちでは……なんだっけ?」



「シラヌイとは、子を亡くした親が見る子の幻覚のことです。いつから使われている言葉かはわかりませんけれどね」



「ああそうだそうだ」



 親が見る幻覚? 不知火を別の言葉で認識しているせいか違和感がすごいな。あと口の中に唾がたまる。柑橘系が食べたくなってきた。



「あんたちゃんと考えてる?」



「考えてる考えてる」



 とはいえ、これ以上推測し甲斐がないのも事実――。



「……随分と大規模に動き出したね」



 私が思考の海に飛び込もうとした途端、屋敷の外――というより、リックバックの街全体から上る戦闘の気配。

 テッカがすぐに動き出し、キサラギの人たちに声をかけようとしたのだが、すでに私たちがいる居間の障子をあけて外の庭に目をやると、そこではリッカさんとガンジュウロウさんを先頭に、キサラギ一同が編成されていた。



「遅い」



「……指揮系統はリョカに頼りっきりだったんでな、だいぶなまっているようだ」



「テッカ、リョカちゃん、私たちは人々の救助に回ろうと思うのですが、皆さんは――」



「ミーシャ、大物釣りあげておいて」



「大物?」



「シラヌイの根底にいるような人たちってこと。1人は殺さないでね、色々聞きたいことと調べたいことがあるからさ」



 私はミーシャたちが帰ってくる前に処理したシラヌイたちが押し込まれている箇所の方角に目をやった。

 少し調べただけだけれど、彼らは全体的に魂が妙なことになっている。カナデはこんな感じじゃなかったはずだ。



「ん、わかった」



「ガイルとテッカはミーシャの様子を見つつ、カグラさん……は、いないだろうな」



「……」



 テッカが顔を伏せており、このままじゃ彼の精神衛生上よろしくない。でも捜しに行くとなるとそれは多分シラヌイの本拠地だ。そんなものを知っていたらとっくに攻めているはずだし、キサラギも把握していないだろう。なら――。



「ガイル、テッカ、もう一度英雄になってみる気はない?」



「おっ、いい切り口だな」



「本物の火を上げたいって言うのなら、その火、掻っ攫っちゃおうよ金色炎の勇者様」



「だそうだぜテッカ」



「……そうだな、今はとにかく奴らの思惑をなんとかしたい」



「慰めになるかはわからないけれどさ、英雄や勇者って言うのはお姫様を救い出せる人たちでしょ? 気張んなよ風切り様」



「――ああ。ガイル」



「おうっ、いっちょやってやろうぜ」



 2人のやる気が出たようで、私は安堵していると、リッカさんが微笑んでおり、視線だけを返した。



「で、あんたはどうするの?」



「1人確認しなきゃだから急いでギルドに行ってくるよ。アヤメちゃん、大丈夫だと思うけれど、あんまりミーシャとはしゃぎすぎないようにね」



「断る! 俺の鎖が疼いてんのよ。久々の戦闘だ、腕がなるわね」



「……アヤメ、忘れていないと思いますけれど、わたくしたちが人を傷つけるなど――」



「リョカ、眩惑」



「はいはい――」



 アヤメちゃんの姿が変わり、ミーシャと同じ黒髪の、八重歯の似合うボーイッシュな見た目の美女になった。そう、少女ではなかった。

 髪は肩ほどの軽くぼさぼさで前髪も目にかかっており、どういうわけか片方のもみあげだけが長い。普段のケモミミではなく、ゲーミングカラーを発した随分とメカニカルな耳がピコピコ動いていた。

 服装は……服装は、どこかで見たことのあるブランドの服を着ており、私は首を傾げる。



「あんだよ、これお前のところにいた時の姿じゃない」



「……なんですって?」



 私のポケットから薬巻きをくすね、アヤメちゃんがそれを咥えて煙を吐き出した。

 人も疎らな時間帯に、ちょっとアングラな街の暗部にある喫煙所にポツンと佇む女性バンドマンのような出で立ちをしおってからに。

 服装もTシャツとジャケット、ショートパンツに左右の靴下も種類が違う所謂違い靴下。鎖もじゃらじゃらついており、耳にはピアス、アシンメトリー風なファッションで、きっちりさせたい私は今すぐに服を弄りたくなってくる。



「……」



 身長がミーシャと同じくらいになっており、その聖女様の正面で腰に両手を当ててアヤメちゃんが胸を張っていた。



「ちなみにこの時は綾芽(あやめ) はなって名乗ってました!」



「……日本語」



 私が頭を抱えていると、ミーシャがそっとハナちゃんの頭に手を伸ばして撫で始めた。

 聖女様の手を受けて、ハナちゃんは気だるげな気配を潜ませ甘えるようにその手に頭をこすりつけている。

 あっちでは猫系統だったのか。



「ん、中身が変わっていないならいいわ」



「もっと姉妹っぽいでしょ、お姉ちゃん」



「は? 私には?」



「わたくしがっ! おね~ちゃ~ん」



「よっしゃぁ!」



 私とミーシャがそれぞれ、ツキコとハナちゃんを愛でていると、テッカが咳ばらいをし、呆れたような顔を向けてきた。



「そろそろいいか?」



「ん、満足」

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