鋼鉄のライダーくん、その予感に覚悟を決める
「ジンギ強すぎだろ~」
「うん、同い年でこれだけ強いの、あの聖女様しか知らなかったけど世の中は広いんだね」
「俺はそんなに強くねえぞ。同級生には俺より強い奴がいるし、俺の元主なんて星神様に認められた極星なんてもんになってるしな」
「……ジンギの学校は魔境かなにかなの?」
今朝コークたちにもう少し稽古をつけてほしいと頼まれてから、結局夕方になるまで爽やかな汗を流していが、もう限界なのかコークが地面に寝っ転がりながらそんな話を振ってきた。
「……」
カナデが何か言いたげに俺を見ており、その視線につられてか、レンゲまでこっちを見ていた。
「ああ言ってるけど?」
「うん、まあうちの学園には強い人が多いよ。ソフィアなんて最早化け物だし、セルネ含めたオタクたちはどんどん成長してる。でもジンギ、少なくともこの間までのランファよりは強いよね?」
「従者が主より弱くてどうする。とはいえもう俺は従者じゃなくなったし、この間の王都でのごたごたのおかげであいつ今ギフト3つになったからな」
「えっ、この間勇者になったばかりじゃん。ずるい」
「星神様が相当気に入っているらしい。あいつのギフト、全部星神様由来みたいだぞ」
ただでさえ星神様由来の権能が猛威を振るうのに、俺の方が強いも何もないだろう。俺は女神さまに見初められていないからな。
「……」
「なんだカナデ、俺を見た後ヴィを見て、なに残念なものを見るような目で俺を見てんだ?」
「……こういう男だよジンギは」
「くっつきがいのない信者ですわね~」
俺が首を傾げていると、レンゲがジッと見ていることに気が付き視線を返す。
「なんだ?」
「あなたのギフト、『未熟者の金属片』よね?」
「それ以外の何だって言うんだ」
「それ以外の要素が詰まっているから疑問を持っているんだけれど、あなたはあなた以外のナイトマイトメタルを見たことがある?」
「いやないが、似たようなものだろ」
「……いや全然違うよ。少なくともうちのギルドにいるナイトマイトメタルを持っている冒険者は、真正面から攻撃を受けない。金属によっては体が砕けるらしい」
「馬鹿だなお前、だから砕けない金属を使うんだろうが」
「そんな金属ないだろっ!」
俺は鼻を鳴らして指を振り、、チッチッチ、と口を鳴らす。俺もリョカから聞いたがひどく納得してしまった。こいつらはきっと見たことがないのだろう。いや、ガイルさんがいたなら一応見ているのかな。
「勇者の剣、つまり聖剣顕現で現れる武器、あれに使われている金属だ」
「何言ってんのお前?」
「オリハルコンっつうらしいぞ」
「いや名称じゃなくてさ」
「……それは最早勇者なんじゃない?」
「俺が勇者なんかになれるわけねえだろ」
釈然としていない面々だが、普通に考えたらわかることだろう。
勇者の剣は折れない。故に最も固い金属、それを体に纏えば砕けない鉄壁の完成だ。他のナイトマイトメタルを持ったやつらも試してみればいい。
カナデが呆然とした顔でヴィの服をちょいちょいと引っ張っている。そしてヴィを中心にコークたちも集まって何か内緒話をしていた。
「あれさ、リョカちゃんがでっち上げた金属なんだよ」
「リョカって魔王のこと?」
「そうですわよ。えっ、あの男、架空の金属生成しているんですの?」
「……もう何でもありじゃない。なんであの人、自分のこと弱いって思いこんでるのよ」
「周りにもっとヤバい人がいるからとか?」
「ミーシャがしょっちゅうあの金属に拳の跡をつけるですわ~」
「比べる相手が悪すぎる!」
ヒソヒソとこっちを見ながら好き勝手に言っている面々を俺は軽く睨みつける。
そもそも架空だろうが根本的なことを見落としている。
「おいお前ら、架空なんて言うが、そもそも聖剣顕現や勇者が空想の産物みたいなものだろうが。その剣の金属を模倣する。何も変なところはないだろ。当たり前に出来ることだ」
「……ああうん。ジンギがそれでいいんならもう何も言わないよ」
「あいつ賢そうに見えて単純馬鹿の部類なんじゃ――」
「お姉ちゃんっシっ」
俺は肩をすくませると、呆れたように座り込んだコークに手を伸ばして立ち上がらせようとする。
「ああ、ありがと――? ジンギ、なんでそんなに震えているんだ?」
「は?」
コークに言われて初めて気が付いた。
俺の体がカタカタと震えており、まるで制御出来ない体に頭の中が混乱している。
「――」
俺は無理やりコークを引っ張り上げて立たせ、バッと振り返って辺りを見渡す。
「……」
「ジンギ?」
「……お前たち、今から走って帰れば日を跨がないで済むか?」
「え、突然なに?」
「……」
「全力で走れば今日中には着くはずだよ」
俺は視線を逸らすことなく、空を睨みつけている。
マズイ……何がまずいのかはわからない。ただ、ここにいては間違いなく誰かが死ぬ。
だが――。
俺はそっとカナデに目をやる。
放ってはおけない。俺たちはそのためにここに来た。それに。
「カナデ」
「う~んぅ、なに?」
「……俺は絶対に約束は守る」
「え、う、うん。それは信用しているよ。だってジンギ、約束を違えるなんて格好悪いことしないでしょ」
「ああ、当然だ」
俺は震える手に目を落とし、少し目を閉じて呼吸を整える。
そして覚悟を決め、コークたちに体を向けた。
「コーク、急で悪いが今日はもう帰れ」
「え、でも――」
「頼む」
「……行きましょうコーク」
「でもっ!」
「コークさん、最初に約束したじゃないですか、破っちゃだめだよぅ」
「……」
俺はコークの頭に手を伸ばし、荒々しく撫でてやる。同い年ではあるが、この妙に人懐っこい感じ、セルネを思い出してしまい、頬がほころんだ。
「……ありがとうございましたっ」
「おう、気をつけて帰れよ。それと、何か感じ取っても振り返るな、そのまま真っ直ぐ街に帰れ」
「……ジンギ、俺って結構義理堅いんだ。だから――」
俺はヴィを傍に寄せて金属の板になってもらう。
そしてコークたちに背を向け、正面にだけ意識をやる。
「お礼、絶対にさせてくれよ。約束だ」
「――ああ」
コークたちが駆け出して遠ざかっていくのがわかる。
隣のカナデが心配げに瞳を揺らしていた。
「ジンギ」
「カナデ、俺は約束を守るぞ。だからどんと構えておけ、何があっても決して俺の約束を忘れるな」
「うん」
まだ近くにはいない。だが確実にここに現れる。
それは死の予感か、はたまた転機の予感か。今の俺にそれを判別するだけの力はないらしいのだった。