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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
44章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、動き出す蜃の炎を見うる。
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聖女ちゃんとリックバックの冒険者ギルド

「――」



「……いや嘘だろ」



「あんただけ?」



 アヤメとガイル、テッカを連れて冒険者ギルドにやってきたあたしたちは、顔を引きつらせて距離をとるリックバック冒険者ギルドの冒険者たちを横目に、顔見知りのバッシュの姿を発見し、彼に声をかけた。



「もうあんたらが入ってきただけで空気が変わんだよ」



「引き締まるでしょ?」



「そりゃあ違いねぇ」



「バッシュ、レンゲとサジは?」



 あちこちを見渡していたテッカがこの場にいない姉弟について言及した。

 そんなに心配ならずっと一緒にいればいいのに。



 するとバッシュが思案顔を浮かべて、以前リョカに詰め寄っていた受付らしき女性に目をやった。



「なにかあった?」



「ああ、あいつらなら大丈夫だと思うが、昨日から帰ってきてないんだよ」



「――」



「テッカ」



 駆けだそうとするテッカの腕をつかみ、あたしは深いため息を吐く。

 触れ合ってこなかった時間が比例して過保護になっている。そこまで気を揉むと逆に鬱陶しい。



「サジは喜びそうだが、あの年の女は絶対に鬱陶しがるな。もうちっとどんと構えて待ったらどうです?」



「言われてんぞテッカ。大事なのはわかるが、こういう時の獣の鼻(・・・)だろ」



「あんたたち俺を何だと思ってるのよ。まあ見てあげるけれど――」



 最近のアヤメは甘えがどうとか言わなくなった。別にこっちで出来ることはこっちに任せてくれてもいいのだけれど、最近のこの子はむしろ頼ってほしそうなのよね。

 あたしはアヤメを撫で、彼女の言葉を待つ。



「な~んかその子、ツキコに似てるよな。それとこの前ツキコが呼んだ眼鏡の子にも」



「あたしの可愛い妹よ。それでアヤメ、見つかった?」



「う~ん? なんだこれ、一切見えないぞ」



「――」



「だからテッカおい」



「俺の妹と弟の居場所がわからないんだぞ」



「あの、コークもです」



 するとアヤメがため息を吐き、テッカの腰に手を軽く当てた。

 何かわかるのだろうか。



「風切り、キサラギの影、テッカ=キサラギ――」



「え、あっはい」



「少し落ち着きなさい。お前が冷静さをなくしたらこの脳筋2人が何するかわからないのよ」



「――」



 あたしはガイルと顔を見合わせ、互いに胸を張って得意げな顔をしてみる。



「……頭が冷えました」



「よろしい。それでこんなことできる奴にお前も心当たりがあるだろうが。俺たちの目をかいくぐり、一切視線を逸らしてくるやつが」



「……ヴィヴィラ様か」



「そう、つまりあいつらはジンギとカナデと一緒にいる可能性が高い」



 なるほど、確かにアヤメが見えないのなら女神が絡んでいる可能性が高い。そしてそれが出来るのは今の状況ではヴィヴィラくらいな物だろう。



「なんだよあいつら、お手柄じゃねえか」



「しかしなぜ帰ってこない」



「夜遅かったから心配性のジンギが泊まっていけとでも言ったんじゃね」



「……ああ」



 納得できてしまう程度にはあの大男は人が良い。



「何かあったかもしれないが、多分あの2人が対処したんだろ。緊急事態ならさすがにヴィヴィラから連絡が来る。あいつは色々問題を抱えているが、人のことは嫌いじゃないからな」



 アヤメの言葉にやっと安心できたのか、テッカが肩をすくませて息を吐いた。



「え~っと、あいつらは無事ってことでいいんすよね?」



「ええ、多分あたしたちの友だちが一緒にいる」



「ミーシャたちの友だち……ヤバそうだな」



「あんたよりはずっと強いわよ。今度紹介してあげるわ」



 バッシュが舌を出しながら苦々しい顔を浮かべたところで、さっきからおどおどとこちらを窺っている受付の女性が近づいてきた。



「あの、いいでしょうか?」



「なに」



「あっマクルールの姉さん、この聖女普段からこんな顔なんで怒ってるわけじゃないっすよ――いった!」



「……いやバッシュくん、我が国の英雄様2人と聖女様相手だと普通は緊張するのよ」



 マクルールと呼ばれた女性がたたずまいを正し、あたしたちに目を向けてきた。



「あの、本日はどのようなご用件で?」



「妹と弟に会いに来た」



「え、妹、弟?」



「俺らの目的それだっけ?」



 うな垂れるガイルを横目に、バッシュがマクルールに耳打ちしていた。



「えっレンゲちゃんとサジくん、テッカ様のご兄弟だったの!」



 マクルールが声を荒げたがすぐにハッとした顔を浮かべて口を手で覆い、顔を逸らした。



「ちなみにそんな目的で来たのはそこのバカ兄だけよ。あたしたち、依頼を受けようと思っているんだけれど、何か手頃な依頼はない?」



「え~っと失礼ですが聖女様――」



「ミーシャ=グリムガント」



「えっと……ミーシャ様は確認なのですが冒険者ランクは」



「Aランク、これが証明」



「……確かに。少々お待ちください」



 マクルールがギルドの奥に引っ込んでいったのを眺めていると、ガイルが口を開いた。



「いい受付だな。マナよりずっと仕事ができる」



「結構長く勤めている人っすから。この間子どもも出来てさらに仕事に磨きがかかったんっすよ」



 そんな言葉を聞きながら、あたしはあたりを見渡す。

 するとバッシュがあたしの耳に口を寄せてきた。



「ギンさんはいないぞ」



「……ヨリから聞いた?」



「いや、でも首突っ込むなとは言われた」



「ならそうしなさい」



「わかってるよ。今日は新人冒険者の指導に出てて朝からいないんだよ」



「ん、ありがと――さて、それじゃあ依頼受けるだけにしましょうか」



 あたしがマクルールを待つ姿勢をとると、バッシュがそわそわとしてあたしたちの顔を見ていた。



「なによ」



「なあ、俺もついて行っていいかい?」



「ふむ」



 ガイルとテッカに目をやると2人とも頷いたから、バッシュに手を差し出す。



「ヨリとツキコみたいに立ち止まることはしないわよ」



「上等」

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