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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
44章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、動き出す蜃の炎を見うる。
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風穿つ獣ちゃん、さらなる力を目指して

「よっ、ほっ! 甘い甘い」



「っつ――獣・如月、きばが――」



「残念、出が遅い」



 あたしは思い切り顎を指ではじかれ、技を繰り出すことが出来ずさらにカナデに腕をとられ、そのまま体を回転させられるように――。



「おもて――っと『流々演舞(りゅうりゅうえんぶ)』」



 地面にたたきつけられたあたしは頬を膨らませてカナデを半目で睨んだ。

 スキルも使わない技だけでの攻撃――キサラギとは違う見たことのない技の数々。あの聖女たちの故郷ではこんな武術があるのだろうか。



 そしてあたしはちらとコークとサジの方にも目をやる。



「『廻れ回れ風の目となれ(フュリップトップギア)』」



「『厳爆鎧王(がんばくがいおう)』」



「いっ!」



 コークの風を溜めてまとったトップギアを真正面から受け止めて弾いたジンギが、コークの頭を鷲づかみにした。



「一発で思考を止めるな、防がれたのなら相手よりも早く次の手を繰り出せ――サジ!」



 ジンギが蹴り上げた礫がサジと妖精に降りかかり、サジが顔をそらしてしまう。その隙をついてジンギがサジへの距離を詰めた。



「サポートに回っているからって攻撃されないなんてことはねえ、最低限の自衛は身につけろ」



「は、はいっ」



 あたしたちは肩で息をしながらカナデとジンギに目をやった。

 今朝になり、ジンギから食事の礼をしたいから何かないかと尋ねられ、コークがそれなら。と、少し稽古をつけてもらっていたのだけれど、この2人、対人戦が異様に上手い。



 カナデはよくわからない武術を使うし、ジンギに至っては『未熟者の金属片(ナイトマイトメタル)』の使い方が異常だ。

 何の金属を使っているのかもわからないし、あたしが見たことのあるあのスキルでコークのスキルを防げるはずもない。



「しっかし、見てくれ~なんて言うからどんなもんかと思ったが、お前ら十分強いじゃないか」



「うん、戦い慣れていないだけで、十分強いと思うよ」



「……これでも、結構戦ったんだけれどな」



「じゃあ無理やり強敵と戦わされたか? 今のお前たち、対強敵を想定しているとしか思えないような戦い方してるぞ」



「あと大きい敵とも戦ったでしょ? その癖が抜けてない」



 あたしたちは顔を見合わせて……特にあたしとコークは顔を青ざめさせた。

 覚えがあるどころの話ではない。ヨリと出会ってからというもの、あたしたちは常に強敵を想定して鍛えられてきた。

 ジンギたちほどの強さになるとそれは隙にしか映らないのだろう。



「……」



 あたしは頬を膨らませた。

 そんな風になっているのならお兄ちゃ――あの人も言ってくれればいいのに。



「レンゲとコーク、お前らさてはミーシャに鍛えられただろ。あいつに合わせて無茶苦茶な動きを強要されたな」



「あ~……道理で」



「敵は理不尽な強敵ばかりじゃねえ、俺たち程度の難敵強敵もいる。ミーシャみたいな出会って3秒で全力、なんて戦い方をしていたら普通は持たないことを頭に入れとけな」



「はい、肝に銘じておきます」



「サジは……りょ――ヨリだな」



「う、うん、それとロイさんとアルマリアさんに」



「どうやって来たんだよ――ああそれも合点がいったよ」



 頭を抱えるジンギに、あたしとサジが首を傾げた。

 ミーシャに比べてヨリの方は随分と親身にやってくれたのだと思うけれど、この男からしたら違うのだろうか。



「ヨリもロイさんもアルマリアさんも、出来ることを伸ばす。だからな」



「駄目なの?」



「時間がなかったのか知らないが、その結果サジは妖精を扱うスキルしか成長してないんじゃないか?」



「あっ」



「ヨリは人のことをよく見てくれるんだが、見すぎて出来ないことはさせないんだよ。ロイさんも人が良いからな、出来ることを自覚させて褒める、そういうやり方を好んでいる。アルマリアさんもあれでギルドマスターだから、自信をつけさせる方向にもっていくんだよ」



 サジもジンギの推察に覚えがあるのか、苦笑いを浮かべている。

 この男、本当にコークとサジと同い年かしら。言葉の1つ1つに年季を感じてしまう。



「どっちが良い悪いってわけではないが、ミーシャは戦う(・・)ことを伸ばす。ヨリは長所(・・)だけを伸ばす。2人とも極端なんだよ」



「でもやってることがやってることだから、実力はついちゃうのよね~」



「それでしょうもない戦いで負けちまったら意味ないだろうが。あいつらには自分が与える影響をもっと自覚してほしいもんだよ」



「ジンギ、先生みたいなこと言ってるよ」



「就職先なくなったし、教員でも目指すかね」



 息を吐いて肩を竦めたジンギが、ヨリが持っていたような紙に巻かれた棒を取り出して火をつけた。



「あっでも、レンゲは土台がしっかりしてるよね。それ、キサラギの技でしょ?」



「うん、知ってるの?」



「そりゃあ知ってるよ。あたししょっちゅうぶつけられるし」



「キサラギっつうとテッカさんか?」



「レンゲとサジはテッカさんの妹と弟なんだよ」



「えっマジか! 確かに目の鋭さに面影を覚えるな」



「道理で御しやすいと思ったよ。慣れてるっ」



「2人も兄さんのことを知っているんですか?」



「俺たちの先生だからな。ガイルさんと2人揃ってのしごきは結構きつい」



「どんな学校だ! 金色炎の勇者様とその剣にいつも指導してもらっているのか?」



「ミーシャたちが連れてきたからねぇ」



 世の中には大金はたいてでもその2人に指導してもらいたい人がごまんといるだろうに、それを当たり前のようにやってのけるのは――多分魔王の方ね。心底末恐ろしいわね。



 するとジンギが手を叩いたのが見えた。



「さて、それじゃあお前らそろそろ帰れな。お前たちリックバックから来たんだろ、そろそろ出ないとまた暗くなっちまうよ」



「あ~……」



 ジンギの声に、コークがチラとこちらに目をやってきた。

 言わんとしていることはわかる。もう少しだけこの2人に指導してもらいたいのだろう。

 確かにミーシャたちの教えはためになったけれど、何段も飛び越えたような感覚で、その中間が欲しい。コークの提案にはあたしも賛成だ。



「あの、ジンギ」



「ん~?」



「もう少しだけ見てくれないか? 俺、A級冒険者目指しててさ」



 ジンギの目がカナデにいったのだが、彼女は楽しそうにうなずいた。



「いいんじゃない? あたしも暇だったし、賑やかで楽しいもん」



「……プリマはいいのか?」



「よくはないけれど、どこにいるのかわかんないんだ。だからここで指示が来るまで待っているんだけれど、未だに何の連絡もないし、それじゃあこの時間を有意義に使おうかなって」



「……わかった。一応言っておくが、俺たちは俺たちの用事を優先するぞ。突然帰れって言うかもしれないが、その時はちゃんと聞き入れろよ」



「う、うん! ありがとジンギっ」



 ジンギがため息をついて、空中で両手の頬杖を突きながらフワフワ浮いてこちらを見ていたヴィに向けた。



「ヴィ、一応ルナかアヤメに連絡しておいてやってくれ。ギルドが心配しているかもだし」



「ん、一方的な声だけ送っておくよ」



 ジンギが両手の拳を打ち付け、あたしたちに戦闘圧をぶつけてきた。



「そいじゃあ続きやろうか」



「お願いします!」



 あたしも再度カナデに体を向け、戦闘態勢に移行するのだった。

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